叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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国譲り第二の刺客。



五話 天下転覆の強弓使い、現る

 

 

 大国主が気まぐれのように起こした大宴会、これもついに三年目を迎える。

 

 もてなされていた天穂日は高天原へと宴の様子や大国主との交渉の進捗を知らせ続けていたのだが、大国主との間でどんなに雑談に花開かせていても、肝心の国譲りの話になると、

 

 

「まぁまぁ天穂日よ。今は酒宴中だからそういう堅苦しい話はなしにしようじゃないか」

 

 

 とのらりくらりとかわされてしまい、その結果はよろしくないままであった。

 

 そしていつしか、週に一回高天原へと届き続けていた天穂日の連絡はぱたりと届かなくなった。

 

 

 

 ……

 

 

 

 高天原・大御神の大神殿

 

 

 しばらくぶりの会議に参加する神々は皆が苛立ちを感じていた。理由は明白、天穂日のことである。

 

 

「あやつは何をしているんだ? 高天原を離れてから三年も経ったのに何も進展がないじゃないか」

 

「それに連絡すらも届かなくなったとは、まさか大国主の手にかけられて命を落としたのではあるまいか」

 

「いや、逆に大国主の大徳に魅入られて臣従してしまったのやもしれぬぞ。あの大耳は昔からそうやって神々へと取り入ってきたじゃないか」

 

 

 神々が口々に噂をする中、大御神が部屋へとはいってくる。それを見た神々は揃って口を閉じて平伏するが、彼女は面をあげよと合図したことで皆が顔を上げると皆がその顔を見て驚いた。

 目の前にいる大御神の顔は目に見えて窶れており、目の下には太陽神にはあまりにも不釣り合いな大きなクマが出来ていたのだ。

 

 

「皆の衆、先日天穂日と個人的に念話を交わしたのだが、どうやら我が息子は大国主に付くことを決めたらしい。そのため、代わりの使者を選ぶこととする」

 

 

 大御神のその言葉を聞いた神々は大変驚き、皆が自分の言いたい事を言い始めたがために部屋の中は混沌とした状況になってしまった。

 暫くそれを聞いていた天照大御神が眉間に皺を寄せたのを見た天之忍穂耳が静粛に! と声を張り上げると、場はすぐに静まり返る。

 

 

「不甲斐ない我が息子たちの代わりに次の使者に名乗り出るものはおるか?」

 

 

 そう大御神が聞くと、八百万の神々の中でも最後尾にいた一人の神がすぐさま、私が参ります! と声を上げた。

 

 彼の名前は天稚彦(アメノワカヒコ)

 つい先日元服したばかりの神で、年頃の童らしく野心に満ちた男である。彼は幼少の頃より何らかの存在からテレパシーを受け、その指示の通りの行動をすることで成功を収め続けていたために今まで失敗をするという経験がなかった。そのために、この大任を自分であれば果たすことが出来るだろうと考えたのである。

 

 

「よくぞ名乗りを上げてくれた。天稚彦よ、そなたには天之麻迦古弓と天之波波矢を与える。この弓矢の威光と共に葦原中国を平定してまいれ」

 

 

 大御神がそう宣言したと同時に、彼は中つ国へと派遣されることとなった。

 

 

 

 ……

 

 

 

 天穂日の調略という本来の目的を果たした大国主は長きにわたり開催されていた宴会の終了を宣言。民達はそれを受け入れ、自らの居場所へと戻っていった。しかしながらそれを受けいれぬ者達もいた。宴会が開かれてすぐの頃に東より現れた鬼の集団である。大国主の思惑など知りもしない彼らは宴会が終わることで美味い酒を飲めなくなることを不服としたのだ。

 

 

「おいおい、ずっと宴会してりゃあいいものをなんでやめちまうんだ?」

「そうだそうだ、仕事なんて忘れてずっと呑んでいようぜ」

「宴会の終了なんて我ら鬼は認めないぞ!」

「というか、出雲は我らの山の何倍も住みやすいからここから帰りたくない」

 

 

 連日宮殿の前に現れ、大声で文句を言い続けたあと、またどこかへと去っていく彼らには市井の人々も神たちも皆一様に頭を悩ませており、支配層の者の中からは安全の為にも奴らを退治するべきだという声も出ていた。

 

 

 そんなある日、いつものように抗議しに来た鬼たちがまるで蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていったという報が大国主たちの元へと入った。

 すっかり国の荒事担当になっていた神奈刀比売と葦原朝斗彦はその報せを聞き、鬼を追い払ったのは一体何者かと門番へと聞くと、天若日子と名乗る男が追い払ったという。

 

 

「名前に天が入るということは……つまりまた高天原より使者が送られてきたな」

 

 

 使者一号である天穂日がそういうと、神奈刀比売がニヤニヤしながらアンタの代わりとしてねと言う。相変わらずの一方的なライバル視に辟易するものの、この事は紛れもない事実ではあるために、天穂日も特に文句は言わずにそうだなと言って同意した。

 

 

 天穂日に関してだが、宴会中のある時から大国主が自身の出雲への想いを彼に語り続けた事で心が揺れ動いてしまい、また宴会の給仕をしていた女子に一目惚れしてしまったが為に、その隙を見逃さなかった大国主によって出雲側に転じることを求められる事となった。そして、天穂日は円形脱毛症になるほどに三日三晩悩んだ後、最終的に寝返ることを決めたのである。

 

 天穂日は大国主を始めとした実力者達に製鉄の方法を教えることで、自身が出雲に仇なす存在ではなくなったことを示した。そうした取り組みが功を奏し、元々おおらかな出雲の民からはすぐに受け入れられ、今は大国主の右腕的存在である。

 

 

 生真面目ゆえに寝返った事を母へ報告したことで、それ以降高天原側の資料では天之菩卑能命と、卑という不名誉な字を使われて名を記録されることとなるが、本人はそんなことは知らない。

 

 彼は葦原中国の地理、住民の性格、種族別の接し方など全ての情報を朝斗彦達と出会う前にまとめて高天原へと知らせることで多少の功を立てたと感じていたため、もし仮にその事実を本人が知ったならすぐに精神に変調を起こすだろう。

 

 

 

「とりあえず、その天稚彦なる者を中に入れた方が良いのでは?」

 

 

 朝斗彦がそう言うと大国主は無言で頷き、従者に対して連れてくるように命令した。

 しばらくすると、朝斗彦とそこまで歳が変わらないであろう、自信に満ちた男が従者に連れられて皆の前へと現れ、彼は皆が見つめる中座り込むと、大国主と対面しても怯むことなく自身の用件を口にし始める。

 

 

「この度は葦原中国太守、大国主大神にお目通りが叶うこと恐悦至極にございます。私の名前は天稚彦。この度は天照大御神が名のもとに国譲りをさせるべく、こちらへと参りました」

 

 

「我が葦原中国の主、大国主大神である。

 門前の鬼を追い払ったというのはそなたか?」

 

 

「はい。奴等は純粋な力のみしか持ち合わせておらず、この荘厳な宮殿の前でまるで乞食のように酒をねだるなどというみっともない姿を晒し続けていたために、この天稚彦が天之麻迦古弓と天之波波矢の威光を持ってして追い払いました」

 

 

「あんな奴らでも一応は我の国の民なのだ。許してやってくれないか」

 

 

「……承知致しました。奴らも天の国の民であるのならば、大御神の名代として代わりに許しましょう」

 

 

 天稚彦と名乗るこの男はあくまでも天からの使いという立場を崩さないようだ。

 さりげなく大国主のことを太守として扱い、挙句の果てに中つ国の事を天の物として扱ったことは、長年国を治めてきた大国主とその一族を辱めるにほかはなく、なおも不敵な笑みを浮かべる姿はその場にいたもの達に面倒なやつが来たと思わせるに十分であった。

 

 

 やがて、しばらくの思案の後に暫し返答を待って欲しいと大国主が伝えると、彼は承知致しましたといって部屋から出ていった。

 

 

「……天穂日、あれは貴方以上の難敵にみえるね」

 

 

「ふむ……、そうだな朝斗彦。しかし、私は彼奴を初めて見たが奴は何か二心を抱えてるような……そんな気がするぞ」

 

 

 

 ……

 

 

 

 宮殿の廊下にて大国主様と彼の家族達と喋っていた時、突然後ろより威勢のいい声で

 

 

「朝斗彦殿!」

 

 

 と呼ぶ声がしたので僕が振り返ると、そこには大きな弓を背負って胸を張っている天稚彦がいた。

 話していた方々に失礼します。と一言詫びを入れて彼の元へと行くと、彼はしたり顔をしながら

 

「ちゃんと逃げずに来ましたか」

 

 と言う。何の用だかも分からないのに逃げるも何もないだろうと僕がツッコミを入れると、彼はむっ、確かに! という反応をしたので、なんだろうこの人……、後の事は後で考える系統の人なのかな? と僕が考えていると、

 

 

「朝斗彦殿、私と弓の腕で勝負していただきたい」

 

 

 と言ってきたではないか。

 

 

「別に良いけど、どうしてそんな事頼んできたのさ」

 

 

 と僕が質問すると、天稚彦はその唯我独尊の表情を崩さぬがままにこう言う。

 

 

「かつて、天之忍穂耳様が出雲を覗いた際、私はまだ元服も終えていない小童でした。それでも貴方の戦う姿を見て、いつかこの者と力比べをしてみたい……そう思ったのです! 

 こうして中つ国への使者となった今しかその願いは叶えられないはず……そう思ったからこそ、こうしてお願いをさせて頂いたのです」

 

 

「ふぅん……。それならば、受けて立とうじゃないか。ただし、何かを賭けるようなことはしたくないから、それを貴方が呑めるのであればやろう」

 

 

 僕がそう言うと、彼は少し眉間に皺を寄せたのちに、

 

「良いでしょう。その条件を受け入れます」

 

 と言ったので、弓の技比べが開催されることとなった。

 

 

 

 

 

「ちなみに、それはいつやる予定?」

 

「もう設営は出来ています。何時でもできますよ」

 

「早っ!?」

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 天稚彦に連れられて朝斗彦が競技の場へといくと、そこには既にそこそこの客が入っており、一番見えやすい場所には大国主の一族がいた。

 

 

「こりゃあ凄い。こんなのどう用意したのさ」

 

 

「私がひとりで用意しました。もちろん、大国主大神からの許可は頂いています」

 

 

(凄い行動力だな……)

 

 

 

 

 このような催しを経験したことの無い出雲の民達はどうしたらいいのか分からないようで、二人が位置についてもワーキャー騒がずにその動きを見守っており、二人が弓と矢を手に取った時にも野次はあれど、歓声はほとんどなかった。

 

 的を打つのは合計3回。交互に撃ち合い、的に多く当てた方が勝ちである。

 今回、先攻は天稚彦、後攻が朝斗彦となり、弓はお互いの私物を使うこととなった。天稚彦は天より受け取りし天之麻迦古弓、朝斗彦は新羅の天日槍の軍より鹵獲した短弓を使うことにしたため、ここでも一部のものから公平じゃないぞ! と野次が飛ぶことになった。

 大国主の傍で試合を見守っていた神奈刀比売がこんなの結果が分かりきっててつまらないわとボヤき、母である沼河比売に無言で肘打ちされていたのを見たことで朝斗彦が笑っていると、隣にいた天稚彦がそろそろ始めても宜しいか? と聞いてきた。それに対し、朝斗彦が応と答えると同時に天稚彦は弦を引き、その勇壮な見た目に違わぬ射撃で的の真ん中を撃ち抜いたので、無言だった観客達もおお〜! と声を上げ、撃ち放った天稚彦もまたそれに応え手を振って返す。

 

 朝斗彦も負けじと弓を放ち的の中央へと当てると、その後の二回目の射撃でも互いに譲らずに精密な射撃を繰り広げることとなった。そして三回目、的はいちばん遠い距離へと置かれ、短弓を扱う朝斗彦にとってはかなり不利な状況となってしまった。

 

 

 最後の一射。天稚彦が弓をつがえ、鋭い目付きで狙った後に矢を放つ。彼によって計算された軌道で綺麗に飛んだ矢は、立っているものがよろめいてしまうほどの強風が途中で吹いたことで軌道がブレてしまい、的より横に少しずれた場所へと着弾した。

 クソっ! と悪態をついて悔しがる彼の横で、朝斗彦は内心してやられたな……と何かに勘づいた様子だった。理由は明白、斜め前に立って見ていた神奈刀比売の左手が怪しい動きをしていたのだから。

 当たり前のように行われた不正に対し、どうしたものかと思った朝斗彦は、あえて少し右側を狙うことで的を外してやろうと考えた。彼は風の向きなどを確認して予測を立てて狙いを定めた。放たれた朝斗彦の矢は綺麗な放物線を描き、的の横へと落ちる……筈だった! 

 

 

 

 結果よりも神奈刀比売の動きが気になって朝斗彦がじーっとそれを眺めていると、やはりあの負けず嫌いの比売は左手を身体で隠しながらクイクイやっているのだ。

 朝斗彦がわざと悔しがるフリをして小石を蹴り上げると、その小石は礫の如く飛んでいって神奈刀比売の右手へと当たった。神奈刀比売が痛い! と声を上げてこちらを見た瞬間を見計らい、朝斗彦は不正を止めさせようと目で指示を出したものの、時既に遅かった。

 

 神奈刀比売の抜群の制御を受けた風に乗った朝斗彦の矢はヘンテコな軌道を描いて的へと当たってしまい、勝負は終わってしまったのだ。

 どうやら天稚彦は んがー! と朝斗彦の矢から目を逸らして怒っていたために神奈刀比売の不正は全く見えておらず、当たり前のように朝斗彦が勝ったかのような認識を皆がもったまま、技比べは終わってしまった。

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 宮殿の人気のない物陰にて、何も知らないものが見れば一人ぶつくさと何かを喋っているようにしか見えない者が一名。今この宮殿で話題を集める神こと天稚彦である。

 

 

「探女よ、あれで良かったのだろうか」

 

 

『えぇ、あの大国主の前で自身の目的をしっかりと示し、負けたとはいえ自身の持つ力を誇示したことによって、中つ国の者に対して貴方の力強さを知らしめることが出来ました。

 数年間待てばやがて機が訪れてこの国を盗る事が叶い、貴方の飽くなき野心を満たすことができるでしょう』

 

 

「そうか、分かった。しかし、出雲の者は一目見ただけで分かるほどの強者ばかりだったぞ。探女、本当に大丈夫なのか?」

 

 

『今まで私が言ったことでその後間違いとなるようなことがありましたか? 私の言葉を信じていれば良いのですよ』

 

 

「そ、そうだな」

 

 

 こうして幼少の頃より続く天探女との念話を天稚彦が行っているまさにその時、背後からあら? という声が聞こえた為、彼が慌てて念話を中断して振り返ると、そこにはうら若き少女がいた。

 

 

 

「貴方、そこで一体何をしているの?」

 

 

 

 純粋無垢な表情で質問してきた、蒼いくせっ毛の髪を持つ彼女を見た天稚彦は大変驚いた。何故ならば、そこにいる少女は彼の好みな女性そのものであったから。

 

 

「い、いや、別に、この地は賑やかなところが多いからな。その……、静かで気の休まる此処で休憩をとっていたのだ」

 

 

「へぇ〜、私はここがお気に入りなんだ〜。ここなら煩い後見人や姉上も来ないからよく遊びに来るの。良かったらお話しない?」

 

 

「あ、ああ……! 私相手でよければ幾らでも良いぞ」

 

 

「やったー! 私は下照比売(シタテルヒメ)っていうの! 貴方は?」

 

 

「私は天稚彦という。宜しくな、下照比売」

 

 

「天稚彦ね、よろしく! そういえば、あの技比べ私も見てたのよ! 結果は残念だったけど……」

 

 

 最初は女子を前にして照れてしまったせいでよそよそしかった天稚彦だが、下照比売が気さくな性格の持ち主だったこと、そして元々歳も近かったために二人はすぐに意気投合し、この日は日が暮れるまで話し続けたという。

 

 こうして、天之麻迦古弓で天に仇なす敵を射抜く側であるはずだった天稚彦は、天探女との密談中にたまたま居合わせた下照比売によって見事に心という名の的の中心を撃ち抜かれてしまった。そして、対する下照比売もまた、出雲の者とは違った雰囲気を醸し出す天稚彦に一目惚れしてしまったがために、この場所で何度も顔を合わせて親交を深めるうちにやがて二人は恋仲となった。

 

 

 

 ……

 

 

 

 

「なんか、猛烈に渋柿を食べたい気分になったわ。なんでか分からないけれどね」

 

「どうしたのさ比売、らしくもないことを言って」

 

 

 ここは宮殿の屋根の上、梁に座った神奈刀比売と朝斗彦の二人は酒を飲みながら月を見ていたところである。

 

 あの天稚彦が宮殿に現れてからもう一年近く経つだろうか。

 彼は最初こそは天津神の名代としてやってきたものの、持ってきた弓で武力行使をする訳でもなく、かと言って天穂日のように大国主へと説得を行う訳でもなく、何かとそれらしい言い訳をして国に残っており、いつしか彼は宮殿に住むもの達からもなんかいつもいる奴扱いされていた。

 

 

「アイツってずっといるし、高天原も何にも行動起こさないけど、一体今何がどうなっているのかしらね」

 

 

「さぁ? まぁ何も起こらないほうが僕的には嬉しいけどね……ってあれ? 比売、あれ見てよ。天稚彦と高比売*1が一緒にいるよ」

 

 

「なっ、あの子がなんでアイツと一緒に居るのよ! 朝斗彦、もう少し見えやすいところに行くわよ」

 

「はぁ……分かったよ」

 

 

 年下二人に一番近づける場所が天穂日の部屋の真上だったため、悪い年上の方の二人はそこに潜伏して会話を盗み聞きすることにした。

 

 

「下照比売、流石にそろそろここで密会するというのも危ないんじゃないか? 皆に知られたら困るのは我ら二人だぞ……」

 

 

「大丈夫だよ! 確証は無いけど! それに、今までだって怖い姉上や父上にはバレてないじゃない! だから大丈夫!」

 

 

「余計に心配になること言わないでくれよ……。

 それに、仮にも私にとっては仮想敵の本域。勝手に居着いてる身で言うのもアレだが、身を滅ぼしかねないんだぞ」

 

 

 腹違いの妹の発言を聞いた神奈刀比売がこ、こわい……? と思わず声を漏らしたために朝斗彦が慌てて彼女の口を抑えたものの、幸いにも天穂日のいびきが大変うるさかったおかげで二人にそれを聞かれずに済んだ。そして改めて向こうを見てみると、二人は熱い接吻を交わしており、その後とても盗み見るに耐えないようなことをし始めたため、二人は気配を消してその場から去ることにした。

 

 

 

 ……

 

 

 

 ところ変わってここは朝斗彦の部屋。

 慌てて逃げ帰ってきた二人は顔を真っ赤にして作戦会議を行っていた。

 

「……しかし、あの二人が恋仲になっていたなんて……。これは色々と、本当に色々と危ないのでは?」

 

「そ、そうね。天より使命を帯びて派遣された神と侵略対象である地上の神の恋は正直……かなりマズイわね……」

 

 

「ねえ比売……。これ、大国主様に報告した方が良いんじゃないかな。二人は間違いなく怒られるだろうけど、ずっと隠れるよりはマシだと思うよ。あんな杜撰な隠れ方でやり過ごそうとするのは得策じゃない」

 

 

「でも、それじゃ父上のお心次第で彼が重い処罰を受けることになるかもしれないわよ……! そうなったら、あの子は後を追うに違いないわ!」

 

 

「いや、それは無いはず。彼をここで殺したら間違いなく高天原の神が報復にくるはずだから、大国主様から手をかけるような真似は絶対に起こり得ないよ。任務を果たさないからといって高天原の方が彼を責任追及する可能性はあるけどね」

 

 

「そうかしら……。とりあえず、父上の所に行って相談しましょ? きっと今ならまだ眠っていない筈だわ」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

「なんだって!? あやつめ、我の大事な娘の一人にそんな事をしていたのか!」

 

 

 

 二人が大国主の寝所へと行き、その事について相談をすると案の定彼は怒り出し、癖のある自身の髪も結わぬままに部屋を飛び出してしまった。

 

 しばらくすると、相変わらず怒りの形相の大国主が例の二人を小脇に抱えて戻ってきたので朝斗彦がちらりとそちらを見ると、二人はまるで北海の沖*2のように青ざめた顔をしていた。特に天稚彦は顔面蒼白な上に、こうやって叱られることが初めてなのかというような尋常ではない怯え方をしていた。

 

 結局、怒り心頭の大国主の説教が夜通し続き、報告しただけの筈だった朝斗彦と神奈刀比売の二人も恐怖のあまり部屋から出られなくなったために自分達も一緒に怒られているような気分になってしまい、部屋の空気はとてつもなく悪くなってしまった。

 

 

 その後、大国主は怒り終えると同時に二人が正式に結婚するのを許可した。すると天稚彦は涙を流して大国主へと感謝の言葉を口にして平伏し、下照比売がその顔を拭いてあげていた。そしてその後彼が泣き止むと同時に二人は仲睦まじい様子で部屋を出ていき、怒り疲れた大国主は『はァ〜〜ッ』と、とても大きなため息をついた。

 

 

「気に入らない奴だと思っていたけど、あの子への愛だけは本物みたいね」

 

 

「でもなんか彼って掴み所がないんだよねぇ……。僕はあまりあの感じが得意じゃないな」

 

 

「逆にアンタに野心が無さすぎるのよ。男ならもうちょっと、いちもつもふたもつもそういうモノを持ってるべきでしょうが……」

「ちょっ、何言ってるの比売!? 大国主様だっているのに!!!」

 

 

 夜特有の気の高ぶりにあてられたのか、神奈刀比売がよりにもよって大国主の前で訳の分からないことを言い出したため、朝斗彦は慌てて止めに入る。

 その様子を無言で見ていた大国主が、

 

 

「……君らふたりってさ、昔から今まで随分と仲がいいよね。あの二人のように我に隠れて付き合ったりとかしてないよね?」

 

 

 と聞いてきたので、朝斗彦は慌てて首を横に振って、してないです! ただ姉と弟みたいな関係なだけです! と強く否定し、それを聞いた神奈刀比売はえッ!? と大きな声を出したあと、まるでほおずきのように顔を赤くしたという。

 

 

*1
下照比売の名前のひとつ。本作では身内の愛称

*2
日本海





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