モモはプラントの地下にあった秘密研究所へ、リュウとティーポを伴って突入した。他はお留守番である。
ひしめくモンスターたち、見え隠れするモモの父親の影、不穏な研究。
そしてその奥でペレット所長を発見した。
「ボクはお母さんを生き返らせたいんだ。大切な人に生きていて欲しいと思う、それのどこが悪い!」
論点を摺り替えながら話す所長によると、死んだ人間を蘇らせるための研究を、地下でしていたらしい。
そしてその理論の提唱者はモモの父親ことレプソルでもあると。
「それは分かったんだけどね所長、仕事はして欲しいのよー」
「え、仕事?」
モモは敢えて止めずに、本来言うべきことを言う。所長が行方を晦ましたことで、現在モモがプラントを切り盛りしている。
「研究するのは勝手だけど、私一人に押し付けられちゃ困るものー」
「あ、えっと、それは、そうですが」
責任者である以上、ガタが来ているとはいえプラントの仕事を放りだし、地下にこもるなど許されないことである。
むしろ責任者なのだから、有事の幕引きというものを考えておかねばならない。
「うふううふう、それはその、モモさんにお任せしたじゃありませんか」
「どこがよーう、私はあくまで代理なんだから。いるならいるで所長がやらないといけないことだわー」
のんびりとした口調で理を詰めるモモ。所長のしていることは、身も蓋もないことを言うとサボりである。
「私はこのまま休暇を取るから、後はよろしく頼むわー」
「ま、待ってください!これは世紀の大発明なんだ!君もこれを見たら、この研究を手伝いたくなるはず!」
所長は怪しげな薬を、何か大きな機械に投入した。
何か、というか誰かが入っている大きな機械から異音がする。
「あれ、おかしいな。こんなはずじゃあ」
「何だか雲行きが怪しくなってきたな」
「でも不思議とこうなる気はしてたよ」
――ギュシャアアアア!!
そして、叫び。機械から煙が上がり、破壊され、中から巨大なキノコめいた化物が飛び出す。
「お、おかあさん!?」
「ギュシュウ……!」
「よっよせ、来るな、近寄るな、うわあーー!」
そして所長はあっという間に食べられてしまった。お約束というか予定調和とでも言おうか。
「上手く行かないとは思ったけど、ベタなオチね」
「二人共、ここはオレに任せろ」
「ティーポ、大丈夫なの?」
「ああ、オレの力を見せてやる」
ティーポはそういうと、剣を鞘に納めて精神を集中する。
「はああああああああっ!!」
燃え盛る炎に包まれて爆風とも共に、新たなドラゴンが姿を現す。
漆黒の体にてらてらと光る溶岩、逞しき二本の脚、恐怖心を呼び起こす虚ろな目。
「ガルルルッ!」
「あれは」
「ドラゴンロード(ガーランド談)よ」
ヴォルガノスです。
「リュウのカイザードラゴンと、双璧を成すと言われる伝説のドラゴンらしいわ……!」
「ゴワアアアアーーーー!」
「ギュシャアアアアーー!」
なんとドラゴンロードは口から火炎のブレスを吐いて、キノコの怪物を一撃で倒したではないか!
ヴォルガノスは溶岩しか吐けないので、これはドラゴンロードと言って間違いないだろう!
「すごいよティーポ!」
「へへん、ざっとこんなもんよ」
「これは、面倒なことになったわ……」
あまりにも唐突な所長の事故死。
とはいえプラントの衰亡は不可避であったので、どの道彼がいても何かが変わることも無かっただろう。
「ただいま」
「お帰りリュウ、それでどうだった?」
「実はね……」
三人は地上に戻ると、みんなに事の次第を説明した。
結論として死者を復活させるという所長の研究は、モンスターとして生まれ変わらせるという形で失敗したこと。
プラントの機械が寿命を迎えており、危険な状態なので操業を停止すべきということ。
「とりあえず地下のガスや計器類は止めて、プラント閉鎖のお知らせをここと、後は王様宛てに出したわ」
「意外と反対されなかったのね」
「みんな薄々分かってたことだからね」
形式的にも因果関係でも一応の責任者であるモモは、短い夢を終わらせて再び自由の身になる。
「色々あったけど、これでみんなとは会えたかな」
「これからどうする、リュウ?」
「特に決めてないんだ。もう少し旅をして、それから考えようかな」
レイに聞かれてリュウが頭をかく。
何せ自意識はついこの前まで少年だったものだから、時の流れにまだまだ感覚が追い付けないでいた。
「あら、それなら私の用事に付き合ってくれない?」
「用事って?」
「ほらこれ、前にラパラからこんな手紙が来たの」
モモは懐からクシャクシャになった紙くずを取り出した。
どうやら手紙のようだ。
「なになに?ああ、ベイトさんたち、子どもができたんだ!」
それはラパラの荷運びギルドの、後継者夫婦からの便りだった。
一度会いに来て欲しいと書いてある。
「お前もしかしてまだ挨拶に行ってなかったのか……」
「オレとレイ兄ちゃんだって行ったのに」
レイとティーポが渋い顔をする。
当然ニーナも行ったし、ガーランドも行った。
なんやかんや律儀な男たちである。
ちなみに青年期に入ってからの赤ちゃんなので、子どもを作ったのは大分遅いことになる。
「まあまあいいじゃない。そのおかげでリュウも連れて行けるんだし」
「っとに調子がいいんだからよ」
まるで災いが福に転じたかのように言うが、挨拶に行くことに対して、モモが遅くなったことは何の関係もない。
「…………」
「どうした、ガーランド?」
「うむ、実は前から言おうと思っていたのだが」
それまでずっと黙っていたガーランドが、躊躇うようにして呟く。
「リュウ、お前、神に会う気はないか?」
「神?」
「おっさん、とうとうおかしくなったのか」
「真面目な話だ。レイ」
ガーランドが神妙な態度で話を続ける。
パーティメンバーの半分が、空気を読まないか話を聞かないので、反応に困ることが多々ある。
「オレたちガーディアンは役目を終える時、天使の塔で神に会うことが許される。オレにはお前やティーポを殺す気は無い。ガーディアンとしての使命を、終えようと思うんだ」
突然の終活。年長者が急に切り出した今後に、周囲はただ聞くことしかできない。
「それで、本当にドラゴンたちが悪しき生き物なのかを聞き、お前たちが望むなら、他にもドラゴンのことを聞けないか、とか」
ドラゴンの虐殺を命じた神とドラゴンを引き合わせる。
どう考えても戦闘待ったなしなことを、このおっさんは平気で提案する。
純情や鈍感というよりも、判断力が乏しいと言ったほうが正しい。
「そんなことを、考えていた」
「はあ、またこのおっさんはウジャウジャと」
レイはガーランドのあまり建設的ではない悩み癖に、軽い苛立ちを示す。
今になって過去を引きずり始めた理由は、このガーディアンにしか分からないことは、理解していたが。
「どうする、リュウ?」
「特に予定もないし、会ってみようか」
リュウは深く考えずにOKを出した。こちらは逆に、たぶん戦闘になるだろうと考えている。
成り行きに身を任せるとだいたいそうなると、この青年も経験から察しつつあった。それを拒むと話が進まないことにも。
「何だか変なことになって来ちゃったわね、ペコロス」
「ぷいぷい」
「よーしそれじゃあまずは、ラパラに向けて出発よー」
かくして一行の旅が、再び始まるのであった。
改めてモモとペコロスが仲間になった!
ドラゴンロード(ヴォルガノス) 2576.31最大金冠ジャーン!
名前を間違えた。正しくはドラゴンロードでした。