TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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19日目:襲撃スパンが短い 3

 回復薬がジワジワと効いて来たのか。未だに体は痛むが、力尽きる。と言うことは無さそうだ。戦いの余波に巻き込まれない様に隅に移動しているが、流れ弾の不安は拭えない。

 アラクネと豹華の戦いに手出しをできる部分は何も無い。目の前で熾烈な応酬があっても、何処か他人事の様に思えてしまう。

 

「公平君。私を放って逃げなさい。身バレしたら不味い」

「いや、こう言うのってバトルが終わるまで扉が開かないってのが定番でしょう。それを確かめる為だけに突っ込むのは嫌ですよ」

 

 道理だ。入退室自由なボス戦があるとは思えないし、その為にフロア内を移動するのは危険を伴う。

 

「バフォーもいないしね」

 

 防御も隠匿も期待できそうにない。逃げることもできない。別に死んでも入り口に戻されるだけだとしても、社会的死になることは避けられない。

 いざとなったら羽生に掛け合って……いや。アイツにも迷惑が掛かるかもしれないので、知らぬ存ぜぬで行くしかない。

 

「鈴子さん。諦めないで下さいよ? 俺、貴女には試合の応援に来て貰うつもりなんですからね!」

「全く。こんな元男に、よくそんなに興味が出せるね。ラグビー部員なんて女子からもモテる属性だろうに」

 

 昨今のスクールカーストがどうなっているかは分からないが、運動部員ともなれば一定の人気はあると思われるし、公平君は顔立ちも悪くなければ運動神経もそれなりに良い。良物件だとは思うけど。

 

「嫌だ。俺はお姉さんが良いんです。同級生なんてガキみたいなモンじゃないですか」

 

 真面目っぽく見えるから忘れがちだけど、彼は青少年が備えるべき下心で行動する系男子だった。

 

「もっと真っ当な女性に惚れたまえよ、君」

「いいや、見た目がバチクソ好みな人に惚れることにしている」

 

 将来的にハニートラップに引っ掛かって人生を棒に振りそうな発言だ。いや、今の時点で半分棒に振りそうになっているんだが。

 いや、このまま終わる位なら。見た目がバチクソ好みだとお墨付きも頂いたのだから、彼を抱き寄せた。

 

「コレが最後になるかもしれないからね」

「鈴子さん?」

 

 先程は緊急処置だったかもしれないが、そんな言い訳が利く様な物で初めてを奪われるのは不服だ。

 年下の男子が初めて。になるのは、倒錯しているとしか言いようがないが、今の自分の体は女性の物だし、気持ちが引っ張られても不思議ではない。

 

「――」

 

 無言だが、言葉があった様な気がした。舌を入れたりもしない、唇を重ねるだけのつもりだったが……なんだか変な気分になって来て、下をチロチロと動かし始めた辺りで肩を叩かれた。

 

「流石に未成年相手には止めろ」

「うわぁあああああ!?」

 

 バフォーだった。私達は飛び跳ねた。

 一体何処に行っていたとか、何処から見ていたのかと気になることはあったが、私達の周囲に防御陣が出現していた。

 

「それと。これを」

 

 渡されたのは液体の入った瓶だった。回復薬の様でいて、そうではない。

 目を凝らせば、多種多様のマナが入り混じり溶け合っているのが見える。これほどまで、完全な調和をしている物は見たことがない。世間一般では、この『霊薬』が何と言われているか。

 

「エリクサー……」

「え? ゲームとかでよく聞く!?」

 

 公平君も驚いていた。ダンジョンと言うファンタジーが生み出した奇跡の代表例が目の前にあるのだから。

 あらゆる傷病に効くとされており、ダンジョンが生んだ産物で最も望まれている逸品。私みたいな探索者が実物を目にする機会など無いと思っていたが。

 

「私は回復呪文を使えんからな。取って来るのに少し時間が掛かった。目の前で飲め。それは、絶対に外に持ち出してはならん」

 

 仮に私が持って行ったとしても捌けるルートが無いので意味が無い。なので、言われた通り目の前で飲み干すとした。苦い気もするし、甘い気もした。

 

「ん!?」

 

 身体の中が何かに置換されて行く様な感覚があった。怪我を直す所じゃない。体が抱えていた問題が取れて行く様な、生まれ変わった気さえした。

 

「残された分は公平君に」

 

 バフォーに言われた通り、残った分は彼に上げた。彼も同じ様に全治されて行く感覚を味わっているんだろう。……ただ、それより問わねばならないことがある。

 

「バフォー。何処から見ていたんだい?」

「抱き寄せた辺りからだな。邪魔をするのもアレだから姿を消していたが、未成年相手に舌を入れるのは止めたぞ。それより、戦いの方だが」

 

 この悪魔の倫理観には呆れるばかりだ。本当に悪魔を止めた方が良い。

 それは一旦置いといて。アラクネと豹華の方だが、信じ難い光景が広がっていた。ミツバちゃん達は龍華一行と互角の勝負をしていたというのに。

 

「うぉおおおおお!?」

 

 既にアラクネを支える脚を切り飛ばされ、全身が切り刻まれていた。

 公平君のスキルもあって強化されているハズだというのに、あまりに一方的だった。年下の男子とメロいことをしている場合じゃない位には。

 

「そこそこでしたよぉ」

 

 アラクネの下腹部に飛び乗り、鉤爪状のグリーブで引き裂きながら走り、上体の女性部分に辿り着くと、ブレードを振るった。首が飛ぶと共に巨体がグラリと崩れ落ちた。上位モンスターがここまで呆気なく倒されるとは思っていなかった。

 だが、彼女にとっては前哨戦だったのか。こちらに向けて腕部に装着されたブレードの切っ先を向けながら言った。

 

「貴方が龍華先輩を倒した悪魔さんですよねェ?」

「そうだな。初心者ダンジョンにやって来るという粗相をしてくれたので制裁を加えた。輪を掛けて貴様は無礼なようだが」

 

 怒っている。バフォーが見たこと無い位に怒っている。龍華の時も怒っていたが、アレは私が焚きつけた故だったのだろうが、今回はそうではない。

 

「攻略方法は人それぞれですからね。貴方を倒したら、上にあるダンジョンも含めてどうなるんですかぁ?」

「その想像に意味はない。貴様が私に勝つことはあり得ないからな」

「試してみましょうかぁ!」

 

 以前、龍華を撃退した時の様にフロア内に大量の黒槍が出現した。常人ならば捌き切れるものでも無ければ、避けられる物でもない。

 だが、豹華は違った。獣じみた動きで迫りくる黒槍を避けながら、あるいは弾き飛ばしながら、バフォーに肉薄していた。

 

「(人間ってここまで動けるようになるのか)」

 

 訓練を積めばと言うが、こんな獣じみた動きが再現できる人間がいるとは思えなかった。

 豹華が壁を這い、天井を伝い、縦横無尽に空間を移動している間にも黒槍はフロア内で猛り狂っている。だが、いずれも彼女を仕留めるには至らない。そして、ついに。バフォーに肉薄した。

 

「貰ったァ!!」

 

 彼女がブレードを突き出すよりも先にバフォーの手が伸びていた。彼女の首を掴んだ。引き千切った。ゴロンと頭が落ち、崩れ落ちた。

 先程の派手な光景を前に、あまりに静かな決着だった。彼女の体が消える。入り口に送られたのだろう。

 

「ふん。高ランク探索者共は下品な奴が多くて困る」

 

 普段は真面目系悪魔だと思っているのだが、こういう時のこいつには何も言えなくなる。体の芯から恐怖を覚えている為だ。公平君も一緒だった。

 

「……連絡は難しそうだな。遠貝を貸してくれ。私が事の顛末を伝えよう」

 

 遠貝を取り出した。運よく、先程の一撃でも壊れていなかったらしい。羽生に代わりに連絡を入れてくれているが、私はひと段落と言う訳にはいかなかった。

 高ランク探索者を倒してしまったのだから、今度こそダンジョンに異変が起きるというか。高ランクダンジョンが出現するのではないかとか。この撃破報告のせいでまた新しい高ランク探索者が来るんじゃないかとか。色々とあったが。

 

「今日は疲れたね……」

「ですね」

 

 本当は先程のエリクサーのおかげで身体の疲労はぶっ飛んでいるのだが、心まではそうはいかない。再び、彼を抱き寄せていた。……視線は少しばかり合わせ辛かった。

 

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