叢雲、天より根差す光   作:聖徳王の笏

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八十二話 鏡の中の女

 

 

 

 

『今のお主、その端正な顔が酷く歪んでおるぞ?』

 

 

 

地獄にほど近い、妙に大きな間取りで造られた一室にて、豫母都日狭美は銅鏡に映る自らの顔をただ意味もなくペタペタと触り続けていた。

 

 

 

「……姉さん、あの日からずっとあんな調子ね……」

 

 

 

「何があったのかしら……。もしかして、朝斗彦様に振られたんじゃ……キャアッ! し、失礼致しましたッ!」

 

 

 

銅鏡を投げ付けられた仲間達がそそくさと退散していくのを見送ったあと、日狭美は長い溜息をついた後に重い腰を上げて立ち上がると、それを拾いに向かった。

 

 

 

「……もう何もかもが色褪せて見える、あぁ……ダメね。こんな顔、朝斗彦様には見せられないわ」

 

 

 

鏡に映る彼女の顔は目に見えて窶れており、その生まれついての白い顔色やボサボサになった自慢の黒髪も相まって何とも不気味な風貌へと変貌していた。

 

 

そんな彼女の脳内に、再びあの顔が浮かび上がる。長年恋慕の想いを抱いてきた朝斗彦のことを諦めろと忠告してきた憎き主、日白残無の顔である。

 

 

 

「…………うがーっ! なんなのよっ! アンタに、わたくしの何がわかるって言うのよッ! このッ、このッ!」

 

 

 

彼女はこれまで常に朝斗彦への想いと共に過ごしてきたため、それをよりもよって部外者に否定されたことで生じたこのやり場のない感情を何処に向けるべきなのかも分からない。

 

それに、気軽に相談できる友人でもいれば良いものだが、あいにく日狭美にはそんな存在も居ない。

強いて言えば朝斗彦がその枠になるのだが、いくら地底中の狂気を凝縮したような存在である彼女でも流石に失恋対象である彼に相談する訳には行かず、不満は溜まる一方であるために余計に悪循環へと陥っていた。

 

 

 

「はぁ……はぁ……。そうだわ、あの緑目の娘に相談しましょう。見ず知らずのわたくしの話を聞いてくれたんですもの、相談に乗ってくれないはずないわ」

 

 

 

散らかった家財などを片付けることもなく日狭美は最低限の身なりを整えると、フラフラとした足取りで自らの住まいを後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは都の中でも特に賑やかな、大通りに面した地区にある酒飲み処。連日多くの鬼達で賑わっており、チラホラと他種族の妖怪たちも見えるこの酒場は、鬼の有力者の一人である星熊勇儀が取り持つ場所の一つである。

 

 

店へと入ったパルスィはもはや顔パス状態でいつも通りに店内の奥にある座敷席へと案内され、その場でどっかりと胡座を書いて星熊盃を片手に酒を仰ぐ勇儀の隣へと案内された。

 

 

 

「……ぷっはァーッ! 

……おっ、来たねぇ! 我が友パルスィ! 待っていたよ! ほら、ここ座んなっ」

 

 

 

「なら、お言葉に甘えてお邪魔するわ。それにしても相変わらずの飲みっぷりね、妬ましいわ」

 

 

 

「そうかい、妬ましいか! なら、そんなお前さんにも私の酒を分けてやろうじゃないか! 分かってるだろうが、アタシの酒は足が早いから一気に飲むのがいちばん美味いからな」

「はいはい……」

 

 

 

手渡された星熊盃を両手に持ち、それに入った酒を仰ぐように飲んだパルスィを見て外野が盛り上がると、勇儀は手を叩いて喜んだ。

 

 

 

「パルスィ、いい飲みっぷりだ。全く、あんたがアタシのダチで良かったよ!」

 

 

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいわ。……あっ、ねぇ勇儀? そういえば私、貴女が前に言ってた人と会ったわ」

 

 

 

「……? 誰のことだ?」

 

 

 

勇儀の太い腕に色白の細い腕を組んだ後にパルスィがそう言うと、勇儀はピンと来ない様子で首を傾げていた。

 

 

 

「あの大きな身体の妖怪よ。名前は……確か日狭美とか呼ばれてたかしら」

 

 

 

「……おおっ! そうか! パルスィ、アンタもアイツと会ったのかい。

……んで、どうだった。やっぱり変わってたろ?」

 

 

 

「えぇ。彼女、なかなかクセが強くて、見ていて面白かったわ。失恋してたけど」

 

 

 

「そうさなぁ。アイツ、東神サマの事大好きだからなぁ……って、何だとッ!? ちょっと待て! あの黄泉醜女が、フラれた!? 東神サマに!? 

どういう事だ? その話、アタシに詳しく教えてくれないかい?」

 

 

 

早くも顔を赤くしてぽやぽやとした雰囲気を醸し出すパルスィの一言に勇儀は偉く仰天した。

黄泉醜女と東神葦原朝斗彦の因縁にまつわる伝説。それは、彼女が幼き頃より近親から聞かされてきた話であり、その話の当事者二人が今間近にいる以上、そのあやふやな関係は永遠に続くものだと思っていたからだった。

 

 

そんな珍しく慌てた勇儀に肩を捕まれ、ゆっさゆっさと揺らされながらパルスィは自分の目の前で起きたことを話し始めた。

 

 

 

「……まぁフラれたというか、諦めさせられたというか? 

ほら、貴女とあまり仲良くない人、居るじゃない? ……ダメね、普段ならスグ思い出せるのに頭が回らなくて名前が思い出せないわ……。まぁ兎も角、あの人鬼に『もう王の事は諦めた方がいい』って、バッサリ言われちゃったのよ」

 

 

 

「……残無か! 彼奴、なんて事を! 日狭美から東神サマを取り上げたら、残るのは他人をつけるのが趣味の、ただ様子のおかしいヒョロ長女だけだってのに!」

 

 

 

頭を抱える勇儀を他所に、パルスィはどこからともなく覚えのある気配を感じ取っていた。

先程のイッキ飲みで一瞬にして出来上がってしまったせいで思い出せないその気配の持ち主とは、何を隠そう豫母都日狭美である。彼女は街道を往く人々の海を割るようにフラフラと歩き続け、パルスィを捕らえんと店の目の前までやってきたのだ。

 

 

 

 

 

「……うーん、あっ! 勇儀、日狭美さんが来たわよー」

 

 

 

「なっ!? 

……おいお前ら、まずは奴に要件を聞くんだ! 追い返すのはそれからにしろっ」

 

 

 

 

 

 

酒場を包む喧騒が嫌な雰囲気へと変わりだし、それまで赤ら顔であった鬼達が勇儀の号令のもと店外へと駆け出した。その為、彼らを慌てさせた原因となったパルスィの、普段のクールビューティさからは想像できないほどのにこやか具合など、この場にいる誰も気にしなかった。

 

 

なにせ、今は死霊顔負けの死相を振りまく黄泉醜女の対応で精一杯なのだから。

 

 

 

 

 

「泣く子も黙る黄泉醜女様がアタシのシマに何の用件だい? 内容によっちゃ、タダじゃあ置かないよ!」

 

 

 

 

 

暖簾を潜り、下駄を鳴らしながら元締めである勇儀が啖呵を切るも、猫背の黄泉醜女は何も言わずに不気味な雰囲気を醸し出す。なお、身長六尺六寸(2メートル)以上である勇儀と八尺(2.4メートル)を優に越える日狭美が対峙する様は、もはや地底の怪獣大決戦である。

 

 

 

 

 

緑目の娘を出しなさい……

 

 

 

 

 

「……えっ? なんだって? 声がちっちゃすぎて聞こえないよ! 

もっとはっきりと喋ってくれないかい?」

 

 

 

 

 

「───────っ、緑目の娘を出しなさい! 今すぐに! ここに居るのは分かっているのよ!

 

 

 

 

 

口から光線の一つでも放ちそうな剣幕で日狭美がそう叫ぶと、周りの鬼達がたじろぐ中で勇儀は別に驚くこともなく、ただ一人だけ首を傾げていた。

 

 

 

 

 

「……あのさ、アタシのパルスィに何の用があるってのさ?」

 

 

 

「貴女には関係の無いことよ。わたくしはただ友達である彼女に相談に乗ってもらいたいだけなのだから!」

 

 

 

『……』

 

 

 

(何だよ、それだけかよ!)

日狭美の切羽詰まった見た目とは裏腹に飛び出た思わぬ一言に鬼達はすっかり拍子抜けしてしまい、辺りを取り囲んでいた者達はハァ……と肩の荷を下ろした。

 

 

 

 

 

「……姐さん、どうします? ヤツをあげますか?」

 

 

「……まぁ、相談事ってくらいならイイだろ。あの様子じゃ当分帰ってくれないだろうし」

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

楽しいサシ飲みのはずが、予期せぬ乱入者を迎えての三者面談の開始である。

この現実を受け入れられない勇儀と、騒ぎの間に酒の摂取量が危険水域へと突入したパルスィに、所狭しと縮こまった日狭美の三人の集まりという謎の組み合わせは、周りでいつも通りの平静を取り戻した者たちにとっては余りにもシュールすぎるものだった。

 

 

 

「……で、相談事ってのは一体なんなんだい? もしかして、例の噂のヤツかい?」

 

 

 

「なんで貴女が知ってるのよ。これだから人ってモノは信用出来ないわ……」

 

 

 

「いや……勘違いして欲しくないんだが、話してきたのはコレだからな。正直、私だって驚いているんだ」

 

 

 

勇儀は自らの肩に寄りかかりながら徳利を仰ぐパルスィへと親指を向け、そんな勇儀に甘えるパルスィの様子を見た日狭美は既にここへと来たことを少し後悔していた。

自身の失恋の相談をしに来たというのに、そんなものを目の前で見せられるという状況は、どんな地獄よりも厳しいものがあったのだ。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

(話すことがない…)

基本酒宴の場であれば誰とでも打ち解けられる勇儀がそう感じるなど、本当の地獄である。彼女が頭を抱えたまま闇雲に時のみが過ぎ去っていき、目の前に出された食事もほぼ減っていなかった、その時だった。

 

 

 

 

 

「勇儀〜、来たぞ〜……あれ、日狭美じゃん。お前、東神さまに振られたんだって?」

 

 

 

『!?』

 

 

 

 

 

お通夜のような雰囲気漂う座敷席に、もう一人の乱入者が現れた。その霧散した身体が集まり、日狭美の横へと座るは百鬼夜行の総大将、伊吹萃香である。

 

 

 

「……ちょっと、角! わたくしに当たってるわよ!」

 

 

 

「……んぇ〜? 仕方ねェだろ。そうだ、お前の身体がデカすぎるのが悪い! だから私は悪くねーよーだ!」

 

 

 

「なんですって!?」

 

 

 

「オイ萃香……。日狭美は見ての通り今気が立ってるんだよ。ここで暴れられたら困るから、ちょっとばかし身体を小さくしてくれないかい?」

 

 

 

「……日和ってんのか? オイ、勇儀! お前、オキニの女が出来てみみっちくなっちまったな」

 

 

 

「なんだとッ!」

「事実だろうが!!」

 

 

 

「……ちょっと、ケンカしないでよ。折角飲んでるお酒が美味しくなくなっちゃうじゃない」

 

 

 

『……』

 

 

 

まさに売り言葉に買い言葉といった様子で立ち上がり、組み合った萃香と勇儀はパルスィの一言を聞き、たしかにそれもそうだと落ち着きを取り戻し、各自の席に座り込む。

そして互いに口に酒を含み、喉を鳴らした後にノソノソとツマミを手に取り始めた。そして、萃香は配膳途中であった鬼に無理を言って座布団を一つ持ってこさせたあと、その上に座って体を少しばかり縮こませたのであった。

 

 

 

 

 

「……それで、日狭美サンよ。私らはあんたに何をしてやりゃいいんだ」

 

 

 

「……とりあえず、誰でもいいからわたくしの話を聞いて欲しいの。そこの緑目……いや失礼、パルスィさんは見ず知らずのわたくしの話を聞いてくれたから、頼れると思ったのよ」

 

 

 

 

 

「フーン……」

 

 

「……だってさ、聞いてやれよパルスィ」

 

 

「……いや萃香、もうこの子は持たないよ。前後不覚になってる」

 

 

「……じゃあ、私らが聞くしかねーな。どうせ、他に相談出来るやつなんざコイツにいるわけが無い」

 

 

 

 

 

「否定しようの無い事実とはいえ、貴女本当に失礼ね……。誰に似たのかしら……」

 

 

 

「…東神サマだろうね。あれは優しい方だが、毒を吐く時は一切迷いがない」

「私はあのお方の背中を見て育ったんだ。だから悪いのは全部東神さまだよ」

 

 

 

くちゃくちゃと口を動かしながら喋る萃香と、きちんと飲み込んでから話す勇儀。朝斗彦が注意し続けた萃香の悪癖は直っていなかった。

 

 

 

「アナタ達本当に彼を信仰対象にしてるの……? まぁいいわ。確かに私の話を聞いてくれるような存在が朝斗彦様しか居ないのは事実だから……」

 

 

 

「なら尚更だろ。その東神さまに振られましたって面と向かって言えばいいんじゃないか?」

 

 

 

「ダメよ、そんな事したらあのお方のことだから憐れみで優しい言葉を掛けてくるに違いないわ」

 

 

 

「……めんどくせーやつだな。

というか、そもそもなんでこんな事になったんだよ? ここまでずっと放置してきたのに、今更になって東神さまが振るなんて事あるか?」

 

 

 

「いや萃香……それがな、かくかくしかじかってヤツだ」

 

 

 

「……ほーん? へっ、なるほどなぁ……。ああ、私には分かったぞ? どうしてアイツがそんな風に言ったか」

 

 

 

「何?」

 

 

 

萃香は唐突に、「オイ、ちょっと耳貸せ!」と言うと、勇儀の傍に寄って内緒話をし始めた。日狭美はその様子を不審がったものの、肝心の話を聞き取れない。対する勇儀は萃香の話を聞き、ああ〜と一言口にすると、ニヤニヤと笑い始めたのである。

 

 

 

「なるほどなるほど。読めたぞ? 確かに、萃香の言う通りだねぇ」

 

 

 

「だろ? お前もそう思うよな?」

 

 

 

「ちょっと、何二人で話して勝手に納得してるのよ。わたくしにも教えなさいよっ!」

 

 

 

「ああ、わかったわかった。勿論教えてやるさ、なぁ萃香?」

 

「おう、勇儀や」

 

 

 

落ち着いて聞けよ? と前置きした上で、勇儀は日狭美に先程二人で話したことについて伝え出す。

それは、ちょっとしたイタズラのような軽い気持ちによる流言である。

 

 

 

 

 

「……実はさ。これはここだけの話なんだが、残無のヤツはお前さんのことを実に気に入っているんだ。……手元から離したくない程にな」

 

 

 

「……何を言ってるのよ。さっぱり分からないわ」

 

 

日狭美がそう言うと、すかさず萃香が割り込んで援護に入った。

こういう悪巧みをし始めた時の二人の豪傑がみせる阿吽の呼吸は、日狭美が付け入る隙すら生じさせぬものであった。

 

 

 

「まだ分からねーか。

だからな日狭美、残無はお前のことを好いてるんだよ! それなのに、お前がいつまで経っても東神さま東神さまって言ってるから妬いてたってことだ!」

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

「お前も薄々感じてたんじゃねーか? あいつからの熱い視線の数々を!」

 

 

 

萃香の強攻は留まる所を知らず。だがしかし、その言葉の数々には日狭美にとって心当たりのあるものも多かった。

 

 

 

 

 

 

〜……

 

 

 

 

 

『日狭美、あの部分の造りが見えにくいから儂を抱えてはくれぬか』

 

 

 

『日狭美、お主儂の想像していた以上に出来る女じゃな。素晴らしいぞ』

 

 

 

『日狭美……さっきから独り言が口から漏れ出ておるのだが……。王の事など考えるでない、気が散るだろう』

 

 

 

 

 

 

~……

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「……ありゃ、やりすぎたか?」

「分からないけど大丈夫じゃないか?」

 

 

 

すっかり黙りこくった日狭美の様子を二人が伺っていると、彼女は肩を揺らしながらそのすべすべな手袋に覆われた指で目元を擦り始めた。

 

 

 

 

 

「なんと…、残無様……日狭美をそこまで想ってくれていたなんて……っ! 今まで気付けなかった馬鹿な日狭美をお許しくださいッ!」

 

 

 

 

日狭美はしくしくと泣き始め、勇儀と萃香は自分達が残無を嵌めたにも関わらず、目の前で起きている事がにわかには信じられなかった。

 

 

 

「オイ、やったな。私たち」

「ああ、やっちまったね。萃香、死なば諸共だよ」

 

 

 

「……しかし、チョロすぎるだろ。コイツ、誰かに愛された事とか無いのか?」

 

 

 

「なにせ、今までずーっと東神サマ一筋だったんだ。自らを想う者がいるなんて聞いたら……もう止まらないだろう」

 

 

 

酔い潰れて寝落ちしたパルスィを移動させ、その代わりに勇儀の隣に座った萃香は困惑の表情を浮かべ、勇儀は珍しく跳ね上がった心拍数を抑えようと冷静に状況を整理しようとしていた。

 

 

こうして、歴戦の二人が珍しく動揺している中で、日狭美は落ち着きを取り戻していた。彼女の長い前髪の隙間から覗く紫紺の瞳には光が宿り、先程までの虚無感は既に感じられなくなっていた。

 

 

 

 

 

「……はぁ。貴女達、わたくしを気付かせてくれて本当にありがとう。この恩は感謝してもしきれないわ」

 

 

 

「あ、ああ。……ところで、お前さんの中で東神サマの扱いはどうなるんだ?」

 

 

 

「勿論、お慕いするわよ? 但し、わたくしには残無様という魂の伴侶ができた以上、この地の王として朝斗彦様には変わらぬ忠誠を誓うわ」

 

 

 

「お、おお……。そうかい、穏便に済みそうで何よりだよ」

 

 

 

「……こんな所でのんびりしていられないわっ! 急いで帰って、残無様の隣に立つ者として相応しい様務めなくては! 

 では三人とも?また機会がある時にお会いしましょう」

 

 

 

 

 

日狭美は寝落ちして隅へと避けられていたパルスィ含めた三人に挨拶をすると、店内全員の視線を浴びながら店を後にした。

 

 

 

 

 

「……そういえばアイツ、何も口につけてねーな。やっぱり、少しでも食えば黄泉竈食的なアレになっちまうのか?」

 

 

 

「ホントだねぇ? 勿体ないから二人で食べるとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後。

 

 

場所は戻り、黄泉醜女達の暮らす屋敷。その奥の間において、豫母都日狭美は銅鏡を眺めながらその艶やかな長い黒髪を整えていた。

 

 

 

「……なんだか、最近の姉さんって凄く変わったと思わない?」

 

 

 

「そうね……。仕事で精彩を欠くようなこともないし、むしろ生者と見間違えるくらい生き生きとされてるわね……」

 

 

 

日狭美と志を同じくして地底へとやってきた黄泉醜女たちがそう噂話をしていると、やはり流石は追跡者と言うべきか、日狭美はその気配を一瞬にして察知した。

 

 

 

「…貴女達っ! そこにいるのは分かってるわ。出てきなさいっ!」

 

 

 

「申し訳ございません、日狭美様ッ! 何卒、罰だけは……!」

 

 

 

恐ろしい追跡者の姿を知る彼女達が、ひーんと泣きそうになりながら謝り倒すと、日狭美はキョトンとした表情で彼女達を眺めていた。

 

 

 

「……罰? 貴女、何を言ってるの? 別にそんな事はしないわよ。そんな事したら、せっかくの気分が台無しじゃない!」

 

 

 

残無によって強制的に失恋させられたあとの荒みきった嗜虐(しぎゃく)っぷりがまるで嘘のように、日狭美は誰が見ても分かるほどに美しくなった。そして、纏う雰囲気もまた、それまでの妙なモノとは様変わりしていたのである。

 

 

 

 

 

「えっ……。姉さん、なんだか変わりましたね?」

 

 

 

「あら、やっぱり分かるかしら!? そう、わたくし気付いたのよ……。変わらなきゃ……って。

こうして鏡に映る自分を見て、ここで見える部分から変えなきゃって思ったのよね……。あっ、前髪以外よ! コレは好きでしてるだけ!」

 

 

 

「……なら、私達の間で流行ってる化粧の品とかお教えしましょうか? ちょうど最近、仲間たちの間で上手く死相を隠せるモノが流行ってるんです! 日狭美様が使えば、もっとお綺麗になるに違いありませんわ!」

 

 

 

「そんなのがあるの!? わたくしにも教えて頂戴!」

 

 

 

 

喋りだしたら止まらないことや、相変わらず挙動だって不審でもあるものの、日狭美が幸せそうであれば黄泉醜女達には充分だった。

そこにあったのは恐ろしい妖怪の巣窟ではなく、年頃……年頃?な女子たちの姦しいやり取りだけである。

 

 

 






ヒサミインザミラーなお話でした。
鬼達の後先考えないオフザケによって、たまたま朝斗彦に似た風貌の残無様はこれをもって日狭美さんの熱視線を一身に受けることとなります。

次回は時代が進んで200年後の話。幻想郷の歴史的事件に地底の面々も巻き込まれます。
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