叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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十八話 諏訪の反乱と国造り

 

 

 こうして悪の祟り神は負け、諏訪には平和が……訪れなかったんだよねぇ〜。あの後、神奈子達は高遠から諏訪へと入り、自分達の社を建てるよう地元の人に命令した。

 

 しかしながら、何度も言うように彼らはそれらの命令を徹底的に拒否した。そんな事をすれば再び祟られるに違いないと言ってね。彼らは祟られたくない一心で公然と大和に抵抗を始めた。

 反ヤマトの連中はしばらくの間は渋々神奈子に従っていたんだけど、ある時突然決起して社なんかを壊したり燃やし始めたんだ。大和を倒すことで私にこの諏訪の地を返し、恩に報いた自分達は祟られないようにする。

 それが反乱軍の目的だった。

 

 神奈子と朝斗彦は前もってそれが起きる事を私の話を聞いて予測してたから、その反乱も初めはすぐに鎮圧された。しかし、まるで畑から取れる作物のように次から次へと新たな反乱が起き、やがてそれは大乱へと様変わりした。

 

 

 

 初めは朝斗彦の指示の元で、刃傷沙汰にならぬように棒で叩いて懲らしめるようなことを大和軍はしていたんだけど、その結果反乱軍は複数の拠点を作ってそこから度々襲撃を行い、秩序を乱す事をしてくるようになったんだ。しかし、こんな狼藉を働いてアイツらが黙って見ているだけなわけが無かった。

 神奈子は都へと増援を要請し、都はそれを受け入れた。都からは直ちに百人隊が数隊派遣され、それを朝斗彦が受け入れて埴輪と共に調練することで、彼等は森林での戦いを身に付けさせられた。

 そして、朝斗彦による扱きをみっちり受けた兵士たちは猟犬の如く諏訪を囲む山々にある森を走り回り、反乱者達の根城を尽く潰して回った。

 

 私は反乱者に擁立されてる割には全然彼らのことを気にしておらず、むしろ朝斗彦の苛烈な手腕に対しておぉ〜やるね〜! なんて、めちゃくちゃ呑気なことを言っていた。

 

 

 よく朝斗彦様に殺されなかったですねって? 

 

 いやさ、こっちは負けを認めてるんだから勝手に擁立されても困るんだよ! しかもね、これは譲れないことなんだけど大和の方が飯が美味い! そりゃあこっちに付くわな。

 

 あと、私はこの国の祟りの概念そのものだから殺せなかったってのもある。それほどまでにこの地には祟りへの恐怖が染み付いていたって事だよな。

 

 

 

 ……

 

 

 

 

「殺しても殺してもキリがないな。どこから出てくるんだあいつらは……」

 

 

 ある日、廊下で部下達からの報告を受けた朝斗彦が溜息をつき、一言愚痴を漏らしたのを私の神聴力(ゴッドイヤー)は聞き逃さなかった。部屋から顔を出して廊下にいた朝斗彦に向かって

 

 

「あのさー、もしかしてかなり苦戦してる?」

 

 

 と聞くと、彼は困り顔をこちらへと向けた。

 

 

「そんなことは無い……とは言えないな。

 

 敵対者を倒したと思ったら、前まで協力的だった者が人が変わったかのように襲ってくる。もしこの状況が続くとなればいずれこの地の民が全て消える……そんな非現実的な事が現実になりそうだ」

 

 

「この地の者が全滅するなんてことは流石に避けたいなぁ。……ねぇ朝斗彦、私に一ついい考えがあるんだけど、聞きたい?」

 

 

 私がそう言うと、彼は怪訝な顔をしつつもその提案に食い付いてきた。

 

 

「聞かせてもらおうか。打てる手は何でも使わねばなんとやらだ」

 

 

「よし、それじゃあ言うよ? 

 

 私の娘と、お前達夫婦の子供を婚姻させるというのはどうかな? そうだ、いわゆる習合と言うやつだよ。血の束縛は堅く、この呪いに打ち勝つ数少ない方法。……どう? 私の提案、理にかなってない?」

 

 

 私がそう言うと、それを聴いた朝斗彦はお前の血族だと!? と驚いた様子だった。いや、そんなのは一人や二人いるもんでしょ。

 

 

「なに? そのような者がこの地に居るのか……? 確かに我々には子供が幾人もいるが、皆出雲に置いてきているし呼ぶまでに時間がかかるぞ……」

 

 

「世継ぎに嫁がせれば我らは縁戚になり、この地を包む呪いを払えるはずだよ。呪い寄りな私が言うのもなんだけどね」

 

 

「そうだね、これは比売にも相談しよう。

 元々我らは共存を望んでいたが故、変な話だがこれ以上敵に犠牲を与えたくはないんだ。だからこそ、その提案は前向きに検討することにしよう」

 

 

 朝斗彦はそう言って部屋から出ていった。

 この時の会話以来、アイツらは武による支配から血による支配へと政策を方向転換したんだ。

 

 恐らく朝斗彦が神奈子に伝えたのだろう。すぐに出雲よりアイツらの息子神・娘神が何人もこちらへとやってきて、諏訪の地に足を踏み入れた。

 そして、まずアイツらの世継ぎ最有力候補だった出速雄(イズハヤオ)が私の娘、多満留比売(タマルヒメ)を娶ったことで諏訪の地を継ぐ者としての立場を明確にした。

 

 また私は神奈子との合意の元、守矢神という新たな神格を持ったことで、民達が抱く祟り神への内なる信仰心を一手に引き受け、その力を神奈子に分け与えるという、大変めんどうくさいやり方でアイツらの統治を支えたんだ。そして、そんな秘密を知る大祝を務めたのが我が息子から続く守矢の系譜、早苗の遠い遠いご先祖さまって訳さ。

まぁ、守矢氏は途中でアイツらの孫が養子として入って継いだけどね。

 

 

 それが、諏訪の国造りの顛末。

 どう? ややこしいでしょ? 

 

 

 ……朝斗彦様の信仰はどうしたのですか、か。

 

 それもとってもややこい部分でさ。あいつは諏訪に根付いた大和の兵士達とその子孫、一部の妖怪達から主に信仰を受けたんだ。でも、神奈子の配偶者であるという立場であるからこちらの社でも祀る必要があった。だから、後に諏訪神党と呼ばれるアイツらの子孫が中心となって神奈子と共に祀っていく……その筈だった。

 

 

 風土記の編纂、並びに神の不都合な部分を隠したい朝廷の意向に従い、神奈子を男神である建御名方……諏訪明神として祀り、朝斗彦を女神・八坂刀売神として祀りたい諏訪神党と、夫の朝斗彦と妻の神奈刀比売を明確に区別をして祀る勢力は互いの解釈を譲らずに舌戦を行い続けた。そして最終的に兵士の子孫達が討論に敗北して諏訪神党に大幅に譲歩したことで、アイツらは何故か性別が入れ替わって記録される事となった。

 

 こうして諏訪の人々が祭り上げる神の設定は定まり、朝斗彦はすなわち建御名方神の妻八坂刀売神と同じ存在であるということが確定してしまったのだ! 

 

 信じられないって? マジだよ。

 

 

 いちばん面白いのは、朝斗彦と出雲で戦ったりした大和の子孫達の方がそこら辺の認識を正確な状態のまま祭祀を行ってたって事。彼らは表向きは諏訪大社に従いつつ、そこらの設定が人々の間で定まったあとも、朝斗彦の名を出さないように斗神様と呼び続けてあいつの事をちゃっかり後世まで祀り続けた。

 

 オマケにさっき本人が言ってたけどアイツ自体のやらかし*1もあったからか、大和の朝廷にそんな異端は認めない! と言われて、葦原朝斗彦=八坂刀売神が成立してしまったというのが一連の流れだよ。

 

 

 因みに、いつしか普通の人間には神の姿が見えなくなってしまった頃に起きたこのカオスな出来事は私たちにとってもかなり衝撃的で、錯乱した神奈子が

 

 

「私が嫁、私が嫁なんだから八坂を名乗ってもおかしくないわよね!?」

 

 

 って言い出していつの間にか八坂神奈子になってた。なのに当の朝斗彦は全然我関せずで、

 

 

「まぁ僕、昔から信者にちゃんとした名前で呼ばれることほぼないし、性別が変わるくらいも今更どうって事ないよ。新たな神格を持つくらい造作もない」

 

 

 とかほざいてた。

 

 でもその後、油断してたら急に性転換して胸が大きくなったり、ブツが失くなったりしてアイツ大騒ぎしてたけどね。そのうち神力でコントロール出来るようになったっぽいよ。なんか予想通りではあったけど完全に女体になるのにはかなり抵抗があったみたい。

 ちなみにそういうのが起きたのは朝斗彦だけで、神奈子にはなかったのが私にとっては謎。

 

 

 うーんわからん。土着神に祟られたんじゃね? 

 

 あっ、それって私のことか。

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

「あっ、噂をすれば二人が帰ってきた」

 

 

「ただいま……。比売がしつこすぎて幻想郷中を逃げ回ってきた」

 

 

「ちょっと、なんで私が悪いみたいな言い方するのよ。あんな秩序を乱すような姿で外出るのやめなさいよね」

 

 

「いやそれは普段の男物の着物のまま変化したからはだけただけで、外に出たのは比売が追っかけてきたから逃げただけだよ」

 

 

「……こんのぉ〜っ! 屁理屈ばっか言って……!」

 

 

「まぁまぁ神奈子様、あんまりカリカリしないでください。今お茶をお入れしますから……」

 

 

 

「あっ、そうだ! 

 待って早苗。これがいつの間にか僕の袖の中に入ってたんだけどさ、早苗には何に見える?」

 

 

 朝斗彦が袖の中から何かを取りだし、それを机に置いた。神奈子に何コレいつ拾ったのよと聞かれたが、肝心の朝斗彦も分からないようだ。

 

 

「え? 私にはUFOに見えますが……朝斗彦様は?」

 

 

「僕には魔力のこもった何かの欠片に見える。

 ……神力とも違う、強い魔力を込められた正体不明の道具か。謎が深まるな」

 

 

「……見るものによって見た目が変わる物体なんて、これはもしかしなくても、異変!? これは、私が解決すれば秩序側の一員ということですね……! 朝斗彦様! これを調べに行ってもよろしいでしょうか!?」

 

 

「いいよ。よし、それならこれを博麗神社へと持って行き、博麗の巫女と共に調査すべきだ。彼女は異変解決が本業だからきっと何か掴んでいるはず」

 

 

「きっといい修行になるはずだから行っておいで! 紅白巫女に負けっぱなしなのは嫌でしょ?」

 

 

「ええ、嫌です! 神奈子様、諏訪子様、朝斗彦様! 早苗は異変の解決に向かいます! 吉報をお待ちください!」

 

 

「はーい気を付けてね。昔の比売みたいに無茶しないようにね」

 

 

「ちょっ、恥ずかしいからそう言うのはやめなさい! 早苗、気をつけて行くんだぞ!」

 

 

「いってらー」

 

 

 

 

「……行ったか、本当は自力で異変解決して欲しいけどねぇ。あの紅白と協力させるのは何か胸がモヤモヤするわ」

 

 

「まぁまぁ比売、そう言わないの。

 

 早苗だって頑張ってるんだし、成長してきてるじゃないか。それに僕達以外に頼るべき存在がいるのならば、頼らせるべきだ。

 そういう強い者を見て早苗も強くなれる筈だよ」

 

 

「まぁでも、私らあまり紅白巫女によく思われてないし、早苗もそうだろうから酷い目に遭わないといいなぁ〜。ねぇ、二人共?」

 

 

「えっ、二人共そんなに霊夢に嫌われてるの? 僕よく向こうに行っては一緒に縁側で寛いでるからそんな事気にした事もなかったよ」

 

 

「はぁ? ちょくちょくどこか出かけてると思ったらそんなところに行ってたのか?」

 

 

「あそこ、人が少ないから昼寝に最適なんだよ。比売達は敵対してるかもだけど、一応同じ神道勢力だから落ち着くんだよねぇ……。

 縁側で寝てて起きた時に目の前に賽銭箱置かれてた時は笑ったよ。注連縄背負ったままだから僕の神徳に預かろうとしたんだろうね」

 

 

「商魂逞しい巫女ね。自分の社の祭神すら知らないってもっぱらの噂なのに」

 

 

「まぁいいんじゃないの。博麗の巫女はこの幻想郷の秩序を維持する力の象徴なんだから、祭神がいてどうこうってよりもその地位を脅かす存在を作らないことの方が大事なんだよ」

 

 

 そんなことを三柱で話していると、気付けば諏訪子が持ってきた菓子袋が丸ごと消えていた。怒った諏訪子は他二柱を疑い、ゲロゲロと文句を言い始めたが、いや私らが食べた素振りなんて一回も見せてないだろと神奈子に突っ込まれ、それもそうかと言って渋々納得していた。

 

 私のおやつ〜と力なく連呼する諏訪子に対して神奈子が

 

 

「スキマ妖怪にでも盗み食いされたんじゃないか?」

 

 

 と聞くと諏訪子はああ! と手を打って

 

 

「はっ、そうかも! 家だからって油断してた! 

 やい、八雲紫! 出てこい! 私のお菓子を返せ!」

 

 

 と言って虚空に向かって叫んでいた。

 やがてしばらくすると部屋の中にスキマが開き、人間離れした美貌を持つ幻想郷の賢者・八雲紫が現れた。

 

 

わら、よふひふひまひははへ(あら、よく気づきましたわね)

 

 

 ……口におやつを頬張ったまま。

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

「うわっ、はしたないなぁ。賢者なんだから口に入れたものくらい飲み込んでから喋りなよ」

 

 

「……、うるさいわよ。朝斗彦、貴方が博麗神社でぐーたらしてるのについて、一体誰が許可してやったと思ってるの?」

 

 

「そんなことを言ったら摩多羅隠岐奈が君に隠れて無茶苦茶しないように見張り、賢人会議でそれとなく君の提案を呑ませるようにしているのは誰だったかな」

 

 

「隠岐奈と貴方の斗星コンビ、本当に相手するのが嫌になるわね。

 ……あらお二方、ご機嫌麗しゅう。八雲紫ですわ」

 

 

「今更余所行きモードか? 私達の事をなんだと思っているんだ?」

 

「私のおやつを返せ〜! 窃盗だぞ! 不敬だぞ!!」

 

 

 女神二柱の当たりの強さに対して紫はよよよ……と泣き真似を見せ、諏訪子にはスキマから取り出したおやつを貢いでいた。さりげなく諏訪子が好きなあたりめを渡している辺り、やはり人をよく見ているし切れ者である。

 

 

「で、紫はわざわざ何をしにここまで?」

 

 

「たまたま様子を伺いに来たらそこの諏訪子さんと早苗が楽しそうな話してるからおや? と思って顔を出したのよ」

 

 

「また仮想敵に近い存在である我々を警戒して覗きに来たな?」

 

「絶対そうに違いないよ!」

 

 

「……まぁ、それもあるわ。でも、耳寄りな情報も持ってきたのよ? 今回の異変について、聞きたくないかしら?」

 

 

「まぁ気になるっちゃ気になる。もう早苗に渡しちゃったけどあの欠片の正体も気になるしね」

 

 

 僕がそう言うと、紫は扇子で口元を隠しながら語り出す。空飛ぶ船、聖輦船の事。そして地底の間欠泉が爆発した事で地上へと飛び散った飛倉の欠片とそれを作り出した仏僧の話を。

 

 

「……結局のところさ、それってうちの妻と同居人が向こう見ず故に起こした事が遠因なのでは?」

 

 

 横を見て僕がそう言うと、正座で俯く二柱の姿が。迷惑掛けるのは仕方ないが、このふたりは些かやり過ぎである。

 しかも、僕が反対するのがわかっているので、毎回毎回コソコソ隠れて事を起こす。比売なんて普段は胸を張って信者達にその姿を見せつけてるのにだ。

 

 

「まぁ、包み隠さず言えばそうなるわね。ちなみにその飛倉の欠片には何やら呪いが掛けられてて、見るものによっては怪異の類にも見えるみたい。

 それで人里の治安が悪くなられては困るしって事でこの異変の解決を霊夢にお願いしたのよ」

 

 

「そういう事か。ちなみに八雲紫よ、その聖輦船とやらの行先は分かっているのか?」

 

 

「藍に調べさせたら、それがどうもその船は結界を破って魔界に行こうとしてるみたいなのよ。なんでも魔界に封印された僧侶を復活させるのが目的みたいよ」

 

 

『ま、魔界!?』

 

 

「どうしよう貴方、早苗が魔界に一人向かったなんていくらなんでも心配よ! 助けに行かなきゃ!」

 

 

 目の前に弱みを見せるべきでない相手がいるにも関わらず、いつもの癖で過保護になる比売。ジト目でソレを睨む諏訪子と扇子で隠しても笑っているのが分かる紫が居るので、

 

 

「比売、心配なのは分かるけどさ……。それに、霊夢や魔理沙だって向かってるはずだし大丈夫だって……」

 

 

 と僕が言うと、我に返った比売は顔を真っ赤にして再び俯いてしまった。

 

 

「貴女、強面一辺倒の神様かと思いきや意外と可愛らしい所あるのねぇ〜……気に入ったわ。 ねぇお姫様? 今度私の親友も一緒にお茶でも如何?」

 

 

 にこりと笑みを浮かべる紫に対し、比売は人見知りの少女のようにモジモジとしながらお姫様だけはやめてくれ……としか言えず、僕と諏訪子はニヤニヤしながらそれを見ていた。

 

 

 

 

*1
鬼に信仰されて彼等に加護を授けた。名前が忘れられなかったのは鬼達のおかげでもある……という設定。






神奈子様可愛い。これで筋骨隆々としていて欲しい。


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