アトランティスの旅行雑誌を作る話。   作:人工肉のステーキ

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穏やかな波のおかげか、それともアメリカが寄贈した最新のヨットの性能のおかげか、数十分程度の快適な船旅は終盤に差しかかり、いよいよ俺はアトランティスの入口 太平洋ブルーホールに到着した。

 

船から見える人工島は圧巻そのもので、普段から豪華絢爛な物を見慣れている富裕層らも、近未来と言わんばかりの島の様相に皆スマホを取りだして動画や写真を撮りまくっていた。かくいう俺も、持参した一眼レフを構えて写真を何枚か撮る。

 

長年愛用してきたこのカメラは旅の必需品であり相棒とも言える存在だ。記念すべきアトランティス旅行雑誌の一枚目の写真を撮り終えたところで、船は人工島にある港に寄港し、ついに上陸した。

 

港に降りた瞬間、我々を出迎えたのは"WELCOME"と書かれた大きなモニュメントだった。縦3m 横7mのそれは、写真映えがしそうな、いわゆるフォトスポットとなっており、到着早々、観光客は写真撮影をするために列を作り始めた。

 

かくいう俺も、雑誌の資料として使えることを見越して列に並び、数枚写真に収めたのだが…実を言うとこのバカでかいモニュメント、アトランティスの人工島が出来たという報道がされた当初、全世界で話題になった超有名スポットなのである。

 

何せ、未だ人類が完成させていない3Dホログラムの技術が使われており、来島者はこのモニュメントをすり抜けて島の中に入るという、非日常的な体験ができるのだ。

 

SF映画で散々擦られ続けながらも、実現するには難しいとされていた夢の技術であること、SNSが普及した現代において唯一無二と言えるほどのオリジナル性と映え要素、映画やゲームなどのエンタメ業界へ転用した際に考えられる無限の可能性…それらの要素が組み合わさった結果、世紀の大バズりとなった。

 

今まで、ホログラム自体は地球上でも開発されていたが、それらは大体、霧やアクリル板など、スクリーン代わりとなる物体が必要だったり、とてつもない量のプロジェクターを使用しているものの、解像度やホログラムの大きさが今ひとつといった具合で、ブレードランナーや攻殻機動隊などに登場するようなクオリティとは程遠いものばかりであった。

 

当然そんなSF世界の産物に世界中の人々が食いつかないはずもなく、人工島ができた今年の初め、2度目のアメリカ訪問となったアトランティス使節団に向けて、とあるアメリカ人記者がホログラムに関する質問を投げかけたことにより、全世界は混乱の渦に飲まれた。

 

そのアメリカ人記者がした質問、それは

 

『今話題のホログラムの技術が完成したのは、いつ頃か?』

 

というものだった。

その問いに対し、アトランティス使節団代表だったヌリフォノトという男性が呟くように答えた。

 

「約650年前です」

 

650年前、つまり日本で言うなれば室町時代。さらに分かりやすく言えば京都にある金閣寺ができるよりも前、コロンブスがアメリカ大陸を発見するよりもずっと前にフォログラムを開発していたということになる。

 

この発言から、より世界はアトランティスに対し慎重に接するようになった。計り知れないほど文明のかけはなれた国家に対して、上から目線で接する外交はもはや蛮行に等しく、とある国が強硬な姿勢で彼らに接した時は、すぐさま世界中の国々から非難の雨が降り注いだ。アメリカに至っては経済制裁をチラつかせるほどキレていた。

 

しかし世界が戦々恐々とする中で、アトランティス及び彼らの使うテクノロジーについて研究している学者らはとある仮説を立てた。

名を『技術的最終進化説』という。

 

というのも、アトランティスが現在も使用しているホログラム技術が650年も前に開発された技術であるならば、我々の基準から見ると1355年頃に開発された"火縄銃"を、現代の武装として使用していることとほぼ変わりないと言え。そのことから、進化するテクノロジーはどの分野においても最終的に頭打ちになるという説が提唱された。

 

当然大きな議論を巻き起こしたのは言うまでもない。

ホログラムよりも進化した技術を本国では使っているという説、あまりにも優れた技術はたとえその進化系が出たとしても、淘汰されることはないという説。否定的な説は様々だった。

 

そんな世界的論争を巻き起こしたホログラムを通り抜けると、そこには整然とした真っ白な空間が拡がっていた、

光沢感のある流線型の空間には、アトランティスで開発された技術の一端が展示されている。

しかしながら、解説員のような人の気配はなく、代わりに天井に埋め込まれた投影機から人型のホログラムが展示物の真横に映し出されており、展示に近づくと展示物に関して解説してくれる仕様だった。

 

まず、入口付近で我々を出迎えてくれたのは、思わず見惚れるほど美しい半透明の鉱石の塊だった。赤みがかったその鉱石はインゴット型に妖しく光り輝いており、石英のようなぼんやりとした透明度でありながらも金属特有の鈍い光を放っていた。

 

名をオリハルコンといい、地球上では伝説の鉱石としてその名が知られている。

かつて政府関係者がアトランティスを訪れた際に公開された情報によると、主な産出地はアトランティス大陸の南西側、広大な山脈とその背面にある海底から採られているらしく、価格に関しては今現在地球上で最もグラム単価の高い物質であると”推察”されている。

 

なぜ、推定価格のみで最も高い物質という称号がつけられているのか、その理由は単純に、我々の住む地上世界に存在しないこと、その有用性ゆえに地球上に存在するレアメタルのほとんどを石ころに変えてしまうほどの、すさまじい特性を持っていることがあげられる。

さらに見た目の美しさも相まって宝石的な価値が見込まれていることも、その天文学的数字に見えるほどの価格がつけられている要因になっている。

 

当然のことながら、この未知でありながらもどこか馴染み深い、魔法の物質を保有している国は表向きには存在せず、現状人類がその目で直接鉱石を見ることができるのは、地球上どこを探してもこの人工島しかない。

それもあってか周りにいたセレブ達はこぞって目の前にある赤いインゴットにくぎ付けになっていた。おそらくこの場にいるセレブ全員の総資産をアタッシュケースに札束として詰め込んで購入を試みても、砂粒サイズのオリハルコンすら買うことは困難であろう。

 

それほどまでに│希少性《レアリティ》の高い物質なのである。

そんな超レアメタルの写真を収めると次に、ハーレーダビットソンのようないかつい大型バイクの展示に移った。

黒が基調のこのバイクは、本来であれば必要なはずのタイヤが存在せず、青紫の光をかすかに地面に照らしながら”20センチ程度浮遊していた”

 

なんでも天才的なマジシャンが素人目にはわからないトリックを使って大型バイクを浮遊させている…はずもなくこのバイクの車輪部分には、反重力モビリティが設置されているのである。

 

つまりはMCU(マーベル)やスターウォーズの宇宙船などで使われている技術の本物が目の前にあるわけだ。当然こんなものがいまだにロケットエンジンやジェットエンジンなどが主流の地上で一般的に広がったあかつきには、日本が長年研究試作してきたリニアモーターカーが実用化されていないにもかかわらず、もはや時代遅れの産物になり果てる。

 

当然この技術も、提供された国は一つとして存在しておらず、アメリカは技術の粋を集めて早速、再現に取り掛かっているらしいが、計算上まともに運用するには膨大なエネルギーもとい電力が必要なようで、仮に本家の数十分の一のクオリティで作ったところで現実的な運用は難しいという。浮かせられても持って数秒が限度らしい。

 

その後もビームサーベルやナノマシン型組織再生ポッドなど様々なSFの産物を目にして、船が出航する時間となった。

 

様々な人種のセレブ達が惜しみつつもボートへと踵を返す中、俺はただ一人彼らとは真逆の方向へ向かった。ちらほらと視線を感じつつもそれの一切合切を無視して向かった先は、ただの真っ白な壁だった、しばらくすると壁と思われていた部分がナノマシン技術によってみるみる霧散するように消え去り、やがて全身真っ白な美しい女性が現れた。

 

身の丈は俺よりも少し高い。目算、170センチ後半くらい。髪の根元から指先いたるまで透明感のある大理石のような白さが目立っていた。服装はやはり洗練された清潔感のある純白で、所々映える金色がよりその神々しいまでの美しさを際立たせていた。

後から思えば、俺はそのスーパーモデル顔負けのスタイルと現実離れした美しさを誇る、彼女に一目惚れていたのかもしれない。

 

ただ、その時ばかりはそんな下世話な感情よりも、下記の感情のほうが勝っていた

 

 

”本物のアトランティス人だ”

 

と。

 

 

 




【解説】

人工島 プロピュライア
古代ギリシア語で入口の意味を持つ人工島。
アトランティス側が着工し、ナノマシンを使って30分で作り上げた海洋プラント。大きさはそれほどでもなく、甲子園球場1個分の広さしかない。アトランティスと地上をつなぐ玄関口である太平洋ブルーホールの真上に浮かぶように建てられており、たとえ荒波が来ようとも影響を受けないように島自体が実は反重力で浮いている。
役割としては、観光に際したアトランティス技術の展示を伴う資料館と、アトランティス側へのアクセスの際に使用する港の"入口"を担っている。
展示されている品々に関しては特段ガラスで囲ったり警備をつけたりといった措置をしているわけではないが、もしも盗み出そうとする不届き者が現れた際には島全体にバリアが張られ、逃げ出せないようになっている。また展示されているモビリティに関しても一貫して遠隔操作が可能なため、反重力バイクに乗って太平洋の彼方へ逃げようというバカタレが現れたときは、そのまま反重力デバイスの出力を遠隔で切ることも可能。

実は先程も述べた通り、あくまでこの人工島は港の"入口"に過ぎず、主人公がこの先向かう港の本館は太平洋ブルーホールを潜った海中に存在する。わかりやすく言えば、セレブたちが喜々として写真を撮っていたあの展示スペースは、空港で言うところの出入り口の自動ドア周辺にほかならない。
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