TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
ダンジョンが出現してから23日目。例の配信をしてから、誰一人として挑んで来る物はいなかったが、直感のような物が告げていた。
「今日は来るぞ」
「まずは、初戦だね」
ダンジョンで待機している私には、どこの国がやって来るかなんて分からない。
件の配信をしてから、羽生からの連絡が無い。と言うことを鑑みるに情報が停まっているか、いよいよ処罰されたか。
「(申し訳ないとは思うが、私にはどうしようもできない)」
彼女が再就職できるように祈る、位しかできない。流石にダンジョンに呼び込む訳にもいかないし。
「探索者はキッチリ4人だ」
遠見の水晶には4人の探索者が映し出されている。仔細は分からないが、装備から放たれる雰囲気は、高ランク探索者の物であることは直ぐに分かった。
先頭にいた背の高い女性が、背負っていた冷蔵庫のようなバッグを下ろした。コレは見たことがある。
「豹華と同じタイプか」
ただし、彼女と違うのは全身に装着するタイプではなく、両肩に取りついたかと思えば、2対の腕が出現していたことだろうか。
「まるで阿修羅だな……」
「とりあえず歓迎しておこうか」
今までは、遊びみたいにクソを降らす位だったが、今の私には眷属としての力が加わっている為だろうか。BB素材なんて生温いことを言わない。
マナで編んだ槍を降らしてみるが、探索者達は動揺の色一つも見せずに駆け抜けていた。初心者ダンジョン部分はあっと言う間に踏破されると考えれば、私がやるべきことは。
「バフォー」
「対応は16階以降からだ。だが、1つだけ足止めできるフロアがある」
私も思い当たった。なので、該当フロアに大量にマナを注ぎ込んだ。少しは足止め位になると良いのだが。遠見の水晶に映し出されたのは、4階だ。
――
「止まれ」
中国から派遣された高ランク探索者のチームは迅速だった。最小限の労力で、次々と低階層をクリアしていて行くが、油断は一切していなかった。
鬱蒼と生い茂るフロアを徘徊する植物人間達は、彼女達の記憶にも無い新種のモンスターである。
『―――!!』
植物に発声器官は無いが、何かしらの咆哮を上げている空気は察した。
まるで、果実の皮が捲れて行くようにして。植物人間の外装が剥がれたかと思えば、緑色で再現された高ランクダンジョンのモンスター達が出現していた。
――
「土場が撒き散らしたモンスター共か」
「有効活用しないとね」
公平君が居ないので、私のマナとスキルによる再現でしかないが。だが、彼女達はまるで動揺することなく、植物モンスター達を撃退していく。
だが、植物モンスター達は撃破されたとしても土壌が栄養豊富状態なら幾らでも再生する。彼女達もとっくに気付いているのか、撃退位に留めて次のフロアへと向かおうとしている。
「バフォー。道を塞いだりとかは?」
「できない。公平性に欠く」
何度も言われているが、ダンジョンはクリアさせる為にある物なので、進行不可能な状態を作り出すことはできない。
消耗はしてくれているが、マッピングもしているのか。キチンと次のフロアへと進めそうだった。5階はクモ男が待ち構えているが、ボコボコにされて終わるだけと言うか……。
『そんな! 俺にもやらせてください!』
「いや。お前、豹華1人にもやられていたじゃないか。4人も相手にして勝てる訳がないだろう。バフォー?」
「その通りだ。と言うしかないが、一応ボスフロアとして設けている以上は素通りさせるのも癪だしなァ」
1~3階部分はほぼ素通りだったのだが、コレでも拘りはあるらしい。だが、公平君もいない今、私達ができることは雑にマナを注ぐ位だが。
『何もできずに一方的にボコられて、15階の中級ボスフロアでも鎧袖一触は俺の尊厳にも関わって来るんです! 何とかしてくださいよォ!!』
「と言っても。ここでアラクネにして、中級フロアでもアラクネにしたら。飽きられるんじゃあないかな?」
「カラーリングを変えてのコンパチはクオリティも関わる由々しき問題なのだ」」
モンスターの嵩増しと言えば、カラーリングを変えたコンパチ物だが、バフォー的にも起きに召さないらしい。
もう、高ランク探索者達が上がって来るし、仕方がない。可愛い美少女モンスター娘路線ではなく、素材の味を活かすとしよう。
「バフォー。ちょっと手伝ってくれ」
「む?」
――
鈴子達が細工をしていた様に、中国チームも細工をしていた。
メンバーの一人がフロア内を探知するスキルを用いて、内部を把握した後。また、別のメンバーが砲撃用のアーティファクトにスキルで『貫通強化』まで付与させて、フロア外からのアンブッシュで仕留めようとしていた。
「开火!!!」
放たれた一撃は扉を突き破り、威力は減衰することもないままフロア内を跳ね回っていた。立て続けに数発。質量とマナを伴った破壊が荒れ狂い、静寂が訪れた。直ぐに、メンバーの一人がフロアに探知を走らせたが。
「死体が無い?」
リーダー格の女性はいち早く反応し、他の2人も直ぐに飛び退いた。だが、砲撃手だけは反応が遅れた。致命傷だった。
「先にルールを逸脱して来たのは、お前達の方だからな」
砲撃手の胴体は貫かれていた。天井から降りて来た糸にはクモ男がぶら下がっていた。周囲には同じ様に大量の小蜘蛛がぶら下がっていた。
通常、ボスモンスターは特定のフロア内で待機しているのが定番だが、このクモ男はフロアの外へと繰り出して探索者達を仕留めに来ていた。
なんてことはない。自分達がやって来たことをやり返されただけだ。だが、仲間の一人がやられてもなお、混乱は無かった。バタンと。ボスフロアへと続く扉が固く閉ざされた。
「問題はない」
彼女達がいるのは狭い通路であるが天井は高く、クモ男が一方的に攻撃を仕掛けることができる状況が整っていた。
だが、探索者達はなぶり殺しにされるとは露ほども思っていない。メンバーの一人が周囲に防御呪文を張り巡らし、先程探知スキルを発動させていた者がリーダーにバフを掛けていた。
「リーダー。後は」
「分かった」
リーダー格の女性に生えている3対6本の腕が動く。手にした刀剣は刃こぼれすることなく、壁に食い込んだ。
まるで、大地に足を着ける様にして、壁に刀剣を突き立てながら這い上がって行く様はヤモリを彷彿とさせた。行く手を遮るべく、大量の小蜘蛛が襲い掛かって来るが、切り刻まれるばかりだった。
「面白い!! そう来なくてはな!」
クモ男も天井から襲い掛かったが、伸びていた糸を切り払われた。すると、壁を這って女性と相対した。
「名前を言え!」
「蚩尤(シュウ)と呼ばれている」
壁を這いながら、互いの攻撃が交差する。壁を地面に、地面を壁にして、重力に逆らった三次元的な応酬が行われていた。
実質的にタイマンに持ち込んでいるが、クモ男は自らの不利をヒシヒシと感じていた。故に、尋ねずにはいられなかった。
「何故だ! それだけの力を持ちながら! どうして、あのような猪口才な真似をする!?」
「我々は遊びで来ている訳でもなければ、挑戦の為に来ているのでもない。遂行の為に来ているんだ」
少しでも成功率の高い手を。少しでも安全に進むための方法を。合理的ではあるが、制作側のロマンを食いつぶすような方法は賛同しかねる物だった。
攻防に終わりが訪れた。蚩尤が振るった剣がクモ男の両腕を切り飛ばし、胴体を切り裂いていた。戦いの終わりを告げる様にして、周囲で援護攻撃をしていた小蜘蛛達がサラサラと消え去っていた。
「どうして、お前は探索者を……」
「これしかできなかった。それだけだ」
クモ男も同じ様にして消え去っていた。固く閉ざされたボスフロアの扉が開いた。先の階層へと続く階段が現れ、3人となったチームは先を急いだ。