叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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ついにあの方が原作キャラの形で登場します。




閑話 ある日の絶対秘神達

 

 

 

「ふわぁ〜っ、よく寝た〜」

 

 

「お目覚めか、我が師よ」

 

 

「んぁー……うわっ、河勝!?」

 

 

 

 神社裏手に広がる守矢の湖。守矢神社とは正反対の位置にある、この妖精すらも寄り付かない小さな祠にて昼寝をしていたところ、思わぬ来客がやってきた。

 

 

 

「もう河勝ではないと言ったろう、朝斗彦殿。

 私は摩多羅隠岐奈、後戸の神であり、障碍の神であり、能楽の神であり、宿神であり、星神であり、この幻想郷を創った賢者の一人でもあるのだから」

 

 

 

「えー……そんな釣れないこと言わないでよ。一度面倒見た者にそんなこと言われたらさ、僕悲しくなっちゃうよ」

 

 

 

「ふっ、それもそうだな。では、遠慮なく……隣、失礼するぞ」

 

 

「どうぞ〜」

 

 

 

 見てくれ、私専用の椅子だぞ……とか何とか言いながら、河勝は突如現れた椅子へどっしりと座り込んだ。

 ……いやー、こうして見ると女になった時の僕そっくりだな。いやマジで。ちょっと身長低いのと、髪の色が正反対なことくらいしか違いがないんじゃない? 

 

 

 

「……いやしかし、何度会っても慣れないね。まさか河勝が女子になっちゃうとは」

 

 

 

「それを言うべきは間違いなくこちら側のセリフだろう、師匠。

 はじめに接触してきた時、貴方は女の姿をしていただろうが」

 

 

 

「それもそうか。僕もそっちの姿になった方がいいかな?」

 

 

「やめてくれ」

 

 

 

「……しかし、なんで女の子になっちゃったんだろうね?」

 

 

 

「紛れもなく貴方のせいだろうな。もし宿っていたのが貴方の父だとかであれば、私は今も男の姿をしていた筈だからな」

 

 

 

「やっぱり〜? あの時の穢れに満ちた状態で禊した結果生み出した御魂だったからなぁ〜……。そりゃなんか……こう、なに? ニュークリアなフュージョンみたいなことが起きるわけだ」

 

 

 

「ハッハッハ! 貴方が横文字言葉を言うと、もはやそれだけで面白いな。まるで覚えた事を何でもしたがる稚児のようだ!」

 

 

 

「良いじゃん、せっかく長生きしてるんだからさぁ。

それを言うなら比売なんてさ、私がやりたいのよ!って言って、ほぼ毎日料理洗濯洗い物してるんだよ?手伝おうとしても全然やらせてくれないのなんの」

 

 

 

 僕がそういうと、河勝は恥じらいもなく噴き出した。ゲホゲホッと噎せていたので背中をさすってやると、彼女は息を切らしながら、「大丈夫だ……」と、言っていた。いや大丈夫じゃないじゃん。

 

 

 

「…全く、にわかには信じられないな。あの建御名方神がそんな事してるだなんて」

 

 

 

「ああ見えて凄く女の人らしくしていたいんだよ、比売って。身なりとかだってその時の時代のトレンドは絶対抑えるタイプだしね」

 

 

 

「ふーん…………私もそういうことした方がいいのかな」

 

 

 

「いやしなくていいんじゃない? その導師服、似合ってるよ。それに、帽子も新羅明神みたいでいいじゃない」

 

 

 

「そ、そうか……? じゃなかった、当然だろう!」

 

 

 

「……」

 

 

 

「な、なんだその目は! おい! 師匠!」

 

 

 

 別にー。河勝が女の子女の子してるのが面白いとか、そんなことないからー。

 

 

 

「私をイジるというのなら、こちらにも考えがある! 今日、貴方の為に持ってきた情報は今後一切! 私は口にしないからな」

 

 

 

「えーなんでよ。たかがそれぐらいで教えてくれないなんて、なんかケチっぽいよ?」

 

 

 

「うるさいうるさい! 師匠が謝るまで私は絶対に言わないからな!」

 

 

 

「なんだよ〜。

 あー、僕に豊聡耳王子みたいな心の声を読み取る力があれば、河勝の心の内なんてスグ読み取っちゃうのになぁ」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 ……え、なに。なんなのその反応は。もしかして、図星だったの? 

 

 

 

 

 

「えっと……河勝? もしや、王子関連?」

 

 

 

「……むぅ、むううっ! どうして貴方というヒトはいつもそういう時に限って勘が鋭いのだ! もっとこう…サトリ妖怪だとか、他にもいろいろあるだろうが!」

 

 

 

「え……だってさ、顔見知り程度のサトリ妖怪よりも、僕自らが鍛え上げた王子の方が印象に残ってるし」

 

 

 

「……そりゃあ、そうだろうな! なにせ千四百年の時が経っても未だに私の事を弟子扱いしてくれる、弟子離れの出来ない師匠なのだからな!」

 

 

 

 ぷりぷり怒る河勝は見ていて可愛いし面白いな。あ、念の為に言っておくと多分男の姿だったとしても同じ感想が出ると思うよ。実の息子よりも見た目似てたし。

 

 

 

「で、その王子関連の情報って一体なんなのさ」

 

 

 

「……ごほん、ならば教えてやろう。

 

 

 どうやら、外の世界において太子様の伝説が虚構だと断言されたことにより、太子様の存在そのものが幻想入りしたのではないかということだ。

 

 

 紫とヤツの式神が口を揃えて言っていたため、これについては間違いなく事実であるだろうな」

 

 

 

「へぇ……て事は、もしや……」

 

 

 

「そうだな。あの時、太子様に殉死した連中など、私にとっては顔馴染みの連中がこの幻想郷の何処かにおいて永き眠りについているはずだ」

 

 

 

「ふーん……そう考えるとなんか悲しいよね。こっちには鬼だとか神様だとかさ、昔からの顔馴染みが多いからさ。会えないと思うとなんというか……別れという物をしみじみと感じるよ」

 

 

 

「ああ、そうだな……」

 

 

 

 さっきまでの和やかな雰囲気はどこへやら、すっかりブルーな雰囲気へと変わってしまった。はぁ〜……と、大国主様のような長いため息を僕がつくと、河勝が唐突にある提案をしてきた。

 

 

 

「そうだ師よ、気分転換にでも久しぶりに一つ手合わせをしないか?」

 

 

 

「え? 良いけどさ。先に言っておくけど、僕弾幕ごっこヘタクソだよ?」

 

 

 

「そうではない。刀と刀を打ち合う、昔ながらの手合わせの方だ」

 

 

 

 そんなのしちゃって大丈夫なのかな。紫に怒られないといいんだけど。

 

 

 

「不安が顔に出ているぞ、師匠。……案ずるな、紫の奴は守矢神社には来れないだろう?」

 

 

 

「え、一回来たよ? 諏訪子のおやつ盗み食いしてた」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「……それはマジなやつなの?」

 

 

「マジだよ」

 

 

 

 どういう事……? とブツブツ呟いていたけど、僕も分からない。とりあえず、参拝客に紛れて索道に乗って来たんじゃないかな? と国津神ブレインで分析してみる。

 

 

 

「まぁ、それは一旦置いといてだ。始めよう、師匠」

 

 

 

「いや、僕はあるけど君の手元には肝心の刀剣がないじゃん。それでどうやってやんのさ」

 

 

 

「む、言われてみればそうだな。……舞! 里乃!」

 

 

 

「はいはーい」

 

 

「どうしたの? お師匠様」

 

 

 

 

「……傀儡? 河勝、何この二人は」

 

 

 

「おや、もしや初対面だったか? 

 

 こいつらは私による、私の為の、私だけの従者だ。こっちのおっちょこちょいが丁礼田舞、こっちのおっとりしてるのが爾子田里乃だ。

 

 お前ら、こちらの方に自己紹介しろ」

 

 

 

「はーい! 僕は丁礼田舞っていいまーす」

 

 

 

「私は爾子田里乃っていいます」

 

 

 

 

 

「あー、えっと、葦原朝斗彦です? 一応、河勝を鍛えた師匠枠かな?」

 

 

 

「……おいおい、なんで疑問形なんだ。そこは自信を持って言ってくれよ」

 

 

 

「……いやだって気味悪いじゃんこんなの! そもそもなんで君はこんなの使役してるんだよ!」

 

 

 

「こんなのって言われたー」

 

 

「気味悪いだなんて私悲しい」

 

 

「僕もー」

 

 

「「ね〜」」

 

 

 

「こっち見ながら首キリキリ動かすのやめて! 怖いから!」

 

 

 

「ほう、生粋の神にも怖いという感情があるのか」

 

 

 

「そりゃあるに決まってるでしょ!」

 

 

 

 何だこのカオスな空間! 後戸の国ってまさか四六時中こういう感じなのか? 

 

 ずんちゃかずんちゃと軽快なステップを踏んで踊り出した二人から目をそらすように河勝の方を見ると、彼女は頬杖をついて二童子を眺めていた。いや、こえ〜……。

 

 

 

「こいつらは馬鹿だし、兎に角使い勝手も悪いし、今すぐにでも代わりの者を見つけたいところではあるが、どうもついつい眺めてしまうのだよ」

 

 

 

「いや、本当におかしいよそれ……精神衛生上よくないから絶対やめたほうがいいって」

 

 

 

「ふむ、師匠にはこいつらの良さが分からんか」

 

 

 

 分かるかー!いや確かに昔、ふざけててゐと龍を二童子〜なんてやった時の話を聞かせた記憶もあるけどさ! なんでこんなことになってんの!? 

 てか、手合わせどこいった!?それどころじゃないじゃん! 

 

 

 

「ねぇねぇ、貴方ってお師匠様のお師匠様なの?」

 

 

「それ、私も気になってた」

 

 

 

「え? あ、ああ……」

 

 

 

「ってことはさ里乃、僕達にとっては大お師匠様ってことじゃない!?」

 

 

「そうよ! そういう事だわ! やるわね舞、珍しく冴えてるじゃない!」

 

 

「珍しくは余計だと思うなー、イエーイ!」

 

 

「イエーイ!」

 

 

 

「河勝、もうこの二人帰していいよ……」

 

 

 

「分かった。……おいお前達、もう後戸の国に戻っていいぞ!」

 

 

 

「「アイアイマスター!」」

 

 

 

「おい、私の事はちゃんとお師匠様とよべ!!」

 

 

 

 なんなんだよコレ……。一体僕は何を見せられているんだ……。

結局、彼女達は何をしに来たのかも分からぬまま河勝の出した扉へと入っていき、再び辺りには鳥のさえずりだけが響くようになった。

 

 

「全く、騒がしいヤツらだ。……しかし、あれでも一応天狗脅しの役割はきちんと行っているんだ」

 

 

 

「ああ……父上含めた僕達三人って鬼にまつわる神の流れだからね」

 

 

 

「そうだ、貴方は鬼の神であり、私は天狗脅しの神。守矢神社が妖怪の山の頂点に立ったのも、貴方の存在なくしては叶わなかったことだ」

 

 

 

「あの時は大変だったんだから。

 僕が地底から鬼を引き連れてくる事で、鬼が山に再度侵略してくる!…なんて、根も葉もない噂流されて山の妖怪達に嫌われたりしてさ」

 

 

 

「間違いなくあのブン屋だろう、全くヒト騒がせなやつだ。

 そうだ師よ、貴方は地底には行ったことがあるか?」

 

 

 

「え? ああ、あるっちゃあるよ。一応僕根の国の神でもあるし」

 

 

 

「ならば話が早い。あそこのさらに奥深くにある血の池地獄、はた迷惑な奴が住み着いているのは知っているか?」

 

 

 

「え? いや知らないよ。はた迷惑な秦氏なら目の前にいるけど」

 

 

 

「質の悪いオヤジギャグはやめろ! 

 

 

 ……いいか、話を戻すぞ。あの血の池地獄、その実は血ではなく燃える水なのだ。私はその燃える水を管理する権限が欲しい。

 

 ……ただしだ! そうなれば、まずはあの地に住み着く羊畜生の饕餮尤魔を倒さねばなるまい。あやつは厄介極まりない存在だからな。故に師匠、普段から力を持て余している貴方が私の代わりに饕餮を倒してはくれないか? もし受けてくれるのならば、礼は弾むぞ?」

 

 

 

「……え、ヤダ。僕、地底についてはもう地霊殿のさとりちゃんや旧都の勇儀に任せるって決めてるからさ。聞くからに厄介事になりそうなソレには関わりたくないよ」

 

 

 

「フン…まぁ、貴方ならそう言うと思っていたさ。ならば、先程の話は聞かなかったことにしてくれ」

 

 

 

「……返事が分かってたならはじめから言わなけりゃいいのに」

 

 

 

 聞くだけならタダだろう? という河勝に対し、僕はまぁね〜と答え、再び空気は弛緩したものへと変わる。この強者故に堪能出来る緩い空気、僕はたまらなく好きなのだ。

 

 

 

「……おっ。ねぇ河勝、この石みてよ! 水切りに使えそうじゃない?」

 

 

 

「違いないな。貴方の力ならば対岸の守矢神社まで届くんじゃあないか?」

 

 

河勝が立ち上がり、指を指す先には立ち並ぶ巨大な御柱群と我が愛しのホームグラウンド・守矢神社がある。…いけるか?

 

 

「うわ、それ怖いけどちょっと試してみたいな。河勝もやろうよ」

 

 

 

「しかたがあるまい。少しばかりは付き合うとするか」

 

 

 そう言うと、河勝は腕捲りをして辺りを物色し始めた。

 

 この子、幻想郷ではフィクサー気取ってるから唯我独尊!みたいな感じでふんぞり返ってあの椅子に座ってるのに、僕のところに来る時は決まって互いが誰とも会う事が無さそうな辺鄙な場所でのみ接触してくる。それで、今みたくただノリのいいねーちゃんに成り下がるんだ。

…いや、偶にフィクサーモードで接触してくる時もあるか。さっきの地底の一件みたいな感じで。でも普段の僕の生活リズムが老後のお爺さんすぎて全っ然そういった事に興味湧かないし、そういうのは他所でやってくださーいって感じなのだ。

 

 

「加減しないとなー。……よし、やるぞっ」

 

 

 

 だいぶ加減した状態で投げなければならないけど……これは楽しみだっ、それっ! 投げられた石は風をきって飛んでいき、もはや跳ねているのかも分からないほどに速く、鋭く飛んでいった。

 

 

 

「…!? おい、おいおい、おいおいおい! 師匠、貴方本当に加減したのか!? あんな勢いよく投げるなど、下手すれば死人が出るぞ!」

 

 

 

「え? かなり加減したよ! ほら見て、僕の腕めっちゃ脱力してるから」

 

 

目を丸くして慌てる河勝にそうやって見せると、一つ彼女はため息をついた後にこう言った。

 

 

「……脱力したせいで腕が強くしなって、結果余計に勢いが乗ったのでは?」

 

 

「……え? ……あっ」

 

 

 

 ヤバい、人が死んでないと良いんだけど。

 せめてあの謎の超巨大御柱に当たっていてくれ! 

 

 

 ……結局、僕の願い虚しく、たった今比売が強い神力を使用した気配を感じた。おおかた、飛んできた石から本社、果ては参拝客を護ったのだろう。

 ああ、マジでやばい。さっき石を投げた先の方角から、とてつもない勢いで水柱を立てながら飛んでくる存在が見える。

 

 

 

「河勝、死なば諸共だよね?」

 

 

 

「……悪いが師匠、私は一足先に帰ら……あっ、オイ! なんで私の前掛けの裾を掴んでいるんだ! やめろ師匠! 離せ!」

 

 

 

「絶対離さないから抜け駆けなんて絶対許さないから」

 

 

 

「早口で捲し立てるのをやめろ!掴むのをやめろ!お気に入りの装束が破れるだろうが!」

 

 

 そんな事をしている間にも比売はこちらへと迫っている。あの速さだと、もう直にここへ辿り着くだろうよ。

 

 

「何だこの力、強すぎるっ! アッ! そうだ、師匠の背中に後戸を……うわ、うわわわわわ! 間に合わないッ! 

 

 や、やめろ! 来るな! 私は無実だ八坂神奈子! アアアアアッ!」

 

 

 こうして、僕たちは師弟揃って仲良く比売に制裁され、説教を受けることになったとさ。めでたしめでたし。

 

追伸

騒ぎについてはその後、河勝の名誉と守矢神社のブランドイメージを損ねない為に見えない力が働いたらしいよ。

 

 





次回からはまた古代飛鳥の時代に戻ります。
河勝…すっかり大人になってしまって…(踊り狂う二童子を見ながら)
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