叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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輝く針の小人族、かなり好きな曲です。
この曲でエンジン掛けて書きました。




六十六話 常世の国の輝く針

 

 

 

「彼女は上毛野に在りし有力氏族、車持氏の娘だ。彼の地は彼女の祖父の代に天災に見舞われ、一族の多くの者が我らと共に遠く駿州へと逃れてきた。

 

 

 ……今から五十年近くも前の事だ。その天災、貴公も身に覚えはないか?」

 

 

 

「ああ、勿論だとも。病に臥せる大王の名代として、私は太子様……豊聡耳王子に付き従って各地を巡った。勿論両毛にも行ったし、大和へと上る途上に東海の諸国にも立ち寄ったさ……。

 

 

 しかし、それがなぜこの娘がここに居る事と繋がるのかが分からんな。あの災害は世を騒がせたとはいえ、とうの昔に被災地の復興は済んだはずだ。なのに何故、王孫の血筋たる車持氏という列記とした素性があるにもかかわらず、あの女子は未だこの地に留まっている?」

 

 

 

「やはりそう思うか。それはこの地……いや、あの存在感ある桜こそが、彼女にとって大いに関係の深いものだからだ。あれは人の死を糧に育つ妖の桜であり、対して彼女には人の死を詠む力があるからな」

 

 

 

「……死を詠むだって? どういう事だ」

 

 

 

「彼女が歌を詠めば、周りの者は黄泉へと導かれる。いや、正確には周りの者の死期が詠めるのだ。遠い遠い先祖返りなのかは解らぬが……。

 兎も角、彼女は親族からは所謂忌み子として扱われた。既に半身が死んでおり、死に導かれる習性がある我ら半人半霊にとっては羨望の的なのだがな……。

 

 故に、一族が上州へと戻った後も彼女は我らと一緒にここへ留まっているのだ。……先程、あの常世神様が纏っていた結界があっただろう? あれはあの娘を経由して、常世桜の加護が働いていたからなのだ」

 

 

 

 これは実に興味深い話であった。あの女子はあまりの儚さ故に戦っている間はその存在に気付けぬ程だったにもかかわらず、その時ばかりはあの桜が如く異様な存在感を放っていた。

 ……なんとしてでも、彼女をこの地から引き離さねば。その為には、今は姿こそ見えないが、あの敵どもを討ち果たす他に道はない。そのため、私は改めて覚悟を決め、強く手を握り締めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ! 二人同時に相手なんて聞いてないんだけど!」

 

 

 

 今、めちゃくちゃ追われてます。アゲハさんこと常世神を討ち果たすべく、これまでの長い神生でも一、二を争う程に弾幕を撃って戦っていた所、突如背後より奇襲を喰らったのだ。

 

 自慢の長い黒髪を掴まれたことで首を無理矢理後ろ側へと引っ張られ、実に愛らしい二本の角を生やした多の目と私の目が合った瞬間のことだ。

 

 

 

「……こんにちは、元気?」

 

 

『…………うるあああっ!』

 

 

 

 私は為す術なくブンブンと振り回され、その度に頭にしがみついていたのぼうちゃんは絶叫。神でなければ間違いなく吐いてしまうであろうほどに視界が揺らされたあと、私は遥か上空へと投げ出され、それから休む間もなく剛刃を携えた左腕による攻撃が迫った。

 

 敵を迎え撃つ為に剣を抜いたその時、脇から常世神によって放たれた弾幕がこの身に迫る。一個一個は実に小さい弾幕であるが、されど何個も集まれば、まるでちょっかいを吹っかけたあとの妖精のように恐ろしい群れへと様変わりするのだ。

 

 

 

「刀女比売さま! 逃げなきゃ!」

 

 

「そうするしかないか! 

 三十六計逃げるに如かず! ……うーん、この河勝に教えて貰った言葉好きなのよねぇ」

 

 

「言ってる場合じゃないってば!」

 

 

 

 

 

 

 ……ということがあり、いつ機嫌を損ねるかも分からぬ不尽の山に見守られながら、神である私は妖どもから逃げまわっている。

 きっと他の神ならば、あまりの悔しさで舌を噛み切って死んでしまいそうな状況だけれど、私は全くもって悔しくなどない。

 なにせ、我こそは逃げ上手の大国主様の直弟子なのだから! 

 

 

 

「したり顔してるけど何も状況変わってないよ!」

 

 

 

「あら、ごめんなさい。なら、一手打つとしましょうか」

 

 

 

 ここが空の上である以上、木々の力は借りられない。けれど、その力を想いに変えれば形を変えて我が身を助けてくれるはず! 

 

 

 私は頭の中に天すらも穿く杉の力を思い浮かべ、その荒れ狂う蛇が如き、地を這う根の姿を想起した。すると想いは実を結び、虹色に輝く弾幕が獲物を捕らえる為の網のように辺り一面へと出現した。

 

 

 

「うわぁ〜綺麗!」

 

 

「さぁさぁ、蟲取りの時間よ!」

 

 

 

 左手を前へと突き出し、そのまま手繰り寄せるように動かせば弾幕達もそれに従って獲物を捕らえんと共鳴する。相手はその包囲網をかいくぐろうと翼を動かして旋回し、その後まもなく二手に別れた。きっと狙いを定めさせないようにする気ね。

 私は惑わされずに動きがトロいアゲハさんに目を付けると、そちらに向けて弾幕を操作しつつ、大気を斬って真空刃を飛ばす。かつて命を賭けて戦った建御雷のようにね。

 

 

 

「……なんでピンピンしてるんだ! 今当たってたでしょう!?」

 

 

 

「ウフフ……アハハハッ」

 

 

 

「……クソ、あの結界のせいね! どうしたら完璧に剥すことが出来る!?」

 

 

 

 しかし、依然として敵を護る得体の知れない結界によって私の攻撃は弾かれた。どんな相手と戦おうがその都度乗り越えてきた経験があるが、それでもこの結界を完璧に剥がす方法が全くもって思い浮かばない。本当にどうするべきか。

 

 

 

 

 

「ねぇ刀女比売さま! 向こうからおおが来てるよ!」

 

 

 

「分かったわ! 教えてくれてありがとう。もっと上空に逃げるわ、離さないようにしっかり掴まってて」

「了解!」

 

 

 

 

 

 仲間の小さな手がぎゅっと髪を掴んだのを感じた後、私は天に向かって力強く昇った。敵の屋敷すらも米粒のように小さくなる程の位置まで来た時、私はのぼうちゃんへと一つ質問を投げ掛けた。

 

 

 

「そういえばのぼうちゃん、貴女戦闘の経験はあるのかしら?」

 

 

 

「えっ!? ……まぁ、小人同士の小競り合いで弾幕撃ったり殴りあいした程度なら……」

 

 

 

「!!! なら話は早いわ。貴方のその立派な剣に力を込めてやるから、お友達か多のどちらか選んで突撃しなさい! ほら、早く剣を出して!」

 

 

 

「え……エエッ!? 私まだ飛べないよ!?」

 

 

 

「大丈夫! 剣に祈ればきっと何とかなるから!」

 

 

 

「ヒイイッ!」

 

 

 

 相手が二人ならばこちらもそうするべきだ。言わば陽動役ではあるけれど、それならばきっとこの小さな勇者も輝けるはず……。

そう考えた私は上昇を止めて直ぐにあまりにも神らしく、そしてあまりにも無責任な提案を彼女に投げかけたのである。

 

 

 なお、肝心ののぼうちゃんはというと、懐の中で震えながらも自慢の剣を差し出してきたので、私がそれを親指と人差し指で摘んだ後に力を分けて渡してやると、剣を手にした瞬間に彼女の藤色の髪は逆立ち、そして自らの意思で懐より抜け出したのである。

 

 

 ……あれ、ちょっとマズったかな。

 

 

 

 

「今ならなんでもできる気がする! 

 ウオオッ! おおのやつ、アゲハちゃんをこんな目に合わせたこと、絶対に後悔させてやるからっ!」

 

 

 

「ちょっとのぼうちゃん、大丈夫!?」

 

 

 

「全然大丈夫だよ! 私がただの木偶の坊じゃないってところ、見せてあげる!」

 

 

 

 そう言うと、彼女は私の服に掴まっていた手を離して自ら落下していった。やば! まさかあんなになるなんて。

 

 

 

 慌てて刀をしまい、身体にかけていた天之麻迦古弓を手に取って三回ほど鳴弦すると、先程からずっと不愉快な風切り音を立てながら追い掛けてきていた大生部多、そして少し遅れた位置にいたアゲハさんがその神聖な音の前に怯む様子を見せた。

 そんな時、怯む多の頭上より、巣立ちを迎えた雛鳥が如く果敢に飛び立ったのぼうちゃんが輝針剣を抱えながら垂直落下。そのまま頭上に生えた一対の角のうち一つに剣を突き刺して文字通りに砕き、その勢いがままに顔に大怪我を負わせたことで、ヤツは明後日の方向へとクルクル飛んだ後に飛行能力を失い、そのまま地面に向かって落下し始めた。

 おいおいマジか! 信じられない! 

 

 

 

「今こそ追撃の時! 化け物め、覚悟しなさい!」

 

 

 

「行かせないわよ。貴女は私の相手をするのだから」

 

 

 

 くそっ! 興奮して忘れてたけどこっちも居たんだった。目の前の哀れな妖精、のぼうちゃんの作ってくれた流れに乗じて目覚めさせてやらねば! 

 

 

 

 覚悟を決めた私はまず、己が剣を振るって戦う姿を想起した。そして、狙う方向を決めるために実際に刀を振って幾つもの弾幕として発現させると、再び同じ動きをする事で敵に向けて送り出したのである。

 初めは相手も巧く躱していたものの、弾が通らない場所に対して新たに弾幕を撃つなどして退路を絶たせたところ、高速の弾は瞬く間に敵へと命中したのだった。

 

 

 

「い、痛いわ……? なんで? どうして?」

 

 

 

「効いてる……よく分からないけど効いてるぞ!」

 

 

 

 地上を見れば、奥の間がある建物の屋根には大きな穴が空いており、誇り高き勇者の一撃によって妖がそこに落ちたことが分かった。きっと後は河勝が何とかしてくれるはずだ。

 それよりも、今は目の前のこの敵に対して攻めまくるのみ! 

 

 

 

「なぜ? どうして!? 私には常世桜の加護があるはずなのに!」

 

 

 

 取り乱す敵を他所に私は天之麻迦古弓を手に取り、再びその弦を弾く。

 弓の鳴弦には古来より憑き物を祓う効果があり、きっと何か良からぬ者に憑かれている彼女に対して鳴らせば、憑き物を落とす事が出来るはず。

 そう思っての行動である。

 

 

 

「うぅっ! ゔアアッ! やめて……! ……ッ、ソレを鳴らすな……! ヤメロオオオッ!」

 

 

 

 多少の良心が痛むが、こればかりは仕方ない。

 コロコロと表情や口調を変える敵を見たことで己の行動が効果覿面である事を実感していると、ついにその時が訪れた。元々の彼女の非力さについて行けなくなったのか、彼女に取り付いていた何人もの亡霊たちが続々とその身体より逃げ出し始めたのだ。

 

 

 

「ようやく原因が現れたか。待ちくたびれたよ」

 

 

 

 もしもの為に……と、一本のみ持ってきていた天之波波矢を弓へと番え、僕は軽い力でその弦を引く。そして、目の前で悶え苦しむ彼女に狙いを定めると、敢えてその狙いより少し上の位置に向けて矢を放った。

 

 

 

 鏑矢である天之波波矢の放つ神秘的な音色は周りの悪しき存在の力を奪い、まるでつむじ風のようにアゲハさんの頭上を飛んで行った後、背中を見せて逃げ出していた亡霊に命中した。その刹那、射った者を中心に邪を討ち祓う巨大な爆風が上がり、周りにいた亡霊達もそれに呑まれて消滅したのである。

 

 

 しかし、そこでゆっくり出来る時間はなかった。

寄生した悪霊達をその身体から追い出したことで、アゲハさんは元のぷにぷにした幼虫らしい体に戻り、地面に向かって落ち始めたのである。

 

僕はすぐさま落ちゆくアゲハさんを片手に抱きかかえて救出し、指笛を鳴らした。すると、どこからともなく先程戦場を支配した音が辺り一面へと響き、次に瞬きをした時には既に手元に天之波波矢が有った。

 本当にどういう仕組みなのか分からないけど、僕の指笛の音を分かっているみたい。まるで命が宿っているかのようだ。……いやまさか、そんな事はないよな。

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 妙な半人半霊こと魂魄妖忌との雑談に講じていた所、討つべき敵、大生部多が天井を突き破って落下してきたことで、その和やかな空気は一気に張り詰めることとなった。しかし、蹲ったままの敵の頭からぴょんぴょんと飛び跳ねながら我が足下へと現れたのはあの小人、少名彦ノ坊であった。

 

 

 

「ねえちょっと翁、何ボサっとしてんのさ! 折角わたしがここまでしたってのに!」

 

 

 

「……なんだと!? まさかあやつの顔の裂傷、お前がやったのか?」

「そうだよ! ……まぁ、ちょっと刀女比売様の力を借りたけど……」

 

 

 

 ふんす、と鼻息を荒くしながら腰に手を当てて胸を張る彼女の姿は、間違いなく小さい筈なのにそれ以上に大きく見えた。……ふっ、ここまでお膳立てされたのならば、私も応えてやらねば無作法というものだな。

 

 

 

「よくやった。あとは私に任せておけ。

 

 

 ……大生部多ッ! 中々しぶとかったが、貴様は死ぬ運命からは逃げられない。大人しく我が大刀の錆となるが良い!」

 

 

 

 私が刀を構え、立ち上がらぬ敵へと近付いた時の事だった。右手で顔を抑えたまま、敵が突如として動きを見せたのだ。

 起き上がりながら異形の腕を横薙ぎに振り回してきた敵に対し、私はすぐさま防御の体勢を取った後に相手の気をそらすために弾幕を放ったものの、相手はソレに臆することなく首をぐるりと回したのであった。

 

 

 

『常世神様は倒された……。望みが絶たれた以上、この大生部多はここにある者全てを巻き込み、共に果ててやるッ!』

 

 

 

 そう言うと、奴は後ろに佇む妖の桜を斬り倒した。すると、その更に奥にあった冥界への入口より、多のあげた雄叫びに呼応して亡霊達がワラワラと溢れ出てきたのだ。目の前で起きる惨状を前に、もはや我らには為す術もなくただ殺られるだけである。……己の頭がそんな判断をした時である。

 

 

 

「……!? なっ、お前……」

 

 

 

 目の前の亡霊達が忽ち未練がましい様子で斬られながらその姿を消していき、その先に残ったのは先程まで私の横で喋っていた魂魄妖忌であった。

 

 

 

『妖忌ッ! この不信心者めがッ!』

 

 

 

「……我らは常に死と生の狭間に在る者。そのような半人前が、旧主たる幽世大神様の手を煩わせ、天下に更なる騒乱の種を巻くなど何たる不遜か。

 

 

 私は己が義の為に太刀を振るう。多殿、知っているだろうが私は幽世大神様に助けられ、この命を喪わずに済んだのだ。故に、その恩義には必ず報いなければならん。

 ……もしそれを阻むと言うならば、例え相手が常世神様であろうと、私はこの楼観剣をもってして目の前の敵を討つ覚悟ができている。

 

 

 降伏なされよ、多殿。此度の異変、我らの負けだ」

 

 

 

 妖忌の言葉を聴いた多は大変悔しそうな表情を浮かべたあと、もう一度雄叫びを上げた後にこう言った。

 

 

 

『クソッ……クソッッッ! 常世神様はこの大生部多を見放された! ……ならば。ならば、せめてあやつの命だけでも奪わなければッ!』

 

 

 

 奴が指を指すその先に居たのは何を隠そうこの私、秦河勝である。そして、その言葉から時を待たずして理性を失った怪物がこちらへと一直線に飛んできたため、今まで散々気を張っていたにも関わらず、私はつい本能から抱いた恐怖で目を瞑ってしまったのであった。

 

 

 

 

 






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