TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
案の定と言うべきか、3階部分における植物人間達は大して相手にされなかった。直感的に相手をしても無駄と感じ取ったのだろう。
公平君と私のスキルはガン無視され、豹華は悠々と3階を突破していく。クモ男、改めアラクネがいる階まで来るのも時間の問題だろう。
「公平君。私達も戦いに巻き込まれない様に6階以降に移動しとこう」
「はい!」
私達が移動しようとした時のことである。階段に足を掛けた瞬間、アラクネの姿がクモ男へと戻っていた。何が起きたかと思い、引き返してみると。再びアラクネの姿に変わっていた。
「バフォー。コレは一体?」
「……もしや、5階から上の層は別ダンジョン扱いなのかもしれんな」
極自然に繋がっている物だと思っていたが、5階から上は別の空間と言うことか。初心者用ダンジョンと中級者ダンジョンだから違うのは当たり前にしても。
「じゃあ、私達は5階で待機しておかないといけないのかい?」
「そう言うことだな。……本来、お前達は招かれざる客なのだが、今更、見捨てるような真似もせん」
「さすバフォ」
先日のエリコ戦の時と同じ様に隠匿と防御を同時にしてくれているが、相手が高ランク探索者と言うことで、範囲を狭めて効果をより強力にした物を掛けてくれていた。
「鈴子さん。メッチャ密着しているんですけど」
「我慢して欲しい」
心に余裕があれば弄っている所だが、今回は猛獣に忍び込まれているのと同じで、何が起きるか分からない。バフォーが応対してくれたら話も早いのだが、コイツが出て行く条件がイマイチ分からない。
未だに流れて来る遠見の映像では豹華は4階部分で留まっていた。私達のスキルで強化した植物人間達をあしらいながら、何かを考えている様で。両掌を頭上に翳していた。
『ここだ!!!』
えも言えぬ悪寒に襲われた。彼女は植物人間と戦うことを止めると、猛ダッシュで壁へと向かい、両腕に展開したブレードと両脚に装着されている鉤爪状のグリーブを用いて、器用に壁を伝い、天井を這っていた。
やっていることが、もはやモンスターと変わりない。それだけなら一種のショートカットや敵とのエンカウント回避とも納得できたが、相手は探索者だ。ダンジョン攻略のプロフェッショナルだ。
『今、行きまぁぁああああす!!』
すると、どうだろうか。彼女は手にしていたブレードで天井を掘り始めた。顔面に生えている槍も放ちながら、天井を掘り進んで来る。逆モグラ状態だ。
「バフォー!?」
「なんだコイツ!?」
ダンジョンクリエイターからしても初めての突破方法だったらしい。
こんな手段が許されたら、攻略もクソも無い。逆ボーリング作業で終わってしまう。だが、これは不自然だ。
「なんで、豹華さんはこんなことを?」
公平君も言う通り、こんな真似をしなくても普通に階段を上がれば良いだけで。だとしたら、意味がある訳で。何の為だろうと考えて、先程の所作を思い出した。両掌を掲げていた。――まるで、何かがそこにいるかを確認する様に。
遠見の水晶でも天井を掘り進んでいる奴なんて映せる訳がない。でも、彼女はある程度の目星を付けていたのだろう。
「アラクネ! バフォー!!」
床下から一気にマナが溢れる。やっぱりだ。彼女はボスと相対する前に不意打ちを決めようとしていた。床を突き破り、幾重もの砲撃がフロアを跳ね回った。
アラクネ天井へと跳び上がって避けたが、私達はそうはいかない。この防御フィールドが下からの攻撃にも対応しているかと言われたら、分からないとしか言いようがない。そんなことをして来るモンスターも探索者も見たことが無い。
「公平君! 絶対に庇護下から出るな!」
「は、はい!」
バフォーが叫ぶ。直撃して一定のダメージを負ったら入り口に戻るだけ。……だが、私達にとっては致命傷だ。
ダンジョンで延々と他の探索者を妨害していた罪状が明るみになれば、私は兎も角。公平君の未来に暗い影を落とすことになるだろう。
「(こんなバカなことに付き合わせて。だぞ?)」
私がどうなったとしても自己責任だ。元より、後ろ指を差されるようなことをしているのだから、仕方がない。
ただ、彼は巻き込まれただけで。しかも、私のしょうもないお節介とハニートラップに釣られた憐れな少年だ。
「(頼む……!)」
と、祈っていた。でも、悪因悪果と言う言葉がある様に。自業自得と言う言葉がある様に。行いは返って来る物で。床が盛り上がる。マナが噴き出す。迷っている暇はなかった。
「『BB劇場』!」
人の邪魔をすることにしか使えないスキルだが、一縷の望みを掛けた。
今だけは守ることに転用できないか。『壁』や『盾』などそれらしい単語で検索を掛けてみた。
「(壁ドンBB。壁尻BB……)」
ロクでもない物しか並んでいなかった。そうだよな。お前達が役に立つ訳無かったよな。くそが。それでも、壁付の尻と考えればマシかと思いながら、背面に出現させまくって何とか砲撃を塞ごうと試みた。
例えるなら。大砲を座布団で防ごうという試みだろうか。壁尻共は次々と突破され、微々たる減衰程度の役目を果たしてくれたが、後は私の装備品と基本的な防御バフ位だが。
「(無理!!!)」
本当を言うなら避けたかったが、彼をここに連れて来た責任がある以上。見捨てるのはあり得ない。
持って来ていた盾を始めとした防御関係の品物を全部使うが、物の見事に。いや、もう面白い位に簡単に破壊される。それでも。それでも。つぎ込んだ全ての物が功を奏したのか、私の肉体は吹き飛ばずにいられた。
「鈴子さん!?」
逆に言えば、許容ダメージを超えなかったので全身がずっと痛い。幸いにして、公平君のダメージは少なくて済んだ。
「アレぇ~? なんで、こんな所に他の探索者さんがいるんですか? もしかして、人質に取られていますかぁ? でも、捜索依頼も出ていませんしねぇ」
床から這いあがって来た豹華にハッキリと私達の姿を見られた。交渉の余地なんて間もなく、天井へと退避していたアラクネが圧し潰さん勢いで降りて来た。
「正規の手段で攻略せず、ボスに対しても不意打ち。高ランク探索者と言うのは随分と無礼だな。失望した」
「すいませぇん。私、そう言うの理解できなくて。ご丁寧に待ち構えてくれているなら、先に倒しちゃった方が話も早いじゃないですかぁ。私ぃ、パックンが魔法を掛けられる前に卵をぶつけるタイプなんでぇ」
公平君は疑問符を浮かべているが、この様子なら。あの豹華と言う女性も相当な歳だろう。最近はアーガイブ的な物もあるとは聞くが。
「なら、ご退場願おう。お前はダンジョン探索を夢見る少年少女に劣る怪物(モンスター)だ」
「そんな物にときめく時期は過ぎましたのでェ!」
アラクネが大量の糸を吐き出し、同時に下腹部から大量の小蜘蛛を放っていた。巻き込まれまいと、公平君に引きずられてフロアの隅に移動した。先程から、バフォーの姿が見えない。
「(まさか、さっきの一撃でやられたのか?)」
意外と防御力は低いタイプだったのかもしれない。
しかし、アイツが居ないと私達を守る防御陣を貼ってくれる奴が居ない。依然として、危機は去っていない。
「鈴子さん。俺、どうしたら!?」
「私が持って来ている回復薬は全部ダメになっているから、公平君が持って来ている奴を使って欲しい」
慌てて公平君が回復薬を取り出したが、取り出した本人も驚いていた。
先の一撃で、回復薬が入っていたボトルの先端が欠けて、飲み口が鋭利になっていた。そのまま口を付ければ怪我をする。
「今更、多少の怪我くらいは……」
もしくは飲み口に直接口を付けずに、少し離れた所から垂らして貰ったら良いと思うのだが、彼も相当に慌てていたのだろう。
飲み口を離して飲むまでは良い。問題はそれをやっていたのが公平君で、彼が口に回復薬を含んだということは。
「んむっ」
そう言うのは映画とかだけでやって欲しい。ちなみに危険なので怪我人に、こういう飲ませ方は良くない。……と言うのは全てを無事に終えた後に言おう。まさか、ファーストキスが年下の同性になるとは思っていなかった。