TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
「まず、2点ほど言わなければならないことがある」
翌日。私と公平君はバフォーに呼び出されていた。彼が呼び出されている時点で、何が起きているかは薄っすらと察する所だ。
「昨日の交戦の余波でダンジョンに大量のマナが散布された。知っての通り、モンスターの強さや罠の性質などは空間内のダンジョン内のマナ量に左右される」
不思議な話ではない。高ランクのダンジョンになればなるほど、モンスターが放つ魔法や攻撃も強力になるし、探索者側も同様だ。
「手短に何がどうなったかを言って欲しい」
「ダンジョンが成長した。今までの初心者用ダンジョンに中級者向けのダンジョンが生えて来た。こんな経験初めてだ」
「ダンジョンって成長するんですか……」
これには公平君も驚いていた。と言うか、私達よりもダンジョン側にいるバフォーでさえ始めてだというのだから、前代未聞の出来事かもしれない。だが、悪い話ではない。
「と言うことは、ダンジョンの攻略難易度が上がったってことだろう? 私への呪いが成就する可能性が高まったということじゃないか」
「呪いが成就する可能性は高まったな。問題は、ダンジョンの規模が大きくなるにつれて、呪いが強くなっている。お前にも影響は出ているぞ」
自分の体を確かめてみた。前よりも服がきつくなっている気がする。特に胸辺りが。ズボンも臀部が張っているというか。
「バフォーさん。アンタも男だったんですね」
「たわけ! より性別が強調されたということだ! これは笑い話ではない。要するに元の魂との乖離が進んだということだからな」
「た、魂の乖離?」
何やら聞き慣れない言葉が出てきた。そう言うスピリチュアルな話もダンジョンとは無縁ではないとは分かっているが。
「肉体と心は密接な関係にある。初心者用ダンジョンの規模で掛かる呪いでは、精々が表層上の肉体変化で留まる位だったが。……気付いていないのか? お前、自分の一人称が『私』になっているぞ」
「え?」
殆ど意識したことが無かったが、いつの間に。一度意識すると『俺』になるが、こういうのは別の奴に聞いた方が良い。
「公平君。実際、どう?」
「『私』って言っている所しか聞いたこと無いです」
つまり、心まで女性側に傾いているのか。ただ単に足跡を消すというだけの話ではなくなって来ているのだろうか?
「果たして。このまま呪いが進行したとき、そこにいるのはTSした『鈴木』なのか。それとも『鈴子』と言う人物なのか」
「怖いこと言うなよ……」
文字通り生まれ変わるということか。それは願っていたことだが、思ったよりも私は自分の足跡を引き摺っているらしい。いかん、あまり考えるべき話題ではない。切り替えよう。
「私のことは後回しにするにして。公平君の方は?」
「どうやら、ダンジョンが成長した際にお前の呪いと統合されたらしい。平たく言えば、一緒に30日間がガンバ!」
ピコン! と言うSE音が出そうなピースサインをキメながら言っていた。
普段なら罵声を浴びせるが、昨日の活躍を鑑みると何も言えない。明日からはきっちり罵倒しようと心に決めた所で、公平君の方を見た。
「すまない。私のせいで」
「いや! それは全然良いんですよ! しょうがないですよね! 未知の試みですからね!」
嬉しそうで何よりだ。最初は申し訳なさが湧きかけたが、彼の視線が私の胸に注がれているのを見て、スンッと消えた。しょうがないな。男子高生だもんな。
しかし、昨今。周りからどう見られるか気になる思春期が多い中、ここまで欲望に忠実な男子は却って珍しいかもしれない。
「ちなみに。このダンジョンの扱いはどうなるんだ? 初心者用なのか? 中級者用なのか?」
「兼用と言った具合だな。とりあえず、羽生氏に相談したらどうだ?」
未だに、ダンジョンにダンジョンが生えるという珍事態に処理が追い付かないが、羽生に連絡を入れることにした。
――
『と言う訳なんだが』
「……もう。何から突っ込めばいいか」
貝型アーティファクトで連絡を受け取った彼女は頭を抱えていた。直ぐに事実は確認され、世界中でも類を見ない現象として忙殺される未来が見えた。
『バフォーに確認を取ってみた所、初級、中級兼用らしい』
「ハハハ。そのままエスカレーター式に使えるな! 初心者のアフターケアもばっちりだ!!」
初心者用ダンジョンをクリアしたら、次の中級者用ダンジョンを探して……とかしなくて良いので、利便性は高いが。
『こういうことがあるから、次から高ランク探索者を入れるなよ。だってさ』
「無茶を言うな。私達職員よりも高ランク探索者達の方が権力を持っているんだぞ」
未知の物質、奇跡の秘薬、別次元の叡智。人類を数世紀分発達させた立役者達として、高ランク探索者は世界的にも非常に高い位置にいる。
先日、初心者用ダンジョンに突っ込んで行った『五十嵐 龍華』も、ダンジョン外でモンスターを使役する為の論文や理論を組み立てた実績がある。テイマーとして一線級の人材であり、ダンジョン内生物に関して世界的権威でもある。
『ダンジョン省の長の良い所を見てみたい!』
「そうだな。長らしく、お前のダンジョンを広報してやろう。今日から人気者だな」
『ふざけるな!』
と言っても、この事実を後悔しない訳にもいかないのでやはり彼女の権力でどうにかなる問題でも無かった。現時点で14日目だが、正直まだまだ何かが起きる気がしてならない。
「(このまま、上級者ダンジョンまで生えて来るとかはやめてくれよ……)」
と。願ってみたが、この期待は裏切られる様な気がしてならなかった。下手をしたら、とまで考えて頭を振った。そして、買っておいたエナジードリンクを飲み干した
――
「とりあえず、気を取り直して増えた部分の調査に向かわないと」
現在、私達は2階部分で探索者達を撃退しているが、これからは突破して来る奴も増えて来るはずだ。
ならば、3階以降にいるモンスター達ともコミュは取るべきだと思い、バフォーと共に向かうことにした。
「このダンジョンって何階まであるんだ?」
「初心者用ダンジョンとしては5階を想定していた。探索部分は4階まで、5階はダンジョンボスと言った具合にな」
標準的な初心者ダンジョンだ。5階のボスが誰なのかも気になるが、3階には何がいるんだろうか? また、何かしらのアマッターノがいるんだろうか。と思って、階段を上った先には緑が生い茂っていた。
屋内だというのに、まるで外にいるかのような解放感。一体、ここにどんなモンスターが出て来るんだろうか。
「あの、鈴子さん。バフォーさん。アレ」
公平君が指差した先には人型のモンスターが居た。
首から下までが性別的特徴を消した人間の形をしていたが、代りに頭部には大きな花が咲いていた。あまりに前衛的な造詣だった。
「アレは『アルウラネ・ノ・アマッターノ』だな。植物の種類は限定されていないから、頭部に花とか果実を付けているようだが」
「こぇーよ!! 急にホラー映画とかゲームの世界に入ったかと思ったわ!!」
1階や2階で見て来たモンスターはスキュさんを除けば笑えるというか、愛嬌があったが、この植物型アマッターノ達はホラー味が強い。
人間っぽい造詣に明らかに動物的でない何かがくっ付いている。と言うのは冒涜的な為、生理的嫌悪感が湧かずにはいられないのだ。
「いや、でも。喋ってみれば良い奴かもしれんぞ。おぅい」
バフォーがブンブンと植物人間に近付いた。頭にヒマワリを割かせた奴を連れて来たのだが、よく見たら顔面部分に種がびっしりと生えていたので、目を逸らしてしまった。コレで意外と明るいお調子者とかならギリ許せたのだが。
「……」
「おーい?」
喋らない。おまけに反応も薄い。バフォーに飽きたのか、ひまわり男はのしのしと何処かに去って行った。
「なぁ、バフォー。実はもう3階部分から中級者ダンジョンになっているとか無いよな?」
「いや。アイツのステータス的に初心者ダンジョンのモンスターなんだが」
表示させたデータは確かに初心者ダンジョンに出て来るモンスター相応の物だったが、アレと敵対するのはあまりに勇気がいる。
「いやぁ、もしも。1階部分であれと遭遇していたら、俺もきつかったかも」
あのイキりまくっていた公平君でさえ竦むレベルなのだから、植物人間達はそれだけショッキングな見た目をしているということだろう。
その後も、タイプの違う植物人間達に話し掛けてみたが、いずれも何のリアクションも示さなかったので、彼らとコミュを取るのは諦めた。仕方なく4階にも進んで見たが、同じ様な光景とモンスターが広がっていた。
「なぁ!! 急に難易度上げるのやめろよ!!」
「うるさい! 勇気と気合で切り開いて行け!!」
どうやら、この『アルラウネ・ノ・アマッターノ』は端材シリーズの中でも特に人気が無いのか、大量に蠢いていた。
メカムスメちゃん達を恋しく想いながら、一旦、フロア探索は中断して休むことにした。本当の試練は明日からだ。
「と言う訳で。公平君、30日まで引き続きお願いするよ」
「よろこんで!」
私のこと、公平君のこと、ダンジョンのこと。不安は尽きないにしても、もうじき折り返し地点だ。大丈夫、きっと上手く行くと信じて。私は今日を終えることにした。