TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
「何コレ! 何コレ!」
ファンシーにデコレーションされた部屋で1人の少女が興奮していた。
彼女が見ているスマホでは、探索者達の間でちょっとした話題になっている初心者用ダンジョンの配信が流れていた。彼女の目を引いたのはとあるモンスターだ。
『ヴァーカ!!』
一般的には『ハーピィ・ノ・アマッターノ』と呼ばれているモンスターだが、こんな白い羽毛で覆われている個体は見たことが無い。
普段はキモイとしか言いようが無いが、モフモフの力は偉大だった。シマエナガめいた見た目は、少女の感性にぶっ刺さったらしい。
『龍華。まさか、本当にテイムしに行くんですか?』
彼女の周囲に漂っている緑色の水晶が語り掛けて来た。もしも、有識者が見れば、とんでもない密度の『マナ』が込められていることが分かるだろう。
「うん! 他にも見たこと無い可愛い子がいるかもしれないし!」
『ダンジョン省にも掛け合って、攻略失敗者の嘆願アタックも掛けたし。入ることはできるやろ』
今度は青い水晶から声が出ていた。こちらもやはり膨大なマナが込められており、これらのアーティファクトを所有する少女が並の探索者でないことは直ぐに分かるだろう。
「じゃあ! 行こうか!」
彼女が身に纏っているのは大量のアーティファクトに加えてエンチャントまで施された逸品であり、同時に彼女が攻略して来たダンジョンのレベルを示す物だった。『五十嵐 龍華(いつき りゅうか)』。日本が誇る高ランク探索者の1人である。
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「と言う訳だ」
「ふざけんな!」
羽生から説明を受けたが、納得できる訳がなかった。
なんで、そんな化け物みたいな探索者がやって来るんだ。初心者用ダンジョンなんかに来て良い奴じゃないぞ!? 貝型アーティファクトを地面に叩き付けたくなったが、グッと堪えた。
「そんなに有名な人なんですか?」
今日も手伝ってくれている公平君はあまりダンジョン探索界隈について知らないんだったな。ならば、説明しよう。
「『五十嵐 龍華』。探索者界隈じゃ有名な『調教(テイム)』スキル持ちでな」
「確か。モンスターを使役できるんでしたっけ? でも、モンスターって外に連れ出したりすることはできないんじゃ?」
どうやらちゃんと講習は受けているらしい。社会に及ぼす影響を鑑みて、モンスターを外に連れ出すことは禁じられている。単純な脅威もあるが、未知の病原菌などを持っている可能性もある為だ。
「唯一。それを可能にしているのが『調教(テイム)』スキルなんだ。と言っても、モンスターを従わせて、彼らのマナを詰められるだけのアーティファクトを用意する必要があるから、滅茶苦茶ハードルが高いんだが」
「従わせるって言うんなら、モンスターより強くないと駄目ですよね? バフォーさん。アーティファクトの方は?」
「マナを詰められるアーティファクトは高ランクダンジョンでしか手に入らんな。ネット通販で出回っているのは概ね詐欺だな」
ダンジョンの管理側としてバフォーから話を聞けるのは助かる。どちらにせよ、初心者用ダンジョンに来て良い奴じゃない。
「どないするん? ウチらなんて簡単に蹴散らされるやん」
「し、仕方ない。ハピやんを差し出すしかない」
「トモダチ!!!」
俺の平穏の為にはぴやんには犠牲になって貰おう。と言うか、モンスターをテイムするという仕組みが、よく分かっていないのでバフォーに説明を求めた。
「基本、持ち帰るということだからな。私達と一緒に過ごしたハピやんは持って帰られるだろうな。代りに新しいモンスターを入れるしかないが」
「イーヤー!!」
「あぁ。ハピやん、貴方のことは忘れません。若干所か結構ウザかったですし」
スキュさんが別れの言葉を告げている中、メカムスメちゃんが首を横に振っていた。
「酷いやん! ハピやんだとウチらの仲間やろ! 今まで、散々淫語と放送禁止用語で配信者を撃退してくれたんに! 後、弱っている奴をどついたりとか。かゆい所に手が届く位には手伝ってくれていたやん!」
「ちゅき!」
唯一味方をしてくれそうなメカムスメちゃんにハピやんが擦り寄っていた。そりゃ、嫌だよな。
でも、現実的な問題。高ランク探検者なんて来たら蹂躙されるしかない。審判の日が来たとも言えるかもしれないが、納得はできない。
「バフォー。正直、この展開は望ましい物ではないんじゃ?」
「うぅむ。あまり好ましくはないな」
コイツは妙に公明正大な所があるので、パワープレイや蹂躙プレイは好まない所だろう。かと言って、高ランク探索者に合わせていきなり強モンスターや即死罠みたいな物を設置する訳にはいかない。
「鈴子さん。対策もそうですけど、下手したら俺達が細工していることがバレるんじゃ?」
ダンジョンが攻略される以上の問題だ。もしも、バレたら俺は歴とした犯罪者になる。あらゆる意味でピンチが押し寄せていた。
「ダンジョン防衛が始まって以来、最大の危機だ。本当マジでどうしよう。公平くぅん。実は君の眠っていたスキルが覚醒してどうにかなるってパターンはない?」
「そんなアニメやゲームじゃないんですから」
ダンジョンとか言うまんまサブカルの世界の話なのに変な所でシビアなのが酷いよな。俺に残された道はハピやんを差し出す、謝り倒す、ダンジョンは攻略されるの3つしかない。
そんなことを考えていると、貝型アーティファクトに着信が入った。もしかして、予定が変わったとか。そんな期待に縋ってみたら。
「えー、先方からだが。もう入り口に付いているから入ります。とのことだ。ただ、後塵にも攻略の要素は残しておいて欲しい。と言うことで、配信だけは取りやめて貰った」
「早っ、はぇーよ!!」
もう来るのかよ! 配信されていない。と言うことはワンチャンス交渉の余地はあるかもしれないし、見逃して貰えるかもしれない。全力で土下座の練習をするか、ハピやんを差し出すかと考えていると。肩を叩かれた。
「あの、鈴子さん。俺、なんか変なんですけど」
見れば、彼の周囲にはマナが集まっていた。これはスキル発動の兆候であるが、一体何が切っ掛けとなったのだろうか? バフォーの方を見た。
「分からん。ただ、ダンジョンに例の探索者が侵入した。1階の様子を見るか?」
恐る恐る1階の様子を見た。大量のアマッターノシリーズが龍華を囲んでいたが、無駄だ。と言うか全身を覆っているアーティファクトに愕然とした。一方、公平君は普通に驚いていた。
「高ランク探索者って。少女じゃないですか」
見た目は高校生位なのだが、アーティファクトの影響なのか。あるいはダンジョンに潜り続けた故か。とにかく、実年齢と比べてあまりに若い。
「騙されるなよ。コイツの装備一式で豪邸が建つレベルだぞ。それに見ろ。テイマーの本領が来るぞ」
龍華の周囲を漂っていた2つの水晶からマナが噴出し、形を作っていた
緑色の水晶から現れたモノは、両腕の代わりに緑毛に覆われた大翼を広げ、脚部に備わっている巨大なかぎ爪で次々とアマッターノ達を引き裂いていた。しかし、頭部はクールな印象を受ける女性然とした物だった。ハピやんの使われた方と言える『ハルピュイア』。あるいは『ハーピー』だ。
一方、青い水晶から現れたモノは四肢に装甲を纏い、背面のスラスターと姿勢制御のバーニアを噴かしながらレーザーブレードや実弾銃を用いながら舞う様に戦っていた。
胴体部分は主人と同じ様なバトルドレス型のアーティファクトに覆われていたが、頭部の部分はセンサーユニットなどが取り付けらている位で、青髪の少女の物だった。正にメカ娘だ。
「詰んだ」
「鈴子さん!? 諦めるのは早いですって!!」
「私が言うのも何だが。見事な連携だな」
勘違いされがちだが、調教師(テイマー)が使役しているモンスターより弱い。なんてことは無い。龍華自身も大量のエンチャントが施された細剣を使って、アマッターノ達を切り裂きまくっていた。
当たり前だが、汚物トラップなんかで止まる奴じゃない。俺もスキル『BB劇場』を用いて糞便などを降らしているが、彼女が所持しているアーティファクトの加護に払われていた。2階はもう直ぐだ。
「アレがウチらの余ってない方かぁ」
「もう玉砕ルートしかありませんよ」
「ヤーッ!!」
先程まで意気揚々としていたメカムスメちゃんも固まっていたし、スキュさんもあきらめムード全開だ。ハピやんが叫んでいるが、運命は残酷だ。
「まだだ! お前達! 諦めるな! 公平君のスキルでワンチャンスあるかもしれないぞ!!」
折れた心を奮い立たせるべく、俺は微かな希望に縋った。実際に彼のスキルが如何な物かは分からないが、何とかしてくれたら良いなぁ! と言う位の気持ちだった。まぁ、もう2階に来ちゃっているんですけれどね。
「なんか。光が強くなっているんですけど」
公平君を覆うマナ由来の発光が大きくなっている。スキルが活発になっている証なのだが、まるで用途が分からない。
「ピカピカ!」
ハピやんが公平君の肩を叩いた時のことである。彼の光がハピやんに移ったかと思えば、見る見る内に姿を変えていく。
鳥型の胴体はちゃんと人型の物へと変わり、両腕は白い羽毛に覆われて、脚部もモフモフの白い羽毛に覆われた物になっていた。……先端に生えているかぎ爪は恐ろしいが。
極めつけは可愛らしい顔が出現していたことだ。ふんわりとした白髪にくりんとした瞳。あどけなさを残した顔立ちをしていた。誰でしょうか?」
「トモダチ!」
「その顔でトモダチは不味い」
大きなお兄さん相手に言ったらよからぬことが起きそうだ。それは兎も角として、何が起きているのか。と考えたら、バフォーが手を叩いていた。
「そうか。『公平』だ! 探索に来た者達と力量を『公平』にするのが、彼のスキルなのか!」
「マジか……」
だとしたら滅茶苦茶強スキルじゃないか。下手をしたら、下準備などをしなくてもいきなり高ランクダンジョンに突っ込める……いや、立ち回りの甘さで食われるだろうが。それでも相当に強いぞ。
「公平君! ウチも頼むで!」
「私もお願いするよ」
「あ。はい!」
メカムスメちゃんもスキュさんも同じ様に、公平君に触れていた。漏れ出ていた光が2人にも降り注ぎ、姿を変えていく。ダンジョンを防衛し始めてから、最も濃い1日になろうとしていた。