TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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23日目:第一陣 その3

 30階は今までのボスフロアと同じく一本道の果てに専用の部屋があるだけだ。扉が開く。蚩尤達が入って来た。私は彼女達を歓迎する。

 

「ようこそ。流石、高ランク探索者と言った所だね」

「今更、条件を加えられたくないから問うが、お前を撃破すれば良いんだな?」

「そうだ。特定の条件で倒さないと駄目とか、道中で該当するアイテムを拾っていなければ駄目。みたいなことは言わない。私を撃破すればいい」

 

 分かった。と、彼女は小さく返事をした。これ以上の会話は必要ないと判断したのか、3人が構えるより先に手を翳す。

 私のスキルを増幅したマナで編み上げた物が出現した。ネット上で玩具にされていた物がモンスターの様な物として立ちはだかる。と言う光景は、自身の傷痕を抉る様な物だが、使える物はなんでも使えのスタンスだ。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!」

 

 雄たけびを上げながら、刀を持った奴や両手に銃を持った奴らが大量に出現して、蚩尤達に向かって殺到する。

 だが、彼女達は特段変わったことをする訳でもない。後方支援がバフを掛けて、前衛のタンクが攻撃を捌いている間に蚩尤が次々とマナBB達を切り裂いて行く。撃破された存在達はフロア内の地面に溶けて、次のBBを生み出す糧となる。と言うのは植物人間達の応用だ。……一つ違うことがあるとすれば。

 

「逝ね」

 

 殺到していたマナBB達の体表がボゴボゴと泡立ち、瞬間。一気に爆ぜて、体内から出現した大量の黒槍が一斉に襲い掛かり、周囲のマナBB達に誘発して室内に爆発と黒槍が跳ね回る。

 

「(やったか?)」

 

 月並のフラグを思ってしまったが、やはり仕留めたかどうかは分からない。確認しに行って、ズバっとやられるのも嫌なのでひたすらにマナBBを編み上げていると、内側からバフォーの声が響いた。

 

『上だ』

 

 見上げる。六腕を用いて天井を這っている蚩尤と目が合った。直ぐに、彼女の足下から黒槍を生やしたが一瞬早く、彼女の方が降下して来た。

 空中なら軌道も変えられないだろうと出現させた黒槍を投擲しようとした所で、先に向うの方が剣を投擲して来た。迎え撃つ、なんて真似はしない。

 

「危な……!」

 

 そもそも、ミツバちゃんですら打ち合えない相手とまともにやり合えるとは思っていない。案の定と言わんばかりに投擲された剣は途中で軌道を変えて、私に襲い掛かって来た。マナBBを大量に出現させて肉盾の様にして防いだ。

 

「ンアーッ!!」

 

 肉盾の役目は果たしてくれた散り際に耳障りな断末魔を残す所だけは止めて欲しかった。何体ものマナBBを切り裂いた後、剣は彼女の手元に戻った。

 肉薄して来たが、マトモにぶつかり合って勝てる訳が無いので飛翔して逃れようとしたが、ガクンと跪いてしまった。見れば、タンク役に守られている支援役が使っていた杖がコチラに向けられていた。

 

「(加重か)」

 

 重力系とか言い方は色々とあるが動きを拘束する類の呪文であることには違いない。呪文を行使している物を排除しようとマナBB達をけしかけているのだが、タンク役が見事に防いでいた。

 

「終わりだ……!」

 

 蚩尤の全身にマナが迸る。六腕に加えて、マナで編んだ六腕が追加で出現した。加えて、今まで手にしていた6本の剣が分割されて、それぞれの腕に握られた。計12本の得物が一斉に襲い掛かって来た。

 

「(嘘だろ?)」

 

 数が多ければ強いという訳ではない。多ければ多い程、自分で振った武器がぶつかり合う物だと思っていたが、蚩尤が振るう太刀筋はどれ一つとして重なり合っていない。

 では、防御が疎かと言われたらそうでもなく、全く別の方向から跳んで来る黒槍も全て弾き落されている。飛翔して逃げられないのでジリジリと追い詰められている。大分不味い。

 

「(バフォー!! 助けてくれ!!!)」

 

 バフォーが悠々と撃退していたのを見て、私もできると思っていたが、そんな訳がない。相手は私よりも遥か高次元のプロフェッショナルな訳で。

 

「(さすがにハナからはキツかったか)」

「(キツいに決まっているだろう! 助けてくれ! このままじゃ、1日目で陥落って格好が付かなさすぎるよ!)」

 

 公平君に大見得切った挙句、1日で終わりなんて格好悪すぎる。……そもそも、この挑戦自体が無茶という他無かったのだが。

 

「(……ふむ。ここまでか)」

「(見捨てないで!!)」

「(お前が何処までやれるか見たかったが、プレイヤー交代だ。これから起ることの全てを残さず脳に刻みつけろ)」

 

 急に体の重さから解放された。まるで、いきなりゲームの画面に放り込まれたような乖離感を覚えた。少し離れた場所で、私と言うアバターが動いていた。

 

――

 

 空気が一変していた。眷属と呼ばれていた彼女の姿が変わっていく。頭から伸びていた角は肥大化し、両腕が黒い獣毛に覆われて行く。

 

「本体が入ったか」

「然様」

 

 蚩尤を捉える瞳孔が四角い物へと変貌していた。ヤギだ。ヤギの物へと変貌している。

 親指を立て、人差し指を後方支援メンバーに向けて『バン』と銃を撃つ様な仕草をした。瞬間、口から夥しい量の血を吐いて倒れた後、カランと。小さな銛が床に落ちた。

 

「(止まっていたらそうもなるか)」

 

 蚩尤とタンクは瞬時に理解した。支援役の心臓部分で直接、銛を出現させたのだ。床や壁面からしか生やせないと思っていた油断があった。

 支援役が撃破された瞬間、束縛から解き放たれた鈴子は跳躍した。床を蹴り上げ、体格の良いタンクの体に飛び乗った瞬間。彼女の足裏から生えた穂先が、彼の体内で幾重も枝分かれしながら伸縮して内部から食い破っていた。

 

「(一瞬で2人)」

 

 仲間が撃破されても蚩尤は冷静だった。手にした剣を投擲しながら肉薄する。1本弾かれれば、また次を投擲して回避と防御の動きをコントロールしつつ、最も得意な白兵戦に持ち込もうとするが、むしろ相手側から突っ込んで来た。

 

「やはり、高ランク探索者は良い。その攻略慣れしている顔に一泡吹かせてやりたいと思える!」

 

 鈴子も黒槍を投擲していた。剣と槍がぶつかり合って、あらぬ方向に飛んでいき、互いの手元に戻った。だが、距離は詰まった。

 六対の腕から振るわれる12の太刀筋が鈴子を八つ裂きにしようとするが、対する彼女も何かしらの槍術を用いて応戦していた。

 

「(全くわからん……)」

 

 バフォーが動かしてくれている間、本来の鈴子は様子を見ていた。

 達人の領域にある武術については一朝一夕で身に着く物ではない。ならば、自分が学ぶべきは戦い方だと思っていた。

 蚩尤が持つ技量は高ランク探索者として相応しい物があり、人間と言う土俵で戦って勝てる相手ではない。ならば、自分がダンジョンマスターの眷属として戦うべきなら、どうするか? と言う光景を、鈴子は観察している。

 

「ッシャ!」

 

 激しい攻防に動きがあった。12刀の一つが鈴子の腕を切り飛ばしていた。切り離された腕が蚩尤に向かって飛んでいく。

 

「っ」

 

 これに反応できたのは、彼女が探索者として超一流であったから。という他無い。切り離されたはずの腕は彼女の首を掴むには至らなかったが、肩を掴むと同時に掌から黒槍が打ち出された。

 

「ッハァ!」

 

 先にタンク役がやられた一部始終を見ていた故だろう。蚩尤は打ち込まれた側の肩を切り落としていた。マナで編まれた3本、アーティファクトの2本、実腕が1本落ちた。

 互いに隻腕になりながらも打ち合い続けている。だが、1本で槍を振るうのは無理があるのか、鈴子が圧されて行く。……訪れた結末は必然だった。

 

「終わりだ」

 

 この一撃は蚩尤が最大限の警戒を込めて放った物だった。先程の様に腕を飛ばしての不意打ちを避ける様に首を刎ねに来た。

 防ぐ手立てはなく、彼女の頭部は胴体と泣き別れを告げた。……かと思われた。残された胴体が動く。手にしていた黒槍でクルクルと飛んでいく自らの頭部を貫いて、蚩尤へと押し付けた。

 

「よくやった」

 

 至近距離で満面の笑みを浮かべた後、大口を開いた。喉頭からせり上がって来た黒槍が蚩尤の顔面を刺し貫いた。……程なくして、彼女は入口へと転送されることになる。ここに中国チームの攻略失敗が確定した。

 

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