TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
「それにしても、このダンジョンは酷い。本当にひどい」
バフォーと言う悪魔すら顔を歪めるダンジョンならば、一般探索者ならば攻略をするのも躊躇するだろう。だが、これにはちゃんと合理的な理由がある。
「考えてくれ。順当にモンスターや罠を強化したらダンジョンのランクが上がってしまう。そうしたら、早々に攻略されてしまうだろう」
初心者と違い、上位の探索者達はいずれも手練れで、俺なんかではどうしようもない程の者達ばかりだ。
故に、不快感を爆上げした所で戦力の強化やダンジョンのランクには影響をしない。されど、駆け出しの探索者達の心を折るには十分だろう。
「通報を受けて高ランクの冒険者が来る可能性は?」
「ない。アイツらも暇人じゃないんだ。本当に異常が発生している所には駆け付けるが、このダンジョンは汚いだけだ。実害がない」
心に傷が残るかもしれないが、その程度で動くほど奴らも暇じゃない。むしろ、生半可な探索者の足切りができて有用だとすら思っているかもしれない。
「呪いをかけた私が言うのも何だが、お前ら本当にひどいな」
「お前もダンジョンを作ったなら、攻略されたら悔しいじゃないですか。位の心持でいろよ!!」
「どっちが悪魔か分かったモンじゃないな」
バフォーはどうにもダンジョンを攻略されたがっている様に見える。悪魔の癖に、底意地が悪くなさ過ぎて疑わしい位だ。
「お前も悪魔の自覚持てよ」
「人間から言われるとは思わなかった」
バフォーがドン引きしている傍ら、俺はアマッターノ達の様子を見て回る。
コイツらは独立した生命と言う訳ではなく『アマッターノ』の概念として、幾らでもポップする。詰まる所、1匹に仕込めば他の個体にも特性が伝播する。
「ほぅら、餃子と天ぷらだよ」
ポンと虚空から餃子、エビ天、とうもろこしが出現して地面に落ちる。それをアマッターノ達が貪っているが、バフォーが訝し気に見ている。
「食糧を出現させるスキルは無くも無いから良いが、出現物に人間の顔らしきものが見えるのは気のせいか?」
実の所、バフォーの懸念は正しい。目を凝らせば、食糧の中には人の顔が浮かんでいるのが見える。これは俺のスキルの影響だ。
そんなことは露知らず、アマッターノ達は幸せそうに食っている。俺もダンジョンで過ごす以上は食わなければいけないのが、苦痛でしょうがない。
「まだまだ20日以上防衛しないといけないし、お前達にも頑張って貰わないとな!」
「ィエエエエエ!」
何度も探索者達を撃破している内に、モンスター共からも信頼を得られたのか。比較的、言うことを聞いてくれるようになった。単に食糧を与えているのもデカいかもしれないが。
「そろそろ苦情が行って、このダンジョンの攻略もされそうな気がするが」
「実際はどうなっているんだろうな?」
バフォーが言う様に。そろそろ問題視もされそうな気がするが、外の世界ではどの様に取り扱われているか。と言うのは気になる所である。スマホの電源は落して来ているが、果たしてどうなっていることか?
――
「ですからね。ダンジョン攻略と言うのはゲームではないんですよ」
当然の如く、ダンジョンを管理する委員会に件のクソダンジョンの陳情が言っていた。曰く、初めての冒険が糞まみれになった。ショックで寝込んだ。スカトロAVを見る様になってしまったなど。
「本当に高ランクの探索者を向かわせなくて良いんですか?」
ダンジョン省に務める男性が尋ねたが、長と思しき女性『羽生 桃華』は首を横に振った。
「まず、金が掛かる。無駄なことに予算を使いたくないって言うのと、初心者用ダンジョンとしてずっと載せていられるってのがデカい」
配信やメディアのおかげで探索者と言う職の人気はうなぎ登りになっており、探索用の装備を販売する企業はバブル状態であるが、攻略できるダンジョンの数には限りがある。
特に初心者用ダンジョンは挑戦する者も多く、1ヶ月待ちなんてザラだ。しかも、待っている間に攻略されて消えよう物なら、苦情になる。
「その点、あのダンジョンは予約を受け入れてくれますからね」
「そうなんだ。でも、モンスターやダンジョン内の罠の脅威はキチンと初心者クラスに収まってくれている」
死なないからと言って、中級者や上級者のダンジョンに回して良い訳ではない。高ランクになれば徘徊する魔物も非常に狡猾となり、生かさず殺さずと言う選択を取ることもあるので、やはり初心者には初心者用のダンジョンを宛がうのが一番とされている。
「でも、今までのダンジョンと質があまりに違いますよね」
凶悪なモンスターや罠がある訳ではない。ただ、汚いだけ。
正確に言えば、排泄物を飲み込んでしまったり、傷口に触れるようなことがあれば病気の原因にはなるかもしれないが、直接的な脅威になる訳ではない。
「糞まみれ、ダンジョン。って言うと、まさか……」
「羽生さん?」
「いや、なんでもない」
羽生は頭を振った。少なくとも、今は早急に対処が必要な段階ではない。
初心者用のダンジョンとしての受け入れ口。そして、そんな夢を安全な内に圧し折ってくれる体験がある。と言うのは、一般的には受け入れ難いが、お役所的にはあまりに有難かった。
――
ダンジョン攻略に機器を持ち込むというのは認められている。
内部の構造やモンスターを記録するというのは有意義であるし、娯楽的な面で言えば実況配信などにも使われる。
初心者がこれらをしないのは、面白みが少ない。と言うことに加えて、破損したり紛失したりするのを避ける為でもある。もしも、こんなダンジョンで配信する奴がいるとすれば。
「はーい! 今日は噂のクソ難易度初心者ダンジョンの攻略に来ました!」
如何にもなパリピ系の男子だった。ホラー映画やサメ映画なら真っ先に餌食になるタイプだが、若い頃の男子は全能感に溢れているんだからしょうがない。
「では、誓約書の方は」
「あ、はい」
「えーっと。『鯨井 勝男』君ね。確認は取れました」
と言っても、そこは現代っ子。目上の人間に対してはクッソ丁寧に接するので世渡りも上手そうだった。そんな可愛い気がある所に気付いたのか、スタッフも声を掛けた。
「あの、持ち込みは禁止していないけれど。配信はやめた方が良いと思うな。そこそこ、チャンネル登録者数を稼いでいるならなおさら。紛失するかもしれないし」
「大丈夫っすよ。まだまだ、弱小ですから。これからですよ!」
実際、身内しか登録者がいないのが分かる数だった。それでも、スマホは置いて行った方が良い気がしたが、夢と希望を大切にするのもダンジョンである。
「そうか。行ってらっしゃい」
「うっす! ありがとうございます!」
時には痛みも思い出になるだろう。スタッフはこれから何が起きるかを想像して、涙を禁じ得なかった。そう思っているならもっと全力で止めろよ。と、注意する者は誰もいなかった。
――
「噂の初心者ダンジョンに来ちゃいました! 自分、これがダンジョン配信始めてなんで! よろしければ、これからのサクセスを願ってチャンネルの登録といいね! をお願いします!」
LIVE配信と言うこともあってコメントも寄せられたが『やめておけ』『今日の犠牲者』『糞ダンジョン』等ネガティブな物が目立った。
「逆境をね。行ってこそのドラマだと思うんですよ」
勝男も噂位は聞いていた。このダンジョンは本当に酷い糞まみれだと。だが、ここで活躍するのは思春期特有の全能感。
「(俺ならいける! ちょっと位なら、ウンコが付いてもシャワーを浴びれば良いし。風呂は最後に入れば行けるはず!)」
この期に及んで、他の人を思って風呂場が臭くならないことを気にしている辺り。パッと見はパリピっぽくても、根は良い子なのだろう。
だが、ダンジョンの脅威は良い子にも悪い子にも平等に降り注ぐ。早速、頭上から何かが降り注いできた。
「(これか!)」
そして、彼は慎重だった。ヘルメットに加えて、レインコートまで掛けて来るという徹底ぶりだった。
ブーツが汚れるのは仕方ないと踏んでか、転ばない様に一歩一歩を踏みしめながら、されど当たった物を直視しない。と言う心持は、初心者探索者の質としてはかなり上澄みだった。
「今ね。何か落ちて来ていますよね! 当たると重量があって痛いんですよね! 食事中の人すいません!」
排泄物ゾーンを抜けたら、いよいよダンジョン配信らしくモンスターが現れるのだが、部屋内も様子が違った。
「ウ”ゥ!!?」
そこら中に排泄物が散らかっていた。ウンコはもちろん、ションベンから、脱皮した皮など。景観と衛生面からして最悪と言わざるを得ない物だった。
いち早く発生源を切り捨てようとした所、アマッターノは生殖活動に勤しんでいた。モンスターと言えど、生物なのだから仕方がない。
「じゃあ、今の内に」
ザックリ行っちゃおうと思ったが、ここで勝男に迷いが生じた。
コメントに『カップル殺すマン』『嫉妬探索者(シーカー)』『モンスターの方が童貞卒業先』等、好き勝手に書かれていたこともあったが、生命を育もうとしている番をさせる程、薄情にもなれなかった。
「できない! 俺には!」
『じゃあなんで配信しているんだよ』と言う、的確なコメントが寄せられたが、フロアで映せる物があまりに少ない。風景が絶望的に汚いからだ。
ならば。さっさと次の階に行こうと歩を進めようとした所で、コメントには『アマッターノの交尾が見たい!』と言う、大層マニアックな物が来ていた。
「(別に変なことは無いよな)」
ダンジョン配信において、モンスターの生態を観察するというのもまた人気ジャンルの一つである。
特にアマッターノはあまり人気が無いモンスターで配信もほとんどない。逆に言えば、ブルーオーシャンでありジャンルの開拓者になる可能性を秘めているとも言えるだろう。
勝男は周囲を警戒しつつ、アマッターノ達の交尾模様を撮影していた。まさかの、ダンジョンケモAV配信の時間である。
――
「何やってんだアイツ……」
「お前にだけは言われたくないと思う」
今回の探索者は事前の準備に抜かりも無く、糞まみれ帯を抜けても絶望していないということで様子を見に来たのだが、アマッターノの交尾を撮影配信する超ド級の変態男子だった。
「頑張れ! 頑張れ!!」
手に汗を握り2匹の交尾を配信している。そもそも。どうして、アイツらはモンスターの分際で交尾なんかしているんだろうか?
ここでふと思い出したのはイルカの習性である。アイツらは頭が良いから、オス同士で生殖器をこすり合わせて遊ぶことがあるらしいが、そのパターンか。
「どう思う、バフォー?」
「知らん」
にべもなく切り捨てられた。俺もモンスターの生態にはあまりに興味は無いし、習性位しか覚えていないが。
直接手を出したら傷害事件となってしまうので、遠巻きに眺める位しかできないが、あの男子はどうしたら満足するのだろうか。とか、考えているとアマッターノ達がビクビクと撥ねていた。非常にキモイ。
「頑張った!! お前達は頑張った!!」
きたねぇ修造がいた。アマッターノ達も男子に気付いたが何をする気力も無いのでグッタリしていた。そんな2匹を端に寄せて、体力回復用に探索用の栄養食を置いて行ってやる辺り、多分心優しい奴なんだろう。変態だが。
「うむ。あの男子は1階フロアの探索を始める様だ。6日目にしてようやく骨がある男が来たようだな」
「無駄に気骨があっても困る」
この数日間の間で、1階部分は悲劇的ビフォーアフターを施したが2階以降はまだ手つかずだ。なんとか、帰って貰わないと。
しかし、出現するアマッターノ達では相手にならない。生意気なことにレインコートや消臭スプレーなど完全に防備している為か、臭気系トラップを防いでいるし、吐瀉物アタックも寄せ付けない。
「ようやく、このダンジョンが終わる日も来たか」
ネタみたいだが勢いと言うのは非常に強い。ましてや低階層である初心者用のダンジョンでは一気に踏破される可能性も高い。
「次の階層へと続く階段を封鎖するとかは無理だよな?」
「無理だぞ。ダンジョンは攻略されるためにあるから、詰みになる様な配置にはしない」
「なんで、そういう所は公平なんだ」
悪意が足りなさすぎる。考えろ。あのド級変態ピュア男子をどうすれば防げるか。確か、彼は配信をしていたが。と思って、ピンと思い浮かんだ。これは一斉の捨て身の作戦である。
「俺が出るしかない」
「む? そんなことをすれば、お前が捕まるだろう。私としては、人間としての倫理観も品性も捨て去ったゲロカスが消え去ってくれることは願ってもいないことだが」
「好き勝手言いやがる」
相手が覚悟を決めているなら。俺も進むしかない。少年よ、社会の恐ろしさをその身で味わうがいい。俺は警報装置に特定のBGMを仕込んだ。
――
勝男の攻略模様は多少の盛り上がりを見せていた。
最初の内はコメントでも汚い、臭い、気持ち悪いの3Kが並んでいたが、そんな光景が攻略されて行く様子は胸が梳くようだったのだろう。
「(いいぞ!)」
実況配信としてはグレーな物が割と映されていたが、相手はモンスターだしギリギリ許容されていた。このまま自分が汚物ダンジョンの初踏破者となるかと思っていたが、不意にファーン、ファーンと警報が鳴った。
「!?」
警報装置を踏んだ訳ではない。だが、何かに引っ掛かった様だ。周囲に壁が出現し、部屋の出口と入り口だけが残された。エリアボスと対峙する時が来たのかと思い、勝男が武器を強く握ったとき。ソレは現れた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」
現れたのは人間の様な二本足を生やした……よく分からない生物だった。
と言うのも、上体部分が既存生物の頭部を模した物ではなく、ブルンブルンと二つの塊を揺らしながら近付いて来るよく分からない物だったからだ。最初は胸かと思ったが、乳頭らしきものは確認できない。
「これが。アマッターノのボス!!」
コメントには『え。なにこれは……』『ここ。アマッターノのダンジョン?』と、困惑の色が強く見て取れた。そして、警報機から軽快なBGMが流れて来た。
千葉県の某テーマパークに流れて来るアレだ。配信で流したら首が飛びかねないパレードなBGMが大音量。しかも、無修正で流されていた。
「え!? え!!?」
現れたボスらしきものは攻撃こそ仕掛けてないが、グルグルと周囲を回っていた。威嚇だろうか? このまま長引けば配信者として終わる。武器を構えて、討伐しようとした。ボス・アマッターノは更なる行動に出た。
勝男の正面。具体的に言うと、スマホの撮影でよく映る様にと。座り込んだ後、両足を開脚した。致命的な一撃が入った。彼の配信者として夢は完全に断たれた瞬間だった。
「あ“!!」
流石にモロはアウトだった。小さいながらも積み重ねて来たメンバー数が虚無へと帰り、心が絶望に叩きこまれた瞬間。部屋にポップしていたアマッターノ達の総攻撃を受けて、勝男は負男になった。
――
「ふぅ。やっぱり、勝利は気持ちいいな」
「お前、本当に死ねよ」
悪魔から死を望まれる奴なんて俺位だろう。少年が落して行ったスマホを入り口へと届けさせて、俺は衛生面最悪のダンジョン内でトウモロコシを食べていた。これはアマッターノ達にも食わせている物で、排泄物に嫌悪感を抱きやすくなるようにする為の工作だ。
「言っただろ。俺は、このダンジョンを30日間守り抜くって」
「お前の風評が一つも守れていないが、大丈夫か?」
「スキルで変身したアレを俺だと分かる奴なんている訳がない」
世にはもっと眉目秀麗な配信者や探索者がいるんだ。俺程度を覚えている奴がいる訳がない。かくして、6日目が終わろうとしていた。ようやく最初の1週間と言った所だろうか。
だが、今回は結構下手を打っていた。1つ、探索者が思ったよりも攻略の準備を欠かさなかったこと。アイツが配信をしていたせいで内部を知られたこと。なにより、探索者は思った以上にバカであることを知らなかった。