叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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小説投稿、三本だぁーっ!
一日にあげすぎでしょう。よろしくお願いします。



三十八話 怯える神々

 

 

 

 

 あの後、杵築まで逃げるように帰ってきた朝斗彦達四柱は大社の奥にある聖域にて大国主と面会し、彼に対してこれはここでしか言えぬ話なのですがと切り出して悩みを打ち明けていた。

 月の者たちにとって秘匿していたい情報をベラベラと喋っている時点で正直不味いのだが、焦る彼らの中にそんなマトモな考えを持つ者は居なかった。神も焦る時は焦るのである。

 

 

 

「……まぁ、お前達二人の言いたいことは分かった。

……しかし、何故義父上もそちらにいらっしゃるのです。まさか、月の者達に対して怯えているとかでは無いですよね」

 

 

 

「そ、そんな訳ないじゃろうが……」

 

 

 

「それを聞いて安心しました。我らは地上の海神たる義父上に血で連なる一族。月の海を制する綿津見命に恐れを抱くなど言語道断です」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

 

 

 

「……ねぇ比売、父上の様子がなんか変じゃない?」

 

 

 

「その綿津見命って方、余程恐ろしい存在なのかしら」

 

 

 

 

 そういって朝斗彦と神奈子が小声で話し合っていると、素戔嗚が正座のままちょこちょこ横へとずれて移動した後、肩を竦めながら二柱に対して口を挟んだ。

 

 

 

「お前たちは知らんのか……。かのお方はな。我が兄たる月夜見命の後見役にして月の都の守護者であり、思兼様と並んで兄上の片腕とも呼べる方なのだぞ」

 

 

 

「……え、えっと……。僭越ながら補足すると、先程向こうにて名を出した豊玉比売様は彼のご息女に当たります。そして、その妹君である玉依比売様もまたお父君に引けを取らないほどに武勇の誉れ高く、才覚に溢れるお方です」

 

 

 

 素戔嗚の横でガタガタと震えながら天目一箇神が補足すると、諸悪の根源である朝斗彦は天を仰ぎ、終わった……と一言だけ呟いた。

 

 

 

「あ〜……もうダメだ。話聞いただけで分かる。

 敵に回しちゃいけない相手だよソレ」

 

 

 

「どうせ日陰の者らしくコソコソと嗅ぎ回った後、忘れた頃に刺客を送ってくるに違いないわ」

 

 

 

 そう言いながら神奈子は大袈裟に身振り手振りを行って最後にグサッと刺す仕草をすると、それに対して刺された朝斗彦はこてっと彼女の肩へと倒れ込む。

 神奈子、朝斗彦と脳が筋肉で出来ている二柱にとって、月の神々は卑怯極まりない事を平然と行う悪い連中という認識でしかないのだ。

 

 

 

 肝心の話が中々進まない事に対して大国主が若干の苛立ちを覚えていると、何かが自身の精神へと干渉してくる感覚を覚えた。それは他の者たちもまた同様であり、何事だとざわめき始める。

 

 

 

『先程から黙って聞いていれば国津神風情が好き勝手に言ってくれますね。全く心外極まりないものです』

 

 

 

「「「「!!??」」」」

 

 

 

『私の名は稀神サグメ。あなた方には天探女などと名乗れば通じるでしょうか』

 

 

 

 突如目の前に現れた月からの来客に対し、朝斗彦と神奈子はすぐさま斬り掛からんと剣を抜こうとした。しかし、奥で様子を見ていた大国主がすかさず制止するように言葉を発したために二柱は渋々その場に座りこむ。そんな慌ただしい様子をサグメは変わらずの仏頂面で見つめた後、大国主の方へと視線を向けてこう言った。

 

 

 

 

 

『月夜見命より伝えて欲しいことがあるという言伝を得た為、此度月より派遣されました。

 

 

 月の臣、稀神サグメが幽世の大神である大国主命へと奏上致します。

 

 

 現在月では侵略者の対処に追われています。奴は嫦娥様への妄執とも呼べるほどの怨みを抱え、その怨嗟を時折月の都へとぶつけに来るのですよ。

 その為、現在月の有力者達は、如何に自分達に被害を与えないようにするかを連日話し合っているのです。

 

 

 ですから、あなた方が勝手に恐れ慄いているところ悪いのですが、今現在我々は地上での些細な事に気を割いている場合では無い。これ以上悪評を流されては困る、との事です。

 

 

 分かりましたか?』

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

「……そんなことを伝える為だけにここへと参ったのか?」

 

 

 

『えぇ、それが役目ですので。あと、少し地上の様子を一目見たかったので』

 

 

 

 表情一つ変えぬままにサグメがそう返事をすると、彼女以外のこの場にいる全ての者が怪訝そうな顔を浮かべていた。中でも最長老である素戔嗚はそのしわしわな顔を更に皺だらけにして、

 

 

「お主、真か?」

 

 

 と疑いを晴らせずに質問を投げかけていた。

 

 

 

 

 

「ならばこちらから質問をしよう。

 我ら一族に対して兄上が危害を加えてくるということは無いのか?」

 

 

 

『それは月夜見様のお心次第である為に明言はできません。ですが、我が主君の中であなた方を排除しようという選択肢は限りなく優先順位は低いと思われます』

 

 

 

「そうか、分かった。

 

 

 ……ところでお主、さっきからずっと気になっておったのだが普通に話せないのか? お主が話す度に胸がゾワゾワするわっ!」

 

 

 

 ️『……私は口に出して話しても良いのですが? 先程と同じ内容をね。あなた方に何が起きようと私には関係ありませんから』

 

 

 

「……むぅ」

 

 

 

 不満気な素戔嗚を他所に勝ち誇るサグメをじーっと見つめた後、少し迷う素振りを見せた後に神奈子が朝斗彦に対し耳打ちしてきた。

 

 

 

「……ねぇ朝斗彦、きっとアレが天稚彦を殺した手段よ。話した事と逆転した事が起きるんだわ」

 

 

 

「なんだって!? 

 ということはだよ? そうだな、例えば彼女が誰かに対して、貴方は自分が放った矢に撃ち抜かれないって言ったらその真逆の事が起きるってこと?」

 

 

 

「そういう事よ。念話で語りかけてくるのも辻褄が合うもの」

 

 

 

「あ、あのぅお二方。仮にもご本人が目の前にいるのにそんな確証の持てない話をするのは……」

 

 

 

 大国主を除く、ここにいるもの達の中で唯一の常識人と言っても過言では無い天目一箇神が二柱に一言注意を入れたその時、のそりと振り返ったサグメが彼等へと近づいてきてこう言った。

 

 

 

『あれについては私がやった。

 あの者は生まれ持った身に魂が宿り、現世にて生き続けている限りは天に仇なす事が占術によって分かりきっていた。そのため、大御神の指示のもと私が誅殺したのだ』

 

 

 

「…アンタ、それは私達が天稚彦とどういう関係か分かって言ってるのよね?」

 

 

 

「義理の弟を殺したんだからねぇ?」

 

 

 

「いや、その流れでほんとにやってるの!? ……って、あぁっ! おふたりとも不味いですって! 彼女は月の遣い、折角見逃して貰えたのに手を出したら罰されますよ!」

 

 

 

 こいつだけは僕らの手で処さないと! そう言って息巻く二柱の服を掴んで必死に止めようとする天目一箇神。

 一応この時代にも袿姫特製の天稚彦(ハニワカヒコ)が社の近く、恐らくは下照比売を祀る地にいる為、彼らが躍起になる必要ははっきり言って全くないのだが、朝斗彦と神奈子は互いに家族思いであるが故に暴走状態に陥っていた。

 

 

 膂力に劣る天目一箇神が馬力のある二人にズルズルと引き摺られ、いよいよ手を離しそうになってうぁぁ……と情けない声をあげたその時、見かねた大国主と素戔嗚が飛んでくるとそれぞれが我が子を締め上げて制止させた。

 

 

 

「全く、手のかかる子達だ」

 

 

 

「こやつらいつまで童のつもりでいるんじゃ、バカタレが! 恥を晒すでないわ」

 

 

 

 そう言って素戔嗚がぐったりとする二柱の顔をびびびっとはたくと、うーん…と唸りながら彼等は目を覚ました。その後、大国主に頭をコツンと叩かれて正座で説教を受けることとなった二柱の姿は、まるで数百年前の宮殿での光景そのままであったという。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

サグメの襲来より数日が経った頃、虹の架かる空の道を通って東国常陸の鹿島より建御雷が参内した。毎度この集まりでは一番乗りである彼は、まるで昨日の敵は今日の友と言わんばかりに意気揚々と大国主のもとを訪れたのだが、明らかに例年に比べて社内が騒がしい。怪訝な表情を浮かべながら奥の聖域へと彼が顔を覗かせると、そこには住み慣れた我が家と言わんばかりにだらけた様子の諏訪勢の姿があった。

 

 

 

「嘘だ……きっと私は幻を見てるに違いない。あの神奈刀比売と守矢神がこの日この場所にいる訳が無い……」

 

 

 

 そんなことを言いながらもう一度しっかりと奥を覗けば、今度は高天原での恐怖の象徴である素戔嗚の姿も確認出来るではないか。

 

 

 

「……王統の始祖たる素戔嗚まで居るのか!? まさか、大国主の奴は今になって叛意を?」

 

 

 

「あれ、建御雷じゃないか」

 

 

 

「誰だ。かような時に話しかけてくるんじゃな……ってうおわっ、葦原朝斗彦!? お前、今の今まで何をしておったのだ!」

 

 

 

「え? えっとそれはかくかくしかじかで……」

 

 

 

 

 

 

「そうだったのか……。いや、災難であったな。うむ……」

 

 

 

「そりゃあそういう反応にもなるか。でも五体満足、健康優良だから安心して! ……やっぱり、噂の通り緋想剣は手放したのか」

 

 

 

「え?あ、ああ。私を祀る者たちは非常に献身的に働いてくれた。実直な働きにはこちらもそれ相応の酬いを与えねばならないからな」

 

 

 

「真面目だなぁ。それに独断で天人にまで昇華させたんだって? いくらなんでもやりすぎなのでは?」

 

 

 

「良いのだ。私には過ぎたる者たちだったからな」

 

 

 

「……なんか、いろいろと丸くなった? 僕の知ってる建御雷はもっとこう……大胆不敵で不遜というか……」

 

 

 

「…お前の奥方のように私にも明神としての使命があるからな。こう言ってはこの大和に住まう者たちに悪いが、国津神ほどでは無いが私も穢れに冒されてるのやもしれん。いずれにせよ、高天原にいた時とはもう違う」

 

 

 

「……こんな所で時の流れを感じるだなんて、やっぱり僕の知ってる時代ではないね。袿姫さんとか布都怒志殿は元気にしてるかな」

 

 

 

「そこで最初に出てくる名前がよりにもよって埴安比売なのか……。あと、布都怒志のやつは前と変わらぬぞ」

 

 

 

「まぁあのヒト達は変に偏らず昔から仲良くしてくれたしねぇ……。っとそうだ、中へどうぞ? こんな所で立ち話するのも何だか悪いし」

 

 

 

「かたじけないな。失礼するぞ」

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 神というのは思い出話が好きである。それらは自分の威信にも関わる重要な役割を持っているため、彼等が顔を合わせた時にはありのまま体験した事、誇張された話などの話題は事欠かない。

 姉の勘気をくらった時に危うく新羅に配流されかけ、ちゃっかりこさえていた長子の五十猛を抱えて脱出した素戔嗚の話だとか、冴えない末っ子でしか無かったのに、か弱き*1兎を助けた事で天命を得た大国主の話だとかを皆で聞いていた頃、朝斗彦が大国主に対してこう言った。

 

 

 

「あの……父上の話含め、それらの話は子供の頃より耳にタコができるほどに聞かされてきたので、大国主様が幽閉されていた幽世の話をお聞かせ願いたいのですが……」

 

 

 

「父上、私も知りたいわ」

 

 

 

「確かにその事を話した事はなかったな。いいよ。話してあげようか」

 

 

 

「なんだお主そんな所におったのか? 黄泉戸喫はどうした」

 

 

 

「勿論それも含めてですよ、義父上。

 ……ふぅ、それでは話してやろう。冥界での生活についてを……」

 

 

 

*1
[要出典]






天若日子の表記が天稚彦に変わってますのでご注意ください

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