TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
今日で1週間。件の糞まみれダンジョンは注目を集め始めていた。
初心者用のダンジョンは産まれては消えてを繰り返されるが長いこと残っていた為である。加えて、ダンジョンの内部を撮影した動画も出ていた。
『アマッターノ』と呼ばれる、人獣型モンスターの使われていない部分で構成された雑魚モンスターの群れ。衛生環境最悪のフロア、奥で待ち構えている得体のしれないグロ生物。不人気ダンジョン待ったなし。である。
「羽生さん。やっぱり、青少年への影響も考えて上位帯の探索者に依頼をした方が良いと思います。ほら、中級以上の人達からも志願されています」
「全部跳ねておいて。自分達が潜れないからって」
ダンジョンは誰でも好き勝手に潜って良い訳ではない。申請がないまま潜ることができれば、犯罪が行われる可能性もあるし、社会を混乱させるだけの物品が持ち出される可能性だってある。
故に、出入りは厳重に管理されているのだが、現在は探索者過多で、ランクに合わせた受注と言うのが難しくなっている。
「ですが、何時までも攻略されない初心者用ダンジョンを初心者用として残しておくのも無理はあるかと」
男性スタッフが言うことも一理ある。幾ら罠やモンスターが低ランクの物だとしても攻略できない様なギミックがあるとすれば、やはり初心者向けとは言い難い。単に汚くて臭いだけなのだが。
「いえ、それでも残すべきよ。じゃないとランク査定の是非が問われて、私達が奔走する羽目になるじゃない!」
「なんて、お役所的な態度なんだ……」
一度決めた物を覆したり更新したりするのは手間が掛かる。
お役所の怠慢のおかげで、臭気ダンジョンに中級以上の探索者が送り込まれることは避けられた。
――
俺がダンジョンに住み始めて1週間。食糧やら何やらはどうにかなるにしても、シャワーは無いので異臭を撒き散らす羽目になっているが、意外と本人は気にならないモンである。
「このダンジョンもスッカリと変わり果てて……」
パタパタと周囲を飛び回るバフォーが目頭を押さえていた。少年少女の旅立ちを見送る為のダンジョンがクソ塗れになってしまったんだから仕方ない。俺は彼の肩を叩いた。
「いいことあるって」
「不幸の根源が何を抜かすか」
伸ばした手は払い除けられた。だが、俺達の付き合いも残す所、3週間。
フロア内で闊歩するアマッターノ同士が交配して『セイレーン・ナーガ・ノ・アマッターノ』みたいな余りモノ同士のキメラも誕生しているが、ステータス的にあんまり強くはなかった。
「なんか、ダンジョンって言うよりもサバイバルホラーとかで舞台になる実験場みたいな有様だよな」
「お前が染め上げたんだろうが!!」
我慢しかねたのか。バフォーが人間態になって、俺の胸倉を掴んで揺さぶっていた。バフォメットが美女(男)に襲い掛かるサバト的な光景と見えなくも無いのだが、ファンキーなモンスターと臭気と汚さのせいで雰囲気も何もない。
「これも俺のTSの為。若い芽は摘み取ってナンボよ」
「どうしてお前が悪魔じゃなくて人間なんだ」
バフォーが頭を抱えていた。コイツ、悪魔の癖に根が善良だから困る。多分、俺達はお互いが入れ替わってちょうど良い位なのだろう。
先日の一件もあって今日は中々に探索者がやって来る気配がない。いつまでも1階部分で止められるとは思えないので、今日は2階部分の改造を施していきたいと思う。ゲンナリしているバフォーを連れて、俺は2階へと移動した。
――
階層が上がれば上がる程、出現するモンスターやアイテムのランクが上がるというのも、やはり常識である。1階部分はアマッターノばかりだった、この階はと言うと……。やっぱり、アマッターノばっかりだ。
鳥の頭部を模したボディに人間の両手両足を生やした『ハーピィ・ノ・アマッターノ』。本体の特技である飛行ができなさそうなので、今まで見て来たアマッターノシリーズの中でも一番ひどいんじゃないんだろうか?
胴体と頭部にメカ部分を残して、女性の両手足を生やした『メカムスメ・ノ・アマッターノ』。アマッターノと言うよりも、これはこれで何かしらのジャンルになるんじゃないかと言う味のある造詣をしている。
タコの様な頭部を生やしている胴体部分は全くの人型であるモンスターもいる。『スキュラ・ノ・アマッターノ』と言うらしいが、コイツだけ何か違う。1階より強そうな雰囲気はあるのだが。
「なぁ。もしかして、お前。腹の飢えをパンの耳で防ぐタイプ?」
「しょうがないだろ。どうしても余る部分は出て来るんだから」
「何がしょうがないんだよ。アマッターノじゃない方がどっかにいるのか」
「高ランク帯のダンジョンにいるぞ」
マジかよ。それじゃあ、高ランク帯の冒険者は可愛い子を選り取りみどりだな。もうすこし、続けておけばよかった。
それはそれとして。1階の連中よりは強いだけではなく頭も良さそうなので、ひとまず。ハーピィの残り物に接触してみたが。
「ヴァーカ!!!」
クワっと顔型胴体の両目部分を見開き、五指をグワっと広げて威嚇する様な姿勢を取った後、罵声を吐いて来た。このやろう!!
「この鳥野郎!! 分からせてやる!」
「鳥と本気で喧嘩する奴始めて見た」
ハーピィ・ノ・アマッターノは翼が無いのでダチョウみたいに走るしかないのだが、悲しいことに彼らの両脚は人間のそれである。故に、あまり早くないので簡単に捕まえられた。
「トモダチ!」
「何がトモダチだ!!」
スキルで出現させたトウモロコシを口にねじ込んだ。フォアグラの生産過程を思い出す猟奇的な光景に見えなくも無い。頭部兼胴体部分を肥大化させて放置した後、今度は無機物と有機物のハイブリッドである『メカムスメ・ノ・アマッターノ』に接触してみることにしたが。
「メカムスメさんやでー。どないしたん?」
「なんか、動画でしょっちゅう聞く声しているな。コレ、著作権とか商用利用について大丈夫なのか?」
「私は買っただけだから中身の著作権については何とも……」
「悪魔らしい責任逃れするじゃねぇかよぉ~~!」
バフォーにもちゃんと悪魔らしいところがあって安心したが、伸ばした手は払い除けられた。
「なんや、楽しそうやな」
「メッチャ流暢に喋るな。もしかして、2階以降のメンツって会話できるのか?」
「この階ならハピちゃんとは無理やで。スキュさんとはできるかもやけど」
人間の形に近くなればなるほど知能も上がるんだろうか。バフォー以外に会話する相手がいなかったので、これは嬉しい。
「スキュさんってのはどんな人?」
「何考えているかよー分からん人。ほら、あそこにおるやろ」
パッと概要を見て容姿は分かっていたが。タコ型の頭部をした人間と言うのは、初心者用のダンジョンに出現しても良いモンスターなんだろうか?
「クトゥルフ系ダンジョンにいそうやなって」
「モンスターなのにサブカルに詳しいんだな」
「メカ娘なんてサブカルの産物ヤンケ。しばくヤンケ」
なんか変なのが混じった気がする。極当たり前の様に、メカムスメを加えた一同はスキュさんに接触することにしたのだが。
「ふんぐるい」
「なぁ! コレ、初心者用のダンジョンにいて良い奴じゃないって!!」
「おかしいな。ステータス的には初心者用のダンジョンレベルなんだが」
「スキュさんのステータスが低くても何を呼んで来るかは分からんって奴やね」
と言っても、何かが召喚される空気はない。いわゆる、強敵と見た目が似ているだけのモドキモンスターの一種かもしれない。
高ランクになった時、本当に強いバージョンと出会う。と言うのも初心者用のダンジョンとしては相応しいかもしれない。これが2階にいるモンスター達か。
「なんか、然も当然の様に接してもうたけど。なんで、モンスターでもない姉ちゃんがこんな所におるん?」
「実は、このダンジョンのせいで呪われてTSしちゃったんだ。だから、呪いが固定化するまでダンジョンを守り抜くつもりなんだ」
「???」
話の前後に繋がりを見いだせないのか、メカムスメが困惑しながらバフォーを見ていた。奴も首を横に振るだけだった。
「諦めろ。コイツの精神性はモンスターや悪魔に近い」
「考えてもくれよ。不細工で、臭くて、キモイ男の体で生きるなんて拷問じゃん? 呪いで俺は生まれ変わるんだ。別人として第2の人生を歩むんだ」
「なんか嫌なことあったん?」
実にピンポイントな質問だったので、思わず視線を逸らしてしまった。バフォーも気になったのだろうか。
「お前の『スキル』について聞いた時もそうだったが、何があった? 今までの人生を捨てたいなど。並大抵のことではないだろう」
普段は蛇蝎の如く嫌ってくるくせに、こういう時だけ親身っぽくなるのは腹が立つ。もっと信頼を積み重ねてからじゃないと喋るつもりは……なんて風には思わない。
「かつて、俺はダンジョン配信者だった。だけど、俺の顔が『昔ミームで流行った男優に似ている』と言うだけで、クソみたいなBB素材が作られて遊ばれて! 俺のプライバシーは無茶苦茶だ!!」
「お、おぉう……」
「人類って昔から進化してへんねんな。温故知新や」
「なにが温故知新だ! あんなものうんこ恥新だ!」
どうして人は学ばないんだ。そんな昔のミームを掘り出して運用する奴らの精神状態が理解できない。ここで、バフォーが何かに気付いた様だ。
「だが、スキルの説明を思い出すに。お前は、視聴者にバカにされ、弄られる度に強くなるのでは?」
「言うなぁああああああ!」
何が皮肉かと言えば。俺が嫌な思いをすればするほど、俺のスキルは汎用性と多様性が増すということだ。だから、俺はダンジョンなんて物から離れて別人として生きたい。偽らざる本音だ。
「与太話過ぎて何処まで信じてええかは分からんけど、このダンジョンを守ったら嫌な思いせんで済むんなら手伝うでー」
「これマジ? 天使過ぎるだろ……」
やはり本当のモンスターは人間の方だというオキマリの結論に落ち着いたが、2階はどんな風に改造しようか。1階と同じ様に……と考えたが、メカムスメちゃんに嫌な思いはさせたくない。
「お前、そんな誰かを思う気遣いが残っていたのか」
「俺は俺に優しくしてくれる人には優しくしたいんだ」
若い探索者も俺のことを指差す人間も嫌いだが、モンスターならそんなことは無いし、良いよね。よく見たら、メカムスメちゃんも可愛いじゃないか。
ゴツゴツとしたバイザー型の頭部。バルカン砲やミサイルでも詰まってそうなふくよかナイスバディ。それらを支える華奢な手足と芸術的だ。
「そう思ってくれるんならお願いがあるんやけど」
「なんだい?」
「シャワー浴びてーや。モンスターと大差あらへん臭いしとるで」
……しばらく沈黙した。ダンジョン内にシャワーなんて便利な物はない。水源を引っ張って来ることも出来ないし、非常に。非常に嫌ではあるが。
「だ、ダンジョンを出るしかない……」
かくして。俺は1週間目にして、一旦ダンジョンから出る必要が出て来た。こういう時に限って『シャワーBB』『風呂BB』『プールBB』が無いんだから困る。
どうやって出られるのか。誰にもバレずに行けるのか。出ている間に攻略されないか。最大の関門が立ちはだかった。