たまたま書き溜めていたものなので狙ったものではございませんが、今回一部の表現がご不快に感じられる方がいらっしゃるかもしれません。
本作品はフィクションですのでその点については何卒ご了承ください。
それではよろしくお願いいたします。
「朝斗彦様、貴方一体何を仰られているのですか!?」
先程の驚きの表情を浮かべる久侘歌ちゃん。
そりゃあそうだ。目の前の男が突然地獄と現世を分け隔てた存在である三途の川を塞き止めるなどと言い出したのだから。
なお、他のふたりはまるでいつもの事だとでも言わん様子であった。
「今から天井に弾幕を撃って、川の丁度いい位置に岩盤を崩落させる。それを僕の能力で操った木々の根を張り巡らせることで、擬似的な堤にするんだ。そして、僕が囮になって連中を引き込み、時が来た瞬間に川を解き放つ事にする」
「そんなっ、無茶仰らないでくださいよ!
三途の川を塞き止めるなんて真似をしたら地獄と現世の境界があやふやになり、何が起こるかわかったものじゃないですよ!?それに、私が救えるのは心に迷いの生じた霊魂だけです!」
僕の提案を聞くと、彼女は両手を前に広げて「危険ですからどうか考え直してください!」と、こちらを静止しようとする声色で言った。
「だからこそだよ。僕は眠れるしご飯も食べられるとはいえ、本質は神霊だ。
コレを実行することについては迷いは無いけれど、敵を引き付けた後にどうなるかは正直言って予想すらつかない。だからその時に久侘歌ちゃん、君の力で僕を川の中から引き上げて欲しいんだ。
それと、これを実行する上での被害予想だけど、川の中洲という土地柄で昔から土台を固めてある地霊殿、それに対岸の内陸にある閻魔の判所については大丈夫だと思うが、元々堤があるとはいえ低地の里は浸水する恐れが大いにある。だから小町、君は僕が敵を引きつける間に逃げ遅れた里の民を社へと連れていくようにして欲しい」
こちらが一切退く様子を見せない事を察知すると、久侘歌ちゃんは渋々とであったが僕の提案を受け入れた。この時ばかりは彼女と上司である映姫さんには悪い事をしたが、時にはこちらにも譲れない時というものがあるのだ。
「策の内容は分かったけど…。
川の塞いだ先はどうする?元々の流れが無くなったらそこら中に古代魚塗れの溜め池が出来ると思うよ?それと、もし万が一アタイが敵に気付かれたらその時はどうするんだい?あの死霊達は大丈夫にせよ、奥のアイツはなかなか厄介そうじゃない?」
「いや、それらについてだが…。
まず、残った川水については地下の灼熱地獄の温度でどうにかなる筈だ。アレは霊山より降ってくる川が持つ力で温度調整が成されているからね。…ただし、その真上の地霊殿は不味いことになるから、その時は僕が結界を結ぶことで何とかしよう。
それと、敵についてはさっきからこっちが好き放題やっていてもあの首魁は日和見と形だけの後方支援ばかりで手出しはしてこなかったから、恐らくは大丈夫だろう。
とりあえず、雑兵共だけには悟らせないようにするんだ」
「はいよ。なら今は一緒に戦うフリしていれば良いよね?」
「そんな所かな」
意見がまとまれば、早速行動開始である。久侘歌ちゃんは地獄の映姫さんの元へと情報伝達に向かったため、再び二名と一頭(いつの間にか猫に戻っていた)で敵と対峙した。
まず僕は手のひらを裏返し、くいっと人差し指を動かすと、川の両岸地点に何本かの柳の木を生やした。
何故それを選んだかと疑問に思う者もいるだろう。今の人里に住まう者なら想像にかたくないと思うが、柳であれば水辺でも強い根を張れる事を知っていたからである。
無理矢理生やされた芽が僕から宛てがわれた力によってメキメキと育ち始めるのを見届けた後だ。
僕はすぐに川の真上の天井に向けて光線弾を放つ事で岩盤を崩落させた。土煙をあげて崩れた天井は見事予想通りの落下地点へと落ち、成長しきった眷属達の手によってスキマ一つ残さぬように根が張り巡らされていく。そして、それまで通っていた部分を塞がれた事で行き場を無くした水は里へと流れ、瞬く間に里を呑み込んだ。それにより、家屋に隠れていた連中というのは敵味方問わず流される事となったのだ。
その結果として敵達もここで流されるわけにはいくまいと、こちら側へと大きく前進してきたのであった。
「お燐、君は一度主の所へと戻るといいよ。作戦を伝えたいし、これからこの場所は火の中のように熱くなるからね」
「にゃーん?」
「なに、さっき話した作戦さえ君が覚えていてくれればいい。さとりちゃんならきっと分かるはずだ」
「にゃーん!」
お燐がぴょんぴょんと跳ねながら地霊殿へと戻っていくのを見送ると、ここで僕は集落と地霊殿を繋ぐ橋を破壊した。そして、そのまま地霊殿を囲んで護るように結界を張り巡らせたのであった。
「さとりちゃんもやれる子だとはいえ……、今のお前たちの相手は僕だ。地霊殿には一歩たりとも向かわせないぞ。
…にしても参ったな。自慢の髪がチリチリになりそうな程の温度だ。これ以上神霊である事に感謝する日はないだろうな!」
三途の川が神の力で塞き止められたことで全盛期の灼熱地獄への冷却を行える存在がなくなったため、こちらの予想以上に爆発的に気温が上昇し、地底全体が大熱波に襲われた。どれくらいかといえば、僕の全面的な庇護を受けた堅洲の大社、地霊殿を除いた領域の全てが、まるで地面に立つことすらも億劫になる暑さであった。
洪水に熱波と、まさに災害の詰め合わせと言えるような状態になった地底において、既に洪水から逃げる為に走り回っていた敵を更なる混乱が襲う。腐りかけの身体を引き摺ってこの地へとやってきていた一部の敵の身体が突如爆発を起こし、一瞬ではあったが火が立ち昇ったのだ。それにより、敵全体が同じような目に遭うことを恐れてこちらへと突撃してきたのである。
「なんだか知らないけど流れがまたこっちに来たな。…まぁいいさ。地上の子孫達は力及ばず負けてしまったとはいえ、地底の先祖はまだまだ現役だってことをヤツらに思い知らせてやろうか」
こうして僕は腰の
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…なお、この時の敵の爆発についてはこの戦の直後から最近までずっと原理が分からないことにモヤモヤしていた。なので僕達守矢勢が幻想郷へと越した後、某所にて隠遁していたとある筋の知り合いの所へと訪ね、その知恵を借りたことがある。
若い頃より親交のある、僕にとって大切な友達の案内を受けて館の門を叩くと、「…貴方ね。いくらお互い古い時代より面識があるとはいえ、こちらの都合だってあるのだから許可も無しに訪ねてくるのはやめなさい!」と、件の彼女にはこっ酷く叱られた。しかし結局、僕が彼女の親友の寵児であったという理由から相談には乗ってもらう事になったのだった。
そして本題である。熱波のせいで人体が爆発することなんてあるのか?とこちらが問うと、そんな事はまず起こらないと言う。そして、相手は黄泉の国より逃げた死霊だったと僕が新たに情報を伝えたところ、
「…ならば、まず気温の上昇で身体が急激に腐敗して可燃性の
と、最もそれらしい回答が返ってきた。
……流石はかつての天津神の知恵者。遠い昔、それこそまだ実の肉体があった頃には敵対したこともあったが、いつ如何なる時であろうとも困った事は彼女に聞けば並大抵のことは分かるのだ。
助けてもらった以上、僕は彼女に何か礼がしたいと伝えたものの、別にこの程度のことにそんなモノ必要ないわと言われてしまった。そのため、彼女の主に一目お目通りして改めて礼を伝えた後、屋敷に住まう人ならざるもの達からの冷やかな視線を背中に浴びながら親友に帰り道の案内をしてもらったのだった。
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脱線した話題を元に戻すと、敵の雑兵はもはや相手にならない程に崩れていた為、堤を切り崩す瞬間はまさにすぐそこへと迫っていた。はっきり言ってこのまま何事も無ければ上手く行く可能性しか無い。
だが、それはあくまでもの話である。現実はそう上手くは進まないのだ。
ここで、ずっと動かなかった親玉が動き出した。使えない兵士達の代わりに周りを渦巻く石桜の結晶達をこちらへと襲いかからせて、その間に彼女は地霊殿を覆っていた結界への攻撃を始めたのである。
僕は全速力で地面を蹴って走る事で奴の飛ばす結晶や弾幕を躱すと、大地を踏み締めて刀を振るう。ひとたび振るえば三日月のように反り返った形の弾幕の刃が絶え間なく生み出され、絡み合う蔦のように交差して敵へと向かっていく。*2
長年使い込まれたことで神力を宿した流星刀から繰り出されたこの弾幕群は目の前の結晶や防護の術をいとも容易く突き抜け、敵へと命中したのだった。
「 皆の者、館を攻めよ!ヤツが己の社と共に結界で護るほどの場所だ。必ずなにかが隠されている!ここを攻め落とし、我らの楽園を築くのだ!」
「させるかッ!」
手負いになった彼女の号令によって、勝てるなら何でもやってやるぞといった様子で敵勢は結界へと群がり始める。そして彼等は侵入を阻む結界へと妖力を込めた攻撃を繰り返し、死体に群がるウジのようにその数を増やしていった。
…なお、地霊殿に隠されていたのは偏屈なサトリ妖怪一名と彼女の趣味で収集された蔵書の数々、そのお供の猫、そして後にお供になる鴉の一頭と一羽だけである。奴らに得をさせる物などというのは、はっきり言って本当に何も無かった。
このまま地に足つけて戦えば要らぬ危険を招く可能性がある。そのため僕は大きく飛び上がって様子を伺う事にした。
敵の捨て身の攻勢の勢いは強く、死してなお奴らが持った生への渇望というものをこの身に染みるほどに僕は感じる事となった。しかし、彼等の足下には数多の焼け焦げた古代魚達が死に斃れていた。そう、奴らの立つ場所というのは正しく三途の川が流れていた路の跡であったのだ。
妖たちを護るために己の力を全開にしていたために恐らく真っ赤に染まっていたであろう眼を地上へと向けると、僕は空いていた左手を振り下ろし、一歩も躊躇する事なく堤を切った。
そこから先というのは、もはや分かりきったことである。連中は突然押し寄せた暴れ川に対して為す術なく呑み込まれ、全員が川の終着点である血の池地獄へと流されていくこととなったのだった。
そして生き残ったのは悪の親玉ただ一人であったのだが、ここで問題が発生した。
「うわー、遊んでただけなのに流される〜!朝斗彦ー、助けて〜!」
「何…!?」
聴き慣れた声がするのでその方向へと視線を向けると、数多の敵に紛れて約一名見知った顔が溺れかけているではないか。その名は古明地こいし、自由気ままな元サトリ妖怪であり、さとりちゃんの妹だ。彼女の放浪癖は周りの者が諦める程のモノだが、今回ばかりは運が悪かったようである。
「何やってるんだ!…ああもう、仕方がない!諦めるな、今助けに行く!」
僕は…まぁ、泳ぎについてはそれなりに自信があった。それはかつて、故郷である出雲を流れる
ハッキリ言って、信じられない程の恐怖を感じることとなった。
まず、こいしちゃんの手を掴むところまでは良かった。しかし、いくら力を使って脱出しようと試みたものの、水中より出れる気配が一切無いのである。
『僕の背中にしがみつけ!』
異変を感じ取った僕はこいしちゃんへと念話を送り、彼女を僕の身体へとしがみつかせた。
きっと地獄と現世を隔てる三途の川に対して神は本来生死を超越した存在であり、三途の川に自ら飛び込む事など想定されていなかったのだろう。
普段、慌てがちな妻や、孫娘同然に可愛がっている風祝の早苗が動揺した時に彼女達を落ち着かせる役目を請け負いがちな僕だが…この時ばかりは大慌てである。
たまたま隣の壁面が木だった(恐らくは流れてきた家か何かだろう…)為、それに刀を突き刺す事で流れに抗おうとしたものの…。目の前に突然現れた古代魚に襲われそうになるわ、得体のしれない何かに足を掴まれる等、普通に過ごしていればまず経験することが無い事をいっぺんに経験してしまったことで、完全に頭がこんがらがってしまったのだった。
「…クソッ!なんで出れないんだ!このままじゃ僕らまで溺れて血の池地獄に堕ちる!…久侘歌ちゃん!早く助けてくれ!」
支えとしていた剣を刺した家屋も段々と流れに押され始め、いつしか水中の色が鮮血の色へと染まりだし、やがて水質そのものがずっしりと重く、しかしそれでいて激しい流れが治まることもないという、なんとも摩訶不思議な変化を起こし始めた。
このままでは敵もろとも自滅してしまう!
そう思って僕が必死にもがき、顔を水面へと出した時、まるで充分に寝て迎えた朝の様に気持ち良く、透き通った歌声が聴こえた。