金は異世界の回り物! 〜TS転生虚弱美少女は大量スキルで稼ぎたい〜 作:あるふぁせんとーり
この世界での酒屋でのビールジョッキ一杯300ゴールドを基準とし、あっちでの一杯を500円前後として日本円換算すると、おおよそ1.6円。
すなわち、初期資金600億円弱。
このような転生商売物でありがちな序盤の間延びしがちな資金調達パートをすっ飛ばせるのは本当にありがたい。
「エメリーちゃん、初期投資どれくらい回せそうですか?」
「そうだね……多分6億ゴールドくらいは突っ込んでも良いんじゃないかな。っていうか、逆にそれ以上突っ込むと失敗した時に引き返しにくくなるかも」
「なるべく初手は軽い挑戦からの方がいいしね」と答えるエメリー。
6億ゴールド……約10億円。
それだけあれば土地ごと買えるし初期の買い取りを多少高く付けても全然余裕で賄える。
何より、いきなり借金を抱えるという重荷を背負わなくて良いのが大きい。
あの後調べてみると、一応現代で言う融資のようなシステムは残っていて、申請すればギルドが一定金額までは貸し出してくれるということだったが、教会の滅亡後に作られた制度のようで、持ち逃げされるなど欠陥もかなり多いらしい。
返済時には一律で融資額に五割上乗せという足元を見た金利設定にもかなり腹が立つ。
というわけで序盤の資金計画はひとまず問題なし。
「次は場所決めですね」と俺がテーブルの上に街の地図を開いた時だった。
「マイ様、以前出入りしていた宝石商と連絡が取れました。「100kgなら即金10億で買う」とのことです。何でも大き目の金鉱山が近々枯れるとのことで、需要が高いんだと」
「待って下さい10億?!相場はkg850万とかじゃ……!?それで、いつ取りに来るって言ってます!?」
「あー……あ、もうすぐですね」
「……え?行動派過ぎないその宝石商?」
◇◇◇
「お久しぶりです、マイ様。吾輩のこと、覚えておりますかな?」
「もちろん。あの頃はいつもありがとうございました」
俺はペコリとお辞儀しながら答えた。
見覚えはないしそういう記憶も一切ないが、そういうときはとりあえずこんな感じで答えておくと大体喜ぶ。
実際、彼は優しく微笑んだ。
屋敷を訪れたのは、灰色のヒゲを蓄えたガタイの良い壮年の大男。
彼は決して派手ではないが一目で高い身分だと分かるスーツに身を包んでおり、後ろには何人もの部下を従えている。
そして屋敷の門の前には4頭立ての馬車。
かなり宝石商として成功を収めているようだった。
ついでにこの世界、都合が良いことにファッションはかなり進歩が早いようだ。
いや、貯蓄の手段が少なかった分浪費する文化が発展したということだろうか。
「にしても、流石にモーゼ様が亡くなって以来お会いする機会はございませんでしたが、流石に10年もすれば見事に成長するものですな。いやはや、18で既に大物らしい風格というものを纏っている」
「褒めても値引きしませんよ。わりかし入り用ですので」
「これは手厳しい。商売人の素質はお有りのようだ」
そして「ファベルゼ」と名乗った彼はノアに金の実物を確認させるように言う。
彼女は「ちょっと待ってください」と倉庫の方へ引っ込み、そして数分しない内に数多の金の延べ棒を浮かせて戻ってきた。
「1キロの延べ棒100で良いですか?大きい方がお好みならもう少しまとめますけど」
「いや、そのままで結構。それにしても相変わらず素晴らしいスキルですな。やはりウチに──」
「行きませんよ。私はマイ様のために死ぬので。あ、エメリー様もいるから尚更無理です」
「やはりそうですか」と彼はフッと笑い、そして部下に馬車から皮の袋や樽なんかを持ってこさせる。
ノアの金属操作によって大きな天秤の皿に並べられた延べ棒は丁度100kgの錘と釣り合っていた。
「……10000ゴールド金貨10万枚。確かにお支払いいたしましたな」
「10万って馬鹿過ぎますね物量……」
「いやほんとそれだね……ノアさん、運べる?」
「余裕です。惚れてもらっても構いません」
「構いますよ私が」
そしてノアが金貨を金庫に魔改造した空き部屋に運び込むのと、ファルベゼ達が馬車に延べ棒を運び終えたのがほぼ同時。
先に馬車で部下を待たせ、彼は一人で屋敷の方へ戻ってきた。
「あれ?何か忘れ物ですか?」
「……まぁ、そのようなものですな。モーゼ様から「娘が成人したら」とアクセサリーの注文を頂いていたのですよ」
そう言って、ファルベゼは一つの小さな箱を差し出した。
「開けていいんですか?」と首を傾げると「もちろん」と頷いた。
「……!これ、ペアリング……ですか?」
「はい。「いつか必要になるだろう」と。料金は既に頂いておりますので」
箱の中にはブラックダイヤモンドがあしらわれた二つのプラチナリング。何でも、魔力的な加護まで込められていると。
そしてこれが成人というタイミングで渡されたということは、これはそういう使い道なのだと俺でも理解出来る。
けれども、それを今すぐ渡したいと思える相手が俺にはいた。
「エメリーちゃん、ちょっと来てくれますか?」
「何?マイちゃん」
「これ、あげます」
「いやこれ……ペアリング、だよね?」
「はい。お揃いです。……あ、もし、あれだったら付けなくても全然良いんですけど……」
「ううん、付けてるよ。マイちゃんと離ればなれになるまではさ。一応パートナーだし。……ビジネスの、だけど」
「……はい。エメリーちゃんの言うとおりです」
気がつけば馬車は去っていて、屋敷の門の前にお揃いの指輪を左手の中指に嵌めた俺達が残されていた。
どっちも同じものなのに指輪を見せ合う俺達に向けて、玄関からパシャ、という音が鳴った。
そして「最高ですね全く」と言って屋敷の中に消えていく彼女に、俺達は顔を少し赤くした。
◇◇◇
「……とにかく、これで資金は調達出来ました。というわけで次の段階に行きます」
「顔真っ赤ですよマイ様」
「いや誰のせいだと思ってるんですか……!って、そうじゃなくてですね。次私達が手に入れるべきものは何だと思いますか?エメリーちゃん」
「……あ、お店か。えっと、そういう土地とかの購入は……」
「幾つか近くに目ぼしい場所を見つけてあります。空き家とか、捨てられた農地とかですね」
「そうだね、そういうとこが良さげかな。あまり大きな街でもないし、この街知り合いばっかだし、上手く買えそう」
こうして俺達は開業準備第一弾、出店場所決めに乗り出した。