TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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26日目:第三陣 その2

 ミツバは悩んでいた。遠見の水晶にはアラクネと化したクモ男が数の暴力で3度目の敗北を喫していたが、これは決して他人事ではない。

 

「(無理やろ……)」

 

 群体系のハズなのに、どう見ても1体当りが高ランク探索者としての力を有している。数の暴力で摺り潰されるのは目に見えていた。

 思えば、この26日間。ミツバは碌に探索者を撃破した覚えが無かった。今回もまた噛ませ犬となってしまうのか。

 

「(普通に考えて、このまま挑んだら数の暴力で潰されて終わりや)」

 

 前回のアメリカチーム4人にも負けているのだ。12倍もの人数で来られたらどうなるかなんて想像に難くない。故に、彼女は切り替えた。

 

「(ウチが何とかしようとはもう思わんとこう。スキュさんや皆にバトンを渡すんや。今更、形態の変化とかは期待でけへん)」

 

 ポゥとフロア内を揺蕩っているマナが光る。アメリカチームを撃破したので、ダンジョン内のマナは更に濃密になっている。コレを使わない手はない。

 足元に動くめくモンスター達の体内にあるマナの濃度を上げて、自身にも同じ処置を施していく。ミツバが取った方法は――。

 

――

 

 この英国人の高ランク探索者。名を『エムリス』と言う。

 彼が従えている12人の探索者達はいずれも高ランク帯の者達ではあるが、ロシアグループのリーダー『アレクセイ』には気になっていることがあった。

 

「コイツらはスキルを使えないのか?」

「テイムする課程でオミットされちゃっているんだよね。それに、君達のスキルと同期する必要もあるからね」

 

 アレクセイ達のパワーアーマーは頻りに周囲のマナを取り込んでは消費しているが、彼らもコレだけ生成と消費がされているのを見たことがない。

 

「ある意味。このダンジョンだからこそできる真似だね。普通の高ランクダンジョンでは、君達のマナは直ぐに尽きてしまうことだろうよ」

 

 奇妙な話だが、難易度に比例して自分達も有利になっている部分はあるらしい。25階に差し掛かろうとしていたが、快進撃は止まることが無かった。

 大量のアイテムにアーティファクト。同ランク帯のダンジョンと比べて、明らかにドロップ率とアイテムの配置率が高い。

 

「(明らかに同ランク帯のダンジョンと比べて資源が豊富だ。こんな物が自由に出現させられるようになれれば……)」

 

 エムリスの眷属達がモンスターを蹴散らし、25階へと進む。スフロアを象徴する1本道と巨大な門。

 眷属達が先んじてフロアに侵入する。このフロアには巨大な機体がボスモンスターとして立ちはだかっている。と言うことは、知っていたが。

 

「よぅ、来たな。先に謝っとくわ」

「おっと」

 

 バタン。と、エムリス達の背後で門が閉められた。フロア内にいたマナBBを含むモンスター達の全身にはマナが鳴動している。

 瞬間。フロアを青い閃光が包む。遅れて衝撃、耳を劈く轟音。モンスター達が一斉に自爆して、畳みかける様にして最後に強大な一撃が吹き抜けた。フロア内が一瞬でキルゾーンへと変貌していた。

 床を捲り、壁を抉り、天井を掻き毟る暴虐に攪拌されたフロア内で瓦礫を押しのけて立ち上がる人影があった。

 

「初手自爆とはね。カミカゼって奴だっけ?」

「点呼!」

 

 ケラケラと笑うエムリスを傍目にアレクシスが呼びかけると、2つの返事があった。互いいに装備の破損状況をチェックし合う中、別所の瓦礫から眷属達が這い出てきたが。

 

「『鎧』と『兜』がやられたようだ」

 

 先の一撃で眷属の半数が欠けていた。

 だが、彼らの犠牲は決して無駄ではなかったらしく、パワーアーマーの損傷は軽微でダメージも殆ど入っていなかった。

 

「全滅を避けただけでも良しとしよう」

 

 暫く、周囲を探索してモンスターの存在がないことを確認すると。一同は腰を下ろして、マナや気力を回復させる為に休憩を取っていた。

 

~~

 

「ミツバちゃんも思い切ったことをするねぇ」

「正直に言うと、ダンジョンのボスとしては下の下だがな……」

 

 バフォーが渋い顔をしていた。勝負が始まった瞬間、自爆して相手を全滅させるボスとかクソゲー過ぎるからね。やり方にあまりに可愛げがない。

 

『_―_―ろ』

「……楽しんでいる?」

「待て。創造主様の雰囲気が分かるのか?」

 

 なんとなく言ってみたが、バフォーの驚きぶりを見るに正解っぽい。

 何を考えているか分からない存在なのに、何故か雰囲気的な物がぼんやりと掴めるのは、ミツバちゃんが大量にキルを取ったからだろうか。

 

「このままだと私はどうなってしまうんだろう?」

「私にも分からん。何もかもが前代未聞だからな」

 

 私が前人未到を成し遂げているというのは、ちょっとだけ感慨深いが、人間でなくなるのは勘弁して貰いたい。……と言う気持ちもあったのだが。

 

「正直に言うとだね。公平君に迎えに来て欲しいという気持ちもあるけど、このまま眷属としてダンジョン側として何処まで行けるかを確かめてみたいという気持ちもある」

「その時は先輩としてしごいてやる」

「ご指導、ご鞭撻をお願いするよ」

 

 今はどっちの未来でも楽しそうだ。きっと、こんなことになっても私はダンジョンが好きなんだろう。私が本当に捨てたかったのは生計だとか風評だとか、探索者として余計な物だったのかもしれない。

 遠見の水晶を見る。態勢を立て直した連中は再び分身のスキルを発動させて、30人近くの集団でハック&スラッシュを繰り返して快進撃を続けている。

 

「(後はスキュさんだけか)」

 

 彼を突破したら、もう私達のフロアに突っ込んで来る訳だが。あの集団を相手にどれだけ削れるだろうか?

……さすがに二桁を相手にすることだけは避けたいと思いつつ。遠見の水晶に視線を戻そうとしたが、バフォーがキョロキョロとしていた。

 

「どうしたんだい?」

「いや。その、創造主様が何処かに行かれた!」

 

 

「(はぁ……。今日は最悪です)」

 

 創造主と会合してしまった上、元々の属性が近かったので受けた影響も大きく。今のスキュさんは絶不調だった。

 だからと言って、探索者が攻略を止めてくれるわけがない。今の常態でもやれることをやるべく、マナBBなどの手勢を出現させていた時のことである。

 

『―-せ―』

「あ」

『やらせろ』

 

 ハッキリと聞き取れてしまった。つまり、聞き取れる程親和性が高まっている状態になってしまったということであり、スキュさんの意識は発狂と言う段階を踏むこともなく、ブラックアウトした。

 

――-

 

「っっっっ!!」

 

 29階のボスフロアに続く門の前に来た瞬間。エムリス達に怖気が走った。アレクセイ達のパワーアーマーからは仕切り無しに警告音が鳴っていた。

 

「おい、悪い報せだ。この扉の向こうにいるのは『異界レベル』の相手だ」

「すごいなぁ。まさか、私が『異界レベル』に挑戦する日がやって来るなんて。コレを攻略した暁には女王陛下もお褒めしてくださることは間違いない」

 

 『異界』。探索者の多くは創作か与太話だと思っているが、高ランク探索者達は『在る』ことを知っている。決しておとぎ話の類でないことを知っている。

 人類の次なるステップに進むために挑まねばならない試練。恐怖もあるが、自分達が歴史の開拓者になるかもしれない興奮と使命感が恐怖を塗りつぶし、彼らを進ませた。

 

『――_|―|』

 

 知覚できない言語が響く。フロア内のマナBB達の体を突き破り触手が生え、冒涜的な造詣の怪物が殺到する。

 部屋の奥。共有していた情報で見た『唄う者』は、知覚した者の正気を弄ぶような姿へ変貌していた。

 

「うわぁ。コレはまいったね。皆、フィルタリングは?」

「掛けている。それでも、多分。30分は持たない」

 

 パワーアーマーの機能の一つ。有害情報のフィルタリングを用いていたので、アレクセイ達は正気を保っていたが、長くは持たないと踏んでいた。

 

「じゃあ、怪物退治と行こうじゃないか!」

 

 いかなる加護が働いているのか。エムリスは残された眷属達を率いて、この地獄の様な空間で身を躍らせた。正に暗黒を切り開く英雄たちによる神話めいた戦いが繰り広げられようとしていた。

 

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