TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
ダンジョンが出現して24日目。中国チームの攻略は失敗したが、高ランクダンジョン層の内容、またダンジョンマスターを名乗る鈴子の戦い方など。持ち帰って来た情報はあまりに大きかった。
各国共に得られた情報の分析に当たるということで、この日はダンジョンの攻略は行われていなかった。公平も同じ様に攻略の為に情報分析と言うことで、龍華達に呼び出されていのだが……。
「あの。お2人共。コレは一体?」
まず、呼び出された場所が厳かな高級料亭だったので疑問に思っていたが、理由が分かった。龍華、豹華、公平ともう1人。昨日、ダンジョン攻略に当たっていた中国チームのリーダー。蚩尤の姿があった。
「直接、話を聞くために決まっているじゃないですかぁ。蚩尤さんとはじっくりお話をしたかったんですよねぇ」
豹華は浮かれていたが、公平の中にはいくつもの疑問が浮かんでいた。
どうして、彼女の呼びかけに答えてくれたのか? 一体、呼び出して何を話すつもりなのだろうか? そもそも、この場に自分は必要なのか。
「米国や欧州の連中に取られる位なら、お前らに持たせた方がいい。と上が判断した。情報はまとめてある」
プリントアウトされた物を渡された。ダンジョン内部の子細な構造やモンスターの特徴などが細かにまとめられており、映像記録とは比べ物にならない位の密度で情報が詰め込まれていた。
「すごいですね。肉質や挙動なんて物までまとめられて……って、俺も見て良いんですか?」
「攻略メンバーなら問題ない。だが、こんな子供を用いるのは正気とは思えない。日本出身の高ランク探索者ならもっといただろう」
「そうね。強いだけって奴なら他にもいる。でも、あのダンジョン。いや、ダンジョンマスターに対しては、この子以外はあり得ない」
決して忖度でも感傷でもない。根拠があってパーティに組み込まれているのだと、蚩尤は直ぐに理解した。
「私も自由の身ならば特訓でも付けてやれたが」
「何かあるんですか?」
「攻略には失敗したが、高ランクダンジョンの物品は幾つも持ち帰っているからな。分け前の相談に加えて、上への報告書も山積みだ。この会合の時間だって捻り出して来た」
高ランク探索者は多忙の身であるということを改めて実感した。自分に付き合ってくれている2人だって、本来は別にやるべきことがあるだろうに。
料理が運ばれて来たので口に運ぶ。緊張で味が分からない。なんてことが無い位に美味しい。恐らく、これ以降の人生で食べる機会が訪れないであろう美味に舌鼓を打っていると、幾らか緊張も和らぐような気がした。
「蚩尤さぁん。例のダンジョン、他のチームに攻略されると思いますかぁ?」
「どのチームも攻略できる可能性はある。あのダンジョンは未知数の部分が多い上、成長するという要素もある。最後までどうなるかは分からない」
あのダンジョンの最たる特徴は成長する。と言う点にある。
ダンジョンの階層は元より、中にいるモンスターにも強化が入ったりと様々な変化があるのは公平も目の当たりにして来たことだ。
「(と言うことはつまり)」
「起きているかもね」
龍華がポツリと呟いた。忘れていた。あのダンジョンは高ランク探索者を撃破するたびに変化が起きて来たじゃないか。今回は4人も取り込んだのだ。一体、どんな変化が起きるというのか。
――
「そうだった。忘れていた」
このダンジョンは高ランク探索者を撃破するたびに変化が起きて来た訳だが。今回は4人も一斉に撃破したのだ。何も無い訳がなかった。
「ンァアアアアアッ!!」
ダンジョン内に汚い咆哮が響き渡る。先日の戦いで作り出したマナBB達が好き勝手に跋扈していた。今、フロア内のモンスターは過密状態にある位に溢れ返っていた。
「ダンジョンはこれ以上延伸しないのか。だから、密度で攻めて来た訳か」
バフォーが納得しているが、私は自分の黒歴史が動き回っているので不快の極にある。と言っても、コイツらが戦力的に頼りになる気はしない。ダンジョンの賑やかし要員位にしかならない。気にするとしたら、もっと別の方だ。
「なぁ、バフォー。鈴子さん。ウチらの体」
「なんか光っていませんか?」
ミツバちゃんとスキュさんの2人を見れば身体からマナが迸っていた。正に彼女達が待望していた変化の兆しかもしれない。
「2人とも。何か、普段と違う感覚は?」
「ウチにはあるで。でも、多分。この周りにいる奴らを使う必要がある様な気がする」
「私もそんな気がします」
「奇遇だね。私もそんな気がする」
恐らく、ダンジョン内で励起しているマナを私のスキルでつなぎ合わせたら、ミツバちゃん達にも強化できる気がする。
今日は攻略される兆しも無いので、2人に加えてバフォーと一緒に訓練することにした。……彼女達と同じ目線で何かをする。と言うのは、コレが初めてかもしれない。
「にしても。こんな長い付き合いになるとは思わんかったわ。ダンジョンなんて出現してから1週間以上存在している所なんて殆どないしなぁ」
「だよねぇ。まさか、私もこんなことになるとは思わなかった」
最初は人生をやり直す為だった。藁にも縋る思いで掴んだ物を手放したくなくて、違法なことをやっていたというのに。いつの間にか、現役時代よりも濃い人間関係ができていた。
「このまま30日過ぎたら呪いが固定化されて、皆からも忘れられるんですか?」
「そうだ。と言いたいが、今のお前は眷属となっているからな。恐らく、モンスターとなってダンジョン側の住民になるか。あるいは呪いが優先されるか。コレはもう私にも判断できん」
思ったよりも私はややこしい立場にいるらしい。
ただ、モンスターになったとしても知り合いはいるし、誰からも忘れられたとしても……いや、やっぱり。それは嫌だなぁ。
「アレだけ望んでいたハズなのにね。どうして、今更になって惜しく感じてしまっているんだろう?」
「始まりが何処にあろうと。そこから積み重ねて来た物があるからだ。私も最初はイカれた女だと思っていたが、今となってはこうして同じ場所にいるのだから、何が起きるか分かった物じゃない」
最初はダンジョンがどーだとか固定観念を押し付けて来る奴だったが、やっぱりコイツは悪魔とは思えない位に面倒見も性根も良くて、でも探索者に対する無慈悲な振る舞いはやはり支配者然としていた。
「せやなぁ。ウチも仲間を妨害する奴なんて何考えとるんやろかと思っていたけれど、付き合ってみたら案外楽しいし。また、公平君や皆とも話したいなぁ」
「後はハピやんも加えてね。いや、今度会うときは戦うときですね」
ダンジョンに入った時は碌でもないモンスターしかいないと思っていたけれど、今となってはこうして談笑できる位の仲にはなっている。きっと、これは自分が探索者であった時には起こりえない会合だ。
「そうだな。皆とまた会えたら良いけれど」
ふと、自分の唇を指でなぞってみた。思い出すのはいつぞやの口移しと……。いやいや、相手は年下の同性で。今の自分は体が異性の物になっているだけなんだ。倫理的にも常識的にも許される訳がない。……と、ふと思った。
「なぁ、バフォー。30日前にダンジョンが攻略されたら、私の呪いも解けるんだよね?」
「そうだな。元に戻るとは思うが」
「思うって。なんだ?」
「ここに来るまで色々とあり過ぎて、元の状態に戻るか分からんのだ。ここら辺は未知数だ」
確かに色々とあり過ぎて、私も自分のことがどうなっているかなんてもう把握し難いのだが、それでも、攻略されたら元の姿に戻って年下の男子と……。
「あまり考えやんとこう。変なことを考えてもしゃーない」
「そうだな。じゃあ、ミツバちゃん。スキュさん。次までに変化を物にできる様にして行こう。時間は短いんだから」
談笑も良いし、今までの思い出に花を咲かせるのも悪くはないけれど、まずは目の前の課題からだ。私達はしばしば特訓に明け暮れた。