TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
『ぴゅぁああああああああ!』
公平君と私のスキルの効果が3,4階部分に広がって行く。ハピやんは全身に白い羽毛を生やしたハーピーとなり、天井まで飛翔して難を逃れていたが、地上部分にいた植物人間共がどうなったかと言うと。
「キシャァアアアアアア!!」
てっきり、身体の一部が植物状になった美少女モンスターになるかと思いきや、全身緑色の人型モンスターが溢れ返り、土場に襲い掛かっていた。一体、植物要素は何処に行ったんだろうか?
「バフォー?」
「おかしいな。コイツらはアルラウネ・ノ・アマッターノだったはずなんだけど。もしかして、粗悪品とか混じったかな……」
「端材やの粗悪品だのでダンジョンをメイクするって、バフォーのコンプラとかどうなっとんねん」
映像内では土場が襲い掛かって来る緑人間(元・植物人間)を殴り飛ばす乱闘激が繰り広げられていたが、本当にコイツらは何なんだろ?
「龍華さん。何か分かる?」
「分かる訳ないでしょ。今までは植物人間だったからホラーではあったけど、ギリギリダンジョンしていたのに、緑色の人間が襲い掛かって来るとか。完全にバイオとかそういう世界観になっているじゃない」
こうなったら、もう糞遊びとか言っている場合じゃないな。
バフォーは私と同じく貝型のアーティファクト(今更だが、これは『遠貝』と言う)で誰かと連絡を取っていた。通話口でペコペコ頭を下げる仕草があまりに日本人的だった。
「えぇ。ですから、創造主様から買い上げた『アルラウネ・ノ・アマッターノ』がですね。スキルによって緑色の人間に変わって……。え? アレは『植物人間』であって、アルラウネの余った奴じゃない?」
「君の発注ミスだねぇ!!!」
「そもそも、植物人間って何ですか?」
公平君も極当たり前の疑問を浮かべていた。モンスターとかならまだしも、軽々に私達の倫理観を損なう造詣を出さないで欲しい。
「龍華さん。植物人間は聞いたことある?」
「無いけど」
高ランク探索者でも聞いたことが無いのだから、新規のモンスターなのかもしれない。バフォーは何処からともなくホワイトボードとマーカーを取り出して、説明を書き写していた。
「はい。えーっと、植物人間と言うのはマンドラゴラの一種で。現代の化学肥料技術で育ててみたら、思ったよりも根っこが元気に逞しく育ってあんな風になったと。叫び声とかは……あ、無いんですね」
「じゃあ、今。3,4階でバトルしている植物人間達は殴って来る野菜みたいなモンやな。食うか食われるかや」
ミツバちゃんが物騒なことを言っているねぇ。私と公平君の力により、殴り野菜が誕生したようだが、土場は次々と生えて来る植物人間共を撃破し続けていた。
「えらい勢いでポップしているけれど、植物人間共のリスポン間隔どうなっているのよ。もしかして、無限湧き?」
「ちょっと待て。今、聞いているんだ。えーっと植物人間はHPが0になるとフロアの地面に還元され、次の植物人間のポップ間隔を早めると。フロアが栄養豊富状態だと実質無限湧きになるんですね。やはり、創造主様はすごい!」
ペコペコしながら遠貝の通話口で褒め称えているバフォーの世知辛さには涙を禁じ得ない。兎も角、私のスキルと公平君の能力もあって3,4階フロアは無限湧きの地獄と化した。ことだけは分かった。
「ハハハハ。土場君の名前らしくドバーっとモンスターを出してやろうじゃないか。彼も喜んでくれるだろう!」
「そして、疲労困憊したアイツがモンスター達の糞になる訳ですね!」
「「ハハハハハ!!」」
公平君がノリを合わせてくれたので、私達は声を上げて笑っていたけど、龍華が首を傾げていた。嫌な予感がする。
「龍華さん。何かあるん?」
「土場がその程度でくたばるなら、高ランク探索者なんかになっていないのよね。なんて言うか、嫌な予感がするのよね」
――
土場ほどの高ランク探索者にもなれば、倒したモンスターが地面に還元されて、次のモンスターを生み出す種になっていること位は直ぐに理解できた。
暫くは、身体を動かすということで殴り合いをしていたがハタと気付いたことがあった。コレは現場にいる土場にしか分からなかったが、倒しては復活を繰り返している内に植物人間達が振り撒く臭いが強くなっていた。
元々、頭部に果実や花弁を付けていたモンスターだ。短期間で倒されて、蘇生を繰り返していく内に栄養が凝縮されたのか。このフロアは糞が降り注いでいる為、土壌が素晴らしく肥えているしあり得ないことではない。
「そうか。糞はやっぱり、溜め込むもんなんや!」
土場は殴り飛ばすことを止めて、植物人間をホールドしたかと思えば。首筋に噛みついて、食いちぎっていた。
人の形はしているが、植物繊維特有のシャキシャキとした食感と鼻を突き抜けて行く香りに、えも言えぬ恍惚感を覚えた。今、自分は自然のサイクルの恵みを直に、新鮮に味わっているのだと。
「堪らねぇぜ」
糞遊びも悪くは無いが、生オンリーと言うのはいささか工夫が足りなかったかもしれない。例えば、牛乳だって加工次第ではチーズ、クリーム、ヨーグルトと様々に姿を変える。
糞だって同じだ。このフロアでは植物人間を通して、様々な恵みへと姿を変えている。今、食い倒した奴は大根を彷彿とさせる味をしていた。次の奴に嚙みつく、瑞々しさの中に甘いウリ科の香りが突き抜けて行った。
「(コレは。スイカ、いや。メロンや!)」
「ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“!!」
貪り食われている植物人間は悲鳴を上げながら、土場の胃の中に収まって行く。地面に還らなかった者達は蘇生することも敵わなかった。
――
全員が絶句していた。バフォーでさえ言葉を失っている。
正直言うと、無限湧きパターンに入ってから高ランク探索者と言えど物量で圧し潰せると思っていた。だが、土場は私達の想像を遥かに上回っていた。
「モンスターを食っている……」
バフォーも驚いていた。基本的にモンスターは倒したら消えるので、死体を調理するとかそういうことは無い。なので、モンスターを食うには生で齧るしかないのだが、本当にやる奴がいるとは思わなかった。
いや、齧るなんて生易しい物じゃない。アレは捕食だ。敵を倒しながら、同時に補給も済ませている。信じられない。どんな咬筋力と消化能力があればできるんだ……? と、同時に彼の足下に茶色い何かが散っていた。何かとは思いたくはないが、まさか。
『わしが食らって、放り出して、お前らが生まれる! 永久機関が完成しちまったようやな!』
「汚いチェンソーマンだな……」
公平君がボソッと呟いた言葉に笑ってしまったが、事態は深刻だ。
高ランク探索者は人間っぽい見た目をしているだけで中身は全くの別物な為、そんな奴が放り出した糞を栄養にした植物人間がどんな変貌をするかと言われたら、私も想像が付かない所で。
「GYAAAAAAAAAAAAA!!!」
恐らく、土場が交戦して来たであろうモンスターの形を取っていた。
ドラゴンを始め、複眼のライオンや、節足のサメ。あるいは翼を生やした一角獣など、セルフで強敵を生み出しては食らっていた。
「このままじゃどうなるか分からない一方で、このまま生物濃縮が起きたら何が生まれるかを見てみたい気持ちにも駆られる!!」
「鈴子さん??」
変な話だが、このダンジョンの肥沃な土壌を作り出した私のスキルと土場の性癖&能力によるマリアージュの結果、見たことも無い光景が繰り広げられているのだろう。不謹慎な話であるが、この先に何が起きるか見てみたい気持ちも湧いたが。
「良いわけないでしょうが!!」
龍華から首根っこを掴まれて引きずり出された。公平君から引き剥がされ、スキルが強制中断された途端。3階のフロアを満たしていた緑は一瞬で枯れた。
「そうか。土場が食らって放り出した種は既に公平君達のスキルから独立しているのか」
バフォーが興味深そうにうなずいていた。と言うか、フロアの緑を一瞬で枯らす程に強大なモンスターを生み出していたのかと思うと、高ランク探索者自体がモンスターと近しい存在なのではないかとすら思ってしまった。
「最高やったぜ」
でっぷりと突き出した腹を揺らしながら、土場は満足そうに入り口に戻って行った。……とりあえず満足はしてくれたらしい。
ホッと安心したと同時に足下が覚束なくなり、倒れそうになった所で公平君が支えてくれた。
「鈴子さん! 大丈夫ですか!?」
「な、なんだ。コレ」
「スキルの使い過ぎよ。土場相手だから出し惜しみもできなかったんでしょうけどね」
龍華が私にポーションを飲ませてくれた。スゥっと倦怠感が取れて行くが、動けそうにはなかった。同じ様に公平君もポーションを飲んでいた。
「なんで、ここまでしてくれるんだい?」
「それは勿論、ハピちゃんの為だけど?」
彼女が視線を向けた先。公平君のスキルも切れて、いつもの姿に戻ったハピやんが遠慮がちにコチラを見ていた。龍華が苦手なのだろうか。
「そうか。お前のおかげでハピやんは助かった。ありがとう」
「は? 感謝の言葉で済むと思ってんの? ハピやん貸しなさいよ」
「ヴァーカ!!」
当たり前の如く対価を求められた。実際に見合うだけの働きをしてくれているので、断り辛い。だが、このダンジョンは私の物ではないし最終的な決定権はバフォーにあるのだが。
「貸せとは何だ。まさか、鍛えて戻すみたいなことはしないだろうな。そんなことされたら、ダンジョンの格付けが上がるだろう」
「いいじゃない。どうせ中級ダンジョンが生えたんだから、高ランクダンジョンだって生えるって。その内、異次元ダンジョンも生えるかもよ?」
「縁起でもないことを言うな!!」
バフォー。怒りの抗議である。そう言えば、中級ダンジョンも出たんだから、ミツバちゃん達も普通に上位の姿に変わる可能性もあるのか。
「それに。前に言っていた話だと、高ランク探索者が暴れるとダンジョン内のマナの総量が多くなるんですよね? 今回もすんごい暴れていたし、またダンジョンが成長するんじゃないんですか?」
「おい、やめろ」
公平君の懸念をバフォーが否定していた。しかも、今回は龍華の様にバトルの結果、マナが散ったとか言う感じでは無くて土場がドバーっとばら撒いていたので、かなりの量が散布されたんじゃないかと思う。
「僅か、2日で中級ダンジョンから上級ダンジョン迄生えたら話題になること間違いなしね。こうしちゃいられないわ。ハピちゃん、早く一緒に行きましょ」
「ヤーッ!!」
と、拒否を示していたが、テイマーの前ではあまりに無力だった。ハピやん用に新しく調達したであろうオーブに閉じ込められていた。
「ハピやん!!」
「ミツバちゃん。ハピやんは俺達の為に犠牲になったんだ」
彼のおかげで、龍華が公平君を連れて来て自体はどうにかなったし。彼の尽力に涙を禁じ得ない。
「あのぅ。バキュームキスされた私は?」
「スキュさんも犠牲になったんだねぇ……」
もしや、今回の撃退って皆が満身創痍になった結果じゃないだろうか。
結局、撃退じゃなくて勝手に満足して帰っただけなので、私達が勝ち取ったという実感も少ないけれど。
「この後も、他の探索者が控えているんだが」
「いや、流石に調整を入れた方が良いんじゃない? 今の状態で3階を解放したら、土場の残りかすみたいななのが出現するかもしれないし」
龍華の言うことは最もだ。土場が出して行った植物モンスターは初心者・中級者ダンジョンに居ても良い物ではない。バフォーも頷いていた。
「同感だ。ちょっと点検をしたい。鈴子、連絡を頼めるか?」
「いや。もう、向こうでも伝わっているみたいだ」
スッと取り出した遠貝からは羽生から説明を求める声が上がっていた。どうやら、土場が今日は置いといた方が良い。と言う報告があったらしい。
「……説明は私がしておこう」
バフォーが遠貝を取り、説明をしていた。龍華がくれたポーションのおかげで回復が早くなっていたが、疲れたことには変わりない。五体をダンジョンの床に投げ出して、目を閉じた。