一話 最強の目覚め
分身……それは多くの場合、強力無比な能力として扱われる。成長の促進、手札の膨大化、手間の簡略化。
これらのように分身の能力を得た能力者は強者と言っても差し支えないチートとして君臨している。
そう…呪術廻戦の紙袋男以外は。アイツは本体を含め、五つの自分を形成できるという数の少なさはあるが、全てが分体であり、全てが本体という他の分身能力にはないトンデモ能力を持っている。
これをチートと呼ばずになんと呼ぶのか、俺には分からない。
そんなチートを無駄遣いしたのが紙袋男だ。フィジカルが弱い?うるせぇ知ったことかよ。戦いにリソース全ブッパするアホがどこにいんだよ。
一体だけでも残しといたら生き残れていたろうに。
そうやって紙袋男に対して不満を溜めていたのが今までの毎日だった。
けれど、今は違う。紙袋男の術式を持って転生してしまったのだ……ヒロアカの世界に。
うん……うん、微妙なラインだ。僕のヒーローアカデミアとかいう呪術廻戦と少し劣るか同じ程度に終わっている世界に転生とはな…。
原作の紙袋男よりかは良くやるつもりだが、最後まで生き残れるとは思えねえんだよなあ…。絶対AFOに取られて終わりだろ。
「修練はやるけどよ…イメージができないんだよなぁ、最高のヒーローになるイメージがよ…」
「つーか、俺がヒーローになれるもんかねぇ」
ポツポツとくだらない戯言を吐き捨てつつ、分身の個性を発動する。
手のひらから大量の粘液が出たかと思えば、それは人の形を成す。轟焦凍にも負けないイケメン具合に惚れ惚れしつつ、拳を固めようとして、気付いた。
俺の個性…分身は分体を生み出す際、特殊な粘液を出し、人の形とする。既存の形として存在する、どの粘液とも違う特殊な代物だ。
個性の使用によって発生した副産物。これを利用できるのではないかと思う。
術式とは自分だけの小さな世界。解釈次第でどこまでも広がる箱庭。
「やめとけ。お前に荷が重い。少なくとも、今のお前には、な。カスみたいな呪力効率しかない状態で拡張術式は無理だ。身体機能の延長線上にあるのが今の能力だぞ?今の状態を考えろ。失敗すればなんらかの異常が発生するかもしれない。学長の呪骸で修行を行った虎杖と同じくらいの呪力操作しかない事を懸念事項に入れてみたらどうだ」
目の前に展開した分体がペラペラと喋る。想定していなかった事、想像もしなかった事を喋る。
呪術の世界なら問題なかったのかもしれないが、今のヒロアカ世界における能力な身体能力の延長線上に他ならない。
不完全な拡張術式を使った時、どんな影響が出るか分からない。
せっかく転生したんだ。慎重で行きたいのは確かだな。
「だけど、それはこれから数日間の話だ。お前は一人じゃない。一人じゃ何ヶ月もかかる事でも、俺たちじゃその5分の1で済ませられる。もしかしたらそれ以上かもな!」
「分体……」
「せっかくの能力持ってんだ!最強目指さなきゃ男じゃねぇ!」
「あぁ…!」
自然と、手を取っていた。
➖➖➖
分体一体目
最初期の個体である
背筋がヒヤリとするような、命をめぐった争いを経験するために深夜の廃墟へと向かう。
午前中の分身体を用いた探索でここにヴィランが潜んでいる事は把握済みである。
この個性を持っているからこその訓練と言えるだろう。
「ガキが何の用だ」
「……」
「おい、答えろ!」
平均的5歳児程度の身長しかないファルガを見て、ヴィランはそんな言葉を漏らす。
迷い込んだにしては深夜遅く、ヒーローやヴィジランテと形容するには幼すぎるからだ。身長が低いヒーローはいるが、ここまではいない。
だから……警戒を全面に出している。
それが無駄になるとは知らずに。
「一刺し」
「は、っ……?か、はっ」
膨大な呪力と出力から繰り出された矮小な一撃はヴィランの一人を破壊した。目にも止まらぬ速さで滅多刺しにし、両者は血で汚れていた。
もっとも、ファルガの方は返り血であるが。
「殺してはない。時間が経ったら死ぬと思うけどな」
「テメェ……!」
「ヴィランになってるお前らが悪いんだよ。だからクソキツイ目に合うんだよ」
血で汚れたナイフを構えつつ、10人ほどいるヴィランに目を向ける。
10分が超える前にある程度の戦闘経験は積みたいところだ。
最悪の場合、AFOと戦わなきゃいけない事になるかもしれないのだから。
「ぶっ殺す!」
巨漢の男が突如突っ込んでくる。腕が銀色に変化したところを見るに体の一部を鉄に変化させる個性だろうか。金属らしい光沢もある事だ、金属系の個性には間違いない。
バランスを壊していないのは、やはり個性だからだろう。
「術式や呪力よりもファンタジーだよな」
先刻よりも多くの呪力を含んだナイフ攻撃。それが金属化しきれていない右腕に接触し、突き刺す。予想外の一撃と想定していなかった痛みに冷静さが失われ、攻撃が緩む。
僅かな時間、時間が止まったかのような錯覚に落ちる。
その錯覚に導かれるまま、ナイフを捨て、拳を向かわせる。
どこか熱く、どこか冷静で……なぜか確信していた拳は肉薄し、直撃する。
「黒閃……!!」
黒い火花は才能を愛している。虎杖悠仁が愛されているように、ファルガも……
「はは、はははははっ!!」
「これが呪力の核心!術式の奥!才能ありすぎて困っちまうよ!なぁ!」
身を包む全能感がファルガを狂わせる。黒閃を経験していなければ永遠に理解できないような呪いの力。
その真価が理解したのだ。狂い、興奮し、全能感に染められるのも仕方ないだろう。
「今ならお前らのことを捻り潰せそうだ」
地面を強く踏み込み、ヴィランに向かおうとしている時、両耳につけていたイヤホンから声が流れる。
『ファルガ、今すぐ引け。オールマイトがくる』
「だる。予定時間よりも早く来てんじゃねぇよ」
「ヒーローがくるみてぇでな、俺とお前らの戦いはおしまいだ。じゃあな」
本体としての権能を二号に移し、ファルガは自害する。
落ちていたナイフを拾い、首を掻っ切る。
ファルガの体は粘液のように溶けていき、そこには少年がいた証明なぞ残っていなかった。
「私が来たァ!」
何が起こったか分かっていないヴィランたちに襲いかかってきたのは