TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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22日目:今までと明日から

「母さん。ただいまー」

 

 外もとっぷりとくれた頃。公平は探索道具一式と共に帰宅していた。

 元より、運動部と言うこともあり遅く帰って来ることは母親も慣れていたのだが、最近はココに楽しみが加わっていた。

 

「こんばんは。信子(のぶこ)お母さま」

「お邪魔しますねェ」

「龍華ちゃん、豹華ちゃん! いらっしゃい!」

 

 信子は龍華達を歓迎していた。既に食卓には4人分の料理が並べられており、極当たり前の様に一緒に席に着いていた。

 ダンジョンは学生でもチャレンジできるが、本格的に挑むとなれば、どうしても金銭や仕事の領域になって来る。

 幾ら、公平がしっかりしていると言っても未成年であることには変わりないので、暫定的に龍華が指導と引率を行い、必ず報告をしに来ていた。

 

「公平君はとても筋が良いです。以前より素養はありましたが、今は実施訓練と言う形を取っていて、少なからず報酬も獲得しています」

 

 龍華は必要な装備を無償で渡す真似はしなかった。

 必ず、書面を作成して公平と探索者同士として対等に接していた。こうして話しているのも、幾ら返済したかなどの報告も兼ねてのことだったが。

 

「信子お母さまが作る、ひじき煮って美味しいですよね。ヒジキと大豆に混じったシーチキンが味わい深くて」

「そうなのよ~。お出汁をよく吸ってくれてねぇ」

 

 体格の良い豹華はモリモリ沢山食べる。公平も運動部員なのでモリモリ食べる。信子としては息子と娘が増えたような感覚なのかもしれない。

 どう見ても仕事の話をしに来たようには見えない。親戚の子が遊びに来たかのような団らんぶりに、思わず龍華も笑ってしまった。

 

「素敵なご家庭ですね。お父様はドライバーさんでしたっけ?」

「そうなのよ。今、沖縄の方に行っていてね。しばらく、帰って来ないからよかったわ~」

 

 カラカラと笑っている所を見るに、公平とは逆のタイプであるが、彼の母親と言われると腑に落ちる性格ではあった。

 食事を終えて、3人で後片付けをした後は信子同伴で30日目までのプランを説明していた。自分達が彼を指導するのは、使う為でもあるのだから。

 

「現在、私達はとあるプロジェクトに取り組んでいます。私達の番が回って来たなら、公平君が持つ『スキル』の有用性を見込んでの契約。依頼達成の暁には、相応の額を振り込ませて頂きます」

 

 こういった時、信子は先程まで見せていた人の好い態度を潜ませて、真剣に話を聞いている。物事をなぁなぁで済まさない所は、公平の母親然としていた。

 依頼料から装備品、指導料、優先的にダンジョンを回して貰える様に手配した諸経費などを引くと、中流サラリーマンの年収程にはなる。

 作成した書面に細かく目を通すが、特に龍華達に対する言及は無かった。代りに、公平を見た。

 

「乱太郎。アンタが金儲けとかそう言うことの為にやるガラじゃないのは知っているし、ダンジョンにそこまで熱をあげていた訳じゃないのも分かっている。なのに、どうして引き受けたかは聞かせて」

 

 重要なことだ。ただ、龍華達は既に分かっている。後は、公平が自身の素直な気持ちを打ち明けるだけだが、彼が恥じらい程度に妨げられるような男でないことは既に分かっていた。

 

「母さん。俺、好きな人ができたんだ。ただ、ちょっと特殊な立場にいる人だからさ。会いに行く為には、龍華さん達の力を借りなきゃいけない。だから、参加させて貰っているんだ」

 

 簡潔で伝わり易い言葉だった。一般人には言えない情報を伏せて、想いを告げるとしたら、こんな形になるだろうか。

 信子が龍華達を見た。彼女達は頷いた。既に事情は織り込み済みだった。信子の緊張した表情が解かれた。

 

「それって。前から、休日に出掛けたりして会いに行っている人のこと? どういう所が好きになったの?」

「最初は見た目が滅茶苦茶好みって下心だったけれど。……ちょっとアホな所とか、無理して年上として振舞おうとしている所とか見て、支えて上げようと思っていたんだけど、本当は俺よりもちゃんと大人をしていた人だった。そんな人だから、俺は助けたいんだ」

 

 出会いはバカみたいな話だった。ネットで晒し物にされるのを憐れんで勝手に呪いを掛けたかと思いきや、回収に来て……と意味が分からない。

 でも、話を聞けば聞くほど。本人もどうしようもない状況の中で、誰かに手を差し伸べようとする善意があった。大人としての責任感があった。恋愛は言い過ぎかもしれないが、彼女に惹かれているのは間違いなかった。

 

「アンタ。本当、若い頃のお父さんにそっくり」

「え?」

「もしも、地に足付かないフラついたことをしているなら引っ叩いていたけれど、こんな人達と知り合って、積み重ねて行っているんだから。最後までやり遂げなさい。龍華ちゃん、豹華ちゃん。乱太郎のこと、頼んでもいいかしら?」

「はい。お母さま」

 

 と、龍華は深く頷いた。一通り後片付けと書類のやり取りを終えた後は別れたのだが、暫く後。チャットアプリで龍華達と遣り取りをしていた。

 

『会って2日しか経っていないのに、お母さま。コミュ力すごいのね』

「誰とでも仲良くなれるってのが本人曰く。ですからね」

『公平君は、ちょっと硬い位ですけれどねぇ。……さて、明日からは中国チームが入るみたいですけど』

 

 例のダンジョンを最初に攻略するのは中国チームだそうだ。公平には、どんな探索者がいるかも全く予想が付かない。

 

「中国チームってすごいんですか?」

『国土が広いから、その分。突出した奴は本当にすごい』

『私の動きも、向こうの高ランク探索者の物を参考にしていますからねェ。彼らが踏破しても不思議でも何でもありません』

 

 今は、こうして話ができているが、やはり高ランク探索者は文字通り住んでいる世界が違う者達ばかりなのだ。彼女達から指導を貰える自分の幸運に、公平は改めて感謝をしていた。

 

『明日も明日で攻略ね。ただし、学業も両立させること。私達と話している間に宿題、予習、復習はちゃんとやっている? 後、攻略を終えた後に自主練とか勝手にしちゃ駄目だからね』

「問題ないっす。だから、こうやってチャットしながら勉強しているんですけど」

 

 気が急いて、身体を動かしたくなる欲求を抑えて勉学に励んでいる。我慢するのもまた課題なのだが、こうして話に付き合ってくれる所まで鑑みると、本当に手厚いとしか言いようがない。

 

『私も昔は勉強なんてできなくても。って言ったんですけれど、先輩にすごい怒られたんですよねぇ』

『探索を続けて行く上で報告者も書類の手続きも必要だし、勉強が何より大事なのよ。大変でしょ。探索者って?』

 

 ダンジョンの攻略以外にも、龍華からは報告書の作成方法なども教えられていた。分かっていることだけを示すにしても、中々の文章量になる。だが、公平はこういった物が嫌いではなかった。

 

「大変だとは思いますよ。でも、こうして同じ苦労をすることで。なんだか、鈴子さんの足跡を辿っているみたいで。今まで、こんな風にして来たんだなって知れたのは、良かったと思います」

 

 きっと、今みたいに情報が整っていないことも多かっただろう。自分みたいに高ランク探索者のアドバイスやサポートも無かったのだろう。

 その中で必死にやって来た誰かがいた。ただ、昔に流行ったネットミームに出ていた誰かと顔が似ているというだけで話題として弄ばれた。

 軽い気持ちで弄んだ連中は、誰かを追い込んだという自覚も無く、今ものうのうと過ごしているのだろう。控え目に言って、人間のクズと言っても差支えが無い連中だった。

 

「(だけど)」

 

 そんな悪意が無ければ、自分が鈴子と出会うことも無かったのだろう。

 塞翁が馬。人生は何が起きるか分からない。明日も自分達はダンジョンに潜る。中国チームが颯爽とクリアしてしまうかどうか? 気にはなるが、自分にできることをするだけだ。公平は予習の方に手を付け始めていた。

 

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