TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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16~17日目:平穏っぽい日常

「うぅ……」

 

 多少の倦怠感を覚えながら目を覚ました。ここはアパートの自室で、窓の外はとっぷりと日が暮れている。

 

「起きた?」

「龍華。……公平君は?」

「家まで送り届けたわ。本人は良いって言っていたけれど、礼儀はあるからね」

 

 高ランク探索者ともなれば礼儀も備わっているらしい。私も後日、彼には何かしらのお礼をしたいと思う。それはそれとして。

 

「もしかして、私が起きるのを待ってくれていたのかい?」

「そうよ。聞きたいことがあったからね。単刀直入に聞くけど、アンタ。TSする為のアーティファクトをどこで手に入れた?」

 

 ヒシっと部屋内に緊張が走った気がした。今までは、なぁなぁにされていた問題だが、探索者として遵法心があれば問うてくるのは当然だった。

 私だって探索者の端くれだ。TSを願望する者が多い傍ら、どれだけ危険な物かと言うことも把握している。故に、関連アーティファクトの入手の困難さも。

 

「ネットの販売で手に入れた。と言っても信じて貰えないかい?」

「だとしたら、販売者のアカウントと購買記録を出しなさい」

「それは無理だね。もう相手はアカウントを削除している。追跡は不可能だ」

 

 つまり、相手側も取引の危険性を理解した上で保身に走っている。マァ、有体に言えば私は犯罪に加担していた。と言えるのだがね。

 

「本名『鈴木 浩二』。中級探索者としては捻くれてもいなくて、実績も立っていたから使い易い存在で、同業者にも広く顔は知れ渡っていた様ね」

「仕事ぶりで? それとも。例の動画で?」

「どっちもね。そこそこ便利だから、高ランク探索者の中でもアンタに素材回収を依頼する奴もいた位だし」

 

 なんでも仕事は受けてみるものだ。意外な所に縁故が生まれたりするのだから。真っ当に仕事ぶりを評価されていたのは嬉しいが。

 

「君も例の動画を?」

「調査がてらにね。私が言うのもなんだけど、放っておけばいいじゃない。腹は立つかもしれないけれど、アンタは仕事もシッカリとしていたんだし」

「簡単に言わないで貰えるかい?」

 

 他人からすればネットの玩具と言うのは軽々しく聞こえるかもしれないが、実際は常識も倫理観もぶっ壊れた奴らが突撃して来るのだ。

 

「顔も知らない、名前も知らない奴がダンジョンの入り口でスマホを構えて待ち構えていた経験は? 依頼に行ってみたら、写真と動画撮影だけされて、キャンセル料握らされて帰されたことは? 住所特定されて、勝手に集団オフ会された経緯とかはあるかい?」

 

 無視しておけばいい。と言う時代はとうに過ぎている。加えて、私は探索者なのだから嫌でも関わりを持つ必要がある。動かないという選択はできない。

 

「警察やダンジョン省に相談は?」

「それで、どうにかなっていたら、TSもダンジョン妨害もしてないね」

 

 だから、私はこんなことをしている。アイツらの所業で作られた物がスキルに影響するという事実だけでも業腹ではある。

 

「こんなことは止めなさい。あのダンジョンはおかしい。嫌な予感がする。そもそも、あのバフォーって奴も手放しで信用して良いかも分からないんだから」

 

 龍華の言っていることは正しい。バフォーが何者であるかは私も知らない。なんなら、騙されている可能性すらあるとは思っている。……思っているが。

 

「仮に、アイツが私を騙しているとしても。少なくとも、私をバカ共から解放してくれたのは事実だ。この2週間、公平君や交流したい者とだけ交流できて、非常に楽しいよ。――君達は何かしてくれたかい?」

 

 彼女は公平君を連れて来たが、他の探索者達は何も助けてくれなかった。

 強いて言うなら、羽生は色々と掛け合ってくれたけれど、アイツも忙しい。私個人にしてやれることなんて限られているだろう。

 

「……そう」

 

 スッと。彼女は毅然とした表情――の僅かな合間に申し訳なさそうにして――で立ち上がった。

 

「私を通報しないのかい?」

「今は泳がせておくわ。バフォーが何をするつもりか分からない以上、懐に潜り込んでいる人間は多い方が良い」

 

 あのダンジョンで起きていることは、私もよく把握していない。

 もしかしたら、世界を揺るがしかねない程の何かが起きているかもしれないが、少なくとも。前代未聞なことが起きていることは間違いないのだから。

 

「これから、どうするつもりで?」

「暫くは日本に滞在しておくわ。何があっても動けるようにね。それと……ハピちゃんはシッカリと鍛えて上げるから、連絡は取れるようにしておいて。合鍵は勝手に作ったから」

「自由過ぎやしないかい?」

「高ランク探索者と縁ができたんだから、安いもんだと思いなさい。それじゃあ、今日はお疲れ様」

 

 パタンと。扉を閉じて、龍華は出て行った。明日にはダンジョンがどうなっているかとか。色々と気になることはあったけど、公平君に労いのメールを送って、シャワーを浴びてから寝ることにした。

 

――

 

「起きやー。おきやー」

 

 ユサユサされて目を覚ました。部屋は施錠したはずだが、誰だろうと思って首を傾けてみた。バイザー型の頭部に軽量装甲の胴体。簡易装甲の隙間から見える手足は女性の物だ。……ミツバちゃんがいた。

 

「!?」

 

 いつの間にダンジョンに連れて来られたのかと思って、周囲を見回す。ここは間違いなく、私の部屋だ。

 

「起きたか」

 

 バフォーも押し入れから出て来た。まさか、お世話型ロボットショックを体験することになるとは思っていなかったが、コイツがいるなら話は早い。

 

「バフォー。一体、どうなっているのか説明が欲しいねぇ!」

「……マァ。なんだ。ダンジョンの別入り口になっていたから、ここもダンジョンの一部として認識されたらしい。その証拠にマナが漂っているだろう?」

 

 目を凝らす。確かに、微量ではあるがマナが漂っている。まさか、ダンジョンが現実に浸食して来るとは思わなかった。……思い当る節がある。

 

「まさか、土場との戦いが原因で」

「恐らくはな。幸いにして、高ランクダンジョンが生えて来るみたいなことは無かったが、お前の部屋がダンジョンの一部として取り込まれてしまった」

「何も幸いじゃないねぇ! 現実を侵食しているんだねぇ!」

 

 もしかしたら、私の部屋を起点に世界がダンジョン化する。なんて恐ろしいシチュエーションが過った。そんなことがある訳がないとは思うが。

 

「へぇ~。ここが、鈴子さんの部屋かぁ」

 

 私の抱く懸念など露知らず、ミツバちゃんは部屋を探索していた。

 何も面白い物は無い。探索の報告書以外にはテレビ、冷蔵庫、シャワールーム。……後はPCとマンガ位か。

 

「ダンジョン営業が無かったら映画の上映会とかしても良かったんだけれどねェ。バフォー、ダンジョンは稼働できそうかい?」

「土場が立ち入った後は1日止めていたんだ。これ以上、休止するのも具合が悪いだろう」

 

 バフォーの言う通りだ。昨日みたいな特例じゃないし、公平君の協力が期待できないにしても。今のメンバーでやるしかない。やるしかないのだが。

 

「メカムスメちゃんも何か食べて行く?」

「きっと高レベル状態なら一緒に食べられるんやけれど、今は無理やね。鈴子さんが普通のご飯を食べるん見とくよ」

 

 カチカチになった豚バラ肉に未開封ながらも消費期限ぎりぎりのキムチをぶち込んで焼いて、炊いてから時間が経ってガピガピになった米と値引きシールが貼られていたインスタント味噌汁にお湯を入れて……。

 

「そりゃ、元が男だから仕方ないにしても。完全に女捨てとるな」

「見た目が女ってだけだからね」

 

 米が歯に引っ掛かる以外は概ね食える物だったので、モソモソと食ってエネルギーチャージをした後、ダンジョンに向かった。最近は波乱万丈で困る。

 

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