叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

64 / 80


この作品は守矢の神目線なので、つまりそういう事です。(いやなにが?)




五十八話 神社の新しい風

 

 

 

 ぐびり。はァ〜、沁みるねぇ。

 

 

 今は異変解決後の宴会中で、一番槍を欲しいがままにした我ら守矢神社の主催である。いや〜、天晴! 

 やり合った神子率いる神霊廟の面々、ウチらの他に異変を解決しようとした三人とその身内、なんか知らないけど居る犬、狸、鵺。そしてさらに呼んでもいないのにやってきた山の面々が入り乱れる大宴会だ。

 

 

 

「大手柄じゃない。いつも食っちゃ寝ばかりな貴方が異変を解決するなんて」

 

 

 

「いやいや、僕はただ早苗を守っただけで、大体の敵はあの子が倒したんだ。まずはあの子を褒めてあげなきゃ」

 

 

 

「ふっ、そうね。……早苗ー! 良くやった!」

 

 

 

 すっかり上機嫌な比売が盃を掲げると、離れた場所で山の妖達と話していた早苗が顔をあげ、にこやかに笑ってこちらへと手を振った。そこから視線を横に向けると、まるで比売の言葉なんて少したりとも耳に入っていません〜というような態度で静かに酒を飲む霊夢に、終わりよければすべてよしといった様子で神子達に絡む魔理沙が目に入った。

 僕は比売と諏訪子に一言入れると、腰をあげて図々しくならないようにしつつ、霊夢の横へと座りこむのであった。

 

 

 

「やぁ霊夢。隣、失礼するよ」

 

 

 

「……なによ。可愛い娘の自慢でもしに来たわけ?」

 

 

 

「そんな訳ないさ。そもそも、早苗は娘みたいなものだけど、実際の娘じゃないし。

 ……君達が来れなかった事だ。あの時の結界が悪さしてたんじゃないかと思ってね」

 

 

 

 僕がそういうと、不貞腐れた様子の霊夢は明確な返事をすることなく、ん……とだけ返事をした。うるさいわね! とか、あっち行きなさいよ! と言って噛み付いてこないあたり、話し続けても良さそうだな。

 

 

 

「博麗の巫女が異変に出遅れるなんてありえない事だ。きっと、君もあの小神霊の発生に合わせて行動を開始したのだろう。でも、結界に邪魔されたことで、大祀廟にはたどり着けなかった。

 

 

 ……あれは思うに、博麗の巫女であるキミの目を誤魔化して僕を嵌めようとしたのではないかと思うんだ」

 

 

 

「……陰謀論なら他所でやってくれるかしら」

 

 

 

「いや、駄目だ。まず第一に、あの豊聡耳神子という者は初めに僕が鍛えた。今から十五世紀も前の、遠い昔の事だ。

 彼女は八百万の神々からも期待される程の力を持つ選ばれし者だったが、あの通り仙道へと進み、仙人になった。その仙道へと導いたのが彼処の死臭漂う邪仙、名は青娥とか言ったか……なんだ」

 

 

 

「……アイツには一杯食わされたわ。さっき神奈子に追い出されてた死体と、二人がかりでね。あの程度楽に抜けられると思ったのに、見たことの無いヘンな力で私と妖夢を揶揄ってきたのよ!

オマケに、変な薬を飲むもんだから弾幕が通らないし、散々よ」

 

 

 

「きっとそれは丹薬だろうな。丹砂を使った仙人にしか飲めない劇薬だ。

 

 

目を覚ましてすぐの、この郷の諸々を把握していない神子に僕達を当てる事で、あわよくば……ということを狙ったに違いない。が、しかしまぁ、杜撰な計画だよな。閉じ込められようものならその奥へと突き進めば案外何とかなるものだし。

 

 結局の所、神子は僕とも関わり深い者だったから良かったが、アレは危険だ。事実、早苗一人で行かせていたら神子に斬られて死んでいたかもしれないからね」

 

 

 

「どうだか。アンタがついて行ったからスイスイ進めただけで、早苗一人なら私より後だったんじゃないの?」

 

 

 

「まぁ、それはあるかもね。

 だって、昼に人里に居る時に異変が起きた後、しばらく様子見してたんだけどさ。収まる気配がなかったから、早朝三時半くらいに寝てる早苗を叩き起こして向かったからね。寺に」

 

 

 

「様子見するのはわかるけど、なんで初めから寺に向かってんのよ。私は霊関係ならって思ってまず第一に冥界に行ったのに」

 

 

 

「いや、人里で異変が起きた時に早苗、幽々子、紫、比売と一緒にいたんだ。親睦深めるついでに甘味処の新作デザートを食べにね」

 

 

 

「なによそれ。老人会?」

 

 

 

 相変わらず失礼だなぁこの娘は。しかし、ちょうど近くに幽々子と紫の仲良しコンビがいたのでそうだよね? と聞くと、

 

 

 

「そうなの〜。お店に入るまであと一歩のところで異変騒ぎが起きて、急遽閉店になっちゃったからお茶のひとつも出来なかったのよ〜」

 

 

 

 と答えたのは亡霊の姫こと西行寺幽々子の方である。

 

 

 あの小神霊の正体が人々の欲望だったことを象徴する出来事だ。

 期間限定で、且つ絶品だと郷中で話題になっていたスイーツを人妖問わず大人数が一斉に求めた結果、店内に大量の小神霊が現れたことで客はパニックを起こしたのだ。

 あの時、冥界の管理人としての職務を全うするために紫のスキマで白玉楼へと帰った幽々子は、霊夢と魔理沙による追及という名の決闘を引き受け、飄々としながら霊の向かう先であった寺へと誘導したらしい。

 

 

 

「そうだよ! 幽々子のヤツ、私が霊夢に着いていこうとしたら喧嘩売ってきやがったんだよ! 

 

 

『貴女を通すとは言ってないわよ?』……とか言ってさ! 

 

 

 こっちはもう横で話聞いてるから別に戦う必要も無いってのに、全く酷いと思わないか? なぁモジャ神さま!」

 

 

 

 すっかりへべれけな魔理沙がそう言って肩を組んでくる。鋼の肝臓を持つ彼女がここまで酔っ払っているのは初めて見たな。

 聞けば、ドベからのスタートだった魔理沙は、寺で不審な行動をしていた鵺を懲らしめたらしい。その後、ノリに乗った彼女はあそこで格好よく酒を飲んでいる化け狸も倒したのだとか。やるねぇ。

 

 

 

「仙人にしてやられた私達に比べればよっぽど活躍してるじゃないですか!」

 

 

「そうよ!」

 

 

 

 不完全燃焼気味な妖夢ちゃんと霊夢が二人してブーブーと文句を言い始め、それに対して魔理沙は、

 

 

「なんだ二人とも〜! 私の事を羨ましがるのはいいが、いまさらになって文句言わないでくれよ!」

 

 

 と、鼻を伸ばしてイキがり始めた。あー、こりゃあ一悶着あるな。

 

 

 結局の所揉め始めたので、外に誘導して巴戦が開始。一緒になって魔理沙を責めていたはずの霊夢と妖夢がまず弾幕ごっこを始め、待つ側である魔理沙は更に酒を摂取していた。

おいおい、そんなに飲んでいたら飛べなくなるんじゃない?

 

 

続々と野次馬が集まる中、白黒の酔っ払いを押しのけて横に座ったのは豊聡耳神子。異変の主犯格であり、我が弟子が一人だ。優女かと思いきや、意外と図々しい所を見せるのがチャームポイントね。

 

 

 

「神子、これがスペルカードを使った決闘だ。使用する枚数を決めて、先に全ての手札を出させた方が勝ちになる。……まぁ、ごくごく偶に事故死するやつは居るけど、基本的に命に関わるようなことはほぼない。

 

 

 ほら、彼処を見てご覧。あそこの隙は敢えて作っているんだ。相手が避けれるだけの最低限の余裕があるようにね」

 

 

 

「なるほどな。しかし、まさかこの期に及んであなたから新たに教えを受けるとは思わなかったな」

 

 

 

「ふっふっふ、弟子を思う気持ちというのは何時如何なる時代になっても変わらんものさ。ねぇ?」

 

 

 

「……え? ああ、はい! ちゃんと聞いていませんでしたけど、そうだと思います!」

 

 

 

 ぱたぱたと足を動かして空の酒瓶を運んでいた早苗が驚きながらそう言うと、僕達はその空返事の極みみたいな返答に対しての笑いを抑えられず、顔を見合せて笑った。

 

 こうして隣合って座っていると、はるか昔の事が最近のように感じる。まるで僕が根の国から地上へと戻ってきた時のような、あの時感じた不思議な気持ちを今この瞬間に神子も抱いているのかもなぁ。

 

 

 

 しかし、河勝も顔くらい見せればいいのに。先程から気配はずっとあるってのに、秘神ゆえかこちらへと顔を出すことはない。きっと心中穏やかではないはずだと言うのに、それを吐き出すこともできず、対岸を羨むかの如く気配を消しているのだ。

 そして、神子はそれに気付いているのだろうか。恐らく僕よりもずっと大きな感情を抱いた存在が、己のすぐそばに在るということを。

 

 

 先程、彼女は嬉しそうな様子で音を遮断するという頭の装具について語ってくれたが、それではきっと微かな声は聞き取れないだろう。なんとまぁ、悲しきものかな。

 

 

 

「神子、お酒飲む?」

 

 

 

「いや、いい……と言いたい所だが、あなたと盃を交わせる事になるとは思いも寄らなかったからな。ここは一献(いっこん)傾けようか」

 

 

 

「流石、聖徳王は解ってるね……ほら、お酌してあげるからお猪口持って」

 

 

 

「なんと、わざわざすまないな……」

 

 

「いいのいいの」

 

 

 

 徳利に入った清酒を彼女の持つお猪口にお酌してやった後、飲み干した自分のお猪口にも酒を注ぎ、僕達二人は予期せぬ再会を祝って静かに乾杯した。

 

 

 

「あの廟ではだいぶ危険なことを口走っていたけれど、もう目は覚めたかい?」

 

 

 

「あぁ、私とした事が寝惚けてしまっていたよ。あんな姿を見せてしまい、全くもって恥ずかしい限りだ」

 

 

 

「あのままの調子で居られたらさ、僕も私情抜きに手を下さなきゃならなかったから……。目を覚ましてくれて本当に良かったよ」

 

 

 

「それについては重ね重ね申し訳ないと思っている。すまない。

 

 

…しかし、この神社へと来る時に目にした光景を見るに、私の知る和国は今や存在しない。かつて叶わなかった、大王になるという我が望みも夢幻の如く消えて無くなってしまった事を強く実感したよ。

 

 

 ……叶えようのない野望は蓋をするに限る。この地の住人として、皆に認めて貰うためにはね」

 

 

 

「そうだね。よほどの事がない限りは大きな動乱が起きる事のないこの幻想郷ならば、胸を張りすぎずに気を楽にして過ごすのが一番だよ。

 

 

 僕なんてさ、人里に住まう賢者のもとに書物読みに行ったり、陽気な晴れの日には昼寝したり、随分とまぁ悠々自適なスローライフを満喫してるよ? 

 地方を束ねていた明神級の神とは思えないでしょ?」

 

 

 

「ははは。あなたは昔から自由奔放だったし、そうやって自分のしたい事をしている様子はすぐに頭に浮かぶよ。今度は私も混ぜてくれ」

 

 

 

「いいよ〜。

 いずれにせよ、少ししたら阿求ちゃんの所には行かなきゃならないだろうし、その時は仲介してあげるよ」

 

 

 

 よろしく頼むと言う返事とともに、こちらに笑顔を向けてくる神子。にこにこと笑う様子は彼女が慣れ親しんだ者にのみ見せる顔であり、その顔を見たためか、彼女の側近である屠自古さんと物部布都が近寄ってきた。

 

 

 

「太子様、嬉しそうですね」

 

 

 

「ああ、屠自古。長年抱いてきたしこりが取れたような、清々しい気分さ。

 改めて言おう。二人とも、待たせてすまなかったな」

 

 

 

「我は必ず太子様も復活されると信じておりました! のう屠自古!」

 

 

 

「そうだな。

 ……まぁワタシはお前のせいで怨霊になったから、あれから悠久の時を経て、こうしてやっとこの時を拝めたのが兎に角嬉しいよ」

 

 

 

「……え? お前のせい?」

 

 

 

 戸惑う神子を他所に、「あれ、説明してませんでしたっけ」と言いながら、淡々とした様子で屠自古さんは自らの身に起きた事を語り出す。

 

 

 曰く、尸解する際に依代とした壺がドがつくほどの粗悪品だったらしく、儀式からあまり時が立たないうちに割れてしまったことで、自らの覚悟が怨念へと移り変わった彼女はそのまま亡霊へとなってしまったのだとか。

 そして、その壺を用意したものというのが、横にいる物部布都その人だというのだ。

 

 

 

「えっ……いや、ええっ? 布都、なんでそんなことを?」

 

 

 

 屠自古による思わぬ暴露に対して口を一の字にしてムスッとしていた布都は、まるで幼子のようにその理由を捲し立て始めた。

 

 

 

「……我は憎かったのです! 兄上亡き後にのうのうと生きていた馬子殿のことが、そして太子様の寵愛を受ける屠自古の事が! 

 きっと太子様が復活した暁にも、我はあくまで一つの手駒にすぎなくなってしまう。それならば、こやつの復活を阻止すれば、我が太子様の寵愛を一身に受けられると……」

 

 

 

「そんなことしたって太子様の怒りを買うだけなのにな」と、被害にあった本人がまるで他人事のように喋るこの不思議な光景が、何とも言えないシュールな空気を生み出している。

 ……しかし、この物部の娘はどこか歪んでいるようにすら感じるな。愛嬌はあるけれど、僕みたいな周りの者に愛されて育った者には分からない何かがある。

 

 

 

「……布都、其方はなんて事をしてしまったのだ……」

 

 

 

 宴会の楽しい空気を壊さないようにと抑えつつ、それでもなお震える声色は神子の怒りが十分に伝わるものである。これについて、当の屠自古さんが気にしなくていいんですよと宥めたものの、全く効果がなかった。

 

 

 

「神子、気持ちは分かるけれど落ち着いてくれ。苛立ちは要らない問題を産むことになる。

 それに、屠自古さんが亡霊になった事は今更変えられようがないことだし、今の君はただの人じゃなくて人知を超えた存在なんだから、皆がいる前で腹を立てるべきじゃないと思うよ」

 

 

 

 神子の溢れ出る聖人オーラに布都が呑み込まれそうになっていたため助け舟を出すと、少し間が空いた後に神子は一言「……致し方無し」と言って征伐モードを解いた。

 もしここで彼女が屠自古さんと協力して布都の事を扱いてたら、それこそ第二次丁未の乱勃発か。避けられたからよかったけど、もし起きようものなら守屋キラーの河勝も呼ぶしかないよね。ガヤ要員で。

 

 

 

「布都、お前のした事は認められるものではないが、私は主としてお前を赦す」

 

 

 

「え」

 

 

 

「…そのかわり! 私に絶対の忠誠を誓え。二度と私を裏切る様な真似をしないと、この目に向かって誓ってくれ……」

 

 

 

「その程度で赦して貰えるのならば、我は裏切りとは無縁な、太子様への未来永劫変わらぬ忠誠を改めて誓います!」

 

 

 

「……うむ、受け入れよう」

 

 

 

 僕の諫言が聞いたのか、神子の寛大な処置によって布都は危機を回避した。

 だってさ、やった事は悪いけど、顔面蒼白になって冷や汗を垂らす様子は横で見ていて可哀想なんだもの。結局、比売にも苦言を呈されたのにも関わらず、またお人好しが炸裂してしまったなぁ。

 

 

 

 

 

「……うぅ、我が間違っておりました。独り善がりな行動で太子様を傷付けてしまうなど……。

 ……屠自古、済まなかったッ! 我を許してくれ!」

 

 

 

 謝罪と共にぎゅ〜っと強くしがみつかれた屠自古さんは、面倒そうな顔を浮かべながら、「いやまぁ……、私はいいけどさぁ……」と一言だけ言い、助けを求めるようにこちらを見つめてきた。

 

 

 

「もう少しそのままにしてあげたら?」

 

 

「布都の相手は屠自古、君に任せた」

 

 

「えぇ……」

 

 

 結局、僕がスペルカードの作り方を神子に教えている間ずっと屠自古さんは布都に抱き着かれていた。…服で鼻かまれたらしく、途中雷落としてたけど。

 

 





「…というか、なんでワタシだけさん付け?」
「いや…なんというかさ、屠自古さんは屠自古さんって感じじゃん?」
「なら、太子様とコイツは?」

「え…、神子と布都」
「…それで、ワタシは?」
「屠自古さん」
「何故???」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。