TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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20日目:残す所10日。 その3

 世はダンジョン大時代。若年層を含めて幅広い世代に認知され、ダンジョン省なる物が作られる位には国からも奨励されている。……実際は広報ばかりが先行して、制度が整っているとは言い難いが。

 だが、国家をして先走らせてしまう程にダンジョンがもたらす恩恵は魅力的だった。特に高ランクダンジョンともなれば、人類の常識を揺るがしかねない程のアーティファクトや叡智が眠っている可能性がある。

 

「(故に、この現象は各国からしても興味深いものなのだろう)」

 

 羽生は龍華達から送られて来る報告を見て頭を痛めていた。

 彼女はダンジョン省に務めている一般人でしかない。鈴子の蛮行を見逃していたのも、初心者用ダンジョンの数を確保することもあったが、彼女(彼)の境遇を思ってのことだった。

 

「(だとしても。過去を消したいという願望を叶える為に。この騒ぎは何なんだ?)」

 

 龍華からの報告によれば、鈴子と公平達の周りには各国の工作員が大量に配置されているとのことだった。

 そう。例のダンジョンで起きていることは、一部の者達には筒抜けだった。一般人でしかない羽生に情報戦などできる訳もない。

 

「(頼む。龍華、豹華。お前達だけが頼りだ。……あと一人。行けたら行く。みたいな嘗めたこと抜かしていた奴もいたが)」

 

 ダンジョンの出現は場所や等級も含めてランダムだ。高ランクダンジョンは特に発生確率が低いのだが、人為的に作れる。となれば、やらない手はない。

 現在、鈴子と公平は貴重な参考人である。家族もいる公平は兎も角、鈴子は身元も不確かであり、これほどまでに動かしやすい存在もあるまい

 

「無事でいてくれ」

 

 羽生にできることは。今も通常運営されているダンジョンを傍目に、彼女達の無事を祈ること位だった。

 

――

 

 さて、男子高校生達に混じってボウリングで盛り上がっているんだが、皆して200以上出していて滅茶苦茶上手い。

 運動神経の良さって何処でも発揮されるんだなぁと思いながら、私は『182』と言うネタにもならない数字を眺めていた。

 

「皆、上手いねぇ」

「よく、遊びに来ますからね」

 

 隣に腰を下ろした公平君のスコアは『230』だ。もしも、2人で勝負して……みたいな流れだったら、ボロ負けしていたことだろう。

 

「そうなんですよ。コイツ、凝り性でね。なんでも大概上手くなるんですよね」

 

 待機していると彼の友人が話し掛けて来た。公平君が凝り性だというのは、例のダンジョンに凸する前の配信動画を見ていれば察する所ではあるが。

 

「部活の方でもそうなのかい?」

「そりゃもう! 小うるさいけど、熱心だから先輩達からも目掛けられているんですよ。後は押しつけがましい態度が無かったら良いんだけど」

「言わないと、やらないからだ」

 

 フンと。鼻息を鳴らしていた。見方を変えればリーダーシップとも取れるかもしれない。と言っても、私相手に押しつけがましい所を発揮したのはあんまり見たこと無いが。

 

「それと。気になっていたんですけど、鈴子さんと公平は普段どんなお付き合いをしているんですか?」

「ダンジョン関係の話をしているね。ほら、彼も挑んだ例のダンジョンがあるじゃないか。SNSや動画で結構知名度があるあのダンジョン」

 

 これは事実だ。最初はクソダンジョンとか言われていたが、やはり注目を集めるに至っていた。……望ましいことではないが、話題にしているのは事実だ。

 

「あー。あのダンジョン。お前も挑戦に失敗した後、ちょっと弄られた位で直ぐに話題にもならなくなったよな」

「そうだな。失敗なんて誰にでもあるからな」

 

 これはつまり、公平君のBB素材化を防いでネット上の玩具にならずに済んでいるということでもある。当事者達の記憶にも残っていないなら、本当に漂白レベルなのだろう。

 

「結局、あの後。攻略者も出て来たから、公平君が提供した情報は無駄にはならなかったということだね」

「だから、また挑戦しないのか? って聞いた時、コイツ。きっぱりと『やらない』って言っていたんでね。飽きたのかと思っていたら」

「俺はもう、とてつもない報酬を見つけたんで?」

 

 ウザい位のドヤ顔を浮かべていた。コレはネタなのか本心なのか。いや、多分どっちもだと思う。

 

「鈴子さんはコイツの何処が気になったんですか?」

「そうだね」

 

 言葉をツラツラと重ねても良いけれど、濃度が薄まる。彼のことを思い出そうとすると、直近の記憶が蘇って口元を覆ってしまった。あまり多くを喋り過ぎると失言しそうなので、手短に言おう。

 

「誠実で気遣いできる所。それと、ちょっと押しが強い所も」

 

 ヒューッ! と、学友達が公平君のことを冷かし、当の本人は照れ臭そうに笑っていた。この光景を見られただけでも誘った甲斐はあったかもしれない。盛り上がっている中、学友君の1人が不機嫌そうに帰って来た。

 

「畜生。あのトイレ、延々踏ん張っている奴いるし最悪だった。俺の番はまだ来ていない?」

「次は私だね」

 

 さて、私の番だ。と、準備をしたがレーンにピンが並ばない。何かトラブルでも起きたのかと思っていると、周りでも似たような騒ぎが起きていた。どうも不具合があったらしい。胸騒ぎがする。暫くして、店長と思しき男性が出て来た。

 

「皆さま。レーンに不具合があったようです。係の者も点検していますが、ただいま復旧作業の方に当たっていますが、本日中の再開は難しいと思われます。代金の方は払い戻しいたしますので……」

 

 最初は騒めいていたが、周囲も割とすんなり納得してカウンターの方へと向かって行く。休日でも無いので人はそんなに多くないにしても人混みができる。

 

「チェッ、付いてないな。コレでお開きかぁ」

 

 公平君の友達が残念そうにしながら、バッグを担いでカウンターの方へと向かって行く。入り口前に人が集められていた。強烈に嫌な予感がした。スタッフの一人が懐から水晶を取り出していた。アレはアーティファクトだ。

 

「!!」

 

 咄嗟に公平君を抱えて、懐から防御用のアーティファクトを取り出して。周囲にマナが走る。フラフラと人々が倒れる。

 

「鈴子さん!?」

「君達。一般人にアーティファクトを向けるなんて正気か?」

「いいえ。彼らは10分後に目覚めて、帰路に就いています。呼び止められた理由は理解していますよね?」

 

 スタッフの制服を着た誰かが実に流暢な日本語を話しているが、何処の人間か分かった物じゃない。他にも制服を着た者達が剣呑な雰囲気を漂わせている。

 明らかにカタギじゃない。羽生や龍華から警告されていたことだが、ここまでやって来るとは思っていなかった。

 

「すまない。事情が分からないんだ。できたら、説明して欲しい。君達の要求も」

「説明をするつもりはありません。表にいる者達に駆け付けられたら困りますからね。ですが、要求と対価だけは言いましょう。我が国に来なさい。対価は貴女の新しい人生です。戸籍も用意しましょう」

 

 どうやら、相手側は私の事情も含めて全てを把握しているらしい。

 新しい人生とは私も望んでいたことだが、こんなことをして来る連中が約束を守るとは到底思えない。

 

「賛同しなくても連れて行くんですが」

 

 既に周りの者達が動き出していた。向こうは本職なのか、私達はあっと言う間に組み伏せられた。手錠を掛けられ、猿轡を噛まされそうになった時。ドスドスと地響きのような音が響いて来た。

 皆の警戒がそちらに向かった。と言うことは、彼らの身内ではないのだろう。近付いて来たモノの姿を見て、私と公平君は思わず顔をしかめてしまった。

 

「お前らはクソや」

 

 龍華、豹華に加えて、ウチのダンジョンで暴れて行った高ランク探索者。糞遊び好きの土場がふんどし一丁の姿で降臨していた。

 

「(あ。もしかして、トイレで踏ん張っていた奴って)」

 

 まさか、彼だったのだろうか。この施設に多大なる犠牲を強いてしまったことを申し訳なく思っているが、土場はバカみたいに強かった。

 スタッフに扮した工作員と思しき者達がアーティファクト以外にも拳銃や現実における兵器を持ちだしているが、拳一つで殴り飛ばしていた。

 

「なんだコイツ!?」

 

 動きを封じるバインドのエンチャントを振り切り、銃弾は皮膚で止まり、ナイフやアーティファクトの斬撃も表面の皮膚の薄皮を削ぐ程度でまるで意味がない。

 だが、工作員達の動きも早かった。私達を抱え上げると直ぐに裏口へと向かった。のだが。

 

「汚れ(仕事)好きの兄ちゃんと戦り合ったんや」

 

 私達を運んでいた奴らを跳び蹴りで吹っ飛ばして、そのまま私達を抱えて裏口から出て行く……前に一応迷彩用の外套を被ってから跳び出して行った。

 

「追うな! 外にいる奴らに任せろ!」

 

 不穏な発言を最後に。私達は急速にボウリング場から遠ざかって行く。

 その中で薄々と、私は元の生活に戻れないんだろうなと。と同時に、公平君のことを思うと、どうしようもない程の罪悪感が湧いていた。

 

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