叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

10 / 80
十話 根の国より愛をこめて

 

 

「いいかお前ら、この時間の紐を使った円形の注連縄を神力をもって背負い、ひたすらに腕立て伏せをしろ!」

 

「腕立てなんて僕ら普段からやってるから今更やっても…」

「そうよ!もっとこう…、大蛇を倒した剣技とか山を吹き飛ばす程の威力の弾幕とかを教えて欲しいのだけど!」

 

 

文句を言う二人に対して素戔嗚はみるみるうちに青筋を浮かべると、

 

 

「黙って言うことを聞けェッ!このクソガキどもッ!」

 

 

と一喝。

その身から発される威圧感によって、何とか持ち堪えていた腕の力がガクンと抜け、二人は地面に突っ伏すこととなった。

陸に打ち上げられた魚のようにプルプル震える二人を見ながら、鬼教官と化した素戔嗚による説明が始まる。

 

 

「いいか、我ら国津神は本質的に天津神に仇なせる唯一の者なのだ。そして、天津神の連中が使うこの注連縄という物は国津神の力を抑え込み、天津神に服属させる力がある!

つまり、この注連縄は我等にとって相当な負担になりうる代物なのだ!この縄を神力を使って背負ったまま鍛練を行い、負荷に慣れて自分のモノにした時こそ、国津神は更なる力を手に入れ、天をも凌駕する存在になるのだ!*1

 

 

「「おお〜っ」」

 

 

「お前達は普段から自身の運動神経にものを言わせて戦っているだろう!かつての儂もそうだったが、そういうものにほどこの鍛練は実を結ぶ!

お前達は見た所、保有している神力こそ少ないが、素質に関してはかなり高い。それを戦いに活かさないということは神にとって愚の骨頂以外の何物でもないのだ!」

 

 

曲がった腰もぴんっ!と伸びるほどに素戔嗚が鍛練の重要性を説明すると、若造二人は気になった事があったため、質問しても良いですか!と彼に伺いを立てる。

 

 

「「父上(素戔嗚様)はいつこの修行をなされたんですか?」」

 

 

すると、素戔嗚は頭をかきながらこう言った。

 

 

 

「確か根の国に娘と越してきた辺りの頃だったはずだ。姉上と兄上のお二方よりそれぞれ1締めずつ注連縄をいただき、根の国があまりにも暇すぎるが故にひたすら鍛練を行っていたな」

 

 

 

「「…はっ?」」

 

 

 

朝斗彦達はてっきり、素戔嗚は天より追い出された折にこの修行を行ったと思っていた。それならば、八岐大蛇に勝った事も、国津神の豪族共を締め上げて中つ国を統一した事も理に叶うからだ。それがなんだ、この目の前のジジイは老後の身体を弱らせないようにする為の運動のようにこの鍛練を行い、全盛期がとうに過ぎた状態で力を高めたというのか。

 

 

「つまり、八岐大蛇の退治は先程仰っていた運動神経にものを言わせて行った…ってことですか?」

 

 

「そうだ。あの頃にこの修行をしておれば大蛇ごとき酔わせずともひとひねりであっただろうよ…」

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

「ねぇ、今のアンタ一人で八岐大蛇を相手するとして、たおせる?」

 

「いや、多分無理だね。比売は?」

 

「私も無理だろうね」

 

「鍛練、やろうか…」

 

「そうね…」

 

 

 

 

 

 

『お前達こそが中つ国の希望の星なのだからさっさと力を自分の物にしろ!』

 

 

 

そう言って我が父、素戔嗚が僕たちふたりを鍛え始めてから半日が経った。初めは隙あらば僕達の事を封印してこようとする注連縄の扱いに比売も僕も苦戦していたものの、徐々に胸の内よりフツフツと湧き上がってくる神力が前に比べて増加していることに気付いてからはスグにコツを掴むことに成功した。

 

特に成長著しいのは比売だろう。

彼女は子供の頃こそよく神力を以て問題を起こしていたものの、成長するにつれてそこまで神力を頼らなくなり、純粋な力のみで戦うことが多くなった。その為に始めこそ大苦戦して、

 

 

「も、もうダメ…!」

 

 

と言葉を漏らしていたものの、暫く腕立てを続けると、本人曰く体の一部くらいしっくり来たらしく、腕立てをやめて走ってみたり、明らかに霊験あらたかな大木を神力で作った特大弾幕を撃ち放ったことでへし折ってしまい、

 

 

「このバカタレ!何をやっとるんじゃお前は!」

 

 

と、父上に怒られていた。

 

その後、比売にゲンコツを喰らわせた父上がお前達、もう腕立ては苦じゃなくなったか?と質問してきたため、比売と二人で

 

「はい」

 

と答えると、彼は

 

「やはりこやつらには筋があるな」

 

と言いつつ、一つだけ提案してきた。

 

 

「二人ともだいぶ慣れたんじゃあないか?となれば、そろそろ別の鍛え方をするしかあるまい。良いな?」

 

 

「「はい!」」

 

 

僕達の返事を聴いた父上はうむと一言言うと、再び背筋を伸ばして声を張り上げる。

 

 

 

「ならば次に行うものは注連縄を背負ったまま、座した己の身体を浮かせる事だ!増強したことで暴れる神力を身体の中で精密に制御し、心技体を統一することで循環させるのだ!」

 

 

それっぽい事を言う父上の姿はまさに出雲の祖霊、英雄神そのものである。実際は地上で何処の鹿の骨かも知らない者のヒモになっているというのに…。

 

 

「さぁ、ボサっとしてないで早くやれ!高天原からの軍が来る前に終わらせるんじゃ!

地上に戻る時は我が須佐の社に送ってやるからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、朝斗彦達が根の国にて修行をしている間、地上では半年が経った。

 

筑紫洲の日向へと降り立った建御雷と布都怒志は現地の弱小勢力を説得して取り込み、反骨精神溢れる豪族達は少しずつ平定した。まるで雪の中を転がす事で大きくなる雪玉のように、彼等は少しずつ軍勢を増やしながら着実に筑紫での天の勢力としての地盤を固めていた。

 

 

「建御雷さま!瀬戸の海を沿って進まれるか、西の低地を通るかについてなのですが、如何なされますかー?」

 

 

強面すぎる建御雷に普通に質問する彼女の名はいおり。

二柱が日向の浜に到着した時に無限に湧き出る妖精相手に困っていた際、竹で作った爆裂水鉄砲を乱射して妖精達を追い払うことで、彼等を助けたガラッパ族の少女である。

 

ガラッパというのは手に人よりも大きな水掻きをもち、何よりも水辺と旬を迎えた青臭い細鱗魚を好む妖の集団である。そんな出自を持つ彼女は、物作りが好きだったこと、放浪癖がありここいらの地理に明るい事、そして何より度胸がある事を二柱に気に入られて仲間に入ったのだ。

 

 

「…そうだな。西を通り、安全な道を進もう。…我らは険しい山道を楽に通ることが出来るような規模ではなくなってしまったしな」

 

 

 

建御雷と布都怒志の二人+いおりは、高千穂で山賊同然な生活を送っていた白き真神の一族を説得に失敗したのちに武力で従わせ、人間の豪族達に高天原の威光を見せつけ従わせてきたが、なにぶん従わせすぎた。

いつしかどこからかその威光を聞きつけたのか、彼等が本拠地に定めた高千穂からそこそこ距離のある場所に住む勢力からも使者が来ては

 

 

「従います。出雲なんて俺達で力を合わせて倒してやりましょうよ!(超意訳)」

 

 

という連絡をたびたび受けることとなったからだ。

 

 

 

 

あと一言で言うとこの侵攻軍、超絶鈍行である。

 

何故ならば、従軍者がいつの間にか増えているせいで常に食糧が足らず、狩りを行い、自分達に従う村全てに立ち寄って供物を得て、従わない村からは略奪を行い戦利品を獲るという事をしているせいである。

その上、渋々従わせた連中が毎晩のように糧食を持って逃げ出す為、それを捜索する事で余計に食糧が減るし、忠誠を誓うもの達の間にも疲労が溜まるしで進みが悪くなっているのだ。

 

 

 

こうしている間にも中つ国の者達は防衛を固め、我らへの対策を講じている筈なのだ!何故にこんなことに…。

 

建御雷がそう考えている間にも一人、また一人と伝令がやってきて、

 

 

「真神の者と人間の豪族の間で揉め事が起き、乱闘になっています!」

「先日従わせた隼人の兵達の間で疫病が流行り始めました!」

 

 

と彼らから報告が入る。

それを聞いた彼はクソッ!と悪態をついた後、喧嘩をやめさせるように伝え、そのあと来た者には隼人達を故郷へと戻すよう指示を出した。

 

 

高天原の威光ここに極まれり、二柱は未だ筑紫を出られず。この調子ならば暫くは目的地である出雲には到着出来ないだろう。

 

建御雷は再度小さな声でクソッ…と漏らし、今日だけは高天原の威光を恨むこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、出雲。

 

 

朝斗彦と神奈刀比売が相変わらず見つからないため、大国主自らが音頭を取って国境沿いの防衛を固めることで、士気の低下を防いでいた。

 

 

出雲の人々は口々に、

 

「比売様と朝斗彦様は駆け落ちされたのだ」

 

とか、

 

「アイツらはいつも一緒に居るから一緒に神隠しに遭った」

 

と口々に噂を立てた。やがて、いつしかそれが本当の事のような認識をされるようになってしまい、最終的には『二人は戦争に巻き込まれる前に駆け落ちし、根の堅洲国にお隠れになった』という内容のものに進化して噂が流れ始めていた。

 

 

 

「不味いぞ天穂日よ。あやつらが帰ってこない限り、国は間違いなく滅びよう。あの変な噂のせいで士気が下がるのではたまったものではない!」

 

 

「しかし、相手はあの建御雷と布都怒志ですよ。彼らが居ても勝てるかどうか…」

 

 

天穂日の一言で、二人は不味いな…と改めて口から漏らす。

出雲は天日槍との戦争には勝利したものの、その結果は辛勝と言うにほかはなく、敗北した彼らは結局筑紫の北に住み着いてしまっている。その上、元々出雲に住む者たちは戦をそこまで好まない性格を持つ為に現状有利にことを進めるための駒がほぼ存在しないのである。

 

 

「仕方ない。あまり頼りたくはないが、我が神酒を報酬として鬼達を動員するか…。天穂日よ、何度もすまないが手配を頼めるか?」

 

 

「承知致しました。彼らがいれば作業も早く進むことでしょう」

 

 

「幸い、奴らの行軍速度はかなり遅いようだ。それならば、その隙に防衛を強化する他あるまい」

 

 

「今まであやふやな態度でのらりくらりと躱していたせいで行動できなかった分がありますからな。今進める他ないでしょう」

 

 

因みに、東の山に住む鬼たちの元へは天穂日自らが出向き、条件を提示したところすぐに同意を得ることが出来た。しかも彼らは条件を聞いた瞬間に

 

 

「「「「うおおおお!久方ぶりに出雲に戻れる!」」」」

 

 

と絶叫しながら山から降りていき、北海の海岸沿いを走り抜けていったのだ。

その中には、鬼らしくない小柄な体格で豪華絢爛な弓を持った者が紛れていたのだが、疲労が溜まっていた天穂日はその見覚えのある弓の存在に気づくことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

第二の修行を初めてから何時間が経ったか。

 

僕たちは父上も交えた三人でふよふよと浮かび続けていた。ちなみに父上は注連縄の縛り無しである。

 

 

「そろそろやめどきかの。お前達、もう止めて良いぞ」

 

 

父上の一言でそれまで意識を深層に落としていた僕達はゆっくりと浮くのをやめ、そのまま地面へと着地する。

 

 

「お前達、自分の中で何か変わった感じはあるか?」

 

 

 

「うーんそうだな…。今まで雑に使ってた神力の真髄に近づいた気がするよ。今なら樹海の木々たちの根を操ることもできるだろうし、空だって飛べるだろうね」

 

 

「そうね。初めの修行が終わった時は気が昂って仕方がなかったけど、神人として神とは何たるかについて気付けた気がするわ」

 

 

「そうだろう。修行をする前は神と人の狭間のような存在だったが、二人とも見違えるほどに神格が高まっているぞ。流石は我が血の流れるもの達だ」

 

 

「さりげなく自画自賛したね」

「したわね」

 

 

「煩いわい!しかしこれならば高天原の者に遅れをとるようなことにはなるまいて。

それでは、我が力でお前たちを須佐の社へと送ってやる。お前達は忙しないから一応忠告しておくが、忘れ物はするなよ?」

 

 

「僕は大丈夫。比売は?」

「…あっ!大丈夫よ!ごめん、ちょっと考え事してた」

 

 

「よし、準備は出来たな。

 

…お前達!我が子孫として儂の名に泥を塗るような真似はするなよ!思う存分暴れてこい!」

 

 

「その名に恥じない活躍をしてまたいつか報告しに来るわ!」

「ありがとう父上!でも、父上ももう地上で変な事するのはやめてね!特に子作りとか!」

 

 

それも名前に泥を塗る行為だよ!といって僕が注意すると、彼はガッハッハッと大笑いし、

 

 

「たわけ、もう子供はお前が最後で充分じゃ!儂は目が覚めたから今後は根の国に篭もり、自身の役目を全うしようじゃあないか。

 

わずかな時間ではあったが、久々に神としての立場を思い出せたから楽しかったぞ。また機会があれば遊びに来い!黄泉醜女は嫌だが、お前達ならば歓迎しよう。

 

では往け!

かつて儂が愛し、儂の血を受け継ぎしお前達が愛している、この葦原中国を護るのだ!」

 

 

最後、父上が高天原のヤツらに一泡吹かせてやれ!と言ったのだけを聞き取った後にすぐ視界が反転し、暫くぐわんぐわんと揺れ、やがてそれが収まると僕たち二人は出雲の南、須佐の社へと飛ばされていた。

 

 

 

「…私たち、本当に素戔嗚さまに稽古つけられたのよね?」

 

 

 

ぼーっとしていたら、比売が先程まで起きていたことを確認してきた。

僕は未だに抜けない転送時の不愉快な感覚に目の上を抑えつつ、彼女の問に答えることにした。

 

 

「間違いないでしょ。なんだったら、浮けるか試してみる?」

 

「それもそうだわ。迷うなら試せばいいだけの事よ」

 

 

二人で先程やった事を思い出し、全てを循環させる意識で集中すると、二人ともあまりにも簡単に浮くことが出来た。

多分飛びながら移動も出来ると思うよ?と僕が言うと彼女は半信半疑な様子だったけれど、僕が彼女の手を引いて社の屋根へと飛んでみせるとぱぁっと顔の表情を変えて感激していた。

 

 

 

「間違いないわ!さっきまでの体験も全ては現実だったのね…!」

 

「そうだよ。夢なんかじゃあない、ただの現実だよ」

 

 

 

僕がそう言うと、比売はその一つ結びにした髪を風になびかせながらこっちを向いた。

彼女はしばらく見つめてきてはニヤニヤしているため、どうしたのさ?と僕が聞くと、

 

 

「いやァ〜?別に、アンタがホントに素戔嗚さまの子供なのか?とか、別に思ってないわよ?」

 

 

とだいぶ失礼なことを言ってきた。

 

 

「むっ、失礼な。これでも、実の親に名実共に認められたのは結構嬉しいんだから」

 

 

「怒った?ごめんごめん、謝る!

でもさ、二人を見てるとやっぱ似てるとこがあるのよねぇ」

 

「そう?例えばどこさ」

 

 

「そうねぇ〜…、まずはアンタが素戔嗚さまに怒鳴った時のあのお方の顔!子供の頃に母上に怒られた時の朝斗彦そっくりだったわよ」

 

 

「…ソレ、面と向かって言われるの恥ずかしいんだけど」

 

 

 

「良いじゃない、ここには私たち二人だけしか居ないのだから。後は…そうね。二人とも女誑しよね」

 

 

それを聞いた瞬間、彼女が何を言ってるのかが一瞬分からなくて思わず噴き出してしまった。

 

 

「…それ本気で言ってる?

 

確かに父上は若い頃からブイブイ言わせてそうな気はあったけどさ。僕はそういうのに関しては全くないよ。せいぜい子供の頃に高比売に『将来朝斗彦兄様のお嫁さんになる!』って言われたくらいしかないって…」

 

 

僕がそういうと、比売はあんたこそソレ本気で言ってんの?と突っ込んできた。その言い草に何故か腹が立って言い返そうとした時、彼女はピッと手で制止して、まあ、聞いてよと言ってきたので口を噤むことにした。

 

 

「アンタねぇ。女っ気がないって言うけど、そもそも朝斗彦は私達の事をそういう目で見てないでしょ?あんなに執心を燃やしてた黄泉醜女すら振ったって噂も聞いたけど、なんでなの?」

 

 

「いやそれはさ、比売みたいな高貴な立場、もしくは黄泉の住民である日狭美さんと現世の者たる僕は立場的に釣り合わないよなぁって思っているからだよ。

 

だってさ、僕はたまたま大国主様に拾われて、その寵愛を受けて育ったわけだけどさ。僕の素性が捨て子な事は変わらないわけじゃない?

 

そんな存在が宮廷で養われて、王女と懇意にして、そのまま付き合って…なんてしたら何時、何処で豪族や宮仕に殺されるか分からないじゃないか」

 

 

僕の率直な想いを比売へと伝えると‎、彼女は少し悲しそうな顔をしてそれは…そうよね。と一言だけ返してきた。

 

 

「そういうことだから、そこら辺は諦めてるんだ」

 

 

夜空を見つめながらそう言うと、彼女はこちらを何度か見たあと、モジモジと動いた後にその動きを止めて唸っては溜息をつき、またモジモジとしはじめた。どうしたのさ?と聞くと、返ってくるのはなんでもない…という、普段からは想像できない力無い言葉だけ。

 

そして、彼女はしばらく何度かこちらに何か言おうとする素振りを見せてはやめる、というもどかしい行動をした後、

 

 

「………うーっ、でも!

 

そんな背景があっても貴方は父上から受けた大きな期待に応え、クニに欠かせない存在になった!その上、私からしてみれば遠い伝説の存在であるはずの素戔嗚さま、自分の父親とも会って認知されたのよ!?

 

 

私は、生まれもった逆境に負けないでここまで一緒に育ってきた、そんな貴方のことが大好きなのよ!…ずっと、ずっと昔からね…。だから、今までに来た縁談だって全部断ってきたのよ…。

 

…貴方は葦原朝斗彦、かつて中つ国を束ねし三貴子の一人である素戔嗚の末息子!これでも私と釣り合わないって言うの!?」

 

 

と、まるで河が氾濫を起こしたかのように、その胸に抱えていた想いを吐露した。

 

正直に言って今まで幾度となく、もしかしてこれって…そうなんじゃないか…?と感じる部分はあった。けれどそれに対して、僕は立場の違いを言い訳にして目を逸らしていたというか、不安定な立場ゆえに大国主様に疑念を持たれたくない…ただその一心で、いつまで続くかも分からない幼馴染の関係を維持し、比売の想いを否定し続けていたのだ。

 

比売からの告白を受けてから、今までにあった比売との思い出などを思い出せば思い出すほど、今隣に居るこの女性が如何に素晴らしく、如何に僕にとって大事な存在であるかが分かり、先程受けた言葉の重みをひしひしと感じる。

 

 

「比売…、そこまで僕の事を想っていてくれてたのか…。

…僕も、初恋は貴女なんだよ。それでも、立場の違いとか色々なことを考えた時、その想いは二度と開けないようにするしか無かったんだ…。

 

今、正直にいって比売に言われた言葉が現実の物なのか、夢なのか分からない…。けれど、夢だと思って僕から一言だけ言わせて欲しい。僕も貴女のことが好きだ。それこそ、ずっと昔からね。

 

そして、今まで貴女のそういった感情から起こしていた行動を見て見ぬ振りしてきた事を謝らせて欲しい。…本当にごめん」

 

 

「…本当に長すぎよ、もう。

貴方がそうやって自分から好きって言ってくれるのを私、ずっと待っていたんだから…ッ」

 

 

「泣かせてしまって本当にごめん。やっぱり、比売に涙は似合わないよ」

 

 

そう言って僕が涙を拭ってあげると、彼女は小さい声でうるさい!と言った後、こちら側へと寄ってきて僕の肩に頭を乗せた。

 

 

 

「ねぇ、比売?昔、高比売と天稚彦の夫婦を玉造に連れて行った時があったでしょ?あの時にさ、ずっと彼に義兄上って呼ばれるからなんのことかと思って聞いたら、二人揃って比売と僕が結婚してるって思ってたらしいよ?」

 

 

「その話、高比売から聞いたわよ。二人で追及しても全く成果がないから、その話題はつまらなかったって言われたもの」

 

 

「でね。多分その話を比売達がしてる時くらいに、義兄上呼びはやめないの?って僕も彼に聞いたんだよ。そうしたらあの人、『今はそうじゃなくても、すぐにそうなるから変えません』って言いきったんだ。

その後に、応援してますよっていう言葉も付け加えてね…」

 

 

「……アイツの事はあまり好きじゃなかったけれど、そんな事を言っていたなんて知らなかったわ」

 

 

「不器用な人だったね。初めから、最期まで。

でもある意味、高比売と一緒になれたのはそんな彼にとって数少ない幸せのひとつだったと思うな」

 

 

「…それ、高比売の前で言ったらあの子泣いて喜ぶと思うわよ」

 

「違いないね」

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ、朝斗彦?私と口付けしてくれる?」

 

 

「良いですよ。比売がご所望であれば」

 

 

すると比売は一度だけ可愛らしく口付けを行い、恥ずかしそうにしながら、流石にこれ以上は父上に言ってからでないと…と言うので、僕も問題を起こしたくはないためにそれに同意し、修行で手に入れた飛行技術を早速使い、二人で出雲まで飛んで帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

宮殿に戻ると、中は慌しい様子であり、また鎧を纏った兵士達がピリピリとした様子で警備を行っていた。そのうちの一人が僕達の存在に気付き、

 

 

「神奈刀比売様に朝斗彦様!一体今までどこへ行っておられたのです!?」

 

 

と言ってきたので、僕達は顔を見合わせる。

 

 

「根の国ってそんなに時の流れが遅いのかしら?」

「少ししか滞在してなかったよね?あっでもさ、月夜見様に協力してもらってうんたら〜とか父上が言ってたよね」

 

 

『…』

 

 

「「これには根の国くらい深い訳があって〜…」」

 

 

二人でその場しのぎの言い訳をすると、彼ははぁと溜息をつき、

 

「とりあえずお二方は日が開け次第、奥の間に居られる事代主さまにご挨拶なさり、急ぎ大国主様の布陣する長門へと向かってください」

 

と一言だけ僕達に伝えると持ち場へと戻って行った。

 

 

慣れ親しんだ部屋へと戻って寝具へと寝っ転がると、今まで気を張り続けていた為にどっと疲れが押し寄せてくる。早く寝て事代主様、大国主様に会わねば…。そう思うと共に、僕達は深い眠りへと落ちた。

 

 

 

*1
なお、素戔嗚のスペックありきでの話





ありがとうございました。

感想、評価、お気に入り登録などお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。