ブレスオブファイア3二次創作 釣竜伝説   作:泉 とも

36 / 38
あと一話だけ続くんじゃ。


情に竿差す

 再び釣りポイント17

 

(このままではまた私の世界が滅んでしまう。神よ、いらっしゃるならお教えください……私はあの強大な力をどうすればよかったのです!?竜族をどうすればよかったのでしょう!?)

 

 既に負け犬ムードが漂っている女神は、リュウの提案によってここまで連れて来られた。

 

 そのため秘密基地もといステーションは爆発していない。ラストダンジョンが崩壊しないのはカプコンでは異例の事である。

 

「着いた」

「ここでするのですか?その、釣り勝負を……?」

 

 荒廃した世界とは対照的に、潮風の吹き付ける海辺は豊かに輝いていた。

 

「内容はどうする、リュウ?どちらが沢山釣るか、大きさを競うか、それとも」

 

 ティーポが勝敗の方式を確認する。どちらであってもミリアに十分勝機がある。

 

 リュウが釣りの達人とはいえ、魚のことは海次第なのだ。暴力に訴えるより遥かに公平だった。

 

「いや、悪いけど、釣りをするのはオレだけだ」

 

 誰もが彼がフェアな勝負の場を、提供するのだと思っていた。だが彼が口にしたのは、全く別のことだった。

 

「オレが勇魚を釣るか、釣れないか。それだけだ」

「それだけってお前……」

「つまり、釣れなければリュウの負けで」

「釣れたらリュウの勝ちってこと?」

 

 釣竿を構えると、リュウは海へと向き合う。

 

 波の動き、風の流れ、振り被って放ったルアーと着水の手応えが、彼の意識を研ぎ澄ませる。

 

「愉快だね、リュウらしいっていうか」

「あの、それだと私はすることがないのでは」

「まあ、そういうこと、よね……」

 

 レイは苦笑して、弟分の戦いを見守る。

 

 勇魚が釣れたらリュウの勝ち。

 釣れなかったらリュウの負け。

 

 自分の一生を賭けた勝負は、かつて敗れた魚との勝負でもあった。

 

「ティーポはこれでよいのですか?リュウの肩に、あなたの人生も掛かっているのですよ?」

 

「リュウなら大丈夫だろ。それにもしもダメなら、そんときはそんときさ」

 

 ティーポはティーポで約束を守る気がないので気楽だった。

 

 納得のいかないことに大人しくしているようでは悪ガキとは呼べないのだ。

 

「神よ、勇魚は手強い。かつてリュウは勇魚に敗れ海へ引き込まれた」

 

「ええ、リュウはドラゴンですよ!?」

 

「例えドラゴンでも、できることとできないことが有る。ドラゴンの強さなら、殺したり壊したりは無限にできるかもしれない。だが一匹の魚を釣ることはできない」

 

「それは」

 

 ミリアはリュウの背を見つめた。

 不毛にしか見えない行為、ただの遊び。

 

 それなのに。

 

「来た!うっ」

「どうしたリュウ、勇魚はまだ来てないぜ」

「レイ兄ちゃん、何か変だよ」

 

 周囲の魚影が消え、海鳥の鳴き声も絶えた。

 眼前には風景だけが残る。

 

 砂地、波止場、空、海、島。

 

「あれ、この前来た時、あんな島あったかしら?」

 

 モモが呟く。彼女が指差す先、沖に浮島のようなものが見えた。

 

 それは、先日の戦いで見られなかったモノ。

 

「リュウ、来るぞ!」

「ヒット!」

 

 ティーポの警告と同時に釣竿が大きく曲がる。

 

 並の釣竿ならこの時点でへし折られてもおかしくない。

 

「リュウ!」

 

 咄嗟にガーランドとレイがその体を支える。

 三人の全力でも踏み止まるのがやっとだった。

 

「ちくしょう!この前の奴よりもずっと大きいぜ!あれが最大サイズの勇魚なのか!」

 

 こんなものが釣れたら、周辺は崩壊してしまう。それくらいデカかった。

 

(これはもしやチャンスなのでは?)

 

 女神は突然の好機に内心でガッツポーズ。

 ここに来て一発逆転の奇跡が起きるのか。

 

「がんばって、お魚さんがんばって……!」

 

 祈るように応援する女神。相手が違うだろ。

 

「おいモモ、何か打つ手はないか!?」

 

「背中モンスターがびっしり!まるでフジツボみたいだわー」

 

「そいつらを落とせば、少しはマシになるかもな。リュウ、ちょっとの間だけ待ってろ!行くぞモモ、ペコロス!」

 

「うむ!」

 

 ティーポはモモとペコロス(賢樹)を引き連れ島こと勇魚に飛び乗り、大量のフジツボことイワオカインと戦い始めた。

 

「ガダブレダ!」

「砂漠用に大量に買っといてよかった!」

 

 モモは魔法を、残りは『なまずのいかり』を投げまくった。

 

 この金色プリケツ岩石は聖属性攻撃か地属性の魔法以外はほとんど通用しない。

 

「おいマニーロ!」

 

「えっ何やボン!もしやワイ、とうとう仲間キャラに復帰か!?」

 

 そんな訳ねーだろ。

 

「水中でも張り付いてる奴がいたら、引っぺがしてくれ。ほらっコイン!」

 

「何や大決戦やな、ええで!」

 

 投げられた皮袋のずっしりした手応えに、野次馬をしていたマニーロがエビス顔で快諾する。

 

「レイ兄ちゃん、ガーランド、あいつの体からモンスターたちがいなくなったら、二人も手を、放してくれ」

 

「リュウ、だがそんなことをすれば」

「頼む……!」

 

 リュウは既に疲労していたが、それでも一対一を望んだ。

 

 あまりにも無謀。あまりにも無策。

 だがそれをこそ青年は求めた。

 

「やらせてやろうぜ、ガーランドのダンナ」

「レイ」

 

「たぶん、リュウは全部分かって言ってる」

「いいのか?」

 

「信じてやろうぜ。オレたちは」

「そうか。そうだな」

 

 島の上の岩が全て見えなくなると、ティーポたちも急いで離脱。マニーロも手を振って合図を出す。

 

「しっかりやれよ、リュウ」

「ありがとう、レイ兄ちゃん」

 

 レイとガーランドは顔を見合わせると、一度だけ頷いてリュウの体から手を離す。

 

 その瞬間。

 

「うおっ!」

 

 体が大きく宙に浮き、そこかしこに叩き付けられ引き摺られる。

 

 重石が外れて勇魚は遂に全力を出せるようになったのだ。

 

「堪えろ!回復ならしてやる!」

「がんばってー!」

 

 釣り上げるという点で言えば、魚にとってイワオカインの重量は、圧倒的なアドバンテージである。しかしそれは同時に、それだけの重さを抱えなければいけないという、当然の負担を強いられる。

 

 その負担がなくなった今、重さという利点こそ失われたが、本来のパワーとスピードを発揮できるようになった。

 

「勇魚はリュウを連れて行く気がない」

「リュウを叩きのめして釣竿を手放させる気か」

 

 魚を釣る事が釣り人の勝利なら、釣り人から釣竿を取り上げることが魚の勝利。

 

 勇魚もまた、己にとっての勝利の形を定めていた。

 

「うおおおお、ぐああああーー!」

 

 上がる悲鳴、砕ける地面、見る間にボロ雑巾に近付くリュウ。

 

 絶望的なエンカウント。それなのに、彼は笑っていた。

 

「なぜ、リュウはこんなことを……」

 

 自分にとっては幸運でしかないが、女神は困惑していた。まるでわざと負けるために、釣りを始めたようにしか見えない。

 

 だが青年の顔には挑戦者としての喜びがあった。あんなもの、ドラゴンであっても釣り上げることなどできない。そう見えた。

 

「リュウはきっと、ドラゴンの力とか関係なくて、自分を見て欲しいって、思ってるんです。言葉じゃなくて、自分の気持ちを」

 

 ニーナは女神の隣に立つと、かつて少年だった仲間を見つめた。

 

「ここで負けても、きっとまたリュウは勇魚に挑むわ。あんなの、一生かかっても無理かもしれない。でも、釣れるまで続けると思う」

 

 自分がコンティニューを頼んだように、彼もまた挑戦を続けるのだろう。

 

 釣れるか釣れないか、それはこの場限りの話などではないのだ。

 

「ではリュウは一生、ここで釣りをする気で……?」

 

「あなたのいう事は聞けない。でも否定もできない。だから、こうするしかなかったんじゃないかって、私は思うの」

 

 何度目かの叩き付けで、リュウの服が弾け飛ぶ。おとこふくが役目を果たしたのだ。

 

「リュウはこうなることを見越してたのか!」

「すげえ、釣りをしながら着替えてる!」

 

 次のおとこふくを装備し、防戦を繰り広げるリュウ。気が付けばギャラリーが増え、彼等の戦いを見守っている。

 

 ――なんということだ。

 ――旅人が勇魚と戦っている!

 ――がんばれー、まけるなー!

 

「私たち、本当はいい生き物じゃないのかもしれない。でもね神様、リュウは本当に悪いドラゴンじゃないの」

 

「いけっリュウ、負けんな!」

「斜めでもいい!引っ張れ!」

「よしっ、今だ!」

 

 レイとティーポが応援する。

 リュウは勇魚を少し引き寄せた。

 

「あなたにも辛いことが沢山あって、ドラゴンや人間を信じられなくなったのかもしれない」

 

「リュウ、いいぞ、まだ負けてない!」

「ぷきー!」

「まだまだ!」

 

 ガーランドとペコロスが応援する。

 リュウは勇魚を少し引き寄せた。

 

「それでもあの人を、信じてあげてほしいの」

「どうして、そこまで言えるのですか……」

 

 ――おお、勇魚が徐々に。

 ――なんという力だ、すごいぞ!

 ――こんな気持ちになったのは初めてだ。

 

「私ね、リュウといっしょなら、全部うまくいく気がするの。リュウー、がんばってー!」

 

「そうよー、がんばるのよー!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ニーナとモモが応援する。

 リュウは勇魚を大きく引き寄せた!

 

「お願いです、神様。どうかリュウを、応援してあげてください」

 

 振り向いて微笑む少女の言葉に、女神ははっとする。

 

 誰かのため祈られたことなど、果たしてあっただろうか。

 

「リュウ……」

 

 視線を向けると、そこには傷付いた青年が一人。

 

 既におとこふくは全て失われ、あとは普通の防具に頼るばかりだった。

 

「リュウ……!」

 

 島のような勇魚も限界が近いのか、浅瀬を踏み潰すかのように接近していた。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 一人の男が立っている。

 

 一人の女に生き様を示すため、ただ一人、立っている。

 

 背負うように釣竿を抱き、最後の力を両足に込めた。

 

「行けっリュウ!そのまま引っ張り上げろ!」

「もう少しだ!オレらのことは気にすんな!」

 

 一歩、また一歩と踏み出す度に、勇魚の巨躯が迫り出して来る。それに合わせて後退する人の波。

 

「こっちだリュウ、オレたちの方に来い!」

「ぷきーっ!」

 

 引っ張り返され、尻餅をつく。

 立ち上がるが、もう足が動かない。

 

「リュウ!」

 

 思わず声をかけると、青年と女神の目が合う。

 目の前にいるのは人か、ドラゴンか。

 

『リュウー!がんばれー!』

「リュウ、がんばって……!」

 

 胸を衝く想いは、言葉として解き放たれた。

 

「リュウーーーーーーーー!!がんばってーーーーーー!!」

 

 ミリアは、叫んでいた。

 

「でぃああああああああああああああああああああああ!!」

 

 青年は持てる全てを振り絞り、仲間の元へと足を踏み出した。

 

 永遠にも思える数歩が数えられたとき、勇魚もまた、大地の上にその姿を、完全に顕わしていた。

 

「やった、やったよ、みんな」

『やったああああああああああああああああーーーーーーーー!!』

 

 リュウは遂に、勇魚を釣り上げた。

 

 勇魚『測定不能!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。