TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
初心者兼中級者ダンジョンはそこそこに盛況していた。
特に新たに発見された3、4階のフロアは現場の人間こそ恐怖を感じていたが、視聴者からはダンジョン・ホラーとして受け取られており、植物人間達の造詣は人気を博していた。
「世の中、何が人気になるか分かんないモンっすね」
ダンジョン省の男性職員こと『片山』は配信動画を傍目に受け入れ希望者のリストをチェックしていた。初心者に混じって中級者の名前も見る様になっていた。やはり、初心者だけを受け入れるというのは無理があったらしい。
「全く。中級者以上なら、自分で探索するダンジョンも見つける物だろうが」
羽生がイライラしていたのは、結局おえらいさん達の要望を押し通されたからだろう。一度でも承知してしまうと、後は雪崩式に他の言うことを聞かざるを得なくなって来るからだ。
「中級者もダンジョン取るのに必死なんでしょ。探索者ライフになれると元の生活に戻れなくなるって言いますからね」
上司の言うことを聞く必要もなく、誰かの期限を取る必要もなく、夢に見たハック&スラッシュを成功させれば生活ができる。
勿論、確定申告など諸々の手続きは必要だが、通常の社会人が抱く様な柵から解放されるというのはあまりに魅力的だった。
「最も。続けられる奴は限られるがな」
が。そんな生活も決して長く続けられる訳ではない。時と共に体は老いて行く。
いつまでもダンジョン生活に望めるような肉体を維持できる者は極少数だ。そうした時、彼らが取れる道は少ない。
「だから、早めに潰しが利くようにしたいんでしょうね」
動画配信者、あるいは探索者へ技術を伝達する講師。または、ダンジョンで得たアーティファクトを用いた商売など。とにかく、中級者も必死だった。だが、これらに当てはまらない者もいる。
ジリリリと固定電話が鳴った。表示された電話番号を見て、羽生は顔を青ざめさせていた。震える手で受話器を上げた。
『よぅ、羽生ちゃん。ワシや。土場じゃ』
「ど、土場さん。貴方は高ランクダンジョンの探索の為に遠征していたんじゃ」
『そんな物、とっくに終わっとる。暫く、休んどったんやが、面白いダンジョンができたそうやないけ。なんで、ワシに教えやんかったんや?』
「いや、あくまで初心者用ダンジョンなので」
『ええやないか。見学するだけさせてくれや。おえらいさん達には許可を取っとる。この間発見した、アーティファクト渡したら喜んで頷いてくれたぜ』
それって贈賄では。と、片山は言い掛けたが、どうせ言った所で何の意味も無い。こうなったら、羽生は取り次ぐ位しかできない。
「わ、分かりました……手配します」
『やったぜ』
と、歓喜の声だけを残して電話が切れた。直後、ピロリンと音が鳴った。
羽生と片山はスマホを見た。電子マネーに2か月分の給料に相当する額が振り込まれていた。片山は自らの頬が緩むのを感じてしまったが、直ぐに頭を振った。
「羽生さん。土場さんって、確か高ランク探索者の1人でしたよね?」
『五十嵐 龍華』と並び、日本が誇る高ランク探索者の1人であるが、表に出て来ることは少ない。その理由を知っている羽生は顔をしかめていた。
「そうだ。奴は高ランク探索者であることは間違いない。その上、気前も良い」
「だったら、なんでそんなに嫌そうな顔をしているんだ?」
「……土場は。アイツは」
――
『とんでもない糞遊び好きなんだ』
「いよいよ、私のダンジョンに逆メタが来たねぇ」
嫌がらせの為にやっている糞散布を浴びに来るんじゃない。もしも、ダンジョン内で食糞を始めよう物なら、いよいよ風評被害がすごいことになる。
「風評被害も何も。このダンジョンが糞塗れのゲロ塗れなのは事実だろう。お前がやって来た過去は消えない」
「まさか、こんなしょーもない会話から重々しいセリフを聞く羽目になるとは思わなかった」
「あの。糞遊び好きってなんですか?」
何も知らない公平君が尋ねて来たが、果たして教えて良い物か。バフォーも頭を悩ませているが、やっぱり悪魔だから糞遊びを知っているんだな。
「羽生説明を頼む」
「通話切れていますよ」
あの野郎。と、なったら私が説明するしかない。だが、品性が疑われる可能性がある。
いや、自分の過去から目を逸らしてはいけない。探索者達を糞まみれにした自分は、糞遊びを説明する必要がある。
「糞遊びと言うのはだね。モンスターのウンコを食ったり触ったりすることだよ」
「???」
公平君も理解しきれなかったのか、大量の疑問符を浮かべていた。説明している私だって理解できないんだから当然だ。
「バフォー。説明を頼む。探索者の尊厳を守る為だ。必要なことだろう?」
「くっ。探索者の名誉の為なら仕方ないか……」
もしや、ダンジョン省や企業も含めて、この世で一番探索者のことを思っているのはコイツなんじゃないんだろうかと。過保護ぶりを実感していると、ちゃんと説明をしてくれた。
「このバカはウンコを妨害道具に使っているが、モンスターの排泄物と言うのは情報源にもなるんだ。体内に保持しているアイテムやマナの種類など。レアスキル持ちの中では摂取して力に変えることもできる奴がいるらしいが」
「それでも、ちょっと絵面が……」
絵面もそうだが、普通は忌避感が出る。ダンジョン内で死なないにしても病気などにならないにしても。そもそも、人はウンコを食ったりしない。……いや、食う奴もいるんだろうが。それは常識の外にいる奴だ。
「土場はそう言うことに忌避感が無いタイプなんだろうね。糞と戯れる様に接することから、糞遊び好きと言われているようだね」
「そんな人が高ランク探索者なんですか……」
「大切なのは能力だからね」
例え、どれだけ高潔でも能力が低ければ認められないし、人間の屑でも能力が高ければ認められる。それが探索者だ。
「だが、今回は糞まみれにすれば帰ってくれるんだろう? 良かったじゃないか。お前のスキルが最高に生きる所だぞ」
「そう上手く行く気がしないねぇ!」
こういうのは大体、スキルのおかげで上手く行く! とか言う算段は外れるというか。そもそも、単品だと飽きる可能性が高いというか。
とりあえず、そんな化け物が来るなら公平君のスキルを頼るしかない。のだが、極当たり前の様に頼っているが気になることが一つ。
「公平君。学校とか部活とかは大丈夫なのかい?」
「いやぁ、今までは午後からだったり、自分がいなくても大丈夫だったりでしたけれど。明日は普通に学校ですね」
もしかしたら詰んでしまうかもしれない。公平君はあくまで補助的なことをやってくれる程度に留まっているが、今回みたいに格上を相手にする場合は彼の力無しでは成り立たない。
「羽生。ちなみに、土場が来るのは何時頃だい?」
『明日の朝一だと言っていたぞ。放り出し立てが一番だと』
「もう駄目だ」
公平君は来ない。そして、俺はバフォーやモンスターの皆と一緒に阻止しないといけない訳だが、普通に蹂躙されて終わるだろう。
「何故、そんなに慌てているか分からんな。糞遊びが好きなら、お前のスキルでウンコを食わせてやればいいじゃないか」
「バフォー。例えばの話だ。お前が運営するダンジョンに探索者が来るとする。しかし、どいつもコイツも装備もスキルも立ち回りも一緒だ。それは面白いか?」
「うーん。いや、それは。どうだろうな……」
情報が共有されても装備が画一化されない。と言うのが、ダンジョン探索の面白い所ではある。単純に調達する費用が足りないなど切実な理由もあるが、そう言った面の創意工夫が多様性を生んでいる面はある。
だが、もしもコレがゲームなら。皆して同じ装備、同じスキルで立ち回りも似たような物。となれば、見ている側は面白くはないだろう。
「そう言うことだ。私は自分のスキルで出現するのが同一の物かは調べたことは無いが、多分。そんなに変わらない気がする。それではきっと満足しないことだろう」
「なるほど。分かった気がするぞ!」
「(この人達は何を言っているんだろう……)」
バフォーが納得する反面、公平君からは怪訝な目で見られていた。私だって自分の正気を疑っているんだから、君も我慢して欲しい。
『さすがに1日の運営的に他の時間にはずらせないからな。その、なんだ。頑張って対処してくれ』
「無理ゲーすぎる」
折角ダンジョンが延伸したというのに、ヤバいゲストが来そうになっていた。果たして、私は明日を乗り越えられるのだろうか? 不安のせいで腹が痛くなって来た。今日はトイレに籠ることになりそうだ。