叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

37 / 80
三十四話 鬼神の受難 その二

 

 

 

 飛んでくる御柱、チビ萃香を刀で受け止めつつ時には切り伏せ、朝斗彦はかつて建御雷をも唸らせた剣技を見せ付ける。

 

 

 

「おお、おおっ! これが父祖より言い伝えられた斗神の力、これが我らが明神の力! 即ち戦いを司る二柱の力! 

 いやしかし、空気を斬り裂く程の斬撃にも驚かされるというのに、それを受け止めるとは明神様も何たるものだ!」

 

 

 

「ウチの首領も負けてないぞ! 

 

 

 萃香様! 華扇様! 相手が東神様だろうが関係ねェ、ぶちかましちまえ!」

 

 

 

「む、其方の言う東神様というのはもしや朝斗彦様のことか? 初めて聞く呼び名だ」

 

 

 

「お? そうだが、諏訪のお坊っちゃんは知らんのか? 

 昔からあのお方は鬼達にそう呼ばれて親しまれてるんだ。なにせ能登から帰る途中の大己貴命に拾われ、お日様のいずる場所よりやって来た神様だからな!」

 

 

 

「成程、教えてくれてありがとう。

 ……しかし、子孫たる私が知らない信仰があるとは。これも記さねばな」

 

 

 

「おっ、そうだ! 坊ちゃんの事肩車してやるよ! そっちの方が見やすいだろ?」

 

 

 

「わ、私はそのような事……」「いいっていいって! ほら、ほら!」

 

 

 

「で、ではお言葉に甘えて……失礼致しますね」

 

 

 

 有員が隣にいた鬼とそんな話をしている間も戦いは続く。

 御柱による攻撃を華麗に躱し、朝斗彦はまず神奈子を狙い始めた。そして彼女もすぐにそれを察知し、暴風を身体に纏わせるとそれを弾幕を織り交ぜ、朝斗彦に向かって思いっきりに撃ち込んだのだ。

 

 

 

 

 

 

「葦原朝斗彦! 我が神嵐の力をその身に受けなさい!」

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、ありゃあ凄いな! 天魔の扇でも敵わないんじゃあないか? なぁ萃香?」

 

 

 

「やっぱり私らとは立つ土俵が違うな〜。けど、そこに無上がり込んでこそが我ら鬼よ! 

 ……ただし、今だけは様子見としゃれこもうじゃないか。アレには流石に巻き込まれたくない」

 

 

 

 

 

 神奈子が放った烈風を見て誰もが避けると思っていたが、朝斗彦は足を地面に擦らせて腰を落とし、真っ向より受けることを選択した。

 

 

 

 

 

「おいおい、あんなの受けたら一溜りもないぞ……」

 

 

 

「まぁ、なんとかなるだろ。東神さまはいつもそうしてきたじゃないか」

 

 

 

 

 

 飛んでくる弾幕を切り裂く朝斗彦を見て群衆は陣営問わずに大盛り上がり。さらに無駄に器用な朝斗彦は、逸らした弾の着弾点をあらかじめ予想し、その場に頑強な根を張り巡らせる事で群衆達を守りきることにも成功した。

 

 

 一方で彼が逸らしきれなかった尖弾の一部は自身の顔の脇を掠り、それまで結ばれていた角髪が解けたことでいつもの野性味溢れる長髪姿へと戻り、それを見ていた鬼の女戦士達が黄色い歓声を上げている。

 神奈子は眉をしかめながら目尻を上げ、それらが聴こえる方向を睨みつけて正妻の格を殺気混じりに見せ付けようとしていた為、そんな彼女の様子を見た諏訪子はゲラゲラと笑っていた。

 

 

 

「しかしまぁ、だいぶ派手にやったねぇ? 比売」

 

 

 

「全く危なすぎるだろう! やった私が言うのも可笑しいけれど……」

 

 

 

「まぁまぁ、生きてるんだから良いんじゃない? それにあれくらいならどうってことないよ」

 

 

 

「……むっ。アンタ、それはつまりもっとやっていいってことかしら?」

 

 

 

「その判断は比売に任せよう。どこからでもかかってくるといいよ」

 

 

 

「フッ、見ないうちに言うようになったわね。……良いわ! 誰か、私に鉾と盾を寄越しなさい!」

 

 

 

 そう言うと神奈子は側仕えから鉾と盾を受け取り、獰猛な笑みを浮かべながら朝斗彦へと突撃した。

 

 

 

「おやおや神奈子のやつ、懐かしい表情してるね!」

 

 

 

「あのような獣のような表情を私は初めて見ましたよ。きっと神代も伝説の時代となった今、明神様も力を持て余していたのでしょうね」

 

 

 

「まぁねぇ。人同士の戦にも全然関与してないしね〜。まぁ、私らは大人しくこの夫婦と謎の弟子とやらの喧嘩を見守ろうじゃないか」

 

 

お互い鬼に肩車されながら話し合う有員と諏訪子の姿は、この殺伐とした場の中で唯一癒し的効果を持つ光景だったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

「甘い! そんな突きで僕を倒そうと思うてか! 比売、君の実力はそんなものじゃないはずだ」

 

 

 

「むぅ……! 癪に障るけど文句言えないのが腹立つわねッ!」

 

 

 

 観客からすれば神奈子は決して柔い攻撃をしているようには見えないのだが、如何せん彼女は平和な時を過ごしすぎた。それに対して相手は高天原の三貴子が一人である父・素戔嗚の特訓を受けて帰ってきたばかりである。

 座して地域の守り神としての役割を果たしていた神奈子と、ひたすらに武を磨き上げた朝斗彦。彼は神徳の面では神奈子に遠く及ばないが、戦いとなればまた別なのだ。

 

 

 

 

 

 朝斗彦は父譲りの森羅万象を切り伏せる剣技を駆使することで、神奈子の放った暴風の刃をいとも簡単に一刀両断し、それに続く弾幕達もまるで舞を踊る巫女のように斬りつけて見るものを魅了させる。

 そしてすかさず自らも弾幕を撃つことで神奈子の退路を絶たせていた。神奈子は果敢に応戦したものの、その劣勢は誰が見ても明らかであった。

 

 

 そんな状況の中で集まっていた諏訪の者達は、自分たちの奉ずる神がこれまた自分達が祀る神に追い詰められていく様を、ただ息を飲みながら見守る事のみしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 何とか先程の猛攻を凌いだ後は神奈子による反撃がしばらく続いたものの、身軽が売りの朝斗彦には大した有効打を与えることが出来ないままであった。すると今度は自分の番だと言わんばかりに朝斗彦が距離を詰め、長柄の鉾を扱う彼女は守りの体勢に入る他無かった。そして、数合も数えぬうちに再び神奈子は隅へと追い詰められることとなったのだ。

 

 

 

 昔からの悪い癖が出てきたことでこの状況に対して焦り始めた彼女は、明神たる私がこんな所で負けられまい! と言わんばかりに盾を投げ捨て、両手で鉾を握ると捨て身の一突きを放った。しかし、朝斗彦はまるでそれが来るのがはじめから分かっていたかのように身軽に躱し、鉾の持ち手を空いていた方の手で掴んだ後に神奈子の両手を剣の柄で素早く打ちつけ、彼女から武器を取り上げた。

 

 

 

「比売、君の負けだ」

 

 

 

「はぁ……。駄目ね、まるで素戔嗚様に扱かれた気分だわ」

 

 

 

「久々に戦えて嬉しかったけど、まずは事情を……うぐっ!?」

 

 

 

 決闘を終わらせる流れに持っていこうとした朝斗彦。しかしそうは問屋が卸さない。油断していた朝斗彦に対して霧状に散っていた萃香が飛び付き、背中に足を絡め、首を腕で締め始めたのだ。

 

 

 

「おいおい、私らが居るのを忘れてもらっちゃあ困るよ。東神さまよ?」

 

 

 

「す、萃香! お前まだ諦めてなかったのか!」

 

 

 

「私はあの伊吹山の首領にしてアンタの一番弟子だ! こんな絶好の機会逃しちゃあダメだろ! 

 

 東神さま、私は気合十分だぞ。ほら、さっさとやり合おうじゃないか! さぁ、さあ!」

 

 

 

「私も力試ししたいから混ぜてほしい」

 

 

 

「ぐうっ、分かったよ……。戦ってやるから、一度離れてくれないか……」

 

 

 

「いよっし、それでこそ我らが東神さまだ! 話が分かるねぇ〜。お前ら! 私らの戦いっぷり、しかとその目に焼き付けていきな!」

 

 

 

『応ッ!』

 

 

 

「……なぁ萃香。君、酒飲んできたろ」

 

 

 

「えぇ? まぁちょびっとよ、ちょびっと」

 

 

 

 そう言いながらも顔を真っ赤に染めた彼女を見た朝斗彦は、これだから君は……と言いたげな表情を浮かべると、その後ちゃっかり奪った神奈子の鉾を左手に短く持ち、そのまま二刀の構えをとった。そして、対する萃香はまず身体を巨大化させると、自身の胸にドカドカと拳を叩きつけて大地を震わせる程の雄叫びをあげた。

 そんな萃香の鬼気迫る様子を目の当たりにした諏訪の者達は目の前の光景に対し、まるで捕食者に見つかった小動物のように身体を震わせたが、反対に鬼達は大盛り上がり。時間など気にせずに大声で歌い始め、諏訪の者たちをさらに縮こませることとなった。

このように会場の盛り上がりは最高潮を迎えていた。が、それが続いたのはここまでであった。

 

 

 

「さぁさぁ、どこからでもかかって来な!」

 

 

 

「……なぁ、僕も徒手空拳でやった方がいい? お前たちは妖怪だから神の攻撃を喰らったらひとたまりもないだろう」

 

 

 

「おいおい、シラケること言うなよ東神様! そんなの手加減しようって言ってるのと同じだぜ」

 

 

 

「そうだそうだ! 若いうちに無茶しとけって言ってきたのはアンタだろ! そんな事しなくていいよ!」

 

 

 

 

 

「うーん、そんなにキミらが言うなら分かったよ。じゃあもし油断したら脳天から真っ二つに斬ってやるからよろしくね」

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

「……そりゃあ、流石にじょ……うおっ! うおおおおっ! 

 やっ、ヤバい! 私らを殺しに来てるぞ!」

 

 

 

「おい華扇! こっちに来い! 私が分身けしかけるからそのうちに逃げるんだ!」

 

 

 

 どこかの三貴子のジジイが如く、死んだら所詮その程度だった、とでも言わんばかりに強烈な一撃を放つ朝斗彦に対して、慌てて回避し只管に逃げ惑う萃香達。そんなふたりの慌てようを見た群衆は、まさかあの鬼達がつつかれた鳩のように逃げ出すなんてと呆気にとられていた。

 

 

 

「あっはっはっは! あの二人が痛い目見る所を見れるなんて、龍と留守番してたら見れなかったわね! あー、着いてきてよかった!」

 

 

 

 伝説の大蛇の如く地面を這いずり回る根と朝斗彦の追撃を反り腰で逃げ回っては間一髪で躱す萃香と華扇の姿は、さながら親に雷を落とされた童のようであったという。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「殺されるかと思った」

 

 

 

「まぁまぁ、生き残れたから良いじゃないの」

 

 

 

「「殺そうとしてきたアンタが言うな!」」

 

 

 

 喧嘩の後。眠たい者は眠りに行き、その場に残ったもの達はちょっとした酒宴を開いていた頃。双方の勢力の有力者達は騒ぎの反省会のようなものを行っていた。

 

 

「あーあ、コレじゃ私らの面目丸つぶれだよ。折角久しぶりに会えたからちょっと力試ししたかったのにさ」

 

 

 

「だから聞いたんじゃないか。武器無しの方がいいか? ってさ。それを拒否したのは君らだよ」

 

 

 

「だってさ、修行の時は私が勝った時だってあったじゃないか〜! それならいけると思うだろ!」

 

 

 

「あの頃は力が戻ってなかったんだから、そりゃお前とも良い勝負になるよ」

 

 

 

「しかし朝斗彦様、力がどうとか言っていましたけれど、もしやこの鬼共が関係あるのですか?」

 

 

 

 眠ろうとしていた所を諏訪子に拉致され、寝ぼけ眼で神の末裔の証明となる緑がかった黒髪を再び角髪の形に纏めていた有員。諏訪勢が気にしていた疑問をポロッと口にした彼は、その瞬間その場にいた皆の視線を集めることとなった。

 

 

 

 

 

「ああ。昔諏訪に攻め込んだ時にさ、加勢しに来た鬼に対して取り引きを持ちかけたのは比売なら知ってるだろ? 

 必ず故郷を取り戻すための戦に勝たせてやるから自分を信仰しろってね」

 

 

 

「アレね……。悪神退治でめでたしめでたしって流れだったのに、妖怪に味方した神が身内に出たおかげで諏訪の神話はぐちゃぐちゃよ、全く」

 

 

 

「ねぇねぇ、今私の事悪神って言った? 言ったよね?」

 

 

「諏訪子様、煩いです」

 

 

 

「……でさ、この前根の国から地上へと戻った時に変な話、急に女体化しちゃってさ。

 その時の力が余りにも弱すぎて神官ともやり取りするのに苦労するほど弱くなったから、確実に信じてくれている鬼を頼って神徳を回復させる他無かったんだよ。

 ……あてもなく出雲を出ようとした時にそこの萃香と出会ったからってのもあるけど」

 

 

 

「それって諏訪で対面した時みたいな事よね。もしかして、概念である八坂刀売神としての立場に飲み込まれたのかしら……?」

 

 

 

「そうかもなぁ。

 

 

 まぁそれで萃香とその親御、あと途中でてゐを加えて大江の山まで行って、そこで当時の大族長を相撲で負かして正体をバラしたことで信仰を集め、そのお陰で半分くらいの力は出せるようになったって流れだね」

 

 

 

「ふふん、東神さまが力を取り戻したのは私らのお陰さ!」

 

 

「そうだそうだ!」

 

 

 

「なるほど〜。となれば、神霊たる朝斗彦様にとって彼女らは命の恩人ですね!」

 

 

「うんうん」

 

 

 

 かつて天に刃向かった神と、地方を治める豪族の一人とは思えないほどに心の延びた二人が互いに頷きあっていると、顔を顰めながらも渋々納得した様子で神奈子が口を開いた。

 

 

 

「……はぁ、事情は分かったわ。

 

 でもね貴方、今の私達は出雲の神人じゃあなくて、大和に仕える神霊なのよ?機転を効かせて帰ってきてくれたから許すけれど、素戔嗚様みたいな問題行動はあまり起こして欲しくないわ」

 

 

 

「はい、返す言葉もございません……」

 

 

 

「……大御神も貴方のことは心配してくださってたから大丈夫だと思うけれど、向こうでの近況報告の時は自分で説明しなさいよね。分かった?」

 

 

 

「はい……」

 

 

 

「あー、ただでさえ神奈子の代わりに祝詞読まなきゃならんのに、自分の近況報告も増えてこりゃ大変だ。

 頑張れよ朝斗彦! 私らは後ろで笑わないようにしながら座ってるから!」

 

 

 

「……諏訪子、うるさいよ」

 

 

 

「まぁまぁ、御三方よ。とりあえず今は酒でも飲もうや! 今日は今日、明日は明日! 

 元々東神さまに捧げるつもりだったから酒樽はいくらでもあるし、例え抱えて呑んでも大丈夫さ!」

 

 

 

「……まぁ、そうだな……。まさかまた妖怪と酒を飲み交わす時が来るとは思わなかったが、たまにはそういう時があっても良いだろう。貴方、頂くわね」

 

 

「あ、ああ。どうぞ?」

 

 

「いやー、着いてきてよかった!龍も来りゃ良かったのになぁ〜!朝斗彦、貰うね?」

 

 

 

「私も〜! いやー、(ヒト)の酒をタダで飲めるなんて最高だね全く!はい神奈子、てゐちゃん!乾杯!」

 

 

 

 

 

 

 

「……諏訪子様、私達にとって彼女たちは初対面なのですから、もう少し遠慮というものをした方が良いのでは……?」

 

 

 

「そうだそうだ!!!諏訪子、稚児にマトモな説教されて悔しくないのか!」

 

 

 

「うるせー! 一人で三人倒したからって調子乗りやがって!」

 

 

 

「やめなさいよ二人とも! みっともないわよ!」

 

 

 

 その後、ギャーギャー騒ぎつつも酒を飲み交わす中で神々とてゐによる昔話が始まると、新世代のもの達は童に戻ったかのように聴き入っていた。特に、前々から朝斗彦から色々と話を聞かされていた萃香と伝承が好きな有員の二人は神奈子達の話す思い出話に興味津々であったという。

 

 

 

 






絶対強者ポジの鬼達を噛ませ犬扱いする東方二次創作があるらしい。
本当にすみません!許してください!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。