叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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閑話オブ閑話
現代の幻想郷での小話



二十九話 邂逅

 

 

 

「霊夢、修行の時間よ〜……うわっ! 二人ともなんでここに!」

 

 

 

 その日、博麗神社を訪れた仙人・茨歌仙こと茨木華扇は今まで散々気をつけていたにも関わらず、幻想郷で一番顔を合わせたくない二人と遭遇してしまった。

 

 

 

「うわってなんだうわって、私らがなんか悪いことでもしたか?」

 

 

 

「そうだよ。ずっと会いたかったのに避けられちゃってさ、全く寂しいものだよねぇ……ねぇ華扇」

 

 

 

 博麗神社の巫女服を纏った変人二人のせいで、華扇の仙人ブレインは今まさに破裂寸前である。

 

 

 

(なんで? なんでこの時間にこの二人が? ……ていうか、なんで二人して巫女服着てるの!?)

 

 

 

「ふふ、その顔は『なんで巫女服着てるの!?』とでも言いたげな顔だね?」

 

 

 

「朝斗彦様、サトリ妖怪でもないのに心を読んでくるのは気味が悪いのでやめてください!」

 

 

 

「よし、東神さまの代わりに私がその理由を説明してやろう! 

 

 

 お前のつまらない修行を受けたくないから、昼寝しに来るくらい暇ならどうせだしアンタらが代わりに巫女してて! って霊夢に頼まれたんだ。

 多分今頃は人里で魔理沙とかと息抜きしてるんじゃないか?」

 

 

 

「まったく、あの娘ったら。やる気になれば物覚えもいいし、努力家なのもちゃんと評価してるのに……」

 

 

 

「おおっ、本当にあの華扇がお母さんみたいになってるよ萃香」

 

 

 

「龍のヤツのホラ話かと思ってたが、本当だったな」

 

 

 

 昔馴染みじゃなければ到底許されない言葉を連発する二人。幻想郷が出来てからというものの、都合がつけば力試しを重ねていることもあって息ピッタリである。対する華扇は仙人としてのプライドがあるので心の中で平常心、平常心と唱えることで、気合でそれらをあしらった。

 

 

 

「全く、こんなままごとになど付き合っていられません!私は仙界へと帰ります」

 

 

 

 目的である修行が出来ぬのならここにいても仕方ない。華扇はため息を着いて帰ろうとするが、そうは問屋が卸さない。天敵の前で愚かにも背を向けた彼女に対して、その自慢の長髪をゆらゆらと逆立てた朝斗彦と霧と化した萃香のコンビが飛びかかり、憐れな仙人茨歌仙は邪神と邪鬼に捕まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「出涸らしすらもないけど、飲んでね」

 

 

 

 勝手知ったる我が家のように粗粗粗茶を用意する朝斗彦。いや、今の姿は正しく言うなら八坂刀女比売であろうか。鬼と話す時はこの姿の方が落ち着くというのは本人談である。

 

 

 

「ここにまともな茶葉がないのは私も知っています。ですが、ありがたく頂かせていただきます」

 

 

 

 命蓮寺の精進料理よりも味のしないお茶をズズっと啜り、一息着くとは違ったニュアンスの溜息を吐く華扇。例えどんなに察しの悪いとされる連中が見ても、なんでここに座ってるんだろうなどと彼女が考えているのはバレバレである。

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

 

『……』

 

 

 

 

 

 

「……なぁ華扇、いつまで他人行儀で居るんだ? いくらなんでも寂しいじゃないか」

 

 

 

 暫くの沈黙の後、それを破ったのは鬼の大将伊吹萃香。かつて平安の世を脅かした大妖が一人である。華扇とは断金の契りを結ぶ程に仲が良かったが故にこの空気に耐えられなかったのだ。

 

 

 

「朝斗彦様には前にも言いましたが、今の私は仙人。想いを寄せた者に腕を斬られ、邪気を封印されたことで仙道へとこの身を捧げた以上、鬼の茨木童子はあの時一条大橋で死んだのです」

 

 

 

 安らかな顔でそう語る華扇に対し、話を聞く朝斗彦と萃香の二人の顔はまるで空を覆う暗き雲のようであった。

 

 

 

「でもさ……それってあんまりじゃないか? 私は今でもお前のことが好きだし、東神さまだって気にかけてる。……お前も口ではそう言ってるけどさ、寂しくないのか? 勇儀だってきっと同じ事言うと思うぞ」

 

 

 

 こういう時に彼女が喧嘩腰にならないのは、なんだかんだ横にいる朝斗彦との師弟関係を感じさせる。萃香の言葉に朝斗彦も頷くと、悲壮な表情の萃香とは違ってまるで自分の子を見る親のように優しい目を彼女に向けた。

 

 

 

 二人の何かを訴えかけるような眼差しを受け続けていた華扇。初めは

 

 

「そんなもの、私には通用しませんっ!」

 

 

 と言って無視していたものの、出されたおせんべいを自分が残さずに全て食べ終わった時も二人が表情一つ変えずに彼女の事を見つめ続けていたため、いよいよ痺れを切らしたようだ。

 

 

 

「……ああ、もう! 分かった! 分かったわよ! 私が悪かったから、これでいいでしょう? 但し、前もって言っておくけれど今日だけだから! 次は仙人として接するから覚えておいてよね!」

 

 

 

「「おお……」」

 

 

 

「何がおお……よ! 二人してそういうことしてくるからこっちも調子狂うじゃない」

 

 

 

「昔ほど乱暴な言葉遣いじゃないけど知ってる華扇だ」

 

 

 

「あの頃のヤンチャな華扇も良かったけどねェ」

 

 

 

「言っておくけどね、あの頃のよりもこっちの言葉遣いの方が使ってる期間長いんだから……」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 やがて、テンション高めな萃香がちょっと待ってろ! と言って部屋から飛び出し、奥の蔵より酒瓶を持って戻ってきた。それに対して、

 

 

「大丈夫、私は要らないわ」

 

 

 と華扇が仙人らしくキッパリと断ったところ、すかさず横から

 

 

「おいおい、今は仙人じゃなくて旧知の華扇なんじゃないのか?」

 

 

 と朝斗彦からツッコミという名のアルハラが入り、再び二人による見つめられ地獄へと突入してしまった。華扇はその眼差しに耐えられず、結局なし崩し的に三人で昼飲みへと突入した。

 

 

 

「いやぁ、懐かしいもんだ。私が旗揚げする! っつった時もさ、次の日にこんな感じで皆で祝いの宴会してくれてさ。いやまぁ、あの時はもっと人数いたがね。東神さまが出雲の酒の作り方を教えてくれたり、皆が飢えない様にって豊穣祈願の舞とか色々やってくれたんだよな〜。

 

 

 ……ああっ! そうだよ! あの時お前が元服してないのに飲酒して、隣にいた龍のやつにゲボぶっかけたんじゃあなかったか!?」

 

 

 

 燃料が入り、旧友とも再会出来たことで伊吹萃香、絶好調である。そういやそんな事したなぁ〜懐かしい! と当時を振り返る朝斗彦の横で、忘れていた過去を思い出させられた華扇は顔を真っ赤にさせていた。

 

 

 

「ね、ねぇ東神様……。私、そんな事してたかしら?」

 

 

 

「してたねぇ」

 

 

 

「先に元服した私のことが羨ましくて背伸びしちゃったんだよな? なぁ?」

 

 

 

 ニヤニヤとしながら茶茶を入れてくる二人と、ヤカンを頭に置いたら沸騰してしまいそうな程に恥ずかしがって手で顔を覆う華扇。仙道を進みし徳ある茨華仙も、この二人にとっては幾つになろうが娘、妹のようなものなのだ。

 

 

 

「は、恥ずかしいわ……。ということは……!? ま、待って! 山で偶に龍と会って話す時に若干距離取られるのってもしかして……」

 

 

 

「そりゃあ、所謂トラウマってやつじゃないかい? まぁ気にすんなよ、失敗なんて誰にでもあるんだからさぁ」

 

 

 

「そうそう、周りを見ると皆平然としてるけど、どいつもこいつも大体は似たようなものさ。僕だって比売と晩酌する時は思い出話をしては当時の自分の事を思い出して恥ずかしくなることあるんだから」

 

 

 

 二人はそういうものの、当事者としてはやはり恥ずかしい。華扇はゴロゴロと畳の上を悶え転がり、やがて勢い余って脛をちゃぶ台の脚にぶつけたことで今度は痛みに悶絶する事になった。霊夢と魔理沙に見られたら笑われること間違いなしである。

 

 

 

 その後、プルプルと震えて寝っ転がりながら卓上に百薬枡を置いて、

 

 

「さ、酒を……」

 

 

 と華扇がいうものだから、彼女にとっては怪我を治す為の行動だったにもかかわらず、対する二人はそこまで呑みたいのかと勘違いしてすっかりツボに入ってしまった。

 そのまま上機嫌になった萃香が華扇の再三の静止があったにもかかわらず自慢の伊吹瓢で延々と酒を注ぎ続けた事で、枡は酒を溢れさせてちゃぶ台をびちゃびちゃに濡らしてしまい、居間の畳には酒のシミを作ることとなった。全くはた迷惑な連中である。

 

 

 

「アッハッハ! やっぱり君達は見ていて飽きないな!」

 

 

 

「だってよ東神さま、華扇が自分から枡差し出してまで酒飲もうとしたんだぞ! そんなの飲まさずには居られないだろ!」

 

 

 

「違うの!勘違いしないで東神様! 私はただ枡の魔力で痛みを癒そうとしただけなのよ! コラ萃香、いい歳して変な事をするのはやめなさい!」

 

 

 

「やめないよーだ!」

 

 

 

 照れ隠しともとれる態度をとった萃香に対して枡に入った薬酒をぐいっと飲み干した華扇がくどくど叱り始め、そのままワーワーギャーギャーと騒ぎ始めた。そして朝斗彦はというと、さりげなく自身の周りにだけ結界を張り、被害を被らないようにしていた。

 こういう利己的でさり気ないリスクヘッジは神の特権である。

 

 

 

 萃香と華扇は来客用の座布団を手に持つと互いを叩き合い始め、その後もみくちゃとなり障子を突き破って外の境内へと転げ落ちた。そしてそのまま空へと舞い上がり、各々スペルカードを取りだして弾幕勝負を始めてしまった。

 

 

 

「おいおい、危なっかしい飛び方してんな二人とも。というかこれ、どうしようかな。とりあえず片付けられるものは片付けておくか」

 

 

 

 そう言うと、彼……? はおちょこやら空き瓶やらを台所へと運んだ後、萃香が置いていった伊吹瓢を片手に縁側へと座ると口を開けて酒を流し込み始めた。

 

 

 

「あぁ〜これこれ、この味だよ。本当は八塩折之酒*1の方が好きなんだけど、いやぁ、この酒もなかなか、病みつきになるなぁ…」

 

 

 

 朝斗彦が独り言を呟きながらぽーっと二人のじゃれ合いを暫くの間眺めていると、強まった妖気を察知したのか慌てた様子でここの主とその親友が飛び帰ってきた。

 

 

 

「な、なによこれ! 居間がメチャクチャじゃない!」

 

 

 

「何やってんだアイツら? というか、お前誰だよ」

 

 

 

「え? いや〜、なんだろうな。朝斗彦の親戚? 

 ちなみにあれはね、難癖つけてきた仙人を萃香と一緒に巫女代理として歓待してたけど揉めたからやり合ってるところ」

 

 

 

「ふーん。というかもじゃ神さまアイツ、親戚なんていたのか」

 

 

 

「嘘おっしゃい! アンタ朝斗彦本人でしょうが! 

 

 うっ、クッサ……!なんでこんな酒の匂いが……?…うわ、何!?何なのよこれ!私のちゃぶ台が!それに畳までぐしょぐしょじゃない!

 もう、ウチの神社に何してくれてんのよこの馬鹿ども!」

 

 

 

「途中までは楽しく飲んでたんだけどねぇ〜」

 

 

 

 こうして怒り心頭な霊夢は一目散にやり合う二人の方へと飛んでいき、すっかり乱戦が始まってしまった。見守るのは朝斗彦と魔理沙の二人である。

 

 

 

「あれ、魔理沙は行かなくていいの?」

 

 

 

「パフェ食べてきてすぐに弾幕ごっこなんて私には無理だぜ。なあ、それちょっと分けてくれ」

 

 

 

「君、言ってることが矛盾してるよ? あとよく分からないけど、そのパフェ? とやらを食べたあとにこんなの飲んだら多分吐いちゃうよ?」

 

 

 

「じゃあやめておくか。お茶入れてくれ」

 

 

 

「あの二人みたいに障子突き破っていいならやるよ? その時は魔理沙の指示だー! って叫ぶけど」

 

 

 

「そりゃ困るな。捨食の術だって使ってないのにあいつの虫の居所が悪いって理由だけで退治されたらたまったもんじゃないぜ。……なら、自分で用意するかなっと」

 

 

 

「偉いぞ魔理沙。おっとそうだ、いつもの茶葉は使い切ったから新しいの使うといい」

 

 

 

「おいおい、雑草でも集めさせる気か?」

 

 

 

「いや、さっきどっかで見たんだ。開けてない茶葉の容器……どこだったっけなぁ〜」

 

 

 

「耄碌するには早いぜもじゃ神様! この普通のトレジャーハンターこと霧雨魔理沙様が見つけてやる!」

 

 

 

 そう言って魔理沙はドタドタと部屋へと入り、明らかに出さなくても良いものまで出して部屋を漁り始めた為、朝斗彦は一言、

 

 

「私は疲れたから寝るね〜」

 

 

 と言って弟子の始末もせずに寝息を立てて寝始めた。全く呑気な奴である。

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 結局朝斗彦は夜になって安否を心配した早苗が迎えにやってくるまでの間、まるで死体のようにうんともすんとも言わずに爆睡していたのだが、目を覚ますと懐に何かが入っているのに気が付いた。

 

 

 

 

 

『────────────────────

 東神様へ。

 

 

 先程は醜態を晒してしまい、大変申し訳ございませんでした。此方の酔いは覚めましたが貴方様に黙って帰るのも良くないと考え、萃香が二人を相手している間にこの文を書き認めています。

 

 

 本日は萃香も含めて久しぶりに三人で話せた事をとても嬉しく思います。また、霊夢達に私の素性を明かさぬようにする為にわざわざ嘘をつかせてしまい、大変申し訳ございませんでした。時と場所にもよりますが、是非またご一緒に飲み交わしましょう。〜……

 

 

 

 追伸

 

 

 私達が破壊した障子や酒を零した畳の補償はこちらの方で行いますので、その件については一切お気になさらずで結構です。こちらの文は読み終わったら囲炉裏の火にでもくべといてください。

 

 

 ──────────────茨木華扇』

 

 

 

 

 

 あのチンピラ代表の狂犬・茨木童子がこんなに真面目になるとは……。まぁ頭はよく回るタイプだったけど。

 そんなことを朝斗彦が考えていると、神奈子達から迎えに出された早苗がプリプリと怒りながら隣へとやってきたので手紙を懐へとしまい込み、彼女の来る方へと身体の向きを変えた。

 

 

 

「もう、こんな時間までダラダラされるなんて、みっともないですよ!

それになんで八坂刀売神モードになってるんですか! なんで博麗神社の巫女服着てるんですか!

 も〜っ、意外と似合ってるのがなおさら腹が立ちます!」

 

 

 

「ごめんよ早苗〜。いやぁ、前に霊夢に香霖堂に連れていかれて男と女両方の姿で採寸させられたんだよね。彼女曰く、茨華仙が来た時に代理として相手させる為って言ってさ。で、今日がその日だったって訳よ」

 

 

 

「……霊夢さんみたいなスカートじゃないのは何か理由が?」

 

 

 

「え? いやこっちの方が良いかなって。……ほらっ! 蹴りとか鋭く出せるし何より袴の方が強そうじゃない? 色は高貴な紫か、僕らしく青にしようかと思ったけど、やはり博麗神社ならってことで赤白にしたよ。それにさ、この前掛けもかっこよくない?」

 

 

 

「……気に入られてるようですけど、本格的に博麗神社に鞍替えしました?」

 

 

 

「なっ!? する訳ないだろ! 私は比売と諏訪子、早苗が一緒だから今を楽しく過ごせてるのに、その三人を裏切ってまでここに来るわけないじゃないか! 

 大体ね、私がそんな事するような不埒者なら信者よりも比売を選んだりしないから! 大江の神社で第二の人生送ることだってできたんだからね! そもそもさ、父上が馬鹿なことしなければあんなことには〜……」

 

 

 

 完全に逆ギレなものの、早苗が逆鱗的な何かを触れてしまった結果、朝斗彦の舌は乾いても回り続けた。そして彼は様子を確認しに来た霊夢にどつきまわされるまで延々と神奈子がいかに大事な存在であるか、父の所業が酷すぎるという話をし続けたのであった。

 

*1
素戔嗚が八岐大蛇を酔わせた際の酒。醪酒とも果実酒とも云われる。

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