TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
スキュラが放った魔力による砲撃は龍華には満足いくほどのダメージを与えられなかったが、他2体の随伴には少なくないダメージを与えていた。
「悪いな、トモエ! 貰うで!!」
「まだや!」
先の一撃で背面ユニットを損傷したのか、トモエの動きは鈍っていた。レーザーブレードは弾き飛ばされ、迫りくるヒートソードを銃身で受け止めていた。瞬間、弾薬に引火して2人の間に爆発が起きた。
直ぐにサイドアームズの拳銃を引き抜くが、爆炎の中から姿を現したミツバもライフルを構えていた。ドン! と、ダンジョンに似つかわしくない銃火器の音が響いた。
「ウチの方が経験値あるハズなんやけどなぁ」
力なく地面に落ちて行ったのはトモエの方だった。墜落していく彼女を受け止めたのは、龍華だった。
「お疲れ。戻っていて」
トモエの輪郭が崩れ、青い光へと還って行くと。主人が手にしていた水晶へと吸い込まれて行った。
その数瞬後のことである。空中で錐揉みしていた2つの影が勢いよく地面に激突した。盛大に巻き上がった土埃が晴れた先には目を回しているハピやんと満身創痍のハルがいた。
「後は頼みました」
「よしよし。えらいえらい」
トモエと同じ様にハルも龍華が持つ水晶へと戻って行った。現在、この場に立っているのは2人。方や疲弊しており、方やまだ余裕がありそうに見える所であり。このままいけば、どうなるかは想像に容易い。
ならば、この場にいない者達が唯一状況を左右しうる可能性があるのだが、当の本人達はと言えば。
――
「バフォー。お前がどうにかしろ!!」
「まさか、私に泣きついて来るとは思わなかった」
バフォーが呆れ顔で言っていた。いつもなら、コイツが正しいので俺も言い返せなくなるのだが、今回は違う!
「俺達の中で唯一頑張っていないのはお前だけなんだよ!!」
「なんだとぉ・・・」
「公平君は3人に力を与えた! そして、メカムスメちゃん達は頑張った! 俺もこんなクソみたいなスキルで戦況を変える一手を打った! だというのに、お前は何だ!? 公平なダンジョンクリエイター気取りで、初心者用ダンジョンがパワープレイですり潰されようとしているのに何もしないのか!!」
そもそも。初心者用ダンジョンに高ランク探索者が来るという時点で異常なのだが、初心者や探索者の成長を見守っている風に行くなら、コイツは試練の場を守ることを考えるべきだ。
「むぅ。いや、でもここで私が手出しするのはちょっと違うんじゃ?」
「本当に良いのか! このダンジョンにどれだけの探索者がチャレンジして来たと思っているんだ! 彼らは動画を見たりして、今度こそは! と再挑戦しようとしているんだぞ! それを先輩が圧倒的な力でクリアしていくのを見たらなんて思う!?」
「鈴子さんの熱の入り様がすごいっすね……」
本当は1つも思っていないのだが、バフォーをやる気にさせる為の詭弁みたいな物だ。それに変なことは言っていない。成功体験をかすめ取られた人間がやる気をなくすのはよくある話だ。
クリエイターとして厳然としているなら無視すればいいんだが、俺の言葉に悩んでいる時点で、ダンジョンの主としては失格と言っても良い。だからこそ、付け入る隙があるんだが。
「バフォー! 分水嶺だ! お前が本当にダンジョンの主として挑戦者を歓迎するなら! そぐわない存在を排する為に動くべきじゃないか!?」
「そ、そうか? そうかな……」
「大丈夫だって! 撮影もされていないし、行ける。行ける!」
そもそも、龍華の行動だって褒められた物ではない。
ハピやんが可愛いからテイムしに来たということだが、ここは初心者用ダンジョンだ。高ランク探索者は然るべき場所の探索をして欲しいし、何なら依頼と言う形で、後進を頼るということもするべきだと思う。
「(テイム用のアーティファクトが高級品だから自分でやりたくなる気持ちも分かるけれどな)」
「そうか。ウム。そうだな! もっと私はダンジョンの主として毅然とするべきだったな!!」
ちょっろ。変に真面目だから簡単におだてられるんだよな。悪魔として大丈夫なんだろうかと言う親心さえ芽生えてきそうだった。公平君が耳打ちをして来た。
「あの。バフォーさんって強いんですか?」
「まぁ、見ておくと良い」
バフォーが姿を消した。瞬間、俺達が見ている映像の中に出現していた。ダンジョンと言うテリトリー内において、創造主はルールと言っても差支えが無い。実際にどれ位強いか、と言うのを見るのはコレが初めてになるが。
――
消耗していたミツバは程なく撃破された。龍華がハピやんに近付き、テイムしようとした所に、彼は現れた。
「控えろ。ここはお前が来る場所ではない」
もしも、コレが並の探索者なら声を聴くことさえ叶わなかっただろう。先程まで、龍華のいた地点には大量の黒槍が突き刺さっていた。
振り返った先にある威容に彼女は息をのんだ。黒色の翼、黒ヤギの頭部。腹には絡み合う1対の蛇。あまりに分かりやすいシルエットだった。
「バフォメット……!」
「ここは巣立ち行く雛達の庭だ。退場願おう」
吠えた瞬間。床から、壁から、天井から大量の槍が生え、悍ましい程の物量と敵意が彼女に降り注いだ。
「絶対に! 迎えに行くからねぇ!!」
最初の攻撃は防いでいたが、やがて捌き切れなくなり、龍華は大量の槍に呑まれて消えた。
――
開いた口が塞がらないとはこのことか。普段は真面目系悪魔と陰口を叩いていたが、コイツは間違いなくダンジョンクリエイターであり人間やモンスターを上回る存在なのだ。
「あの。将来的にはこんなモンスターと戦わないといけないんですか?」
「いや。クリエイターと言うか主が直接裁きを下すことなんて滅多にないからな」
あることはあるのだが、公平君に話すような内容ではない。だが、ここまで圧倒的だとは思っていなかった。
探索者が撃破されたので、俺達は改めて現場に向かった。すっかり、公平君のスキルも切れたのか。メカムスメちゃん達は、いつもの姿に戻っていた。
「あー、アカンかったわ。高ランク探索者ってあんなに強いねんな」
「ちゅよい!」
「でも、良い経験でしたね。気持ちよく動けました」
「3人とも本当にお疲れ様。よく、頑張ってくれたな」
心の底から正直に彼らを労った。恐らく、このダンジョン防衛が始まって以来一番の困難だったろうに。果敢に立ち向かってくれた。
「公平君もありがとうね。君がいなかったら、勝負の土台にすら立てなかった」
「いや、そんな。自分でもスキルをこんな風に使えるなんて思っていなくて。でも、お役に立てたなら何よりです!」
これは光のキャラ。3日間と言う契約だったが、最後に彼は素晴らしい活躍をしてくれた。もしも、1日でもずれていたら蹂躙されていたことだろう。そして。
「バフォー」
「今回は特別だ。皆が尽力したから、私も手を貸したのだ。この力ありきだと思うなよ」
「それでも助かった」
いつもは悪魔の癖によぉ~! とか思っていたが、今日だけは深々とお辞儀をして感謝の意を示した。とりあえず、今回の件を報告するべく貝型のアーティファクトを手に取ったら、向こうから連絡が掛かって来た。
「ご苦労だった。五十嵐からダンジョン攻略を失敗したという報告が入った。一体、何があった?」
「色々とだよ。それに、今日で白いモフモフは終わりだ。もう来るなって言っておいてくれ」
「了解した」
手短に告げて通話を切った。今日で公平君はネット上の玩具から解放されて普通の少年に戻る。後は探索者になろうが、そうで無かろうが私には関係ない。
「そうなんか。そう言えば、ウチら。公平君の呪い関係で強化されていたんやっけな。この姿も今日で終わりか」
「私はやっぱり普通の腕の方が良いですね。使い難い」
「トモダチ!!」
モンスターの皆も強化状態を惜しんでいた。少し残念ではあるが、俺と同じ様な思いをする少年が減るなら、それに越したことはない。
「少年。今日が終われば、君はネット上の玩具から解放される。その後は探索者になるも、普通の道を歩むのも自由だ」
「じゃあ。鈴子さんとは」
「コレでお別れだ。たった3日間だったけど、君と過ごした時間は楽しかったよ」
誰かと一緒にダンジョンの防衛をする。なんてことは、産まれて始めての経験だった。
「そんな! 俺、鈴子さんともっと一緒にいたいです!」
「変わらぬスタンス。惚れ惚れしてしまうね。でも、止めておいた方が良い。私の正体を知れば、君の熱も冷めるだろう」
スマホを操作して、いつものBB素材を見せた。浅黒い肌の男性が好き勝手にいじられ、コラージュされてネタに昇華されている。
「このBB素材になっている男性が、こうなる前の私なんだ。このままでは君はホモになってしまう」
「いや、知っていますけど? 散々、自分でBB劇場だの何だの言っていたじゃないですか」
「なにっ」
メカムスメちゃん達の方を見たが、彼女達も頷いていた。
そこまでやっておいて、BB素材元になった奴と何も関わりが無い。と言うのは無理があるだろう。と。
「大切なのは! 今でしょう! 元が男だろうがBB素材だろうが! 俺にとっての! 貴方は! 鈴子さんなんです!」
「あー、やめ給え。そう言う青臭い情熱はおっさんによく効くんだ」
いかんいかん。このままでは、私もホモになってしまう。未来ある同性の若者に唾を付けるなんて、そんな。
「どちらにせよ。今日は、これ以上ダンジョンの運営はできんだろう。私が対応しておいてやる。お前は功労者を労っておけ」
「だそうですよ!」
もしかして、私と公平君の間に何かを期待しているんだろうか?
だが、実際に彼には労うだけの功績がある。ダンジョンを任せておいて大丈夫と言うのなら、少しくらいは出掛けても良いだろう。
「ふむ。では、ちょっと遊びに行こうか」
「うっす!」
自宅に戻って来て、トイレに入って普段着に着替えて、彼と一緒に街に出た。
日常生活の中にアーティファクトを始めとしたファンタジー要素が入り混じっているが、きっとこの光景自体はずっと続いている物なんだろう。
「何か食べて行くかい? 君、ラグビー部なんだろう? ステーキとかどう?」
「え? いいんっすかぁ? ごちになります!」
「うむ。素直でよろしい」
柄にもなく年上面をしてしまった。俺は男であるはずなのに、どうしてか彼の前ではお姉さん面をしたくなってしまう不思議。
ちょっといい店で奮発してやるぞ。と、意気込みながら入店した時のことである。コチラを凝視して来る者が1人。テーブルの上には空になった皿が大量に並べられている。――何故か『五十嵐 龍華』が居た。
「鈴子さん。別の店にします?」
「いや、私達の面識は無いんだ。堂々としていれば良い」
きっと、偶々目が遭っただけだ。と、スルーして空いている席に移動しようとしたが、店員がコチラに来た。
「お待たせしました。あちらの御予約されていた席にご案内します」
「え?」
当然、何となくで選んだ店なので予約している訳も無いのに極自然に彼女の席に連れていかれて、同席する羽目になった。これはもう間違いない。
「先の指揮、見事だったね。どうやって、彼女達を指揮していたの?」
「何のことだい? と言うか、貴方は一体?」
「新人の公平君と中級探索者の鈴木君だよね? 今は、呪いで性別が変わっているみたいだけど」
どうやら高ランク探索者には呪い程度は看破できるらしい。
そもそも、初心者用ダンジョンに行く為にダンジョン省と交渉できる程の政治力もあり、情報通でもあるんだから簡単に分かるよな。俺がやるべきことは1つ。
「お願いです。誰にも言わないで下さい。私の人生が変わるか否かの瀬戸際なんです」
「別にどうするつもりもないよ。ただ、どうやってあの子達を従えていたのかを知りたくて」
周りに客がいないことを確認して色々と話した。下手に隠し立てをした所で、俺程度の腹芸なら看破されるだろうし、機嫌を損ねると何があるか分からない。
ダンジョン内でも強敵だったし、外でも強敵と言うのは中々に酷い話だと思うが、故に高ランク探索者になれているのだろう。
「まさか、自分から呪いに掛かって、それを完遂させようだなんて」
「私は生まれ変わるんだ。もう、玩具として指を差される生活はごめんだからね」
「だとしても、貴方は呪いのことを軽く考えすぎじゃない?」
チクリと。順風満喫に行っている現状に針を刺されたような気がした。呪いに関しては、バフォーからも聞いている。
「私の足跡が消えることかい? 良いじゃないか。ネットに転がるBB素材なんて消えれば良いし、それで私がスキルを使えなくなっても構わない」
「消えるというのはネット上からだけ? 足跡って、そんな限定的な場所だけじゃないと思うよ?」
彼女は私の胸を突いて来た。思わず身を引いてしまった。
「何をするんだい!?」
「自分の胸に聞いてみると良いよ。話したいことも話せたし、今日は私にツケておいて良いから好きなだけ食べて行ってね」
そう言って、彼女は手をひらひらと振って店から出て行った。今の言葉は本当だろうか? なんでも頼んで良いんだろうか?
「じゃ、じゃあ。サーロイン!」
「俺も!」
財布よりも何よりも発想が貧弱だと思うが、こんな上等な物を食べられる機会の方が少ない。未成年者同伴なのでアルコールは避けて、サイドメニューも幾つか頼み、身の丈から少し離れた贅沢を楽しんだ。
それにしても。先程、龍華が言っていた自分の胸に聞いてみろとはどういうことだろうか。食事の合間に考えてみても分からなかったので、途中で答えを出すのを放棄して、私達はこの日をお祝いした。