自衛官だったけどスネークになったので世界大戦を阻止してみた   作:みどり色

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第5話 システムの超越

三人のソ連兵は食事を終えるとやっと一息ついたという様子で深く息を吐いている。

俺は食後のコーヒーを提供しながら彼らが話し出すのを待った。

・・・・・というか俺はどうして敵国の軍が管轄する地域の、それも食糧庫でコーヒーを振舞っているんだ?

ま、まあ細かいことは気にしてはいけないか()

 

 

彼らの名をそれぞれ“セルゲイ”、“ミハイル”、“ニコライ”というらしい。

以下にも東欧人っぽい名前で助かる。

変化球みたいな凝った名前だったら絶対に覚えられないからな()

 

リーダー格のセルゲイはザ・ロシア人みたいな感じの風貌だ。

黒に近いグレーの短髪に鋭い目つきに骨太、筋肉質な良い体格をしている。

CQCを仕込んだらかなりの使い手になりそうだ。

 

ミハイルは対照的に線の細い瘦躯長身の男だ。

M字に後退した黒髪短髪、無精ひげに覆われたその顔つきはどこか利口そうな印象を受ける。

インテリ担当だな、コイツは。

 

三人目のニコライは一言で言うとハリウッド俳優張りのイケメンだ。

・・・なんだか腹が立ってきた。

金色の髪は長期に渡る任務の影響なのか伸びてきている。

その前髪が青に近いグレーの瞳に掛かっている。

誰がどう見てもイケメンだ。

・・・どうしてだか激しい憤りを感じる。

顔と同じで性格もクールなのか、あまり話さない所にもさらに腹が立つ。

・・・はらわたが煮えくり返りそうだ。

次回CQCを掛ける機会があったら強めに首を絞めるか、激しく直投げすると心に誓う。

 

「アンタ、例の侵入者だろう? どうして俺達を助けた?」

 

リーダーのセルゲイが口を開く。

飯を食わせたくらいで助けた認定はチョロ過ぎると思いながらも、都合よく解釈してくれているならあえてそれを否定する必要も無いだろう。

 

「『お前たちを助けたくなった』理由なんてそれだけで十分だ」

 

俺はイケイケ大塚明夫ボイスで口から出まかせを吐く。

だが声のせいなのか本人の意図しないレベルで深みを与えてくれる。

彼らは俺の言葉には様々な意味が込められていると勝手に解釈してくれたようだ。

便利過ぎんかこの声()

 

「この後はどうするつもりだ? 一人で大佐の部隊を相手にするつもりか?」

 

「別に真っ向から仕掛けるだけが戦いじゃない。一人なら一人なりの立ち回り方がある」

 

「・・・・・」

 

「お前たちは自由にすれば良い。だが俺がここを立ち去る少しの間は眠っていてもらうがな」

 

三人は顔を見合わせている。

俺は場を持たせるために葉巻を取り出し、火を点けて煙を堪能する。

—————洗練された動きだ。

ノイローゼになるほど訓練した据銃やトランジションもここまでの頂には至っていないだろう。

軍人としてそれはどうなんだ?という声が聞こえてきた気がする。

だがあえて言わせてもらおう・・・余計なお世話だと!!!

 

んっんん!!

場を持たせられているかは分からないが、この場の温度が少し下がったのは気のせいではないだろう。

もはやポーチではなく俺の肩の上を定ポジに決めたツチノコから意味深な視線を向けられる。

おいツチノコ、今なら時間がある。

言いたいことがあるならチャンスだぞ?

 

ん?

ツチノコがもぞもぞと俺の身体を這い出し、ユーティリティーポーチの中に消えていく。

何をしているのかと思って覗いてみるとカロリーメイトをむしゃむしゃと咀嚼している。

・・・・・あのー、勝手に食べないでもらってもいいですか?

マジでピンチの時に“あると思っていた物”が無くなってるとか悪夢なんですけど()

 

「一つだけ聞かせてくれないか?」

 

二人?で漫才?をしている最中、彼らは話し合いをしていたらしい。

何やら覚悟を決めたような顔でセルゲイが声を掛けてくる。

・・・・・申し訳ないが俺は女にしか興味はないんだ。

いやセルゲイ君、決してアンタの癖を否定している訳じゃないんだ。

非常にセンシティブな議題だが、個人レベルの話であれば男でも女でも好きな方にすれば良いさ。

だが俺を巻き込むというなら話は別だ。

このチートボディーを最大限活用して全身全霊魂を込めた俺のCQCを—————

 

「アンタはなんの為に戦っているんだ?」

 

お見舞いs・・・・・は?

ちょっと待て、“全身全霊魂を込めた俺のCQC”という新手の下ネタ発言を生み出すキッカケになったセルゲイ君が脈絡なく意味不明の言葉を発する。

 

「大戦の時の話だ。まだ十代で新兵だった俺はポーランド侵攻に参加していた。そこで地獄を見た」

 

「・・・・・カティンの森」

 

「さすがに知っているか。ポーランド軍将校、警察、知識人、2万人以上が処刑された。2万人だぞ? 中には怪しいというだけで“ついで”のように殺された民間人もいた。俺は今でも忘れられない・・・NKVD(ソ連秘密警察)がまるで作業のように捕虜の頭に銃弾を撃ち込んでいく光景を」

 

セルゲイが言っているのは第二次世界大戦中に起きた“カティンの森事件”と呼ばれる大虐殺だ。

当時ポーランドに侵攻したソ連は、ポーランド軍の将校や警察官、官僚や知識人など国家の中枢に成り得る人材を秘密裏に処刑していった。

その目的はポーランドという国家を再建できる指導層を排除することにあったと言われている。

国の“脳”といえる人材を失えば、ポーランドの反乱や政府再建は難しくなる。

ポーランド国家を弱体化させる政治的・戦略的な粛清ともいえる。

 

ポーランド侵攻当時、ソ連はドイツと不可侵条約を結んでおり、ポーランドの西をドイツが、東をソ連が分割占領していた。

しかし後にドイツがソ連に侵攻したことでこの不可侵条約は事実上の崩壊を迎え、カティンの森で大量の遺体を発見したドイツが世界中に公表したことでこの事件は明るみに出たんだ。

 

「まだ若かった俺は祖国の行いにも理由が、意味があるのだと自分を納得させようとした。そしてGRU所属になってしばらく経ってからヴォルギン大佐がこの事件に関わっていたのを知った。それだけじゃない、この大虐殺を積極的に推進していたのを最近になって知ったんだ」

 

セルゲイの言葉には徐々に怒りの感情が含まれていった。

彼の怒りは無力な自分に向けられているというのも俺には理解できてしまった。

 

「もう一度聞く。アンタはなんの為に戦っているんだ?」

 

何の為・・・か。

自衛隊所属であったなら理由はある。

だが今その理由を問われると—————

しかし俺の中には一つだけ普遍的なものがある。

それを口にすることはセルゲイに対して誠意を欠く行為にはならないだろう。

 

「俺は、俺が信じるものの為に戦う」

 

「信じるもの・・・・・」

 

彼らは俺の言葉を受けて、少し考えてから言葉を続ける。

その口から出た言葉は俺の思いもしないものだった。

 

「決めた。俺達はあんたに協力する」

 

・・・・・は?

何がどうなれば俺に協力するという結論に達するのか全く理解ができない。

お前たちは祖国への愛国心や理念、守りたい者のために軍人という立場に身を置いているんじゃないのか?

それにツェリノヤルスクに配備されているのはGRUの将校であるヴォルギンの配下だ。

つまりこいつらはGRU傘下のスペツナズ(特殊部隊)ということだ。

その辺の・・・なんて言ったら失礼になるが一般兵とは何もかもが違う。

それが何故こうもあっさりと鞍替えできるのか理解できない。

 

「どういうつもりだ?」

 

俺は生まれつき唯一の得意技と言っても過言ではないポーカーフェイスを総動員して大塚明夫ボイス(ry

 

「もうアンタも分かっているだろう? 俺達は全員が大佐のやり方に賛同しているという訳じゃない」

 

暗い表情をしながらセルゲイが言葉を続ける。

それは先程の話からも理解できる。

だがそれでも、彼は今現在も自らの意思で軍人という立場を選択したはずだ。

 

もちろん理由は人それぞれだろう。

だがソ連という名の巨大な共和国連邦の理念を、国を、民を、家族を、財産を守るために軍は存在し、同様に軍人が存在している。

自軍を抜け、敵国に寝返るというのはそう簡単なものではないのだ。

今まで信じていたもの全てが引っくり返る。

かつて命を預け合った仲間に銃を向けることになり、自分の行いが祖国にいる家族や友の命を脅かすことになるかもしれないのだ。

 

「お前たちに、その“覚悟”があるのか?」

 

俺が発した“覚悟”という言葉の意味を三人は理解しているだろう。

軍人—————それも特殊部隊員にその言葉に含まれている意味を改めて説明する必要はない。

これはただの“確認”に過ぎない。

だが絶対に必要な工程だ。

それは俺にとっても同じだ。

この“選択”をするということは、俺は彼らの人生そのものを預かるということだ。

 

【未来が変わってしまう!】

 

その時、頭の中で声が響いてくる。

 

【タイムパラドックス!】

 

ダメだ。

そんなことはさせない。

 

【タイムパラドックス! タイムパラドックス!! タイムパラドックス!!】

 

彼らの意思を、覚悟を無駄にする訳にはいかない。

させてなるものか。

 

【タ、タタ、タ、タイムタイムタイムタイム—————】

 

まるで機械のエラーが起きたような、狂ったような声が頭に響き渡り脳の処理能力を越えたような感覚に陥る。

そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

________________________________________

 

 

 

<グラーニニ・ゴルキー研究所外庭>

 

クソッ、頭が割れるように痛む。

だが痛みがあるということは俺はまだ生きているってことだ。

・・・ある意味“至高の痛み”と言えるのかもしれない。

 

目を開けると見慣れない天井が視界に入る。

身体はベッドに横たえられていて、特に拘束などもされていない。

『つい最近もこんなことがあったな』と気の抜けたことを考えていると、少し離れた場所から声を掛けられる。

 

「起きたか? 身体の方はどうだ?」

 

「・・・シーツを換えたのはいつだ?」

 

「さあな、チップをケチったんじゃないのか?」

 

「ロシア人がジョークを言えるとは知らなかった」

 

「俺はベラルーシ出身だ」

 

「くそっ」

 

俺は身体を起こしながら頭を押さえる。

起きた時ほどじゃないが今も脳の血管が脈打っているような頭痛がする。

この痛みはセルゲイに一本取られたのも無関係ではないだろう。

 

「頭が痛むのか?」

 

「偏頭痛持ちの家系なんだ」

 

「野蛮なアメリカ人でも繊細な所があるんだな」

 

「俺は日本出身だ」

 

「ジョークが言えるなら大丈夫だろう」

 

俺は真実を口にしたがセルゲイはジョークだと思ったらしい。

失礼な、俺は正真正銘誇り高き日本民族だ。

 

「ここは?」

 

「グラーニニ・ゴルキー研究所の敷地にある小屋だ。秘密裏にアンタを運び込んだんだ。ニコライが外で見張っていて、ミハイルは情報収集中だ」

 

つまり俺とコイツらの関係は“無かったことにされなかった”ということだ。

理由は分からないが“システム”の制約を越えたのか?

 

俺には何が正しくて何が間違っているかなんてわからない。

だから信じるものの為に戦う。

昔からフラフラしている俺だがこの想いだけは貫いているつもりだ。

セルゲイ達もこの想いに賛同してくれたんだ。

カッコ悪いことはできないだろう。

 

「世話を掛けたな」

 

俺がベッドから起き上がると、同じくその場にセルゲイが立ち上がる。

 

「アンタ、この後はどうするつもりだ?」

 

「ヴォルギンを排除し、シャゴホッドも破壊する」

 

そして俺にとって最大の任務が残っている。

“ザ・ボスの抹殺”

骨の髄までアメリカに利用され、それでもなお彼女は祖国のために尽くそうとしている。

彼女の最後の任務は“祖国を売った売国奴としてアメリカに抹殺される”ことだ。

今までも彼女は全てをアメリカに捧げて来た。

文字通り自分の命も、そしてノルマンディー上陸作戦時に野戦病院で出産した息子も賢者達に奪われた。

それでも彼女は祖国アメリカの為に命を差し出し、任務を全うしようとしている。

 

「俺たちにも協力させてくれ。もうあの時のような思いは御免だ」

 

セルゲイは射抜くような瞳で俺に視線を固定する。

彼の心は決まっているんだ。

なら俺もその思いに応えない訳にはいかないよな?

 

「お前たちは今の立場を最大限利用して欲しい」

 

「なるほど、了解した」

 

・・・・・う、うん。

理解が早くて助かります!

特に指示を出さなくても自分の役割を理解している。

こういう人材ばかりだと助かるよな。

軍隊というのは命令に従うことが重要だが、ただの指示待ち人間を量産してしまう側面がある。

当たり前だと思われるかもしれないが、自分で考え、周りや上官の立場に立ち、その意図を組める奴は重宝される。

 

俺か?

俺は・・・・・んっんん!!

と、とにかく早く酔っ払いからアクセスキーを貰わないとな。

 

「アンタ、名前は?」

 

扉に向かって歩き出したところでセルゲイに呼び止められる。

あれ、名乗ってなかったか。

っていうかこのコードネームを名乗るの慣れてないんだよな。

なんか恥ずかしいんだよ、わかる?

 

「しゅねーくだ」

 

「しゅねーく・・・? 変わったコードネームだな」

 

「スネークだ(キリッ)」

 

「え? でも今しゅねーくって—————」

 

「スネークだ(迫真)」

 

 

 

 

その後、研究者の白衣?に着替えた俺はなんとかバレずに研究所内を進んでいた。

ここぞとばかりに葉巻を堪能している。

歩きタバコが許されるなんて時代の差を感じる。

どこからか葉巻はタバコじゃないなんて声が聞こえたような・・・いや気のせいだろう。

 

っていうか着替えただけでよくバレないよな。

お世辞にも俺の姿は研究者に見えない。

ま、まあ細かいことは気にしない方が良いだろう。

 

その時、制服に身を包んだやたらイケメンな男が前から歩いてくる。

・・・危ない、危ない。

何故か無性にイライラして無意識にCQCを掛けそうになってしまった。

よく見たらニコライ君じゃないか。

 

手に何か持っているな。

すれ違い様にそれを受け取る。

—————んんん!!!

なんとかCQC欲を抑え込めた。

俺の鍛え上げられた豆腐メンタルを褒めたたえたい。

 

俺は受け取ったものを白衣のポケットに滑りこませ、二階のトイレに向かう。

個室までチェックしたが・・・・・無人のようだな。

一番奥の個室だけ鍵が掛かっているのか、扉が歪んでしまっているのか理由は分からないが開かなかった

何かアイテムがあったような気もするが、どうしてだか『放置した方が良い』とありもしない俺の第六感が告げてくる。

 

まあ重要な物だったら覚えているだろうし、スルーで構わないだろう。

俺はニコライから受け取ったものを確認する。

それはタバコ型麻酔銃だった。

 

なんだよ、スパイ映画のワンシーンみたいに渡してくるからもっと重要な物かと思ったのに()

アイツはあとでCQCの刑だな。

 

貰ったプレゼントが期待外れだった時のような感覚に陥りながら俺はさっさと目的地まで急ぐことにした。

 

地下に降りていき、大部屋の研究室に入る。

その奥に酔っ払いがいるはずだ。

 

うーん、研究員の数が多いな。

顔をよく見られると大騒ぎして警報機を鳴らされるんだよなぁ。

面倒だしヤッちゃうか。

 

俺はニコライから受け取ったタバコを口に加えて片っ端に研究員の目の前に出て行った。

突然のことと、見慣れない人物の奇行に驚く研究員らだったが逃げだす隙は与えない。

俺は吸っては吐いてを繰り返し、大部屋にいた研究員全てを夢の世界へ強制連行した。

 

よし、お掃除完了!

これで気持ちよく酔っ払いおじさんに会いに行ける。

・・・・・ん?

今のは誤解を生むな()

俺は決しておじさんに興味はない。

本当だからね!?

 

必死になると説得力が無くなる現象に名前があるなら誰か教えてください()

 

 

 

 

「ソコロフならもうここにはおらんよ」

 

立派な執務室に足を踏み入れると、そこには酔っ払いのジジイがいた。

加齢臭と酒のせいで酷い匂いだ。

よし、殺すか。

 

「物騒なモノを出すな! 酒がマズくなるだろうが」

 

ガバメントとナイフを向けると酔っ払いが抗議の声を上げる。

いや、だから要因の一つがその酒なんだが。

 

「アンタ、例の侵入者だろう? さすがは資本主義の犬、人間の礼儀を知らん」

 

なんだコイツ。

ファーストコンタクトでいきなり失礼なんだが。

 

「さすがは共産主義の豚だな。まるで鎖に繋がれた家畜だ」

 

「この私を知らんのか!? それでよくエージェントが務まるな!」

 

「ただの酔っ払いだろう」

 

「違う!! 私はアレクサンドル・レオノヴィッチ・グラーニン、一言で言って偉大な男だ」

 

「本当に偉大な人物は、自分のことを偉大だなんて口が裂けても言わない」

 

「見ろ、レーニン勲章だ。最も優秀な労働者へ社会主義労働英雄の称号と共に贈られる最高の栄誉、私の輝かしい実績に対して授与されたものだ」

 

グラーニンはかなり酔っているようで、俺の言葉なんて耳に入っていない様子で胸元で光る勲章と、その実績について饒舌に語り続けている。

誰かが言っただろう?

歳を取ったら「説教」「昔話」「自慢話」はしてはならないと。

 

「今はコイツ(酒)をやる以外にすることがない。奴のせいだ、ソコロフだよ。アンタの狙いも奴なんだろう? 奴のせいで全権を奪われた。私の研究もお払い箱だ!」

 

グラーニンは『見ろ!』と言葉を続けながら引き出しから書類を取り出してテーブルにぶちまけ・・・散乱させ・・・見せてくる!(なげやり)

 

「画期的な移動核ミサイルシステム、二足歩行戦車・・・歩く戦車、ロボットだよ。猿からへとへの進化におけるミッシングリンクの話を知っているか? この技術は歩兵と兵器を繋ぐ—————」

 

「—————金属の歯車になる。兵器は革新的な進化を遂げることになるだろう」

 

俺はグラーニンの話を引き継ぐように口を開く。

グラーニンは一瞬驚いたような表情を浮かべた。

 

「ふんっ、ソコロフを選んだ上層部の馬鹿どもよりはアンタの方がマシなようだな。だが私はタダでは引かんぞ。泣き寝入りは御免だ。私はこの資料をアメリカの友人に送ってやるのだ。ここの連中は後悔する! そして自らが標的になったときに身をもって私の偉大さを思い知ることになるのだ! 私の研究はソコロフの下品なシャゴホッドとは志が違う! 戦車にロケットエンジンなどつけてどうする!? そもそも戦車に付加すべきなのはロケットなどではない!」

 

「ああ、全くその通りだ」

 

「分かってくれるのか!? 重要なのは脚だ! どこまでも行ける脚なのだ。人類が直立歩行したようにな!」

 

グラーニンの設計思想はこの時代に合っていないんだ。

国家を上げた宇宙開発競争、これによってロケット技術が急激に進歩した。

それに加えて、ロボットを直立させて、さらに歩行させるというのはこの時代においてはまさに夢物語だ。

既存技術であり大量生産可能なロケットと戦車を組み合わせるという設計思想は、まさにこの時代の考えやニーズに合致している。

早期に結果を出したソコロフのシャゴホッドが選ばれるのも無理はない。

だがグラーニンのメタルギア、この設計思想に時代と実現できる科学技術が追いつけば奴の言う通り、ここの連中は後悔することになるだろう。

 

だが—————

 

「“その時”が来れば、確かにここの連中は後悔する事になるだろう。だがアンタの“偉大さ”とやらを思い知ることになるかは甚だ疑問だな」

 

「なんだと?」

 

「確かに奴らは後悔することになるだろう。だがアンタの名は永久に闇に葬られることになる。何が正しいか決めるのはいつも“勝者”だ。勝者が正義と歴史を決めるんだ。今のアンタは勝者か?」

 

「・・・・・」

 

「アンタの中に悔しい気持ちがあるなら自ら行動しろ。“アメリカの友人”とやらの手柄にさせるな。アンタの思想を自分自身で現実にするんだ」

 

『それができるのは他の誰でもない、アンタだけだ』と俺は続ける。

グラーニンは酔いが醒めてきたようだ。

先程よりもハッキリとした目で俺を見てくる。

 

「アンタ、何者だ?」

 

「俺はスネークだ」

 

 

 

 

俺はグラーニンの協力を取り付けることができ、奴から倉庫の鍵を手に入れていた。

倉庫の施錠された扉の奥は森林地帯になっており、そこを抜けると山岳地帯へ出る。

山岳地帯にはヴォルギンらの本拠地であるグロズニーグラードへの進入路がある。

グロズニーグラードの地下に張り巡らされた地下壕だ。

 

「セルゲイ、聞こえるか?」

 

『ああ、良く聞こえている』

 

俺はセルゲイに無線を繋げる。

タイミングが良かったのか、彼はすぐに無線に応えてくれる。

 

「グラーニンの協力を取り付けることができた。奴の安全を確保して欲しい」

 

『グラーニンの? アンタ、一体何をした?』

 

「何も? 腹割って話しただけだ」

 

『・・・了解した』

 

セルゲイは納得していない様子だったが特に深くは聞いてこなかった。

別に嘘はついていないぞ?

実際、特別なことをした訳じゃないしな。

 

「それと、グラーニンの靴は近隣の崖にでも放り投げておいてくれ」

 

『どういうことだ?』

 

「奴の靴には居場所を報せる発信器が仕込まれている。念のためだ」

 

『了解した。それとスネーク、こっちも報告があるんだ。俺達と同じように大佐に不満を持っている連中に声を掛けたら何人かが仲間になると言ってくれた』

 

「え?」

 

ちょ、セルゲイ君?

何を勝手に・・・?

 

『勿論、俺が信用している奴らにしか声はかけていないし、アンタに繋がる情報はまだ何も与えていない。判断はアンタに任せる。考えておいてくれ』

 

それだけ言うと、セルゲイは無線を切ってしまった。

俺の知らない所で何やってるの?

勿論、仲間は多いに越したことはないんだろうけど・・・・・

武器装備の現地調達、丸裸の状態だから“ネイキッド”というコードネームが付いているが“仲間の現地調達”までやった覚えはないぞ()

 

大丈夫か?

アメリカから反逆を疑われたりしないよな?

 

・・・まあこの辺のことは後で考えよう。

どうせ上層部は本国でふんぞり返っているんだ。

 

俺はグラーニニ・ゴルキー研究所を出て、森林部を進んで行く。

グラーニニ・ゴルキー南部に入ると妙な気配がする。

いや、気配とは違う。

何か嫌な予感がする。

何か忘れているような気がするんだけど何だっk

 

その時、左大腿部に鋭い痛みが走った。

俺は反射的に大木の裏に身を隠す。

 

その間にも同じ方向から何か飛来してくる。

地面と自分の大腿部を確認すると“矢”が刺さっていた。

 

「くっ・・・」

 

クソっ、かなり痛いぞ?

幸い、骨までは達していないようだ。

 

グラーニンのことですっかり頭から抜けていたが、倉庫に戻る前に死にかけジジイの動力源ニキとの戦いがあったな。

っていうかザ・ボスに仕込まれた発信器を取り除くの忘れていた。

ま、まあ後で探せばいいか。

・・・・・忘れなかったらな(キリッ)

 

その間にもザ・フィアーは木から木へとまるで猿のように飛び移っている。

正面にいると思っていたのに、いつの間にか裏に回られているというのも普通にあり得るからかなりやり難い相手だ。

ゲーム内で戦うのとは全く違う。

 

しかも相手は—————

 

『シュホーウ!』

 

奇声を発しながら突然空中に姿を現したザ・フィアー。

奴はステルス迷彩を使ってくる。

透明人間のように完全に姿が消える訳じゃないが、それでも視覚情報として得られる情報が減少するというのは奴にとってはかなりのアドバンテージだ。

 

「俺はザ・フィアー、その矢にはクロドクシボグモの毒が塗られている。時機に耐え難い激痛が全身を襲うだろう」

 

いや既にかなり痛いんだが。

 

「体は麻痺し、息も出来ず、やがて心臓が止まる」

 

いや怖いんだが。

 

「しかし、それでは面白くない」

 

いやそれお前の都合やん。

アカン、なんだかクラクラして来た。

 

「まだ死ぬな。ボスの教え子よ、貴様にまだ見たことのない本当の恐怖(フィアー)を見せてやろう。俺の巣の中で・・・」

 

そう言いながらザ・フィアーはその場でクルクル回ったり、関節をゴリゴリ鳴らしながら腕を脱力させている。

実際に見るとキモイな。

 

「さあ恐怖だ・・・恐怖を感じろ!」

 

そう言い残すと再び意味不明の奇声を発しながら後ろ向きで木を登って行く。

いやどんな身体してんのよ()

ステルス迷彩を起動させて木の上に移ったザ・フィアーの正確な位置は既に分からなくなった。

ゲーム内では個人的に最弱レベルのボスだったのに、実際に対峙するとその評価はガラリと変わる。

 

とにかく今は身体に刺さっている異物の処理だ。

既に毒の効果が出始めているのか、思考が鈍っているのを感じる。

だが“鈍っていると認識できている”ならまだ手遅れではないはずだ。

 

俺は矢を構成する棒の部分、つまり矢柄を根元からへし折る。

細かい処置をしている暇が無い為、矢尻を取り出すのは後だ。

 

「おいツチノコ」

 

俺はツチノコに声を掛けて解毒剤を取り出させる。

こんな時、ツチノコは真面目にサポートしてくれる。

普段から安全な寝床や食糧を提供しているんだ。

これくらいやってもらわないと本来の役割(ロール)、非常食としての使命を全うしてもらうことになる。

 

フィアーが飛び回っている隙に、より安全な木へと移動する。

その間にツチノコが俺の身体を這って行き、俺の首筋に解毒剤を打ち込んで来る。

 

くうぅぅぅ効くうぅぅぅ!

 

首筋に激痛が走るが、この痛みが俺の命を救う。

まさに“至高の痛み”だ。

うん、ザ・ペインが見出した感情が理解できる・・・気がする。

 

「すまん、助かった」

 

俺は首筋に突き刺さっている注射器を引っこ抜き、ツチノコをポーチの中に突っ込む。

解毒剤が効いてきたのか、思考がクリアになる。

大木に身を隠し、片耳に挿したイヤホンを引っこ抜きながら心拍数を下げるように努める。

呼吸を整えて、周囲の情報を可能な限り収集する。

S=Stop、L=Look、L=Listen、S=Smellの頭文字を取って、SLLSと呼ばれる技術だ。

敵の有無や痕跡、兆候などを得るための基本原則と言える。

 

何故かフィアーは意味不明の奇声を発することを止められないようだ。

事あるごとに決して小さくない声量で言葉(?)を発している。

さらに木への飛び移りの際に、木から葉が落ちてくる。

加えてフィアーの体重を支える為には“それなり”に頑丈な枝に飛び移る必要があるようだ。

いかに透明に近いからといって、その存在自体を隠すことは不可だ。

 

よし、やるか。

 

 

 

 

 

 

「解せぬ」

byフライ迷彩

 




はい、お疲れ様でした。
文字数が丁度良いくらいだったので本格的なザ・フィアー戦は次回に持ち越しです。

当初は全くそんな予定は無かったのですが、何故かスネークに仲間ができました。
毎度毎度、その時のノリで書いてるからこうなるんですよね。
はい、自覚はしています。
自覚はしていますがそれが直せるかは別の話なんですよ!(逆ギレ)

それではまた近いうちに—————
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