TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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16日目:ドバーっと襲来 その2

「着きました!」

 

 公平達が向かったのは件のダンジョンではなく、鈴子の家だった。合鍵を取り出して、迷うことなく部屋に入るが、龍華が待ったを掛けた。

 

「ちょっと。アンタ達、そういう関係!?」

「今は一旦、置いといて下さい! 他言は無用ですよ! あ、俺。ちょっと着替えますんで!!」

 

 公平が玄関を施錠して、トイレに籠って着替えている間。龍華は部屋内を物色して、鈴子が残したダンジョン探索の報告書を斜め読みしていた。

 

「(中級探索者として凡百な内容。と言うことは、ダンジョン関係のアーティファクトに関する知識はあったハズだから)」

 

 懐から取り出したモノクルを装着して、強く思念した。『この部屋内の主が隠した物を見つけろ』と。すると、レンズを通して部屋の一部が光った。

 報告書に埋もれる様に1冊。安っぽい日記帳があった。直ぐに取り出して、パラパラと捲っている辺りで、着替えを終えた公平が出て来た。

 

「お待たせしました! って。龍華さん? 何をしているんですか?」

「ちょっと、気になったことがあってね。ほら、アンタが鈴子って呼んでいる奴。何処でTSするアーティファクトなんて入手したのかと思って」

「それって。そんなに珍しい物なんです?」

 

 世界がファンタジーを当然の様に受け入れてしまった昨今、性別が変わるということも決して不思議ではないと思っていたのだが、龍華が首を横に振った。

 

「当然よ。だって、考えてみなさい。仮に、性別を転換できる物が溢れていたら社会の秩序は維持できなくなる。罪を犯しても、直ぐに別人になり変われるんだから」

 

 言われてみたら、そうだ。フィクションの様に簡単に考えていたが、その人物の足跡が簡単に消せるというのなら、犯罪には打って付けだ。そんな危険な代物の流通が許される訳がない。

 

「でも、鈴子さん? は、ある程度の探索者だったんですよね? 自力で入手したって可能性もあるんじゃ?」

「それは無い。だって、人体を別の存在に置き換えるなんてアーティファクト。高ランクダンジョンでも滅多に見かけない代物だし。奇跡を起こすのに必要なマナの量を考えても、中級以下に出現する訳がない」

 

 だが、現実としては鈴子と言う存在がいる訳で。だとしたら、どうやって入手したのだろうか? と考えていると、龍華が日記帳をヒラヒラとさせていた。

 

「万が一のことを考えていたんでしょうね。高ランクアーティファクトの違法遣り取りの記録と言うか、使うに至った経緯が書かれていたわ」

 

 差し出されたので軽く捲ってみた。本当に鈴子の話に聞いた通りで、軽率に動画配信をしただけで好き勝手に弄られて、ネタにされた慟哭が書かれていた。……ただ、文面からはあんまり悲壮感は感じなかった。

 

「ネットの遣り取りで手に入れた。って書いてありますね」

「誰が。何の目的で? ……正直に言うと、彼女がダンジョンを防衛している。って、言うのも誰かの意図がある様な気がするのよね」

 

 鈴子がダンジョンを防衛しているのはTSを遂行する為と言うのがあるが、では、そんな風に彼女を煽り立てたのは誰か? と言われたら、1人しか思い浮かばない。

 

「(まさか。バフォーさん?)」

 

 あの、探索者とダンジョンのことを念頭に考えている彼が? だとしたら、何の為に? ダンジョンを防衛させた果てに何があるのだろう?

 

「公平君。彼女と付き合うなら、その事も考えた方が良い。でも、まずは。……私のハピちゃんを土場の糞の手から守る!!」

「こ、こっちです……」

 

 ガラッと押し入れを開ける例のダンジョンの繋がる入り口が出現していた。流石に、龍華もこれには驚いていた。

 

「信じられない。管理されているゲート以外にも入り口があるだなんて」

「秘密にしておいてもらえると幸いです!」

「分かった。口外しない。約束する」

 

 探索者の装備に着替えた2人は、押し入れの中にゲートを潜って件のダンジョンへと進んだ。

 

――

 

『イヤァアアアアアアアア!』

『鬼ぃさんはワシや』

 

 2階に辿り着いた土場はハピやんを追いかけ回していた。俺も大量のスキルをぶち込んで妨害していたが、まるで足止めにもならない。

 

『ハピやんさん! 3階に逃げて下さい! 私が足止めをします!』

『トモダチ!』

 

 スキュさんが身を挺して庇おうとするが、相手は自分よりも遥かに格上。真っ当に戦う意味が無いと分かってか、大量の墨を吐き出していた。

 これならば、相手の視界を遮っている隙に逃げることが! と言う、私の考えが如何に甘い物であったかは直ぐに思い知らされる。

 

『イカ墨も好物なんや。あ、お前さんはタコか』

『ン“ン”ン“ン”ン“ン”』

 

 スキュさんが墨を吐くよりも先に熱い接吻を交わして、タコ墨直飲みを敢行していた。あまりに悍ましい光景に、私はミツバちゃんと抱き合っていた。

 

「バフォーさん! スキュさんが! スキュさんが!!」

「うーん。これも生態観測の……」

「お前、それを言っとけばなんでも許されると思うなよ!?」

 

 映像内ではスキュさんが無慈悲にバキュームを食らっていた。

 強い奴は何をしても良いと言うが、あんまりだ。俺はスキュさんになんて慰めの言葉を掛ければ良いかと悩んでいたが、ここで心を折らないのが彼の凄い所だった。なんと! バキュームされるならと、負けじと墨を吐いたのだ!

 

『ボボボボ!』

『ジュジュジュジュジュッ!!』

 

 もしも、今後。私が探索者を続けるとしても、ここまで凄絶な光景を見ることは無いと思う。と言うか、こんな光景を2度も見ることになったら己の不運を呪うことは間違いない。

 

「うぅっ、うぅ。スキュさん。ウチが逃げてもーたばっかりに」

「いや、良いんだ。ミツバちゃんが避難していなかったら、同じ様にひどい目に遭っていたと思う」

 

 何をされるかは分からないし、分かりたくも無いが絶対にロクでもないことが起きていたと思う。スキュさんの勇姿に、私達は涙を禁じ得なかった。

 全てを吸い取られた彼の骸を傍目に、土場は悠々と3階へと向かった。ハピやんも同フロアに逃げ込んだが、どうなるんだろうか? と考えていると、背後から『おーい』と私を呼ぶ聞き慣れた声。

 

「鈴子さん!」

「公平君!? それに。後ろにいるのは……」

「私はハピちゃんを守りに来たのよ!! あの糞遊び好きに酷い目に合わされたらと思うと、夜しか寝むれなくて!!」

 

 なんで、高ランク探索者がこんな所に来ているんですかね。コレには、バフォーも戸惑っていた。

 

「公平君!? コイツにゲートを教えたのか!?」

「バフォーさん! 緊急事態だったので! でも、俺を学校から連れ出してくれたのも彼女なんです!」

「バフォー? ……へぇ。アンタが」

 

 龍華がバフォーを睨みつけている。当然だろう。彼女にはコイツに撃破された過去があるのだから。

 

「公平君! さぁ、早く! 力を貸してくれ! 土場を撃破するには君の力が必要なんだ!」

「了解っす! 鈴子さん!」

「うむ! 折角来てくれたんだ!」

 

 経緯はどうあれ、事態を打開するだけの力を持って来てくれたことは感謝する。公平君を包み込むように抱擁して、両手を重ねる。互いのスキルが馴染んで、ダンジョン内に溶けていく気がする。

 

「ねぇ、ミツバちゃん。あの2人って、もしかして」

「そんな訳ないやん。2人の歳を考えてーや」

「でも、公平君。彼女の部屋の合鍵持っていたけど」

「は???」

 

 さぁ、今こそ。私達の反撃の時だ! 背後で聞き捨てならない会話が繰り広げられている気がするけれど、私と公平君は利害が一致した関係にしか過ぎないんだねぇ。弁明は後ですることにしよう。

 

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