諏訪編を書く前の繋ぎです。
現代の守矢神社に過ごす三柱と一人の話です。
「お前達の攻撃を受け続けるのは楽しくないからな。そろそろ私の番とさせてもらおう」
「…………ん? ……んなっ!? ここは、神名備!?ッ、またコレか!」
夢から目が覚めると、2*00年前の決闘が今まさに目の前で起きているところだった。コイツはアレだな? まだ本当は目が覚めてなくて、夢の世界にいるオチだろう?
「天よ、照覧あれ!」
建御雷がそう叫び、魔剣・布都御魂剣を空へと掲げる。すると記憶の通りに雷雲の中から稲妻が剣へと一直線に落ち、刀身が雷光を纏った恐ろしい姿へと様変わりした。
そしてすぐに彼は上段斬りの構えをみせ、あの恐ろしい真空刃を放つ前段階の動きを見せる。
「その動き、見切ったッ!!」
「何っ!?」
真空刃が飛んできた瞬間、それをかわして彼のもとへと距離を縮めると、その身体に逆袈裟斬りをお見舞いすることに成功した!
建御雷を倒したぞ!と嬉しくなって勝鬨をあげたところで目を開けると、そこには腕を組んで仁王立ちする比売と、呆れた表情でこちらを見る諏訪子の二人が居た。
「あっ……えっと、お二人共ご機嫌麗しゅう」
「また随分と暴れてたねぇ。どんな変な夢を見たらそんな犬っころみたいな夢の見方するんだか」
「えっ、そんなに?」
「……急に離れから変な音が聞こえるから慌てて見に来たのよこっちは。そうしたら居間で寝ながらジタバタ動いたり、チャンバラみたいな動きしてるアンタがいたから恥ずかしいったらありゃしない。
というか今日、アンタには私から頼んだ事があったよね?」
「え、えぇ? な、なんだっけ……」
「……っ、今日はどうしても外せない用事があるからアンタが代わりに天狗の会議に行くって話だっただろうが! 私の顔に泥塗るつもりか!」
「……アッッッ!! 早苗に昔話聞かせるのに夢中になって忘れてた!!! 比売、それ何時からだっけ!?」
「比売っていうな。……14時から天狗の里、天魔の館よ。早く支度しろ!!」
慌てて飛び起きて壁の時計を確認すると、時刻は13:45。ピンチである。
僕は急いで着替えてから注連縄を背負い、すぐさま縁側から飛び立ち天狗の里へと向かうことにした。
黒い長髪を靡かせながら飛んでいると、パシャリというシャッター音が何度か聞こえる。またあいつか……と思いつつ無視して進んでいると、周りでビュンビュン音を立てて飛んでいた存在が目の前に現れる。
「無視とはヒドイですねぇ」
「悪いね文ちゃん。今は急いでるんだ」
「博麗神社の御祭神様が何を急ぐことが?」
「博麗神社とはまた失礼なチョイスだな……これから天狗の会議に出席せにゃならんのさ。比売の代わりにね」
「あややっ! そうだったのですか。
ですが、今日こそは取材させていただきますよ! 貴方にはいつも振り切られてしまいますから!」
「くそっ! 面倒臭い流れになったぞ。
そもそも、文ちゃんも同じ会議があるんじゃないのか?」
「私は出張取材につき公欠申請済みですから!
さぁ、私の取材に付き合って頂きましょう!」
出張取材って言ってる割に山すら出てないじゃないか! と内心思いつつも、これは回避しようがない。一枚目のスペルカードを取りだしてそれを行使する。
『神符・諏訪の御神渡り』
比売のスペルよりも密度の濃い御神渡りを喰らえ、このパパラッチ風情が!
しかし、しばらくスペルを撃ち込んでいた途中で、アレ、こんなことしなくてもアイツのカメラ奪えばいいだけじゃね? となり、昼寝中に見た夢の感覚でスっと近づくと、思ったよりも簡単にカメラを奪い取ることが出来た。
「えっちょっと!? 何やってるんですか朝斗彦さん! 私のカメラ、返してくださいよぅ!」
そう言って、カメラを取り返そうとする文の背中に先程放ったスペルカードの弾幕が複数当たり、らしくない被弾をした彼女はあや〜っ! と絶叫しながら地上へと落ちていった。
その姿をカメラに捉えつつ、僕も急いで天狗の里へと向かうことにしよう。
天狗の里に着き、用件を言うとすぐさま中へと通され、ギリギリ会議へと間に合う事が出来た。
挨拶を終えた後に用意された席に着座し、周りを見回していると
「葦原朝斗彦様、かなりギリギリのご到着でしたな。一体如何された?」
と大天狗の飯綱丸龍にそう聞かれたのでおたくの迷惑記者に絡まれてしまってね……と言いつつ、文ちゃんから借りたカメラを袖から取り出してその場に置くと、龍とそれ以外の聞き耳を立てていた天狗達が皆同じタイミングで大きく溜息をついたのには流石に笑ってしまった。
「静粛に、それでは只今より天狗の合議を始める。本日の議題は〜……」
おっと、そろそろ始まるようだ。
比売の名代として恥をかかぬようにせねば。
……
「ただいま〜。はぁ、疲れた〜」
「おや、お帰り。随分と早かったじゃないか」
「おかえり! 今日は早苗のカレーだよ!」
「はい! 沢山作りましたのでおかわりしてくださいね」
守矢神社へと帰還した僕を待っていたのはいつもの光景。はぁ、さっきまでの会議に比べたらここの安心感は雲泥の差だな。
「会議はどうだった」
「アレはもう行かなくていいと思うよ。
比売から山の治安管理の事とかも話し合われるって聞いていたからそこそこ気を張ってたんだよ。でも実際は、新聞大会の結果発表とそれに合わせて受賞者に賞品贈呈したり、河童が作った撮影器具の感想を言い合ってるだけだもの。部外者からしたら本当に興味無い」
「……辛口」
「えっ! 諏訪子様には甘口のを用意したはずですが……」
「いや、多分朝斗彦の評価のことを言っただけよ。朝斗彦、奴等から酒宴に誘われたりはしなかったのか?」
「いや、天狗達とは気合わなそうだから帰ってきたよ。皆と一緒に夕飯食べる方が良いからね」
「ふふっ、まぁ貴方らしいな。冷めると悪いから早い所頂こうか」
「そうだね。それじゃあ頂きます。
……ん? なんかコレ甘くない? というかこのスプーン、諏訪子のやつ……」
「だから言っただろ〜! 私のカレー、辛いんだよ〜!」
「諏訪子様! 座る位置がいつもと違うじゃないですか! そこは朝斗彦様の席ですよ! なんでそっちに座っちゃったんですか!」
「別にいいでしょ気分で変えても! もー! 早苗のバカちん!」
「な、なんですって!? 馬鹿って言う方が馬鹿なんですよっ!」
そう言って二人は激しい口論を始めてしまった。なお、聴こえる言葉は割と可愛らしいものであるが。
正直言って席の位置など気にしないし、食べかけでいいならこれあげるけどなぁ……と言うと、無言で比売が諏訪子と僕のカレーを取り替えてくれた。
「ありがとう比売、感謝するよ」
「比売って言うな、恥ずかしい。
そんな呼び方未だにするやつなんざ貴方だけよ」
「皆の間では神奈子様でも僕の中では比売のままだからね。何年一緒に過ごしてると思ってんのさ」
「……クソっ、話してるとどんどんペースが乱されるから嫌いだよ」
「酷いなぁ、僕は比売のことずっと大好きなのに」
「ッ……!!! そういうところだぞ! どうせ他の女にも同じような事言ってるのだろう!?」
「いや、言わないよ。だってそうやって他所で色目振ってるなら神社でだらける余裕ないし、それじゃ素戔嗚様と一緒じゃないか。僕それだけは嫌だよ。
あっそうだ、今日なんかさ。天狗の里に行く途中で文ちゃんとあったんだけど、彼女に博麗神社の御祭神とか言われてビックリしちゃったよ。
あそこの巫女とだらけ癖が似てるからかなぁ〜」
「あのブン屋、今度来たら捕まえてとっちめてやらないとね。はぁ……それにしても、アンタ昔は格好良かったのに何処でこうなったのかしら……」
文ちゃんがひっそり比売によって断罪されるのが確定したが、比売のその後の言葉は納得いかない。僕は昔から変わってないのに。
カレーを胃にかき込んで完食すると、比売の言葉に対して僕は反論を始めた。
「むしろ比売が逞しくなり過ぎなんだよ。
最近は早苗によく出雲にいた頃の昔話を聞かせてたけど、あの時くらいの比売の感じが一番可愛くて良かったな」
「なっ、お前早苗に聞かせたのか? あの頃の話を?」
「うん。因みに今朝国譲りが果たされた所まで進んだよ。ね、早苗」
「はい! 神奈子様はお姫様だったんですよね!」
いつの間にかこちらへ復帰した早苗とね〜と顔を合わせると、比売はうぅ……と唸り声を上げて寝転がり、悶絶し始める。
「やだ、やめて。あの頃の私は無鉄砲でお節介焼きで現実を見れてない、立場だけの暗愚だったのよ」
「暗愚は流石に言い過ぎだし悲観しすぎでしょ……
でも神としての余裕が増えたことで隠してるだけで、僕に相談無しに地獄鴉に八咫烏憑依させたりしてる以上、無鉄砲なのは今も変わってないし、お節介焼きの方は相手が僕から早苗に代わっただけじゃないか。
今更何を恥ずかしがる必要が?」
「うぐっ!」
「朝斗彦様、結構言いますね」
「いや、事実だし……」
「そうだよー、神奈子はもっと素直になった方がいいよ。昔みたいな1秒1秒に気を配るような環境じゃないんだし、夫婦水入らずで仲良くしなよ〜」
甘口カレーで機嫌を直した諏訪子も介入し、軍神八坂神奈子まさかの八方塞がり、赤面が止まらない。
あっとそういえば、彼女はもうあの長い名前は名乗っていない。些か古典的すぎるからね。
ちなみに、僕は折角大国主様から直々に頂いた名前だから変えずに名乗り続けてるけど、昔から信仰してくれる人々は僕の事を斗神様、東神様と呼ぶことが多い。
同じ斗星を司る後戸の神との因縁もいつか早苗に語ろうかな。早苗が摩多羅神を知ってるか分からないけど。
「……湯浴みしてくる」
そう言って比売は神の威厳ゼロな姿でとぼとぼと歩いていき、奥の風呂場へと続く洗面所へと入っていった。
しばらく諏訪子を交えて早苗と昔の事を話し、諏訪子と出会った頃の話も今度してあげると言っていた時、
『風呂場に来い』
と一通の念話が届いた。
念話なら早苗達に聞かれることは無いので、早苗達にはじいじはもう寝るねと伝え、お前がじいじなら私はばぁばその二じゃないか! と諏訪子に笑われつつ部屋を出て廊下を進む。
誰も見ていないことを確認してから洗面所の扉を開けると、それと同時に突然腕が伸びてきて僕を掴み、中へと引きずり込んできたのだ。
驚く間もなく中で湯上りの比売に抱き着かれ、そしてそのまま流れで僕達は口付けを交わした。
「ちょっと、折角バレずにここまで来たんだからびっくりさせないでよ」
「我慢できなかったのよ。
言っておくけど、アンタのせいなんだからね。あんな人前で可愛いとか好きだとか言ってくれちゃって……」
「おや、懐かしい言葉遣いだね比売。最近は威厳マシマシで正直怖かったから助かるよ」
「う、うるさいわよ!
馬鹿な地獄鴉に八咫烏を降ろした件であの後他の賢者達と揉めたから、あの態度だったのは仕方なかったのよ……。
ここではこれくらいにしとくけど、後で覚悟しなさいよね!」
「ああそうだ。僕に黙って神降ろしした件があったか。それも地上とは相互不可侵である地底の妖怪に対して。
僕は諏訪明神を支える神だが根の国の神の一柱でもある以上、悪者は懲らしめなければならないな。だから比売の方こそ、寝る前は覚悟しておいた方が身の為だと思うよ。
じゃあ、僕も湯浴みでもするかな。比売、おやすみ」
ニヤニヤしながらそう言って横にいる比売をチラッと見ると、彼女は一見気にしてないような様子でドライヤーをかけていたが、冷風の筈なのにその顔には大汗をかいていた。
……
風呂から上がり、いつの間にか使うことに慣れてしまったドライヤーを駆使して、このとにかく長い髪をひたすらに乾かす。
しかし、本当にこのドライヤーなる道具は最高だね。僕みたいなロン毛男子(早苗曰く)には必要不可欠だ。現代の作り出した神器と言っても過言では無い。
早苗にはマー〇ィ・フ〇ードマンなる楽器奏者みたいだとネタにされがちなこの髪型だが、こちらへ越す前に僕に見せる為だけに早苗が現像した写真を見る限り、僕の髪の方が大きく緩くうねってるからそこまで似てない。これが今に写す神話の大王素戔嗚様の姿だ、どうだ勇ましいだろ?
身体には神霊になる前、つまり大和との戦争の時についた傷跡が何個も残ってる。こういうのを見ると当時のことを思い出すし、忘れるべきでないということを再認識させてくれるんだ。当時は大将ほど切り込んで行くのが主流だったし、身体に傷が増えるほど勇猛なる者であるという証だった。
まぁ中には神霊となった後、妖とドンパチした末に付けられた傷もある。この顔の中央、鼻を跨ぐようにある漢字の一みたいな傷は今より千四百年前に付けられたモノだ。
国津神は天津神とは違い、変化を積極的に受け入れ続ける存在だ。故に、傷は治せてもそれ自体は無かったことには出来ないんだ。
…ふぅ。さて、髪も乾いたしそろそろ寝室に行くとするか。お姫様を待たせては可哀想だからね。
待っていろよ、今成り上がり者がそちらへ向かうからな。
……
「おはよぉ〜。アレ、神奈子は?」
「おはようございます諏訪子様。神奈子様は熱を出されてしまったようで、ご自身の布団から動けなくなってしまわれたようですよ」
「ふゥ〜ん、朝斗彦は?」
「朝斗彦様は朝食をお食べになった後に神奈子様を介抱しに行き、その後どこかへ出かけられたようです」
「なんで一緒に寝てアイツだけピンピンしてんだよ……すわっ!?
ははーん? さてはあの二人、そういう事か。
早苗、今日のところは神奈子のことは気にしないでいいよ。多分そのうち復活するから」
「は、はい? 分かりました……?」
そう言い残すと諏訪子は神奈子の部屋へとむかい、布団にくるまっていた神奈子へと突撃。昨晩起きた事を布団クルマリ虫から聞き出した事でその顔をニンマリとさせ、ホクホク顔で部屋から退出した。
守矢神社の朝はまだまだ始まったばかりである。
時期的には地霊殿と星蓮船のあいだ辺りの時期のお話ですかね。
多分次から諏訪編になります。お楽しみにしていただけると嬉しいです。