「それではお父様、行って参ります!」
「ああ、くれぐれも気を付けてな」
「レイ様、リュウ様、ティーポ様、ニーナお嬢様のこと、お頼み申します」
翌日。ウィンディア城を出発したリュウたちは、ウィンディア王とお付きのお爺さん以下一同からお見送りを受けた。
「なんか、大事になっちゃったね、兄ちゃん」
「まあお姫様だしな」
王様が手形を発行するまでの間、社会科見学ということでニーナの旅が始まった。
三人はその護衛ということで、彼女と行動を共にすることになったのである。
「いいですかニーナ、なるべく宿に泊まること、そこで必ず手紙を出すこと。次の行先を書くこと、忘れないように」
「はい、お母様!」
王妃は未練と不満たらたらだったが、NOを言うだけでは収まらないケースに不慣れで、結果的に成り行きに流される形となった。
「プラントの見学だから、長くても四日目くらいには帰ると思います!」
ニーナは今後の予定をハキハキと答えた。以前の家出と違い、お着替えもお小遣いもしっかりと、尚且つ分散して持たせてもらった。
「古いお着替えも送り返すように、よいですなお嬢様」
「はーい」
「ぶつぶつ……なんでオレがあいつの着替えなんか……」
なお替えのパンツを持たされたティーポは羞恥と怒りで額を真っ赤にしたが、リュウに持たせるのは恥ずかしいと言われてのことである。
彼は「だったらお前が自分で持てばいいだろ!」と言ったが、この言葉は全体で3体7くらいの不利となって負けた。
ティーポはポリティカル・コレクトネスを初めて味わい、社会の理不尽にまた一つ詳しくなった。
「それじゃあみんな、いってきます!」
『いってらっしゃいませ、ニーナ様!』
家来たちの大音声に、少女とその一行は一路社会科見学へと旅立つのであった。
「所でお姫さん、プラントってのは何だい」
とはいえ幼子三人の徒歩は流石に遅い。彼らは途中まで馬車に乗って移動をすることにした。
「私も見たことはないんだけど、プラントは機械で作物を作る畑らしいわ」
「キカイって何だ?」
「大昔の人たちが作った、人が働かなくても仕事をしてくれる道具、の一部みたい」
「へー、便利なもんがあるんだな、リュウ」
リュウは馬車に揺られてウトウトしている。
「でも私たちが使っているのはほんの一部で、他の物はほとんど壊れちゃってるの。直せる人も全然いないから、その内また自分でやらなくちゃいけなくなるわ」
「どんな物にも終わりがある、か。上手い話ってのは無いね、どーも」
などと言いながら、四人は峠の茶屋に着いた。
師匠キャラのくせにグラフィックが使い回しの人に舎弟にならないかと誘われたりもしたが、やんわりと断ってから昼食を頼むことにする。
「うめー、なんだこれうめー!」
「おいしー」
「カレーっていうのよ。ここの名物ですって」
リュウとティーポは目の色を変えてカレーを食べ続けた。
「おいおいお前ら、そんなに食うと腹壊すぞ」
「平気だい!あっカレーおかわり!」
「ボクも!」
初めて食べるカレーの味にすっかり二人は虜になり。
そして。
『う~~~~~~~~ん……!』
二人はぴーぴーになった!
「ほれ言わんこっちゃねえ」
そんな一幕がありつつも、一行はプラントに到着した。
しかし時刻は既に夕方だったので、入ってすぐの宿屋に泊まり、見学は明日に延期となった。
「くっそー、オレとしたことが不覚だったぜ……」
「食べ過ぎはよくないね」
今もぽんぽんを摩りながら、リュウとティーポはベッドで大人しくしていた。
基本的に不本意な排泄は、大半の動物にとってストレスである。それ故に二人もじっとしている。
「ちょっとしか見えなかったが、奥に透明な小屋みたいなのがあったな」
「アレは温室っていうの。畑を夏の暑さや冬の寒さから守ることで、枯れにくくするんだって」
「野宿より家のほうがいいもんね」
「ああ、そういうことかあ」
「なるほど、そりゃそうだ」
ニーナが勉強した内容に、リュウが相槌を打つ。それを聞いてレイたちもすんなり納得する。
「明日はここを見学したら、その次はこの辺の海を見に行きましょ」
「えっ海があるの!?」
突然の吉報にリュウがベッドから飛び起きる。顔色に生気が見る見る蘇って行く。
「ええ、といってもここから先に行って、ちょっとした浜辺があるだけなんだけど」
ウィンディア王国はダウナ地方まで広い領土を持つが、大半が山と森で水場には恵まれていない。
プラント近くの海辺にも小規模な釣りポイントはあるが、村や集落の類はない。
「村はないのか」
「漁ができるほどのお魚は採れないんですって。だから村もなくって、魚人の人たちがたまに行商に来るだけみたい」
ニーナは荷物の中から今日のために用意した、地図やご当地の説明を読み上げる。
「本格的な海デビューの前の、練習にはなるんじゃないかしら」
「楽しみだなあ!」
「海の魚ってうまいのかな」
「実は私も初めてなの、楽しみね」
「おいおい、経験者いないのかよ」
などと言いつつ、明日の楽しみに備えてリュウたちは早めに寝た。
みんな結構ワクワクしてたので、宿で出された強化作物のご飯がおいしくないことなど、気にならなかった。