TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
「止まって」
2階に上った途端、龍華は雰囲気が一変したのを感じ取っていた。
明らかに初心者用ダンジョンの空気ではない。肌を刺すような感覚は、高ランクダンジョン特有の物だ。傍に控えている2体のモンスターも感じ取っていた。
「龍華ちゃん。ハルちゃん。多分、このフロアにウチの姉妹機がおるわ」
「バカな。このダンジョンは初心者用のハズですよ?」
このダンジョンに挑んだ者達が残した映像記録を見るに、初心者用ダンジョンであることは間違いないハズだ。だとすれば、どうしてそんなことになっているのか。彼女らの疑問に答えてくれる者はいなかったが。
「来るよ」
龍華が天井に向けて魔法を放つが、全てを圧し潰さん勢いで降り掛かって来る巨体が1匹。
1本1本が意思を持っているかのように蠢く触手状の脚部を持ち、怜悧な雰囲気を纏う、薄紫髪を垂らした女人の上体が龍華達を見下ろしていた。
「申し訳ありませんが。貴方達はお呼びではありませんので」
「スキュラか。それに!」
既に彼女達の頭上では戦いが始まっていた。いずれもハルとトモエの2体が同種のモンスターと激しい応戦を繰り広げていた。
「ミツバ姉ちゃん。こんな所におったんやな!」
「アンタ、姉妹機なんか! じゃあ、気合入れた甲斐もあったな!」
メカムスメちゃんことミツバの両肩に取り付けられたミサイルコンテナが開き、ダンジョンの天井付近でミサイルが踊り狂う。
対するトモエは脚部からフレアを吐き出し、ミサイルを撒きつつ、腕部の発振装置からレーザーブレードを展開させて接近していた。トモエも腰部にマウントしていたヒートブレードで迎撃を試みていた。
「お姉ちゃんは質量兵器タイプなんね!」
「そっちこそ。EN兵器なんてダンジョンの世界観ぶち壊しやろ!」
メカ娘姉妹がSFバトルを繰り広げている傍ら、2体のハーピーが熾烈な戦いを繰り広げていた。
「ヴァーカ!!」
「何をどうすれば、あの白い毛玉がこうなるんですか!?」
ハルが見た限りでは、テイム対象であったモンスターは白い毛玉の珍妙な生物だったはずだが、目の前にいるのは同種族だ。
全身が白い羽毛に覆われているせいで攻撃が通り辛い。幸い、自分よりも動きが遅くはあるが、それでもモンスターとしては高速であることに変わりない。何よりも厄介なのは。
「トモダチ!!」
この異様に甲高い声によるシャウトだ。空中飛行は簡単な物ではなく、類まれなる平衡感覚を求められるのだが、先程から狂わされっぱなしだった。
「ならば、切り刻んで上げましょう」
距離を取って戦えないなら、と。ハルは近接戦での対処を試みた。幾ら厚い羽毛による防御層があったとしても削れない訳ではない。
何度も壁に激突しながら、生物として、モンスターとしての闘争模様が繰り広げられていた。三者三様の戦いが繰り広げられている中、最も早く均衡が崩れようとしていたのは、龍華達の戦場だった。
「貴方。探索者と戦い慣れていないのね?」
「ここを何処だと思っているんですか。初心者用ダンジョンですよ?」
スキュラの触手攻撃は細剣で切り払い、魔法攻撃は防御魔法で相殺しながら、更にはアイテムによるバフと回復を織り交ぜながらの戦い方は確実に相手を追い詰めていた。
モンスターにはできない変幻自在の戦い方であるが、状況に応じて瞬時に、適した選択を選び取る判断力は、龍華が積み重ねて来た経験の賜物だった。
ここの均衡が崩れれば、天秤は彼女達に傾くだけだ。もしも、何の介入も無ければ、順当にダンジョン側は押し切られることだろう。
――
「なにこれ映画? ゲーム?」
「鈴子さん。コレ、現実です」
あまりにド迫力の光景に暫く見入ってしまったが、初心者用ダンジョンで繰り広げられて良い物ではないことは確かだ。
「だが、このままではウチのメンバーが押し切られるぞ。公平君はスキルを使った影響で動けん。お前が何とかしろ」
バフォーも突き放して来た。俺程度が行ってもどうにかなる次元じゃない。となれば、スキルによる援護位しかなくなる訳だが。
「ウンコとか降らしてどうするんだよ!」
「鈴子さんのスキルって……」
「私も公平君みたいなスキルが良かったなぁ!!」
俺よりも主人公向きで羨ましいなぁ! 仲間を戦わせ、年下の子を働かせている傍ら、自分のBB素材を探している女は客観的に見て終わっている。としか言いようが無いのだが、この事態を打開するには必要なことだ。
「くそぉおおおおおお! 『ピッチング先輩』とか『ペンギン先輩』とかしかない!」
「こういうので本当にロクでもないパターンってあるんだな」
画面を覗き込んでいたバフォーが可哀想な物を見る目でこっちを見ていた。実際に可哀想だと思う。
こういうので良くないのはバトルBBを選んでしまうことだ。俺のクソザコステでやっても碌なことにならない。なので、インパクトや別方面からアプローチできるBBが大切なんだ。もしくは仲間にバフか仕込み銃的に使うか。
「そんなことしても元がザコだから無意味だねぇ!」
「鈴子さん。気を確かに……」
公平君が心配してくれているが、私ではどうしようも……と思ったが、彼のスキルを思い出した。公平化である。
「そうだ! 公平君! 君のスキルを私にも!」
「えぇ!?」
そうすれば、俺も進化した皆の如くとんでもない力に目覚めて颯爽と解決するはずだ。と思ったが、一向に何の変化も起きない。何故!?
「もしかしてだが。先の3人が強化された時点で戦力と言う面では公平になったんじゃないのか?」
言われてみたら、相手は3人。こちらも3人が強化された。どちらに対しても公平になる様にするんだろうが、現実としてこっちは押されている訳で。
「アレだ。ゲーム的に言えばステータスが同じになったとしても、立ち回りや知識、経験と言う物まで付いて来る訳ではないからな。特に、あの龍華と言う探索者の動きを見れば如実に分かるだろう」
バフォーの言うことは懸念していたことだ。幾らステータス的な物が公平になったとしても、知識や経験と言うのは一朝一夕で身に付く物ではない。勝負で物を言うのは、その部分が大きい。
「(極端な話。ステータスが低くても、立ち回りや発想力でどうにかした。って話は、それこそ神話時代から続いているしな)」
ヤマタノオロチの討伐然り、物語的に言えば知恵と勇気と言う奴だ。
龍華が戦っているスキュラは物理も魔法も強い上位ダンジョンのモンスターに相応しい強さを持っているハズなのだが、立ち回りが完璧という他無い。
きっと、自分よりも強い敵や困難に何度も立ち向かって来たのだろう。――俺とは違って。
「鈴子さん?」
「……なんだい?」
おっと。いけない。他人を妬んでいる暇があれば、事態の打開を考えねば。さて、どうした物か。もうちょっとBB素材を探すとして。
「うーん。『キスして来る先輩』とか『入れ歯と化した先輩』か。前者を使ったらひとまず動きは止めれそうかな」
「多分、このダンジョンぶっ壊されると思うんですけど」
そうしたら、俺の命まで狙われかねないので流石に使えない。後を引かない程度に事態を打開できる方法はないかなぁ。
「そろそろ、スキュラが撃破されそうだが」
「やべぇ! 時間がねぇ!!」
バフォーに促されて、もはやなんでも良いから選ぶしかなかった。もはや、乱打を選ぶしかなかった。
「クソ!! 『あざらし先輩』『ペンギン先輩』『リンゴ先輩』だ! いっけぇ!」
「コイツは何をやっているんだ?」
バフォーからも白い目で見られたが、もうなる様になれだ。いや、マジでどうにもならない気がするが。
――
鈴子がアホをした結果。追い詰められているスキュラ達の所で何が起きたかと言うと。当然と言えば当然なのだが、大量の人面アザラシと人面ペンギンが押し寄せて来た。足元にはゴロゴロとリンゴが転がって来た。
「は?」
高ランク探索者である龍華もこんなシチュエーションに遭遇したことは無かったのか、一瞬動きを止めた。ただ、スキュラは万が一も想定していた。
普通の探索者ならば積むことのない経験と知識だが、このダンジョン出身のスキュラは持ち得ていた。故に、僅か一瞬の時間を掴み取っていた。
「食らいなさい!」
触手で地面を打ち付け、天井まで跳ね上がると同時に天井へと張り付き、脚部触手を一ヵ所に集めて砲塔の様な型を作るとマナが急速にチャージされて行き、光が収束する。青と赤の魔力光が放たれた。
龍華は周囲に幾層もの防御魔法を重ね合わせて対抗するが、影響は彼女だけに留まらない。
「嘘やん!? 横槍!?」
「チィッ!!」
中空で戦いを繰り広げていた、メカ娘姉妹とハーピー対決にもスキュラの砲撃が降り注いだ。ハピやんとミツバも眼下に謎生物の発生を確認した時から回避の挙動を取っていたので、間一髪でフレンドリファイヤを避けていた。
少なくないダメージが入ったが、ハルとトモエは一瞬で狙いをスキュラに切り替えた。天井に体を固定している以上、2体の攻撃を切り抜ける術はなかった。
「後は任せましたよ!」
ハルのかぎ爪が触手を次々と握り潰し、トモエのレーザーブレードがスキュラの胴体を真っ二つに切り裂いた。均衡は崩れ、戦いは急速に決着へと向かい始めていた。