叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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二十六話 大和の北狄此処に在り

 

 

 

 たとえ何が起きようとも山を落とせという族長並びに勇儀の命令を受けた鬼たちは、天狗達の激しい攻撃を受けつつも昼夜を問わずに行軍し続け、遂には天魔達の篭る要塞を包囲した。

 

 

 

「天魔様、ご差配を」

 

 

 

「うむ。白狼天狗の群れ長の座は先代の一番年上の弟が継ぎ、先代の子が元服した暁にはその地位を譲ること。そして山背鞍馬に住まう同胞に使いを出したので、増援は必ず来る。それまで耐える他ない」

 

 

 

 大木の幹のような身体を持つ鬼達と戦っているというのに、寒空の下で凍える枝のような身体の鴉天狗が何人増えた所でもはや変わらない……。

 

 平時であれば即刻処断されてもおかしくないような言葉もちらほらと聞こえるが、それ程に厭戦気分が広まってしまっている証であろう。天魔はそういった意見を触れはせずとも、内心そうなるのも致し方ないと思っていたので侮辱的な発言をしたものを処断することはなかったという。僕なら処断するけどね。

 

 

 こうして、鬼が打ち鳴らす陣太鼓の音が昼夜を問わず辺りへと響きわたっている中で、ただ一人天魔だけは次を見据えていた。この選択が名誉への妄執なのかは彼のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「よし、休息も取ったしそろそろ攻めるとしようかね」

 

 

 

「いいねェ! アイツらに鬼の怖さを植え付けてやる!」

 

 

 

 太鼓を叩く速度が上がり気分が高揚した鬼達が意気揚々と要塞へと向かい始め、彼らは空堀からはしごをかけ始める。

 

 

 しかし、窮鼠猫を噛むとはこの事か。まず鴉天狗達が要塞より飛び立ち、空の上から弾幕を撃ち始めた。はしごを登っていた者は慌てて飛び降りて手に妖力を回すことでそれを打ち返していたのだが、塀から顔を出した朝廷の兵士たちが壺入りの熱された糞尿や岩などを全身全霊をかけて投げ始めたのである。必要最低限の鎧しか身にまとっていない鬼達にとっては余りにも危機的状況であった。

 

 

 

 そして、そんなことを彼らがしている間に、南東の空より何かがキーンッという甲高い音を立てながらとんでもない速さで飛来してきた。あまりの轟音に呆気にとられる皆の視線を集めるその存在は鞍馬の屈強なる鴉天狗達であった。

 彼らは戦場に着くやいなや特徴的な紅葉団扇をぶん回し、まるで鎌鼬が現れたかと勘違いしそうになる程の暴風を巻き起こした。そして、ぼけーっとしながら自分たちの事を眺めていた鬼たちをいとも簡単に吹き飛ばしたのであった。

 

 

 

「敵襲だ! 備えろーッ!」

 

 

 

 鬼たちは慌てて弓に矢をつがえて放つが、彼らの起こす向かい風に阻まれてしまい、矢はあらぬ方向に飛んでいってしまう。

 

 

 諏訪で戦った頃より、鬼にとって鴉天狗というものは空からチマチマ攻撃してくるだけの臆病者という認識が持たれていた。そのため、あと一歩のところで思わぬ形で現れた難敵の出現には大変驚き、彼らはその舐めた認識を改める事となる。

 

 

 

 地上へと降り立った鞍馬天狗達は豪快且つ気品を感じるような剣技で敵を翻弄し、隙の多い鬼たちは一人、また一人と命を落としていった。その勢いに乗って館内の者たちが火矢や弾幕を撃ち始めたことでこちら側の天幕が燃やされるなど、戦場は混沌を極め始めていた。

 

 

 

「アイツら、こっちが手出せないからってちょこまか飛びやがって! 見てろよオマエら! この萃香様がこういう時どうすりゃいいかってのを見せてやる!」

 

 

 そう叫ぶと、萃香はメキメキと音を立てながらまるで神域の木のように身体を大きくさせた。そして、空の上ならば攻撃されまいとタカをくくっていた天狗たちをまるで飛ぶ虫を払うかのように腕を振り回すことで潰してしまったのだ。

 

 

 

「萃香お前、デカくなりたいとはよく言ってたけどさ、流石にそれはデカすぎじゃないかい!?」

 

 

 

「うるせーやい! 戦ってる時に変な事言うな! 気が散るだろ!」

 

 

 

 鞍馬ではない方の鴉天狗達は何度か萃香に対して攻勢に出たのだが、密と疎を操る程度の能力を持つ彼女の敵ではなかった。天魔ほどの戦意を持っていなかった彼等はすぐにこりゃ不味いと言って慌てて要塞内へと戻ってしまい、勢いに乗っていた萃香は霧状に変化するとそれを追い掛けて一人塀を越えてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 外に残るは鞍馬天狗達のみであるが、相変わらず相性が悪いのか鬼たちは大苦戦し、また館内に侵入出来た生存者は未だ萃香しかいない有様である。

 

 

 

「お前たち! 大将を出せ! そして私と一騎討ちしろ!」

 

 

 

 この状況を見かねた勇儀が前に出てそう叫ぶと、鞍馬の大将と思われる者が一人進み出てきた。

 

 

 このものの背丈は勇儀より頭一個分ほど小さく、顔には鼻の伸びた妙な面を被っており、漆黒の小札であしらわれた挂甲を纏った女性であった。

 彼女の両手にはそれぞれ鋭利な大刀、紅葉団扇を持っていた。

 

 

 

「私が鞍馬の棟梁だ。貴様がこの軍の大将か」

 

 

 

「如何にも! 我が名は星熊勇儀! こたびはこの地の長たる親父よりこの軍を任された!」

 

 

 

「フン、威勢がいいのはいい事だがあまり調子に乗るなよ。そこに斃れている者たちのようになりたくなければな」

 

 

 

「ほざけ! なら三歩でアンタをとっちめてやるよ! 場所を変えよう。ここでやったら全てが吹き飛んじまうからな。

 

 おいオマエらッ! 死にたくなければ物陰に隠れるか遠くに逃げておけッ! 倒れた同胞も回収しておきなッ」

 

 

 

「承知した。おい、中については向こうの勝手だが外の者には手出するなと館の者に伝えろ」

 

 

 

 勇儀は担いでいた自らの得物を後ろに控えていた配下へと投げ渡すと、相手に対してついてこいと言ってすぐに移動してしまった。棟梁はそれに遅れまいとついて行く。そして、勇儀の案内で二人はなだらかな地形の場所で向かい合い、その後距離を置いた。

 

 

 一呼吸置いたあとに勇儀は腰を落とし、拳を固く握りしめて敵へと向かい合う。対する鞍馬の棟梁は鞘へと納めていた大刀の柄を握りしめ、一つの瞬きもせずに勇儀の動きを見つめ続けていた。

 

 

 

「……ひーッ!」

 

 

 

 勇儀が大きく脚を蹴り上げて一歩目を繰り出し、ドスンと足を置いた途端に地鳴りが轟き、彼女の辺りに弾幕が浮かび上がる。

 

 

 

「ふーッ!!!」

 

 

 

 二歩目は先程より控えめ。それでも数多くの弾幕が再度浮かび上がり、彼女の死角を守るように配置された。

 

 

 

「みぃ〜ッ!」

 

 

 

 彼女が足を蹴り上げた時、再度地鳴りが起きた。それは遠く離れたとある山の頂付近にあった巨大な岩が山の斜面を滑落していくほどの大きな揺れであり、それは麓に生えていた木をなぎ倒していったという。

 

 

 

「どりゃあっ、くらいやがれッ!!」

 

 

 

 辺り一面を視界が真っ白になるほどの大量の弾幕が埋めつくし、それが敵に向かって一直線に飛んで行く。鞍馬の棟梁は武闘派の血が騒いだのか、飛んで避ければいいものを居合で一閃し、三歩目で思いっきり地面を蹴り飛んできた勇儀と相対する。そして刀と拳がぶつかりあった時、辺り一面は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「ど、どうなった……? 勇儀は?」

 

 

 

「さ、さぁ……? って、お前! 鬼じゃないか!」

 

 

 

「何っ……? って、お前こそ鞍馬の連中じゃないか! なんで敵と同じ場所に隠れてんだお前は!」

 

 

 

「しょうがないであろう! 隠れられる場所がなかったのだから! それと、私は信州飯縄山の生まれだ! 鞍馬では修行していたにすぎぬ!」

 

 

 

「知らねぇよ! 私からしたらここの天狗だろうが鞍馬だろうが飯縄だろうが全部一緒だ! 大体テメェら、何も変わらねぇだろ!」

 

 

 

「変わるわ阿呆が! お前ら鬼こそ、越後だとか吉備だとか至る所に住み着いているではないかっ!」

 

 

 

『……』

 

 

 

「……チッ、知ったような口聞きやがって。今は見逃してやるけどな、次に出会った時は覚悟しろよ!」

 

 

 

「お前達こそ、酒の飲みすぎで我らに足下掬われないようにするんだな!この桃色頭がッ!」

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「はァ、ふぅ……はァ〜ッ! ……館も近いから少しは抑えめにしたが、身体に堪えるねぇ! ところで、アイツは何処にいった……?」

 

 

 

 痛む身体を押えながら勇儀が辺りを見回すと、縦膝を着いて肩で息をする相手の姿が目に入った。アタシのとっておきを受けて尚生き残るのか! と勇儀は感心して彼女へと近寄ったのだが、彼女は顔を真っ青にしながらまるまる失くなった右腕の付け根を左手で抑えていたのである。

 

 

 

「……ああ、来たのか。此度は私の負けだな。貴様の首だけを狙いに行ったが、大刀筋がブレた。そしてその拳で我が刀はへし折られ、私自身も右腕を失った。

 

 

 ……風神の名を我がものとしていたにも関わらず、このような目に遭うとは私も腕が鈍ったな。折角事務仕事から逃げる為に自ら出陣したというのに、この体たらく。大人しくそれをする他なくなってしまったではないか。

 

 ハハ、参ったよ」

 

 

 

「……アンタ、それくらいお喋りできるのなら立ち上がれるか? アタシらの陣で手当してやるからさ。アタシの技を受けて生き残ったなんて傑物をここで殺すにゃあ勿体ないからね」

 

 

 

「鬼に手当してもらうなど信じられないが、そう提案してくれたからには受け入れよう。かたじけないな、若き鬼よ」

 

 

 

 勇儀は棟梁を立ち上がらせて彼女の左腕を自分の肩に回したが、彼女の手の先が傷口に触れたことで勇儀は驚き大声で驚いてしまった。彼女が耳元で声を上げた事で棟梁が怪我人を驚かせるな! と一喝したものの、へらへらと笑いながら謝る勇儀に毒気を抜かれてしまったのか、一つため息をついた後に笑いを零した。

 

 

 

「全く……。むっ? おい、貴様も大怪我をおっているではないか。というかその切り傷、よく放置していたな?」

 

 

 

「えっ? ……ああこれか? こんなん唾付けときゃ治るっての!」

 

 

 

 よく見ると彼女の左腕には刀傷があり、戦闘時の興奮が続いていた事やあまりに綺麗に斬れていたがために、本人ですらも傷の存在に気付かなかったのだ。

 

 

 

「貴様本気か? ほらっ、これを飲め。血止めの薬だ。私も飲んだから毒ではない」

 

 

「……こんなのが効くのかい?」

 

 

「フフッ、貴様の唾よりは効くさ……」

 

 

 

 それもそうか! と勇儀は豪快に笑いながら貰った丸薬を口に入れた後、まるで産まれたての赤子のように顔をしわくちゃにして

 

「に、苦い…」

 

 とだけ言った。それを見た棟梁に笑われながら、良薬は口に苦しだぞと諭されたが、勇儀は

 

「それなら苦くない良薬をくれよ!」

 

 と言ってガハガハと大声で笑い、二人はすっかり打ち解けたのかだべりながら味方の元へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 所は変わり、天魔の要塞内部。

 

 

 かつて鬼によって建てられたとされる広大な要塞の広場へと唯一侵入に成功した萃香は、自分の髪の一部を引きちぎって分身を作ることで敵兵に対し互角に渡り合っていた。対する天狗達にとってはここで萃香を足止めしなければ完全に詰みである。

 

 

 巨大化で多数の敵を相手取る本体の足元で、分身達は戦いながらなかなか来ない増援に対して愚痴をこぼしていた。

 

 

 

「なんで外にいる奴らは来ないんだよ! さっきまでワーワー言ってたのに急に静かになりやがって!」

 

 

「私に聞かれたって分かんねーよ! 私とアンタは同じなんだから! ここは私らが戦うからちょっと見てこいよ!」

 

 

「こんなに攻撃されてるのに皆を置いて行けるわけないだろ!!」

 

 

 

 分身萃香甲と乙がそんな酷い言い争いをしていると、丙がこんなことを言い出した。

 

 

 

「……私らも本体みたいに髪引きちぎったら増えるんじゃない?」

 

 

「おっそれいいね、ちょっとやってみようや」

 

 

 

 突如目の前で自傷行為を始めた分身たちを見た防衛側の天狗達は大層驚き、しばらく様子を伺っていると、分身達が一斉に引き抜いた髪を吹き散らした。

 

 

 

「あやつら、一体何を……!? 何だこのちっこいのは!」

 

 

 

「おーっ、あたしらがやるとさらにちっこいのが生まれるのか」

「のか〜!」

 

 

 

 こうして分身が分身を産み、その分身が分身を産む珍妙な光景が広がり、大中小極小の分身萃香軍団がそれぞれ目の前に存在する敵に対して弾幕を飛ばして戦い始めた。なお、彼女達は記憶を共有しているようで、後に話を聞いたところ本体曰く、極小萃香の相手は地面を這う昆虫や蛙だったらしい。

 もはや何と戦ってんだよという感じである。

 

 

 でもそういえば、僕も諏訪に来た時は蛙と蟲の連合軍と対戦したな〜。これも師弟の運命かね? 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「クソ、ブンブン飛び回りやがって全く鬱陶しい奴らだ! これじゃキリがない! ……その翼、この萃香サマがへし折ってやるッ!」

 

 

 

 そう言うと萃香は自身の身体の密と疎を操って霧状に変化し、モワモワと辺り一面に漂い始めた。濃霧の中に浮かぶ彼女の顔は見るものを怯えさせることとなったのだ。

 

 

 

『ワハハハッ! 天狗共め、この萃香サマを怒らせたことを後悔させてやるッ!』

 

 

 

 すると、それまで空の王者らしく巨大萃香の周りを縦横無尽に飛び駆けていた天狗達があぁっ! と情けない声を出しながら体勢を崩して墜落し始めた。

 

 

 

「何かに翼を掴まれてる! 助けてくれっ!」

 

 

 

 未知なる脅威が天狗を襲っていたまさにその時、館より鎧姿の天魔が現れた。そして、彼は鴉天狗の証たる紅葉団扇を手に持って配下へと号令をかけた。

 

 

 

「皆の者、扇子を振るうのだ! そしてこの邪悪なる霧を打ち払えっ!」

 

 

 

『そんな技で私を払えると思っ……いや、ちょっとマズイかもしれん! 

 オイ分身共! 私のところに帰ってこい!』

 

 

 

「戻れってよ〜!」

「てよ〜!」

 

 

 

 わーわーと騒ぎながら分身達が霧へと飛び込み始め、へっへっへっと不敵な笑いを浮かべながら萃香は力を取り戻した。彼女はすぐさま能力を再行使してデカ萃香に形態を変え、飛ぶ天狗を落とし、近くの山に住まう山彦達も逃げ出す程に大きく、恐ろしい雄叫びをあげたのであった。

 館の外で待っていた鬼達もまたそれを聴いたことで老若男女問わず雄叫びをあげた。もうこの時点で彼らの勝ちというのは決まっていたようなものだろう。

 

 

 それは麓で戦勝報告を受けるためにのんびりしていた僕達のもとにも聴こえた。まるでスグ横で戦いが起きているのかと錯覚するほどだったが、この咆哮は恐らく畿内全土に響き渡ったと思われ、遠く離れた大和に住まう朝廷の有力者達をも震え上がらせたという。

 ある者は神道を軽んじた者への神罰だといい、またある者は仏教を受け入れぬ者への仏の怒りであるといって激しく対立し、それは後に起きた流行り病や仏教の排斥運動などの複合的な要因によって大王を巻き込んだ政争に発展したという。

 

 

 

 

 

 天狗というのは彼ら独特の矜恃を持った誇り高き妖の種族だが、この時ばかりはもう限界を迎えていた。そんな中、外では勇儀と鞍馬の棟梁がボロボロになって戻ってきて勝敗の結果を伝えた事で鞍馬天狗達が降伏しており、勝者側へと寝返ろうと画策した者が門を内側から開いた事で鬼達が津波のように中へとなだれ込んだ。

 

 

 煮だった糞尿をかけられたり梯子ごと倒されて散々な目にあわされ、館への侵入を阻止され続けていた鬼達の怒りは凄まじく、まず彼らは門を開けた者を含めた朝廷軍の兵士達を一人残らず殺し、喰らい尽くした。

 天狗達も降伏したものは許されたが、なおも抵抗する者は翼を折られて再起不能にされ、大江山の鬼の恐ろしさを敵へと見せつけることになったのである。

 

 

 敵総大将である天魔は一人で何人もの首を取るなど奮戦したものの結局は捕縛されてしまい、"戦利品"として今なお具合の宜しくない族長の前へと連れて行かれることとなった。

 

 

 

「親父、勝ったぞ。これが敵の大将サマの天魔だ」

 

 

 

「よくやったな。皆も大儀だった。これで俺も心置きなく九泉へと逝ける」

 

 

 

「何言ってんだ大族長! アンタが死んだら誰がこの連合纏めんだ!」

 

 

 

「そりゃぁ……萃香、大族長は最も強い者がなるんだ。強き者が古からの慣例に従って決闘で競い、生き残った者がなる。まァ、もし名乗り出るものがいなかったら勇儀、お前が次の盟主だ」

 

 

 

「決闘なんてずっと行われていないじゃないか! 親父が大族長になった時はもう対抗馬になるはずだった叔父貴も流行病で死んでただろ!」

 

 

 

「俺の時はそうだったが、お前は違う。お前には立派な対抗馬が居るだろうが」

 

 

 

「なっ……」

 

 

 

 思い当たる人物は一人、真横に立つ萃香のことだ。彼女は低い家格ながら、存在感も頭のツノもこの数ヶ月でメキメキと現しており、民からの信頼も厚い。

 彼女もまた大族長の資質を持つことは間違いないのだ。

 

 

 

 しかし、一つ問題があった。それは勇儀も萃香も元服を果たしていないのだ。

 

 

 前にも言ったように、大族長位に着けるのは元服した鬼だけである。

 例え抜きん出た力を持つ事が分かっていても、成人することで力をモノにすると考えられているが故にどんな事があろうと認めないと代々教えで伝えられてきた。

 

 

 普段の生活の上では元服してるか否かについては一切気にしない癖して、古の慣例のこととなると鬼は兎に角口煩い。それはいくら慕われている二人でも一緒の扱いである。例え前任の大族長が指名したとて、僕の祭祀を行う祈祷師が彼女達の挑戦の資格を認めない限りは駄目なのだ。

 まぁ、認めることなど天が地にひっくり返ったとしてもないだろうが。

 

 

 

 

 

「アタシらはまだ元服出来てない。つまりは大族長にはなれない……。クソっ、もう少し早く生まれていれば!」

 

 

 

「……」

 

 

 

 結局、連合の有力者の中で一番信に足る者が中継ぎの大族長となることが現大族長、連合に属する部族の有力者、そして憐れな幼き英傑二人の間で多数決によって取り交される事となり、彼等は一抹の不安を抱えながら一度山を下りることとなったのであった。

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