叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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恐ろしいことが起きました。
話を確認していたところ、てっきり投稿したと思っていたお話が上がっておりませんでした!誠に申し訳ございません…。
最新話まで読んで頂いている方にはお手数おかけしますが、こちらのお話にも目を通していただけると幸いです。

(1/27のアホ作者より)



四十二話の弐 神との邂逅

 

 

 

「突然だけど比売、僕は大和に行ってくるから」

 

 

 

「ハ、ハァ!? なっ、わざわざ大和までアンタ何しに行くのよ」

 

 

 

「いや、まぁ……伯母上に頼み事をされたんだよね」

 

 

 

 ここですぐに本当のことを話せない僕、なんと悲しき存在たるや。まぁ、この目の前にいる愛しの伴侶に自分のやらかしがバレたらと思うと考えるだけでゾッとする……。

 ……いやァ〜、でも黙って千年後とかにバレたらそれの方が間違いなくまずいし、言うしかないか。

 

 

 

「……あのさ、比売。ちょっと話したいことがあって……」

 

 

 

「話なら今してる最中じゃない」

 

 

 

「いや、そうじゃなくてさ……こっちに来てほしい」

 

 

 

 頭に疑問符を浮かべた様子の比売を人気のない場所へと連れ出し、僕は件のやらかしについて報告することにしたのだった。

 

 

 

 その後、周辺の鳥が全て飛び立って逃げる程の雷が比売によって落とされ、僕は頬に大きな紅葉模様を作った後にふわふわと大和へと向かい始めたのである。

 

 

 

 なんとまぁ情けない男なのだろうか、はぁ……。

 しかしさ、他の女神を誑かして不貞を働いた訳でもないのに、ここまでされるなんて酷いと思うよ。マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、例のごとく私は大兄王子に後見して貰いつつ、豊聡耳王子に付き従う生活を送っているのだが、此度は豪族達の子女の集いに参加中である。

 

 

 が、幼き日の太子様は喧騒のある場所を好まず、大抵こういう場では初めこそは一通りの参加者と話されるが、その後は一人で過ごされる。つまるところ私は現在、その状態の王子の隣で寂しく座っているというわけだ。

 

 

 

 

 

 私は田舎者の部類なので面識はほぼ無いが、しかし噂を耳にしている存在もここには居る。

 例えばあそこで男子に紛れて遊ぶ女子は、先の大連が亡き後に産まれ遺されたという布都姫だろう。私と歳も殆ど変わらぬであろう彼女は、歳の離れた兄である弓削大連物部守屋公にも勝るとも劣らない弓の腕を持つという。

 そして噂をすればなんとやら、件のお転婆姫がこちらへと向かってくるではないか。

 

 

 

「王子殿! 我らと共にあちらで球を蹴りませんか?」

 

 

 

「えっ? ……いや、私はいい……」

 

 

 

「ふむ、そうですか……ならば、その横の! お主はどうだ?」

 

 

 

「……むっ? ああ、私か」

 

 

 

 私が鈍い反応を見せると、布都姫は快活に、「そうだ! お主のことである!」と、言うので、まぁ玉蹴りも悪くないと思った私は重い腰を上げた。その後やる気を見せた私の様子を見たお転婆姫は少し悩む素振りを見せた後、私に名を聞いてきた。

 

 

 

「其方、名はなんと申す?」

 

 

 

「私は秦河勝だ。山背太秦の地よりここへ来た」

 

 

 

「ほう、渡来の(みやつこ)か。良かろう、我についてまいれ!」

 

 

 

「ああ。……王子よ。私は玉蹴りをしてくるが、見るだけでもいいから我等に着いてこないか?」

 

 

 

「……そうだな。見るだけなら」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 庭に出てみれば私に近い世代の子供達が待っており、布都姫の到着を今か今かと待ちわびている様子であった。それに対して、まだそこに混じるには小さい子供たちは少し離れたところで追いかけっこなり女子同士で喋っていたりと様々なことをしていた。

 

 

 私は王子を縁側へと座らせると、布都姫と共に輪に加わって球を蹴り始めたのだ。地元で負けたことなど一度もなかったので意気揚々と混ざったが、まぁ当たり前のように私が球を落とすことは無かった。

 

 

 

「凄いぞ河勝! 頑張れ!」

 

 

 

 王子も興が乗ったのか声援を飛ばし始め、すっかり気分が良くなった私は蹴って蹴って蹴り続けた。そしていつしか有象無象が次々と脱落していき、相手は物部のお転婆姫こと布都姫ただ一人になったのだ。

 

 

 王子の声援を背に受けて蹴り続けていると、向かいから球と共に飛んでくるは布都姫の疑問。

 何故お主は斯様なまでに王子様に慕われておるのだ! と聴いてくるので、ただお傍に居るだけだ! と私が答えればそれでも彼女は納得行かない様子であった。

 後から聞いたところによると、かつて私が来る前に彼女は王子を遊びに誘っては断られ……という事を何度も繰り返していたらしく、ぽっと出の私が良き友としての立場を確立していたのが気に食わなかったらしい。要するに、ただの嫉妬であるな。

 

 

 

 そして結論を言うとこの勝負、私が負けた。球を蹴り飛ばす際に靴が脱げてしまったのだ。私の頭上を飛んでいった靴は王子の目の前に落ち、上手く蹴れなかったことで球も落としてしまった。

 すると、王子はキョトンとした後に座られていた縁側から降りて私の靴を拾い上げると、それをわざわざ私のもとへと届けてくれたのだ。

 

 

 

「王子、わざわざ手に取らなくとも」

 

 

 

「これくらい気にせずとも良い! それに、先程の河勝は凄く格好よかったぞ! 

 次は私も混ぜてくれないか?」

 

 

 

「分かった。ところで王子、玉蹴りの経験はあるか?」

 

 

 

「……いや、無い。河勝……私はどうすればいいのだ?」

 

 

 

 狼狽える王子に対し、私が教えてあげるから心配するなと言うと、思わぬ所から乱入者が現れた。背後よりズカズカと近づいてきていた布都姫である。

 

 

 

「王子様、我にお任せを! この物部布都が手とり足とり教えてしんぜましょうぞ!」

 

 

 

 何処か格好つけた構えをしながら彼女が言うと、王子はびっくりした様子で私の背後に隠れてしまった。それを見た事で彼女はんなッ!? と驚きの声を上げた後、私の方へ振り向いたと思ったらそのままガルガルと唸り始めたではないか。

 

 

 

「怖がらせるつもりは無かったのだろうが、王子はそういった事は好まん」

 

 

 

「……なんとッ!? 親しみやすさを追求した筈がまさか逆効果になるとは……。この物部布都、一生の不覚!」

 

 

 

 変な構えを見せたかと思えば野犬のように唸り、私に注意されるやいなや頬に両手を付けて最大限の驚きの表情を見せる。まったく、騒がしいやつだ。

 

 

 その後我らは王子やそれに近い年頃の子も混ぜて玉蹴りを行い、それを通して親睦を深めるのであった。

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 風を切って空を飛んでいると、妖精達がまるで度胸試しのように挑んでくる。寒空の下でのいい運動になるのでそれに付き合っていれば、彼女達は次々と友達を呼び、また増える。そして、気付けばとんでもない数を相手しなければならず、慌てて逃げる。最終的に避けようがない弾幕をばら撒くことで全滅させ、彼女達が一回休んでいる間に逃げる。

 

 

 

 やっぱりさ、調子に乗って妖精の相手なんてすべきじゃないよね。

 国譲りの戦争が始まって間もない頃、建御雷(タケミカヅチ)布都怒志(フツヌシ)が降り立った先の筑紫日向で二人仲良く妖精に殺されかけた事があった。そのため、皆妖精には気を付けろよと本人達からいわれていたのにも関わらず、一体僕は何をしてるんだか。

 

 

 

 まぁしかし、それにしたって一人での旅なんていつぶりだろうか。気の向くがままにフラフラと飛び、社の責任を大祝に押し付けてきただなんて全くすべてが最高だね。でも大御神たる伯母上の命令なのだから仕方ない。仕方がないよねぇ……。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら濃尾の地を越えて伊勢を囲む山々へと差し掛かった時、突然強い吹雪が辺り一面を覆い始める。すぐさま大刀を引き抜いて名乗りをあげると、吹雪の中より現れたのは血色の悪い顔色の女子であった。

 

 

 

「この吹雪、君の仕業だろう」

 

 

 

「そうよぉ〜、私がくろまくよ〜」

 

 

 

「流石にこの吹雪じゃ飛べないから止めてくれないか」

 

 

 

「嫌よ〜だって冬ですもの」

 

 

 

「……」

 

 

 

 久々に話が通じない妖怪と出会したけれど、まったく面倒極まりない。この雪女は所謂原初の妖怪って奴だろうな。幽香やルーミアに近い存在だろう。

 

 しかし、それにしたって吹雪が強すぎる。これじゃあ蛇神の側面をもつ僕にとっては有効打が打てず、こうしてこの場にとどまっている間にも、ジワジワと力が奪われていく。当然、僕としてはこんな所で力尽きるのは嫌なので、今回は神の特権を使わせていただくことにした。

 

 困った時に頼るべきは血の繋がりだよ。これは間違いない。

 

 

 

「伯母上! もし見ておられるのならば我が道を阻む敵を打ち払ってください!」

 

 

 

『……しかたがあるまい。此度だけだからな』

 

 

 

「おおっ、かたじけない!」

 

 

 

 すると空を覆っていた雲から光が差し、たちまち吹雪を消し去ってしまったのだ。そこで生じた隙を見逃さず、すかさず僕は弾幕を撃ち込む事で雪女を撃退することに成功したのである。いや、本当に伯母上様々である。

 

 

 

「伯母上、助力頂きありがとうございます!」

 

 

 

『うむ。お主には期待しておるからな。これくらい造作もない』

 

 

 

「そうですか。……あっ、そうだ伯母上? 本当にその選ばれし者との交渉役が僕で良いのですか? もっと他に向いている神が居るのでは? 

 

 

 おーい! 伯母上〜? おーーい! ……聴こえないフリしてるよ、あのお方」

 

 

 

 仕方が無いので、さっさと大和へと向かうことにしよう。あの山を越えればスグのはずだ。

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 遊びに熱中しすぎたことで、そのまま疲れて眠ってしまった王子を背負いながら大兄王子の屋敷へと戻っていた最中、この大和の地にも雪が降り始めた。

 もし王子が寝冷えでもして風邪をひかれたりするのは宜しくないので、私の馬を曳く従者と共に小走りで屋敷に向かっていると、前方に腕を組んで仁王立ちをする妙な女子がいるではないか。

 

 彼女はこちらを見て不敵に笑っており、それを薄気味悪く感じた私が足を止めると、併走していた従者は不思議そうな顔をこちらに向け、「河勝様〜? 如何なされましたか? 早く戻らないと風邪をひかれますよ?」という。

 ……明らかに人ならざるものの気配を放ち、そのうえ周りの者には見えていないと来た。妖ならば今頃この辺りは大騒ぎになっているはずなので、となれば考えられるものはひとつしかない。

 

 

 

「おおかた予想は着くが何者だ。私に何の用がある」

 

 

 

「……ほう? 力も使ってないのに私を見る事が出来るなんて、読みが当たったわね」

 

 

 

 陸奥の北狄のような黒く長い巻き毛を一つ結び、背中に特徴的な注連縄を背負ったこの奇抜な女は、私の事をまるで品定めするかのようにジロジロと見ると、「間違いないわね……」と、一言漏らすのであった。

 

 

 

「間違いなく、我が力の一部を宿してるな。これは伯母上の言う通りだわ」

 

 

 

「…なぁ、どこの神か知らないが、今は見て分かる通り幼い王子がいるんだ。まずは館へと戻らせてくれ」

 

 

 

「……あら、ほんとね。

 そうね、子供が寝冷えするのは良くないもの」

 

 

 

 なんだコイツは……。さっきまで冷徹な雰囲気だったのに、私の返事を聞いた途端に乳母みたいな表情を浮かべるなんて。私はこんな変な神の力を受け入れたのか? 

 気味が悪いと思いながら横を通り抜けようとすると、彼女が再度口を開く。

 

 

 

「あっと、そうだ! 貴方の暇な日にち、教えてくれるかしら」

 

 

 

「はぁ? ……三日後なら何も予定は無いが」

 

 

 

「じゃあその日にまた来るわ! あっ、そうだわ。貴方も風邪ひかないようにね!」

 

 

 

「……」

 

 

 

 そう言い残すと彼女はまるで嵐のように空へと飛び立ち、その場から去っていった。そう、これこそが私とお師匠様の初対面の日であった。

 

 

 

 






主人公と重要人物の出会う話を投稿し忘れた投稿者がいるらしい。
いや、気付いて良かった。馬鹿すぎる。
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