TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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23日目:第一陣 その2

 低階層のフロアで1人減らせたのは僥倖だったが、中国グループの進撃は止まらない。多少、強化された程度のモンスターで止められる訳もなく、中級フロアには特殊なギミックは存在しない為、足止めになる訳もなく。

 

『どうした? 今回は正々堂々と挑んでやるんだ。嬉しいだろう?』

『今度は負けんぞぉおおおお!!』

 

 アラクネと化したクモ男が蚩尤達に襲い掛かるが、あっと言う間に足を破壊されて、バランスを崩した所で本体をボコボコにされていた。

 

「アイツら。普通に戦っても強いんだねぇ」

「国の威信をかけて送り込まれて来たからな。私としてもアラクネを応援したいが……」

 

 バフォーをしてもあきらめざるを得ない程に一方的だった。

 まるで、ゲームにおけるRTAを見ているかのような洗練された動きは、攻略されている側からしても見事だと思ってしまう程だった。

 

「切り替えて行こう。16階以降の攻略で私達ができることは?」

「そうだな。この階以降は、私達の力がより発揮し易くなる。モンスターの援護から罠の威力調整。それと、お前に関して言えばスキルの威力もな」

 

 BB劇場とか言う意味の分からないスキルだし使い道は無い物だと思っていたが、そこはネットの悪ふざけの集合知。いや、集合恥。

 

「やってやろうじゃないか」

 

――

 

 アラクネを撃破した蚩尤一行は16階へと足を踏み入れていた。

 高ランクダンジョン特有の雰囲気に切り替わったことに驚くこともなく、基本に忠実な動きをしながら進んでいた。大胆な様に見えて、周囲への警戒はまるで怠っていない。

 もしも、探索者達に向けた教材ビデオを作るなら、手本にしたいレベルであるが、この様子を視聴することができるのは極限られた者達だけである。

 

「止まれ」

 

 蚩尤が牽制すると同時にダンジョン内に奇妙な声が響いて来た。まるで赤子の様な声であるが、こんな場所にいるハズがない。何かが近付いて来る。

 床を蹴る音と感覚から、蚩尤達は接近してくる存在が四つ足であることまで想像できていた。やがて、異形が姿を現した。

 

「ひひーん」

 

 可愛らしい少女の頭部を持っているが、首から下は馬の様な体をしていた。

いや、注視すれば肉体部分の肉付きの良さから『牛』の物であるということが分かる。

 

「『アツユ』か。まさか、この国で見ることになるとは」

「ひひーん」

 

 間の抜けた鳴き声が響くが、蚩尤達が平然と対処できているのは身に着けているアーティファクトの加護によるものも大きかった。

 その証拠として、身に着けている異常耐性を付与するアミュレットがカタカタと揺れていた。もしも、何の備えも無く食らっていれば、自ら食われに向かっていたことだろう。

 

「リーダー。頭上を」

 

 頭上を見れば、天井を張っているモンスターが1匹。人間の様な頭部に蛇の身体を持っており、幾つもの翼が生えていた。

 

「しゃーい」

 

 彼女が通った跡にはマナが脈動しており、数瞬後。地表に向けて砲撃の様な水流が降り注いでいた。

 

「化蛇(かだ)か。どちらもウチ由来のモンスターだが、見るのは初めてだな」

 

 天井からは水による砲撃、地上部分では人面獣が駆けまわっている。

 蚩尤達は迷うことなく次の階層を目指す。アツユに対処しながら、頭上の化蛇の攻撃を避けながら進んでいた時のことである。

 

「蚩尤!!」

 

 声に反応する。頭上から落ちて来た水塊の中に何かがいた。蚩尤が六腕を用いて水塊を切り払うと、火花が散り、中にいたモノの正体が見えた。

 魚の様な胴体から女子の頭部が生え、側面から生えた腕には物々しい銛が握られている。

 

「お前。強いな」

「知っている」

 

 間抜けな見た目をしていたが、彼女が跳ねると床の中に沈んで行った。

 パシャパシャパシャと、頭上から降り注いだ水塊によってできた水溜りが跳ねていた。何が起きているかは直ぐに把握した。

 

「焼き払え!!」

 

 蚩尤の号令と共にメンバーの一人が炎呪文を放ち、床の水溜りを蒸発させていた。堪らず、魚少女は飛び出していた。

 

「頭も良いな」

「知っている」

 

 文字通りあぶり出されては太刀打ちできないのか、瞬く間に蚩尤の猛攻に圧されて、魚少女は撃破されていた。

 

――

 

「すごいね。アレだけで魚ちゃんの能力が分かるのか」

「ステージギミックも分かり易かったからな」

 

 蛇ちゃんの能力は通過した場所に水流のトラップを設置すると言う物で、魚ちゃんは水のある場所なら自由に出現できるという見た目のトンチキさと比べたら、随分と真っ当な能力の持ち主だった。

 

「馬ちゃんの能力も効かないし、対処能力も含めて流石高ランク探索者って感じだね。次はミツバちゃん達だけど」

「止めるのは難しいだろうな」

 

 こんな初見殺しに対処して来るんだから、順当に強いミツバちゃん達では対処できるかどうか。……いや、この場合。彼女達にも高ランク探索者達との交戦経験を積んで貰う位のつもりで行こう。

 

「(裏を返せば、彼女達の実力じゃ無理だって言っている様な物なんだけどね)」

 

~~

 

「(なんでや!?)」

 

 高ランクダンジョン層での戦闘になり、ミツバも例の形態で戦いに当たっていた。龍華達と戦った時ぶりになるが、今の彼女は圧されていた。

 同型機のトモエ相手でも善戦できていたのに。ヒートブレードを振るっても太刀筋は受けながされ、ミサイルも切り払われていた。サイドアームズの拳銃を引き抜く暇すらなく、装甲が次々と切り飛ばされて行く。

 目の前にいるのは腕が6本ある以外は、普通の人間と大して変わらない様に見えるが、膂力から技量まで全て規格外だった。

 

「どけ」

 

 緊張した風もなく、まるでいつもの作業をするかのような淡々とした声だった。

 きっと、自分は敵とすら思われていない。ルーティンワークの様に達成される作業の一つ位にしか思われていない。それが、堪らなく悔しかった。

 

「嘗めんなや!」

 

 背面のバーニアを吹かして、力で圧し潰そうとしたが、瞬間。世界がぐるりと回った。目の前に地面が迫りつつあった。

 

「終わりだ」

 

 何が起きたか分からないまま。ミツバは地面に激突した上、全身を刺し貫かれていた。程なくして、ドサリとスキュラの巨体が地上に落ちて、消えた。

 

「蚩尤。ここらで少し休憩を取ってから向かおう」

「分かった。休憩ポイントがあって助かった」

 

 蚩尤以外の2人も多少のケガはあったが、行動を阻害する程の物でも無かったのか。脅威を排除した後、彼女達は休憩を取っていた。

 

――

 

「まさか、ここまで一方的だとは……」

 

 ミツバちゃん達は龍華とも渡り合えたし、高ランク探索者と渡り合える物だと思っていたが、考えてみれば向こうは高ランク帯のモンスターと何度も渡り合っているのだから、経験的には圧倒的に上な訳で。

 

「お前が妨害を入れなかったのも悪いと思うが」

「あまりに戦いが激しすぎて、介入のタイミングが掴めなかった」

 

 クモ男の時からそうだったが、高ランク探索者の戦闘能力にも幅がある。

 蚩尤は特に高いのだろう。豹華程の異形でないにしても近しい物は感じた。まともに戦えば、私もあっと言う間にやられそうではあるが。

 

「バフォー。私は彼女達に勝てるだろうか?」

「私が直接出向く訳じゃないから何とも言えないが、お前にとってもコレは初陣であり慣熟作業になる」

 

遠見の映像では、休憩を終えた一同が快進撃を続けていた。

この様子だと止まることはないだろうし、29階に配置しているアラクネも撃破されるだろう。いよいよ、私も腹を決める時が来たようだ。

 

「途中で攻略失敗になってくれたら良いと思っていたけれど」

 

 そんなミスをする奴なら選抜されていない。むしろ、ここに来るまで一人でも落せたというのなら上々と言った具合だ。

 私も立ち上がる。背中についてある翼も自由に動かせるが、飛翔とかは難しそうなので、堅実に立ち回ることにする。床から幾つもの黒槍を出現させた。

 

「ふぅううう。私も緊張するな……」

「お前は探索者として中級かもしれんが、ボスモンスターとしては初心者なのだ。最初で最後になるかもしれんが。気楽に行け。倒されても、身柄を攫われるだけだ」

 

 死ぬわけでないにしても、皆と離れ離れになるのは嫌だ。……と言っても、塞翁が馬。何が良きに傾くかは分からない。分からないにしても。

 

「それでも。簡単に攫われてやるつもりはないねぇ。迎えに来て欲しい子がいるからね」

 

 師匠面の彼女面をした手前、ここであっさりやられるのは格好が悪すぎる。

 遠見の水晶では強化されたアラクネが再戦に臨んでいたが、対策の対策もされてボコられていた。私は深呼吸をした。初めてのダンジョンのボスとしての戦いは目の前まで迫っていた。

 

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