TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
成人女性とガタイの良い男子を抱えながら、土場の足取りに迷いはない。
どこに向かっているのか? と聞きたいが、こんな状況で喋ろうとすれば舌を噛んで、口の中が血まみれになることは間違いない。
「(何が怖いかって)」
これだけの事態になっているのに騒ぎや混乱が起きていないということだ。
土場が人を掻き分けながら進んでいる中、相手側も同じ様にしているか。あるいは待機させている者達に対応させているのか。水面下で静かに応酬が行われている。
「シャォア!」
「邪魔や」
姿は見えないが、殺気と敵意を孕んだ何かの攻撃を正面から蹴り一つで打ち砕いていた。もしかして、コイツは豹華以上の人間兵器かもしれない。
頼もしくはあるが、ゴールが見えない不安は大きい。と考えていると、表通りから逸れた裏道。そこには龍華達が待ち構えていた。
「潜って!」
彼女が展開させたのはトランスポーター。先日、初心者ダンジョンの5階に出現していたのと同様の物だが、ダンジョン外で出現させよう物なら大量のマナ内容道具を消耗することになる。
幾つのアーティファクトを使い潰したのか。と考える間もなく、私達は土場に投げ飛ばされ、龍華達と一緒にポーターを潜った。
――
「ここは……」
ここ20日間ですっかり見慣れた光景。勝手知ったる例のダンジョンだ。隣には、公平君を始めとしたメンツ。そして、バフォー達。
「大変なことになってしまったな。何があったかは、羽生から遠貝で聞いた」
「バフォー。答えて欲しい。一体、何が起きているんだ?」
私のTSから端を発した今日であるが、一体なにが起きているというのか。そもそも、ダンジョンの成長とは何なのか。頭の整理が追い付かない。
「私も創造主に連絡を取ろうとしているが応答がない。他のダンジョン主にも話は聞いているが、やはりここだけが特殊であるらしい」
「そうよね。私も色々な国の高ランク探索者達に話を聞いたけど」
バフォーや龍華も言うのだから、恐らく。こんなことが起きているのは、このダンジョン位なのだろう。
「そもそも、似たようなことをすれば成長する。と言うのなら、既に諸外国でも試されているハズですしねェ」
豹華達が入ったことは公にはされていないが、然るべき場所にはキチンと報告が入っているだろう。だが、他所の国では実現できていないのだから騒動は起きている。
「おい、待ってくれよ。まさか、本当に私の仕業だって言うのかい? いや。待ってくれ。私は大したことなんてしてないぞ?」
どちらかと言えば公平君がやったことの方が大きい。とは口が裂けても言わない。彼に責任を擦り付けるなんて言語道断だ。
「鈴子さんがやったんは、ダンジョン内にウンコ振らせたり、変なん闊歩させたりしている位やしなぁ」
「言葉にすると、本当に何やってんだ。ってなりますよね」
ミツバちゃんとスキュさんの冷静な指摘が私の罪悪感を揺らしていた。身から出た錆ならぬ、ウンコと言う所だ。
「いや。もしかしたら、それがポイントかもしれないわ?」
「え?」
「ちょっと。ウ……なんでも良いからスキルで作りなさいよ」
特に何も言われなければウンコを作るつもりだったが、さすがに嫌だったらしい。なので代わりに。
「じゃあ、串焼き先輩BBで良いか」
皆から『コイツは何を言っているんだ?』みたいな目を向けられたのだが、本当にあるんだから仕方ない。
スキルを発動させると床にボトリと串焼きが落ちた。一見すると肉片に見えるが、目を凝らすと特定の誰かの顔に見えないこともない絶妙な塩梅だ。龍華が拾い上げた。
「串焼き?」
「なにって。串焼きだよ。食べられるよ」
滅茶苦茶嫌そうな顔をしていたが、ヒョイと豹華が取り上げて口に含んでいた。咀嚼している間も嫌そうな顔はしていなかった。
「フツーの串焼きですね。食感は羊肉みたいですねぇ。コレがどうかしました?」
「いや。今、口にしたの。殆ど『マナ』だけで編まれているのよ。コレ、結構すごいことよ?」
「そうなのか?」
バフォーの方を見たが首を傾げていた。必ずしもダンジョンクリエイターがマナなどの原理にも詳しいという訳ではないらしい。
「ザックリ言うけれど。マナってのはダンジョン内に散らばるけれど、中々消えないのよね。人間でいうなら、いつまでも消化されない状態。みたいな感じ」
ダンジョンを人体に例えてみよう。俺達は体内へと入ったら、出現するモンスターを撃破しながらアイテムなどを手に入れる。そして、制覇を目指す。
「何となくイメージが湧いて来ましたよ。言ってみれば、体内に散らばったマナを固めたのがモンスター。言ってみれば、栄養素みたいなものです。アイテムなどは胆石や糖のような分泌物。そして、入って来る探索者はモンスターを倒してマナを吸収し易い形に変えて、分泌物を取り除く消化酵素めいた物。と言う具合ですかね?」
「そうか。そう言うことなら、ダンジョンが攻略される為に作られている。と言うことにも納得できるな」
スキュさんの解説にバフォーも納得していた。となれば、ダンジョンがやっているのはマナの消化みたいな物なのか。制覇したら、これ以上は消化する必要も無いので引っ込むと。
「その話に私がどう関わって来るんだい?」
「アンタのスキル。ダンジョンにマナを還元するという点では最高効率クラスの物なのよね。だって、モンスターみたいな形にしなくてもこんな串焼きとか、テキトーな形に替えられるんだから」
マナを還元する為にもモンスターと言う形で出現させて倒させる。その報酬物として、分泌物を持って帰らせる。なるほど、人体に例えた場合としては合理的ではある。
「もしかして。私のスキルでマナを還元し過ぎたせいで、とんでもないスピードで成長しちゃったと?」
「まぁ、そもそも。クリアさせんように妨害しとるしな」
ここに来て、己の行いが帰って来たと言わざるを得ない。
普段は普通に食事をして満足していたダンジョン君。しかし、私は彼の腸内を彷徨う栄養源をまとめ上げ、最高効率で消化させた。と言うことか。善玉菌にもほどがあるだろう。
「あくまで仮設だけどね。じゃないと、他の国で似たような手順をしてもダンジョンが成長しないことに説明が付かない。ひょっとしたら、このダンジョンだけが特別なのかもしれないけれどね」
他所の国で試して見れば分かることだろう。もっとも、実証されてしまった場合は二度と戻って来ることはないだろうが。……ただ、その場合だと安心することがある。
「もしも、そうだった場合は。身柄を確保されるのが私だけになる。と言うのは幸いだ」
公平君のスキルが関係していたとかなら、彼の安寧も脅かされていたが、そうでなかった場合は救いがある。被害は私一人で済むからだ。
「鈴子さん。それ、マジで言っています?」
だというのに、公平君は怒っていた。このダンジョンに来てから、黙っていた彼は怒っていた。気圧されてしまう。だが、言わねばならない。
「公平君。今日のデートで分かったけど、君には帰るべき日常があるんだ。戻るべきだよ」
「じゃあ、鈴子さんには無いって言うんですか?」
無い。と、20日前には断言できただろう。でも、今はどうだろうか。答えを出しあぐねている。
こんな珍妙なダンジョンで知り合った奴らがいる。こうなる前の自分では話す機会すら得られなかったような著名な探索者達と縁を持っている。そして、自分を嗤ったり嘲笑したりせず下心ありきの敬意を向けてくれる男子がいる。
「……正直に言うと。惜しいよ。私だって、この生活は捨てたくない。でも、どうすればいいんだ?」
このままでは、お互いに日常に戻ることなんて不可能だ。私の為に、彼が犠牲になることは避けたい。すると、バフォーが溜息を吐いた。
「何を躊躇うことがある。お前は初志を貫徹すれば良い」
「え?」
「私が巻き込んだんだ。ならば、地獄まで付き添うぞ。龍華、豹華、公平君。提案したいことがある。この状況を打破する為の物だ」
バフォーからの提案を聞いた私達は耳を疑った。だが、現状の狙われ続ける可能性を考えたら、なるほど。打開の手ではあるかもしれない。
「でも、良いの? そうしたら、アンタが景品になる様な物よ?」
「秘密裡にやられる位なら堂々と。ってことですかねぇ?」
「だけど、チャンスはある。上手く行けば、私もこの国に居られるかもしれない。……その場合、龍華達の活躍次第になるけれど」
ただ、少なくとも公平君の生活が脅かされる可能性は減らすことができる。彼を人質に取るという作戦の旨味も減らすことはできるが。
「でも、羽生さんに死ぬほど負担がかかるんじゃ?」
「こうなったら、彼女も共犯者として一緒に地獄まで行って貰おうか」
遠貝で彼女に連絡を入れた。すると、待機してくれていたのだろうか。直ぐに反応してくれた。
『無事だったか!?』
「うん。でも、今後もそうだとは限らない。だから、羽生に提案したいことがある」
『なんだ?』
「私は、今からこのダンジョンマスターになる。そして、制覇した探索者と添い遂げる。このダンジョンの報酬は私だ」
暫く、沈黙の後。羽生から怒涛の質問が投げかけられた。私はバフォーと一緒に、残り10日のスケジュールを彼女に説明した。