TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
その日、約束通り。朝一番で彼はダンジョンを訪れていた。
装備品はどれもこれも一線級の物であることは分かるだろう。ただ、装備品を除く彼の容姿は印象的だった。
スキンヘッドに皺の寄った眉間。サングラス越しでも分かる位に剣呑な眼光。そして、モンスターと見紛わんほどの巨体。受付スタッフは息を飲んでいた。
「ワシや。土場や。話は聞いとるやろ」
「あ、はい。あの、本当にこのダンジョンでよろしかったですか?」
確認の為に渡されたライセンスにはスタッフも見たことが無い位に豪奢な経歴が並んでいた。あまりにも恐れ多いので、確認する手が震えるレベルだった。
「勿論や。ここは糞遊び好きの為にあるダンジョンって聞いたんや。安心せい。ちょっと遊んで来るだけや」
「そうですか。では、約束通り撮影機器はお預かりします」
高ランク探索者が本気を出せば簡単に踏破されてしまう為、後塵が探索する余地を残す為に、記録は残さない様にとお願いしている。
「それと。この装備品も頼むぜ」
「え?」
幾つものアーティファクトが編み込まれた超高級品の装備を脱ぎ捨てて行く。あっと言う間にふんどし一枚になっていたので、スタッフ達は絶句していた。
「それじゃあ、行ってくるぜ」
「あの!! 装備品!」
ほぼ全裸でダンジョンに突っ込む様子はイカれているとしか言いようがないが、相手は高ランク探索者と言う権力マシマシの存在なので、これ以上は言えなかった。彼はほぼ全裸のまま突っ込んで行った。
――
1階部分。最初の通路では糞便が降り注ぐが、今となっては殆どの探索者が対応できるようになっていた。
しかし、土場は両腕を広げて悠々と歩いていた。スキンヘッドの頭部に、熱い胸板に、足裏に。あらゆるところに汚物が広がって行くが、まるで気にした風も無い。いや、むしろ彼の表情には穏やかさすら表れていた。
「どれ」
肩に乗った糞便を一つ摘まむと口に放り入れた。モソモソと咀嚼して、嚥下して見せたが、首を傾げていた。
「(まるで、糞と言う概念だけで放り出されたような抽象的な味や)」
今まで、あらゆるダンジョンであらゆるモンスターと糞遊びをして来た土場には、糞には個性と臭いが滲み出ることを知っていた。
だが、この糞はモンスターの物でないことは直ぐに分かった。マナによる味の違いも無ければ、ドロップアイテムが及ぼす影響も無かったからだ。
「キーッ!」
と。そんなことを考えていると、1階部分を担当するアマッターノ達が出て来た。
しばらく見ない間に繁殖していたのか、ナーガ、ケンタウロス、セイレーンのアマッターノに交配した結果、胴体部分だけ各種の要素が入り混じったキモいのが沢山発生していた。……やって来ることは体当たり、蹴り、噛みつき位だが。
「まぁ、落ち着けや」
襲い掛かって来るアマッターノ達を拳一つで黙らせている辺り、汚くても高ランク探索者であることを見せつけて来た。普通なら撃破されたモンスターは消滅するのだが、手加減をしていたのだろう。消えずに残っていた。
「どれ、確かめてみるか」
土場が手を伸ばすとワームホールが開き、何処からともなくポーションが現れた。伸びていたセイレーン・ノ・アマッターノに飲ますと、直ぐに効果が現れた。
「ギョ、ギョッギョー!!」
暫くジタバタしたかと思うと、尻の部分から赤いプルプルした卵を排泄していた。土場は嬉々として頬張っていた。他のアマッターノ達も生存本能が警鐘を鳴らしていたが、もう遅かった。
――
絶句していた。もしも、私が排泄物で遊んでいた罪を問う存在が現れたとしたら、それはきっとこの探索者の様な形をしているのだろう。
「バフォー。お前が、始末しろ」
「だが、土場の奴は何も悪いことはしていない。アレも生態観察の一環だ」
「ふざけないでくれ! 排泄物を口にする生態観察なんてあって堪るか! 1階の奴らは良いとして、メカムスメちゃんのことを考えろ!」
「そう思って、避難してきたでー」
「ヨシ」
なら、問題ないか。いや、問題しかない。ダンジョンを防衛するモンスターとして探索者の迎撃をサボるというのは職務怠慢に値するが、彼女にも人権ならぬモン権はある。年頃の娘が相対して良い相手ではない。
土場はさっさと2階に向かうということなく、1階部分を虱潰しに回っていた。行動自体は奇行と言うしかないが、探索者としての立ち回りは丁寧なんだから腹が立った。やっていることはアマッターノ達に下剤を飲ませているのだけど。
「この世の地獄みたいな光景やな。あの子達が一体何をしたんや」
これにはメカムスメちゃんも戦慄していた。いや、この光景を見てダンジョン探索の一環だと割り切っているバフォーが異常者という他無いが。
『うん、これや!』
1階部分で散々狼藉を働いた挙句、2階へと向かおうとするのだが、このままではハピやんもスキュさんも被害に遭ってしまう。私が何とか食い止めないと。
「私を舐めないで欲しいね。よし、えーっと。『カレーBB』に『野糞BB』に『ヤニカスウンコBB』に……」
「そこでパッとウンコのバリエーションが出て来る辺り、鈴子さんも大概やと思うんよ」
「コレでも死ぬほどバカにされて来たからねぇ! なんかい、私のBBがウンコと共演させられた事か! 食らえ!!」
「土場は光のウンコ、鈴子は闇のウンコと言うことか」
ウンコに光も闇もあるかと思いながら、スキルを発動させた。公平君みたいなまともな物が欲しかったねぇ。
――
「お?」
パカっとダンジョンの天井が開いたかと思えば、茶色く粘度の高い液状のものが降り注いできた。果たしてコレが何なのかは当事者達だけが知れば良いことであるが、土場は避けようとしなかった。
「やったぜ。……って、なんや。カレーか」
あんまり美味しくなかったのか、土場の顔は浮かない者だった。
全身汚れ塗れでもモチベーションを落とすことも無くノシノシと歩いていると、ゴロゴロと転がって来る物があった。また、例の糞かと考えていると、一風変わった特徴があった。
「ヤニ付きかぁ」
1本糞に煙草が4本ほど突き刺さっているという前衛的な代物があったが、土場は迷うことなく一本を取り出して、指パッチンで火を点けていた。もちろん咥えているのは味噌付きの方だ。
「スゥ~。テーマパークに来たみたいや」
丁寧に突き刺さっている煙草を全部回収して、ワームホールに放り込んだ後、彼は悶絶しているアマッターノ達を部屋の隅に寝かせて、2階へと昇ろうとしていた。糞ダンジョンはかつてない程の危機と便意を迎えていた。
――
学生の趣味と言うのは常に移ろいゆく物で、当初は玩具にされていた公平も割とすぐに飽きられたのか、あるいはダンジョンの呪いが部分的とはいえ達成されているのか、割と普通の生活に戻っていた。
「(くっ! 鈴子さん!)」
彼の脳内では糞遊び好きの探索者がダンジョンを攻略するだけでは飽き足らず、鈴子にまで手を出している光景を思い浮かべていたらしい。
あのナイスバディな女性と糞遊び……公平の性癖は極普通な物だったが、もしも、そんな現場に行ったら新たな道が開けてしまうかもしれない。
「この様にスエズ運河は運航に……」
「(うんこう!?)」
公平がハッとしたので、隣の席の女子もビックリしていたが、彼は頭を振った。今はまだ2時間目。ここからダンジョンに駆け付ける術がない。かと言って、普段は真面目なのでサボったり早退することなんかも考えられなかった。
「(俺はどうすれば良いんだ。何かウルトラCは無いのか!)」
必死な形相をしているが、考えているのはスケベなことばっかりだった。そんなことを考えていると、授業中にも関わらず校内放送が鳴った。
『2-A組。『公平 乱太郎』君。至急職員室まで来て下さい』
猛烈に嫌な予感がした。まさか、身内に何かあったんじゃないんだろうかと思いながら職員室に向かうと、畏まっている教師と見覚えのある人間がいた。
「おいすー。公平君、元気にしていた?」
「龍華さん!?」
「お、お前。この方と知り合いなのか……」
教師がブルブル震えているのを見るに、龍華が相当目上な人物であることを改めて実感した。して、自分に何の用だろうか?
「ダンジョン特例措置により、彼をお借りします。責任は『五十嵐 龍華』にある物とし、この措置による学業の妨げに関しましては私から補償いたします」
「は、はい」
教師もペコペコしていた。もしかして、自分達はとんでもない人間の相手をしていたんじゃないんだろうかと思いながら、彼女からバッグを渡された。
「早く着替えて。もう、始まっているから」
「な、なんで俺が?」
「だって、そうしないとハピちゃんが糞塗れにされちゃうでしょ!」
なんて納得できる理由と同時に高ランク探索者が権力を濫用して良い物かと疑問が浮かんだが、そんなことはどうでも良い。大切なのは。
「今! 行きます!!」
ここで格好良く登場して、恩を売ってイチャイチャする切っ掛けを掴むことだ。高ランク探索者と駆け出し探索者。奇妙なことに彼女達の願望は何処までも世俗的な物だった。