TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
20日目である。期日の2/3をクリアし、私達に掛けられた呪いが成就するかもしれないと言った所で、3度目となる高ランク探索者の襲撃である。
もはや、恒例となったダンジョンの変化に怯えながらも。私は目を覚ました。室内には人間態になったミツバちゃんとスキュラさん。そして、みそ汁を炊いているバフォー。……もう何も言うまい。
「起きたか。早速だが、ダンジョンに何があったかを聞くか?」
「聞きたくはないけどね」
そもそもの話。昨日、コイツが『エリクサー』を取って来た時点で何が起きているかは薄っすらと察している。アレは高ランクダンジョンにしか存在していないハズで。バフォーが手に入れていたということは。つまり。
「ウム。想像通りだ。高ランクダンジョンが生えていた。つまり、これからはお忍びすることもなく堂々と高ランク探索者がやって来る」
顔を覆った。もう、時代は初心者だとか中級者だとか言っている場合じゃない。本格的にエキスパート達がやって来る訳だ。そんな説明を受けたのを見計らってか、遠貝に連絡が入って来た。羽生だ。
「はい」
『おい。初心者ダンジョンから高ランクダンジョンが生えて来るなんて聞いたことが無いぞ。諸外国から鬼の様に問い合わせが来ている』
「良いことを思いついたよ。調査の為に10日間位、立ち入り禁止にしよう。初心者や中級者の安全確保の為にもな。どう?」
今の所、5階を突破したのは栗栖と言う少女位だが、このままだと中級探索者も目の色を変えて乗り込んで来る。そして、高ランク探索者まで来よう物なら、いよいよ私は部外者でしか無くなる。
『ダンジョン省では取り扱いの方で協議されている。今日は封鎖するが、翌日以降は高ランク探索者が向かうことになるかもしれない。……それと』
「それと?」
『今回の件。上の者達は意図的にダンジョンを成長させることができると画策している様だ』
高ランクダンジョンを意図的に出現させられるようになれば、人類が欲して止まない『エリクサー』のようなアーティファクトを入手する機会にも恵まれる訳だが。だとしたら、もしかして。このダンジョンはモデルケースとして保護されるかもしれない。と言う可能性が思い浮かんだ。
「それなら、このダンジョンは保護観察するべきじゃないか?」
『その点も含めて協議している。ただ、その過程でお前の存在が把握されるかもしれない。と言うことだけは言っておく』
肝が冷えた。当たり前だが、名だたる高ランク探索者達が攻略に失敗しているからには何かしらの原因があると考えるのが自然で。
龍華達が進んで私達の存在をバラすとは思い難いが、彼女達が初心者ダンジョンの攻略に失敗するなんてことは考えられない。映像などを記録していないにしても、何かしらの存在には勘付くはずだ。
「(いやいや。そんなバカな)」
私に呪いが掛かっている。なんてことを知っているのは、龍華、公平、羽生の3人位だ。……ただ、正直に言うと不安になることはある。
「(確か。土場の時に龍華が公平君を連れだしたんだよな)」
その一点が気になる。公平君のアリバイを確保する為に理由は教師などに話したとしても、足跡を追跡されるような真似はしていないと思う。ただ、それでも明確に一点。公平君とダンジョン、引いては私を結ぶ繋ぐ線はあるのだ。
「(ラグビーの試合を見に行くとは言ったけれど)」
もしかしたら、会わない方が良いかもしれない。でも、急に距離を取り始めたら、それもやはり不自然な気がする。……いや、こんなのは言い訳だ。
思い出すのは昨日のこと。怪我をして弱気になっていたか制動が緩くなっていたかは分からない。だけど、私は年下の男子にキスをした訳で。
「アレ? 鈴子さん。顔真っ赤やで?」
「何でもないんだ。何でも」
「えー。なんや、教えてーや」
ミツバちゃんは興味津々と言った様子だが軽々に話して良い物ではない。コレにはバフォーも見かねたのか。
「ミツバ。当事者同士の話だ。あまり詮索する物でもない」
「え? なんかあったん?」
「心遣いは有難いけれど、ちょっと足りてない!」
煙に撒いても良いが、ミツバちゃんやスキュさんには世話になりっぱなしなので、隠し立てをするのも申し訳ない。……と言うことで、素直に白状した。
「鈴子さんもやるなぁ~」
「いや、あの時の私はどうかしていたんだ。冷静に考えてくれ。今の私の肉体は女性だが、元は男なんだ。それが年下の同性にキスだぞ? 犯罪じゃないか?」
「大丈夫ですよ。現時点で鈴子さんは、ダンジョンへの不法侵入を始めとして罪科を積み重ねていますから」
スキュさんがフォローにもならないフォローをしてくれた。破れかぶれになって、罪を重ねてはいけない。
「でも、鈴子さん公平君のことをどう思っているん?」
「いや、良い子だとは思うけど」
礼儀も知らないクソガキも多いが、ちゃんと礼儀正しい子達だっている。
その中でも、公平君は内面も含めて誠実だとは思う。ただ、やや性欲に行動が左右されるのが気になるが。
「プライベートの付き合いは無いんですか?」
「基本的に、ダンジョン防衛に休みは殆ど無いからね。公平君だって忙しいし、学校の付き合いもあるだろうから」
彼には、彼本来の付き合いを優先して欲しいというのが正直な所だ。とか思っていると、ミツバちゃんに脇腹を突かれた。
「なんで、そんな寂しいこと言うんや。体目当てだけの子が、ここまで付き合ってくれるわけあらへんやろ」
「と言っても、やっぱり負い目と言うかなんというか」
「……私からも口を挟ませて貰うが。負い目があるなら、なおのこと誠実に向き合うべきではないか?」
こういう時にバフォーの正論が何とも痛い。そもそも、こちらが利用してばかりなのだから、そろそろ返さないとギブアンドテイクが成り立たない。
「(ラグビーのルールはよく分からないにしても)」
流石に普段着で観戦に行くのは気が引ける。かと言って、女性のファッションなんて私には分からない。こういう時は……。
――
「で。私に会いに来た訳?」
「そっちはついでみたいな物なんだけどね」
私は龍華とカフェで落ち合っていた。羽生は立場的にも接触するのが難しそうだし、フリーっぽい空気のある彼女に接触したのだが。
「……」
隣にコチラを睨みつけて来る巨女が1人。豹華である。まさか、こんな早い再会になるとは思わなかった。耳打ちをした。
「(龍華。なんで豹華が?)」
「(アンタが来るほんの十分前位に来たのよ。だから、報せる暇もなくて)」
「先輩。ソイツと知り合いなんですかぁ?」
ズリズリと近付いて来た。正直、あまり接触したくな相手なのだが、ピンチはチャンスと言うか。聞いておいた方が良いかもしれない。
「龍華。説明を」
と、促すと。彼女は豹華に説明をしてくれた。私がTSを成就させる為にダンジョンに潜り込んで妨害をしていることやら、何やら。
「どうでも良いです。それよりも、私達を負かした黒いヤギは何処ですかぁ?」
「アイツとはダンジョン内でやり合いなさい。で、コーデ以外に聞きたい事って?」
「ズバリ。どれだけ、ダンジョンについて事情聴取されているか。聞いたかもしれないけれど」
私は、今朝羽生からもたらされた情報を聞いた。例のダンジョンに高ランク階層が増えたこと。ダンジョンの成長云々について上で取り扱われていること。
「少なくともアンタ達のことは話していないけれど。連中もマヌケじゃないからね。そう考えると、公平君を連れ出したのは良くなかったかも」
クラスメイトに大々的に見られるような真似はしなかったにせよ、もしかしたら。どういう経緯かで繋がりを見られるかもしれない。
「そう言った意味では、私達が会っているのは?」
「大丈夫よ。私達が何の用意もしていないと思って?」
ジャララとアーティファクトやら何やらがいっぱい出て来た。これだけあれば、人間の尾行や追跡程度を撒くのは造作もない。
「コーデとか暢気なことを言っている場合じゃない感じ?」
「何を言っているの。ここまで来たんだから、とことんやって行くから。あぁ、追跡とかは気にしないで。私達はカフェを楽しんだ一般人としてここを出て行くから」
多分、幻惑とかその辺りを使っているんだろう。普通はダンジョン内にあるマナを使わないとできないのだが、マナを潤沢に蓄えたアーティファクトを幾つも所有しているからこそできるのだろう。
「(今更だけど、ダンジョン外でもアーティファクトが使えるならテロとかも起こし放題だよな……)」
普通のアーティファクトでは無理だが、高ランク探索者達の様に希少品や大量所持によってあるいはと思うが、それでもダンジョン外にマナは無いので大量破壊みたいなことは無理だからやはり許されているんだろうか?
そんなことを考えつつ、龍華にまとめて会計を払って貰い、私のコーデをするべく龍華達と一緒に街へと繰り出した。