TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
「……と言う声明が出されたことは皆もご存じでしょうが」
バフォーが声明を出してから数時間後、各国ではビデオ通話による会議が行われていた。例のダンジョンクリエイターから不興を買わぬ様にと言うこともあるが、牽制も含めてのことだった。
声を掛けられた国は、いずれも有力な高ランク探索者が帰属する国だった。数にして5ヶ国。日本も含まれている。
「手短に行こう。どの国が最初に挑むか? だ」
もしも、試行回数に制限が無ければ皆が声を上げていた所だろうが、挑戦できる回数は1回。となれば、後になればなるほど攻略する為の情報が入手できる可能性がある。
「情報の共有は積極的に行いましょう。提供した情報の貢献度が高ければ、その分、便宜を図らうということで。誰か、ファーストペンギンになる者は?」
促している。この未曽有のチャンスを前にして、彼らは冷静だった。
我こそは! とイキり立つような若造はいなかった。自分達が目的を達成する為に必要な状況を待ち構えている。
「皆さん。まず、こういった物は所有国が最初に向かう権利がある物ではありませんか。どうですか?」
「いや、それがですね。私達も探索者への通知や準備に奔走しておりまして。その分、皆さまを歓迎してお待ちしておりますので」
日本を代表して交渉に選ばれた男もただ物ではなかった。他国からの突き出しをのらりくらりと避けていた。
「では、一番槍は私達が頂いてもよろしいですか?」
会議が始まってから、初めて口を開いたのは中国の代表だった。
地理的にも日本とは近いにしても、自分から名乗りを上げる者がいたのは予想外だったのだろう。ほんのわずかな沈黙の後、会議は再開された。
「それは勇ましいことです。して、日程は?」
「3日後。あのダンジョンが生成されてから23日目と言えば良いでしょうか? 日本のバックアップを求めます」
「お任せください」
「では、次は私達が」
1ヶ国が決まると、後は雪崩式に決まって行く。各国同士の因縁や軋轢はあれど、所属している高ランク探索者の実力は決して軽んじていない。
故に、最初は避けたいが後ろも避けたいというのが各国の本音だった。1度の探索でかなりの情報量を持って帰ることは想像できたからだ。凡その順番が決まり、会議は次の開催日を決めて終了したが。
――
「私達が最後ですか」
『そうだ。他の探索者への通知や準備もあるだろう。結局、最後に貧乏くじを引かされるんだから、やっぱり堪ったモンじゃないよ』
最初を避けられただけ僥倖と考えた方が良さそうだった。
羽生も探索者への通知や予約のキャンセルなど、多数のクレーム対処を考えると胃がキリキリと痛む所だった。
「それと。日本からのメンバーは決まっているのですか?」
『いるにはいるんだけどね。連絡が取れなかったり、権力に従うのが嫌ってことで断って来たりしてね。3人しか融通が付かなかったんだ。その3人だけは頷いてくれたんだけれどね』
もはやメンバーは想像するまでもない。龍華、豹華。もう1人は恐らく土場になるのだろうが。
「あと一人は?」
『龍華君から推薦があるって言われたんだ。本当を言うなら、ちゃんと手配したいけれど。彼女の意見を反故にすると豹華君も離れるだろう? だから、とりあえずは保留にしてある。引き続け代りは探すよ』
恐らく、鈴子を慕っていた例の少年を連れて行くつもりだろうが、高ランクダンジョンに向かわせるにはあまりに心もとない存在だ。
「仮にですよ? もしも、日本に順番が回って来ることがあるとすれば。それはダンジョンが出現してから何日目になりそうですか?」
『変な聞き方をするね。えっと……30日目になるね。それがどうかしたの?』
5ヶ国が挑むと言っても準備や諸々で日数が掛かるとしても、まさかピッタリ30日目になるとは。
「いえ、特に何かある訳でもないですが」
『そうかい。……そうだ。ここ最近は特殊な対応ばかりで疲れたことだろう。この一件が終わったら、暫く休むと良い』
「え?」
あまりに唐突に言い渡されたので、羽生も思考が停止していた。決して自分を労って。と言う訳ではないだろう。
『仕事はちゃんとしたまえよ』
と、手遅れの警告を最後に通話が切れた。友人を見逃し続けた挙句、今日の事態を招いたのだから、ある種当然のことではあった。周りのスタッフ達も心配そうに見守る中、自らを奮い立たせるように声を上げた。
「各国から、高名な方達が来るんだ! 粗相のない様に手続きを進めるぞ!」
コレが最後の仕事になるというのなら、せめて真っ当するとしよう。早速、告知の準備を始めた。
~~
「公平。お前、2週間ほど休むって」
ラグビー部の顧問は、公平からの申し入れに戸惑っていた。基本的に真面目で練習をサボったり、休んだりすることもほとんどない彼がそんなことを言いだしたのだから、ただ事ではないと思っていた。
「はい。理由は言えないんです。ですが、復帰するつもりではいます。その後は、球拾いでもグラウンドの整備でも何でもします」
ただ、戻って来るだけではなくケジメを付けるつもりでもいる。
となれば、怠いからサボるという訳ではないのだろう。ご丁寧に書面には校長の印まで押してある。
「分かった。書類は受理しよう。直接的な理由は聞かない。ただ、お前が行動するに至った理由。までは聞けないか?」
「俺が。ですか?」
「お前は杓子定規だからな。言うことはよく聞くんだが、融通が利かないお前が、こんなことをするとは思わなかった。直接的な理由じゃなく、行動に移すに経緯だけでも聞いて良いか?」
鈴子を助けに行く為に、龍華達に稽古を付けて貰いに行くのだが、どうして自分は彼女に夢中なのか。と考えた時、答えは決まっていた。
「大切な人を迎えに行く為です」
下心から始まり、彼女の面倒見の良さや優しさに惹かれて、今がある。
冗談とも受け取られないが、公平があまりに真剣な顔で言うので、顧問も茶化すようなことはしなかった。
「だってよ」
「は?」
顧問が呆れ顔で溜息を吐くと、背後の扉が開いた。先日、一緒にボウリング場へと言ったメンツが雪崩れ込んで来た。
「なんかあったんだな! 鈴子さんと!」
「あの日、フラーっと別れたからなんかあったと思ったけれど!」
どうやら、先日の一件は自分と鈴子だけがフラーっと帰ったという話になっていたらしい。となれば、部活仲間達に言い訳をしても無駄なので。
「これ以上の事情は説明できない。でも、俺にしかできないことなんだ。大丈夫。学校にはキチンと来る」
騙されているんじゃないか。と思ったが、部活を休むというだけなら。と言うことで、全員が一旦意見を呑み込んだ。
「それじゃあ、俺はコレで」
と、顧問と仲間達に頭を下げて、公平は学校を後にした。自転車に乗って約束した場所へと向かった。
――
「龍華さん。本当に俺で良かったんですか?」
件の場所には龍華以外に豹華と土場もいた。現状、4人は特別措置と言うことで、中級ダンジョンを借りて訓練を行っている。
「コレはアイツが言っていたことを守るとか。そう言う訳じゃない。アンタのスキルは、どういう事態にあっても打開しうる一手になり得るから、連れて行くのよ」
「少なくとも、私達はバフォーさんに一度は敗れていますからね。現状のステータスで行っても敗れる可能性はあるんですよ」
豹華も付け加えてくれたが、自分を連れて行くのはお情けでも感傷でもなく、キチンと理由があってのことだった。
「ワシはわくわくするからや。お前達と一緒に居たら、何が起きるか分からん。ダンジョンで盛り合おうや」
「血肉躍るということですね。分かります」
あまり、変な意味で考えたくない言葉選びだった。例のダンジョンの初級フロアの攻略には失敗したが、普通の中級ダンジョンは特に捻った作りはしておらず、罠もモンスターもほどほどに配置されていた。
「(バフォーさんも言っていたみたいに。本来、ダンジョンって言うのはクリアされる為にある物なんだろうな)」
武具なども新しく買い揃えて、モンスター達との戦闘経験も積んでいく。アマッターノのようなトンチキなモンスターではなく、いずれもコボルトやオークなど標準的な者達ばかりで、戦いやすくもあった。
「どんどん稼いで、どんどん経験を積みなさい。9日で促成栽培するなら、それしか無いんだから!」
「応!!」
公平が揃えた武具はいずれも学生が買える物ではなかった。故に、龍華達から訓練と金稼ぎを兼ねたダンジョン攻略を課せられていた。
いずれも、彼女達はサポート程度にとどまりモンスターを倒したり、ダンジョンの探索に関しては公平主体に行わせていた。高ランク探索者3人に指導して貰うという、この上ない贅沢な環境での訓練だった。
「(俺は行くんだ!)」
持ち前の勤勉さとフィジカル。そして、鈴子を迎えに行くということもあり、彼は怒涛の勢いで中級ダンジョンを攻略していった。