叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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諏訪への侵攻も書きたくなったので書いてしまいました。
ちょくちょく現代幻想郷の話も混じえるかもしれません。


諏訪の戦い、国造り
十六話 未知なる勢力 魅知の国


 

 

 正直、諏訪攻めについては僕よりも比売の方が語るに相応しいと思う。彼女はこの伝説の当事者の一人、天より遣わされし軍団の長だからね。

 

 でも、僕が知らないところとかは諏訪子に話してもらおうと思ってるからよろしくね。

 

 

 

 ……

 

 

 

 天による葦原中国請求戦争から百年近く経った時代

 

 

 

初代の大王である磐余彦尊率いる戦士団が中つ国の東端に当たる、畿内と呼ばれる地域を征服することに成功し、倭国における政治の中心地は高千穂から出雲、そして大和へと移った。それによって、我ら神々もまた政治の中心地である大和に招集されることが増えたんだ。

 そんな中で、我々夫婦が出雲の社で民達の様子を見守っていたら神に仕える者が報せを持ってきたんだ。

 

 

「どうしたの? 用件を聞くよ」

 

 

「はっ。実は今、朝廷にて更なる東征の機運が高まっております。

 しかし、そのうち諏訪と呼ばれる地域では洩矢神と呼ばれる強大な祟り神を未だ祀っているとされ、その主神の特性上手出しがしにくい為に、朝廷は神々の力を借りたいとの仰せにございます」

 

 

「なんだまた攻めるのか? この前だって長髄彦との戦いに手を貸してやったばかりだと言うのに」

 

 

「この前って、その戦いはもうかなり前ですよ神奈刀比売様! どうです? まだ見ぬ強敵と戦う良き機会ではありませんか!」

 

 

「……よし、私が名乗り出る。朝斗彦、貴方も来なさい」

 

 

「まぁそうなるよね〜」

 

 

 とまぁこんな感じで名乗り出て、他の神はそんな面倒被るのは嫌なのでどうぞどうぞと立場を譲ったために我々夫婦が軍を率いることになった。

 

 神奈子様、アパレルショップで似合わない服を言いくるめられて買わされる人みたい? 

 

 そういうのやめてよ、笑っちゃうからさ。

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

「国を代表するおしどり軍神夫婦が指揮するなら我が軍は安泰だ」

 

 というのは我等諏訪方面侵攻軍に属する兵士達の評である。

 

 既におしどり扱いされているのは置いといて、この時代になると神による直接的な干渉が減り始めるので、神直属の軍という肩書きは大きな意味合いを持っていた。そして我々のような習合された神は名を上げる為の機会が必要であり、それに上手く乗っかることが出来ればその地の支配神として受け入れてもらえる可能性が増したのだ。

 

 この頃の天津神連中は皆どっか変な所に引っ越したりしてて、もう地上はヒトに任せりゃいいやみたいな感じだったし、この時代に干渉する神ってのはほぼ国津神とされる者だ。我々がそれの最たる例である。

 

 

「皆の者! よく聞け! 

 

 今回、我らは切り取り次第として諏訪の征服を命じられた。すなわち、この征伐は我らの安住の地の獲得をかけた聖戦である! 気を引き締めて往くぞ!」

 

 

『ウオーッ!』

 

 

 担がれた御輿に座り、太陽を背に受けて演説する比売の姿はまさに天の使いそのものであり、出雲時代の我らが見たら腰が抜けそうな光景である。

 

 ちなみに僕も御輿には乗らされていた。いや、本当は乗りたくなかったんだが、比売が貴方も一緒がいい! と駄々を捏ねてそうなった。

 

 うん、可愛いでしょ。アレ、うちの嫁。

 

 

 そういえば、この頃から比売は装備が少し豪華になった。

 そう、彼女の代名詞とも言える御柱が二対用意されたのだ。これは関門海峡での撃退戦の時に彼女がとった珍作戦が効果覿面だったことによって、神霊になった際にヤマトの者たちに、彼女と言えばこれ! という認識でいつの間にか追加された。

 これによって威圧感が増し、言葉遣いも天津神の不遜な物言いを真似し始めたことで、皆が知る『神奈子様』の原型ができた。

 

 

 ……僕的には、出雲小町な比売の方が好きだったんだけどなぁ〜。本人がそうなるのを望んだなら仕方ないか。

 

 

 

 比売の演説によって士気が向上した大和軍は異様な高揚感に巻かれながら都を出発した。

 

 太鼓が打ち鳴らされ、出雲の民とは大違いの整然とした隊列を組んだこの軍隊は国力の豊かさを見せつけるにはちょうどいい存在であり、比売も含めてトコトン相手威圧する作戦の元、常に派手に行軍することとなったんだ。

 なんというか、室町時代の婆娑羅みたいな感じ。

 

 因みに僕はそういうのはいいので、目的地に着いたら知らせてくれと御輿を担ぐ者に言って寝ていた。

 

 

 何度か野営を挟み……えっと……、ごめん比売、この時ってどう諏訪に行ったんだっけ? あっそっか。

 

 ごめん、この時寝てたから普通に忘れてた。

 

 恵那を通って木曽山脈の麓を抜けて、諏訪湖の南西から諏訪へと侵入する算段だった。

 

 

 この時の比売率いる諏訪への侵攻軍はめちゃくちゃ陽気集団であり、山登りのときですらも太鼓を鳴らし、それに掛け声を合わせて苦しさを紛らわすなどしていて、なんなんだコイツら……と僕的にはちょっと相容れないなと思いながら御輿に乗って楽してた。

 今思えばあの時くらい降りればよかったね。ごめんね皆。

 

 

 で、木曽山脈の麓の低地を抜けて、いざ諏訪に入ろうかという時、ここで事件が起きた。

 

 まず初めに、ヤマトの攻め方というのはまず相手方と交渉を行い、その動き次第で武力を行使する。所謂国譲りのやり方を踏襲したものだった。

 今回も諏訪の土着神なる存在に対して交渉から始まるのだろう。誰もがそう考えていたがために、派手な衣装を身にまとい、敵を威圧するに留めようとしたのだが。

 

 どうやら、敵は全て準備万端だったらしい。

 早苗はあの辺りに詳しいから現代の呼び名で言うけど、辰野から川岸の辺りに差し掛かったところで、突如として襲撃を受けたんだ。

 ここは峠であり、その麓を歩く我々大和の存在は、森に隠れていた諏訪の民にとっては鴨が葱を背負って来るような物だった。

 

 先団を進む比売に狙いをつけるのではなく、中団以降に狙いをつけた諏訪の民の奇襲によって、我々は大混乱に陥った。

 

 顔や身体に泥を塗りたくり、上裸で戦いを挑んだ彼等は完全に森林の狩人であり、あれだけ頑張って山を登り、いよいよ諏訪に着くぞ! とワクワクしていた大和兵達は諏訪の兵士によってなぶり殺しにされて行ったんだ。

 

 

「退却! 退却! 退きなさい! 戦おうとするな!」

 

 

 僕は御輿から飛び降りて剣を抜き、周りの者達と共に戦っていたのだが、比売がそう叫びながら飛んで辰野へと戻っていくのを見て、側仕えの者達に対して退却するぞ! と伝えた。そしてそのまま大和軍は蜘蛛の子を散らすように退却することとなったのだ。

 

 

 

 この時は完全にやられた。

 それまでは、降伏させてやろうぜ! イェイイェイ! みたいな雰囲気だった野営地が一転、葬儀のような雰囲気になり、生き残った兵士達の間では

 

「オレたち、ひょっとしたらとんでもないところに来てしまったのでは?」

 

「朝廷の威光がまるで通じてないぞ」

 

 と噂し出すやつまでいた。

 比売はそんなヤツらに対して、

 

 

「そんな泣き言言わない! お前達は国に選ばれた戦士達だ! 自信を持て!」

 

 

 と熱血闘魂を注入。僕は普通の出雲者らしくのんびり行きたいタイプでそういうノリは本当に得意ではないので、その時は耳に詰め物をして眠りに着いた。

 そして翌朝、起きると横に不機嫌そうな比売あり。

 

 

「なんで昨日の夜無視したのよ!」

 

 

「ごめん、疲れてたからすぐ寝ちゃったんだ。それに昨日は耳栓してたから、比売が話しかけてきてたのには気づかなかった」

 

 

「アンタ、寝てばっかりじゃない! 

 もっと昔みたいに沢山私の側にいて欲しいのに……」

 

 

「いや、なんか比売一人で完結しそうだから別に大丈夫かなって思ってさ。そうしたらあんな事になったけど」

 

 

「それよそれ、それの事で相談に乗ってもらいたかったのよ……

 あの失敗で私の面目は丸潰れよ。貴方、これから私はどうしたらいいの?」

 

 

 

「そうだなぁ……。とりあえず、どんと構えてなよ。

 上が混乱してると下の者も不安になってどんどん悪循環になるからさ」

 

 

「で、でも私、これ以上失敗するのが怖いわ」

 

 

「はぁ〜ッ……。あのね比売、自分の事を大国主様だと思って振る舞えばいいんだよ。大国主様がこの程度のことで揺らぐと思う? きっとあの方なら次に賭ける! って言って、再起するために逃げるはずだよ。

 

 諏訪には僕が説得に行くから、比売はとりあえず悲観的にならず、軍を立て直すことだけ考えよう。わかった?」

 

 

「えっ!? 貴方一人じゃ危ないわよ!」

 

 

「二人ほどは連れていくさ。大人数で行ってもこの前の二の舞になるだけだ」

 

 

「そ、そうね。分かった。私が許可する」

 

 

「ありがとう。吉報を届けられるようにするよ」

 

 

 そうして僕が選りすぐった者を二人連れていこうとしたら、もう二人ほどの兵士が着いていきたいと名乗り出たので、最終的に僕含め五人の者が諏訪の王へと謁見する為に野営地を出立した。

 

 

 

「朝斗彦様、奴らはまた襲いかかってきますかね……?」

 

 

「分からん。だが、用心するに越したことはないだろう。お前達、気を引き締めていけよ」

 

 

「承知致しました」

 

 

 

 そして、再びあの地へとやってくると、そこにはかつて出雲で何度も見たような凄惨な光景が広がっていた。峠を埋めるほどの死体はイヤな匂いを放ち始めており、放置すれば病の原因になるのは間違いなかった。

 

 

「お前達。布で口を覆い、死体は極力見ないようにしろ。相手は祟り神だ。そういった恐怖心も自分の力に変えるかもしれんからな」

 

 

「は、ははっ! 承知致しました!」

 

 

 従者に注意を伝えると、僕は念話で比売に対して峠の状況を伝えた。

 

 

『比売、峠の死体の数が多すぎる。今からでも少しずつ片付けなければここはしばらく通れなくなるぞ』

 

 

『分かった。朝斗彦、気を付けるのよ』

 

 

『ありがとう。比売も気を付けて』

 

 

 

 

 しばらく進むと、自分達から見て右側に人の気配がした。右手を挙げて従者を止めると、僕は隠れる存在に対して質問を投げかけた。

 

 

「そこに隠れる者よ! 私は大和より派遣されし神が一柱、出雲よりやってきた葦原朝斗彦命である! 洩矢神なる者との交渉を行いたいのだが、道案内を頼めるか!?」

 

 

 しかし、その言葉に対して森からの返事はない。どうせ神じゃねぇんだろ? とでも思ってるに違いない。ここはひとつ、神らしい事をしてやるか。

 

 

「おい! 今これより私は十歩程前へとゆっくり歩く! 腕に自信のある者は私に矢を浴びせてみよ! 一度も当たることなく歩ききって見せようじゃあないか! 

 それじゃあ、始めるぞ!」

 

 そう言って一歩ずつ数えながら歩き始めると、やはり両側より大量の矢が飛んでくる。が当たらない。

 後ろで大和の者たちがおーっ! と言っているのが、ちょっと優越感感じさせてくれて正直気持ちが良かったよね。

 

 

「やーっつ、ここのーつ、とおーう! どうだ、一回も当たらなかったぞ! お前達は歩数の倍近くの矢を放ったというのに! 

 観念して出て来い。そして、我等を案内せよ!」

 

 

 そう言うと茂みの中から何人かが現れ、私が案内するよと真ん中にたっていた少女が言ったので、彼女について行くことにしたんだ。

 

 

「洩矢神というのはいつ頃からこの地を支配されているのか?」

 

 

「さぁねぇ、もう本当に昔からだよ。その始まりを覚えている者など誰もいやしない」

 

 

「なんだと? ひょっとしたら、かつて私が仕えていた神よりも旧い時代の神かもしれないな」

 

 

「ふっ、さぁどうだかね。ここが諏訪の中心、あそこに見える貧相な建物が洩矢神の館だ」

 

 

 仮にも国の頭が住む館に対して貧相なんて言っていいものなのか……? と思っていたのだが、それ以上に感じる違和感があった。民達とこの女子の接し方が出雲にて過ごしてた頃の自分に重なるのだ。但し、彼女は畏怖されているような感じはする。

 

 まさか、この少女が? という疑念を抱きつつ、彼女の案内に着いていき、素戔嗚様が住んでいた一軒家のような建物の中に案内されると、彼女は床に置かれた帽子を被り、僕の対面に座った。

 

 

「さて、交渉というものを始めようか。ヤマトの神、葦原朝斗彦命。

 遅れたけど、私の名前は洩矢諏訪子。この湖の国を治める祟り神さ。宜しくね」

 

 

「やはりそうだったか。あの場に女子がいる時点で疑うべきだった。してやられたよ」

 

 

「それでも、私の飛ばした殺気に一度たりとも怯まなかったのは流石だね。死線を潜り抜けた者の証だ」

 

 

「そりゃどうも。それじゃ交渉を始めよう。

 

 ……今、大和の朝廷は畿内を越え、更なる領土の獲得を望んでいる。ここ諏訪を狙ったのも同じ理由だ。

 しかし……、実は我々は戦いを望んでいない。これは私個人の意見ではなく、軍を率いる御名方神奈刀比売命様がお考えになられている事だ。

 そこで、我々からは無血で済む降伏が最善と考えている。各首長への説得が必要なら出向くし、出来ることは全てやりたいと思う。どうか?」

 

 

 僕がこういうと、洩矢神はニコニコしているが、周りの者の顔は笑っていない。いや、彼等は何かを恐れてる。僕の知らない、なにかの存在を。

 

 

「民を傷付けたくないっていうのには私も賛同するが、この地域というのは昔から祟られた土地でね。ソレが積もりに積もった結果、祟り神・ミシャグジが生まれ、それを統率する私こと洩矢神が生まれた。すなわち、この地の歴史は祟りの歴史。ソレをお前達新参の若神達が抑えることが出来るのか? という部分が問題だ。

 

 お前達は先の戦闘で戦う意思がなかった。つまり、お前達の軍神としての真価というものがこちらはまだ分からないんだよ。そんな状態で国を譲れって言われても乗れるわけないんだよね。

 そもそもの話、私達は既に一戦勝ってる訳だしねぇ。

 

 そうは思わない? 葦原朝斗彦命」

 

 

 やはりあの時に奇襲をまともに食らってしまったのは痛かった。攻めるなら宣戦布告! はい攻めます! 位の勢いじゃないとダメってのは中つ国平定時の建御雷のやり方から学んだ筈なのに、完全に失敗である。

 

 

「……そうだな、致し方あるまい。ならば、もう一戦交えるしかないな。我らの剣をもって大和の威光を知らしめてやらねばならないようだ」

 

 

「ふぅん。諦めて帰るかと思ったが、戦うか。私が思うより、お前たちには骨があるようだね!」

 

 

「骨無きものには将は務まらないのでね。

 

 諏訪子殿、再び会う時は戦場で相見えましょう。お前達、野営地へと戻るぞ」

 

 

『ははっ!』

 

 

 諏訪子の館を出ると、後ろから彼女が声を掛けてきた。

 

 

「朝斗彦、帰り道には気をつけな。ここいらには危険な妖怪が多い。食われる程度ならそこまでで済む話だが一応念の為ね」

 

 

「御忠告いただき感謝する。お前達、この国の主がそういうのだから気を引き締めて行こう」

 

『ははっ!』

 

 

 そんな会話を挟んだ後、僕達は諏訪の里を離れ、野営地へと向かう事にした。もう日は暮れていたが、敵国で一夜を過ごす訳には行かないからね。

 

 

 そしてその帰り道に、奴と出会う事になるのだ……。

 

 

 






疫病…、林道…一体誰が出てくるんだ…。
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