叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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二十一話 根の国への再訪

 

 

 この出雲への大集合の際、僕はとんでもないことをしでかした。人を殺したとか、神に危害を加えたとかそういった類の話じゃあないよ。

 

 

 神無月もいよいよ終わるかという頃、僕はある事で頭がいっぱいになっていた。それはズバリ、父に会いたいということ。最後にあったのが3桁年前くらいだったので、色々報告したいなぁ〜と考えていたのだ。

 そして皆が帰り支度をし始めた頃、僕は八咫烏を経由して大御神に請願した。父に会わせて欲しいと。

 

 

「なっ!? かようなこと、わらわに頼むことか? あんな不肖の弟になど勝手にあってまいれ!」

 

 

 やっぱり父のことは好きじゃないのか、めちゃくちゃ雑な対応で一応は認められた。その事を家族に相談すると、私も行くと比売が言い始めた。

 かつてのように王女ではなく一国の主。根の国になど行くべきじゃないと僕が言うと比売は渋々引き下がってくれたんだ。

 

 

「父上とは一日のみ共に過ごすつもりだ。

 ……比売ならその意味が分かるよね? 一年後にまた出雲で会おう」

 

 

「えぇ、貴方にとっては一日でも、私達には一年。寂しいけれど、貴方のためなら何年後でも待てるわ。気を付けて行ってくるのよ」

 

 

 そう言って比売は一度だけ口付けをしてくれた。その味はどこか塩辛かった。

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 そしていよいよ決行の日。

 大社の宮司、八重垣の宮司など我が父に連なる一族に縁ある社の関係者が揃ったなか、僕は黄泉比良坂の封印を解いて石扉を開け、中へと入っていった。ここに来るのも本当に久しぶりである。

 

 

 地下へと潜っていると、不思議な術式によって成り立つ結界を発見した。こここそが我が父にして根の国の王素戔嗚尊の根城であろう。そう考えて結界をくぐると予想的中。見覚えのある荒れた森……多少は生活感が増した我が父素戔嗚の領域である。

 

 自然の中に二軒だけ家がたっている。まぁ片方は相変わらず倒壊しているが……。

 

 

 

「おうおう、久方ぶりじゃのう我が息子よ! 一年振りか! 元気にしておったか?」

 

 

「えぇ、お久しぶりです父上。ちなみに外では数百年が経ちましたよ」

 

 

「ハァ!? じゃあなんでお前は見た目が変わってないんだ! 幾ら我が息子といえども、神人ならば歳をとるだろうが!?」

 

 

「それが父上、戦争に負けたことで強制的に神霊化させられたのでもう歳は取らなくなったのですよ」

 

 

「……成程な。負けたか。お前と共に稽古をつけたあの女子はどうした?」

 

 

「あぁ、彼女なら戦時中に僕と結ばれました。戦後は大和に従って遠く離れた諏訪の地を攻略し、今はそこの国主を長い事やってます」

 

 

「なにっ、諏訪だと!? あんな魔境よく攻め落とせたな。儂ですらも諦めた土地だぞ!?」

 

 

「攻め落とすのは楽でした。でもその後が大変で……」

 

 

 こうして大和との大戦後から今に至るまでを話していると、儂が地上でブイブイ言わせてた頃はこうだった〜とか興味深い話を教えてくれた。

 

 

「折角息子が自ら訪ねてくれたんだから、結界をいじって外と同じ時の流れにしてやろう!」

 

 

 彼は結界に触れてなんか訳の分からない珍妙な呪文を言ったあと、もうこれで大丈夫だ! と自信ありげに言った。

 これを信じてしまったがばかりに僕は……。

 

 

 

 何も知らない僕は父との会話を重ね続け、お前は兵士の調練は得意だが戦場での指揮はダメダメだな! だとか言われて軍事の再教育を受けたり、弾幕の力比べをしては圧倒的な実力差によって昏倒したりと、色々なことを幾日も行っていた。大国主様がかつて倒壊させたという旧宅を父の願いによって修復したり、共に剣の訓練などを行っていたある日、僕は大変な過ちに気付いた。

 

 

 

 

「ね、ねぇ父上? ここまで過ごしてきて言うのもなんだけどさ、やっぱりおかしくない?なんで結界を弄ったはずなのにこんなに澱んだ空間のままなの?というか今ってさ、僕がここに来てから何日が経ったっけ……?」

 

 

「今日でじゃな。

 ……お主、この空間に一年も耐えられるなんでなかなかじゃなぁ! さすが儂の息子! これで安心して後を任せられるわい」

 

 

「!? まさか、あの珍妙な術式変更は……?」

 

 

「あんなのウソウソ! なーんも変わっとらん!」

 

 

 ま、マズイ。ここに来た時、父に一年ぶりと言われた。つまり、現世ではとんでもない年月が過ぎ去っているという事である! 一年で帰るよとか言って、その後彼の姿を見たものが誰一人としていないなんてオチは最悪すぎる。今すぐ地上に帰らなければ! 

 

 慌てだした僕をこの狡猾な老蛇は見逃さない。ガシッと僕の肩を掴んで父上はこう言った。

 

 

「おいおい、どこへ向かおうとしている? 

 お前は我が息子、この地を受け継ぐものだ。そんな者を地上に帰すなどと思うか?」

 

 

「なっ!? ジジイ、嵌めたな!?」

 

 

「そうだ! 嵌めたとも! 儂はこのようなつまらぬ地で一生を終えるつもりは無いんじゃ!」

 

 

「クソっ! 改心してなかったのか!」

 

 

「……それは違う! 改心したからこそ、儂はお前の言いつけを守り、一年間この地で暮らし続けた! その上で、余りにもこの地がつまらなすぎたのだ! 

 話し相手もおらず、生き物一匹すらいない! 儂がこんな所で暮らせるわけがなかろう! 故に、この地への適性を持つお前に譲り渡してやろうと言っておるのだ!」

 

 

「……こうなったら父上を倒してでもこの地から出て行ってやる! 悪いが僕のことを恨むんじゃないぞ? こうさせたのは父上なんだからな!」

 

 

 そう言って僕が腰に下げた剣を鞘から引き抜くと、父上もまた腰に着けた木刀を引き抜いてその切先を僕へと向けた。

 

 

 

「我が息子、朝斗彦よ! その挑戦、受けて立とう! そなたの修行の成果、この素戔嗚にとくと見せてもらおうか!」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 苛烈対苛烈というのはなんとまぁ説明しがたいものなのだろう。片や腰の曲がったジジイ、片や筋肉達磨が己の運命を掛けて戦い始めた。

 

 戦う理由は二人とも同じ。

 根の国に囚われたくないから。

 

 早苗が数年前に熱い感想を聴かせてくれた宇宙映画じゃないものの、まさかいい歳した大人二人がチャンバラでガチンコ勝負をするなんてね。

 

 

 

 父が放つ斬撃は木刀だからと舐めていると、痛い目を見ることになる。かつて戦った建御雷や布都怒志命は剣の力を借りて派手な斬撃を放っていたように思えたが、父上の場合は違う。元々産まれ持った膂力だけで肉を斬り、骨を断つ程に重たい一撃を喰らわせようとしてくるのだ。

 

 父の止まらぬ猛攻を凌いだ後、一瞬隙が出来た瞬間を見逃さずにすかさず一撃を入れ、それまで防御あるのみであった僕が反転攻勢に出た。

 ちなみに、はじめ片手で放った弾幕を指を鳴らして瞬間的に爆発させ、ねこだましみたいな用法で父を怯ませようとしたものの、そんな小手試しは通用しなかったので、諦めて力で押し切ることとした。

 

 

 かつて若かりし頃に受けた修行の一環で彼と勝負した際は手も足も出なかったが、今は違う。研鑽を重ね続け、一国を治めるに相応しい力を得た今ならば、例え相手が父……荒ぶる海神・素戔嗚であろうと、きっと太刀打ち出来るはずだ。

 

 

 まるで鋼で打たれたかのような摩訶不思議な硬さを持つ父上の木刀と僕の流星刀が火花を散らし、僕の能力で操られた木々が枝を振るい根を伸ばす。

 この根の国というのは父上の神域である為、支配者以外の者からの干渉を嫌う傾向が強いが、その一部である木々は僕を選んだ。こういった事が起こるということはすなわち領域が不安定になっているということの証。内部にて大きな力がぶつかり合っているが故の状態である。

 

 

 

「我が息子よ! お前がこの一年間をここで過ごしたことでうんと成長を遂げているのが大刀筋だけで分かるぞ!」

 

 

「そんなこと言ってる場合か父上! ならば、もっと攻めてやる!」

 

 

「ガッハッハッ! 威勢がいいのはいい事だが、そうはさせるか! 我が技を受けよ!」

 

 

 そう言って父上は自身の後ろに飛び退くと、その場に浮いて何かを唱え始めた。これはあのトンチキ呪文じゃない、間違いなくなにか仕掛けてくる! 

 

 そう思った僕は距離を保ちながら様子を見ていた。すると先程僕が行ったねこだましなんか比じゃないほどの閃光が目の前を襲い、目を閉じてまた開いた時、目の前に広がっていたのは荒れ狂う大海原だった。

 

 もちろんそのままボーッとしてたら真っ逆さまに落ちるので飛行して体勢を整えると、父上はその背筋を伸ばして胸を張り、腕を組みながらこちらを見ていた。

 そして大きく両腕を広げ、げに恐ろしき事を宣言したのだ。

 

 

 

「見よ息子よ、この光景を! 荒れ狂う波の数々を! 

 

 我が兄、月夜見命が静の象徴だとすれば儂はその対極、つまりは動の象徴! 兄上は訳の分からん思想に染まってしまったが、溢れる生こそが世の全てであり、その源の海こそが万物の要なのだ! 

 

 我、建速素戔嗚尊は誓おう! 我が父、伊弉諾命より受けし大海原の力を持ってして、我が息子にして後継者である葦原朝斗彦命を調伏せしめん!」

 

 

 

 おいおい、一体何を言ってるんだこのジジイは。

 なんで息子を殺そうとしている!? 

 

 

「さぁ息子よ! 我が眷属たる荒波を受けよ! 

 ゆけい! 我が眷属たちよ! あの尻の青いガキを丸ごと呑み込んでしまえ!」

 

 

「何くそ! こんな術にやられる訳にはいかないんだよ! ……父上、今は高みの見物を決めていてもいいが後で後悔するなよ」

 

 

「フンッ、ほざけ! 後があるかも分からんやつの脅しなど脅しにすらならんわ! 息子よ、悔しければこの攻撃を凌ぎ、生き残って儂にその姿をみせろッ!」

 

 

 飢えた獣のように襲いかかってくる高波を躱すと、勢いのままに着水した波がたてた水飛沫が細かな弾幕へと変化し、恐ろしい速さでこちらを追尾して向かってくる。

 僕はそれらを自身の放った弾幕などで相殺しながら避け続けていたが、それに合わせて波の勢いも更に強まっていき、やがて避けようがない程に大きな波となって僕を飲み込もうとしてきた。

 

 

 どうする? このままのうのうと本当の死を受け入れるのか? ……否! そんな事は到底受け入れられない。

 

 

 僕は覚悟を決めると、持てる神力の全てを持って剣に力を集中させ、襲い来る波に向かって高速で飛びながら剣を横薙ぎに振るい、それを切り裂くことに成功する。こうして切り裂かれた波の怪物は煙となって消え、荒れた海は先程までの魔力に満ちたものとは打って変わって落ち着いたものへと変化した。

 

 

 そんな状況の変化に戸惑っていると我が父が傍にやってきて、

 

 

「敵を討滅せん時はそれ即ち敵地に自ら切り込むこと。策も無しに恐れ、ただ敵の動きを待つことは愚者の行うことなり。

 我ら国津神の戦いとはそういう事である。

 

 息子よ、我が教えに従って答えを切り開いたな。合格だ」

 

 

と満足気な表情で言い切った。

 当然、まだまだ不完全燃焼である僕からしたら何勝手に終わりみたいな雰囲気出してんの? といった状況であり、流れを飲み込めずに一言 は? と聞いたところ、

 

 

「分かっておらぬな、息子よ。

 儂はお前を焚き付けたのだ。更なる高みへと至らせる為にな」

 

 

 と、まるでやれやれ……と言いたげな反応をしながら彼は言ってきた。

 その割には殺る気満々だったよね? と聞くと、お前はここで死ぬ男ではないからやった。死んだらそこまでの男だということでやったと悪びれずに言ってきたので、思わず手が出そうになったのを必死にこらえた。

 

 

「……お前が全身全霊の斬撃を放ったことで、どうやら我が神域には大きな綻びが出来たらしい。それによって兄上によってかけられた、時の鈍化の呪いも解けたようだ。感謝するぞ、息子よ」

 

 

「ああ、それはどうも……。でさ、父上。結局どこまで嘘をついていたんだ? ……こんな決闘をさせられた以上、吐けることは全て吐いてもらうぞ」

 

 

「いいだろう。この地を譲るだとか、お前を調伏するだとかは全て嘘だ。全くもってそんなことは考えておらん。

 

 ちなみに儂としてはな、お前と儂の力がぶつかり合うことでこの領域を壊そうとしたのだ。黄泉があるのにこのようなよくわからない領域が地底にて同時に存在する必要性がはっきり言って全く無いからな」

 

 

 

「……一番大事な時の経過については?」

 

 

「それは最初の時弄りの小芝居以外何も嘘はついておらんぞ」

 

 

「つまり、本当に外では何百年も経ってるってこと……?」

 

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

『……』

 

 

 

「ごめんやっぱり一回殴らせて」

「ぶべら!」

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

「全く、凶暴な息子だ。何故に儂がこのような目に遭わねばならぬのだ」

 

 

 

 結局、綻びが瞬く間に広がった事で根の国と呼ばれていた領域は消滅し、今現在我々は地底から地上へと繋がる道を進んでいるところである。頭にコブを作った父が見送ってやると言うので、個人的に色々思うところはあるが、とりあえず子孝行的ななにかだと思い受け入れた。

 

 

 

「それはこっちのセリフだよ。あーあ、これからどんな顔して諏訪に戻ればいいんだ」

 

 

「何食わぬ顔して戻ればいいだけだろう」

 

 

「それが出来たら苦労しないっての……。

 

 ……あれ、でも待てよ? そうだ、あの日から一年となれば比売達が出雲、もしくは雲州のどこかにいる可能性が高い! そうなれば、この諸悪の根源であるジジイを突き出せば終わる! よし、我ながら良い考え!」

 

 

「おい、何も良き考えじゃないぞ。儂はそんなのには関わらんからな」

 

 

「何言ってんだよジジイ。大和の神を300何十年も拉致した時点で厳罰ものだよ? ただでさえ高天原で大暴れしたり、未婚の娘との間に僕をこさえたっていう前科があるのにどうするのさ。

 大御神だって哀れな出自の甥御として僕の事を気にかけてくれてるのに」

 

 

「……なんだと!? もしや姉上に言ったのか!?」

 

 

「そりゃあ言ったよ。神在月の集まりに初めて行った時、素戔嗚の息子と名乗ったら伯母上には素性をしらみ潰しに聞かれたからね」

 

 

「なんてことだ。……ああっ! なんて事だ……。

 根の国が消滅したことで地上に復命し、八重垣の主神となろうと思っていたのにそれじゃ姉上に認められるわけが無い!!」

 

 

「……最初から嘘付かずに言ってくれればよかったのにさぁ。全く不器用な方だ。お、この印があるということはそろそろ地上か……。ああ、やっと帰れる!」

 

 

 

 そして、入った時のように封を解くと、低い音を立てながら扉が開き始めた。……なんだかバキバキと音が聞こえるのは気の所為? 

 

 

 扉が開ききると、そこに広がっていたのは管理のされていない廃社であった。そのボロボロになった本殿を強い力で無理矢理除けながら、地底への扉は開いていたのである。

 

 

「来た時はこんなモノ無かったぞ……? 

 本当に何百年も時が過ぎているのか……?」

 

 

「まぁそうだろうな。

 ……それにしてもこの社、よく見ると主祭神はお前じゃあないか。このように廃れているのを見ると、お前の神霊としての格が下がっていないかが気掛かりだな」

 

 

「分からない……ただ、とりあえず今は杵築の大社に行かなければ! ところで父上はどうするのさ」

 

 

「わしも着いていこう。姉上に色々と請願せねばなるまいからな。

 息子よ、儂は須佐の宮までの道しか覚えておらぬから、もし分かるなら案内してくれ」

 

 

「分かった。そうしたら急いで出雲へと向かおう」

 

 

こうして僕達は空へと飛びたち、全速力で出雲へと向かったのであった。






一体主人公はいつの時代に飛んでしまったんでしょうかね?

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