TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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26日目:第三陣 その4

 このダンジョンはどれだけの探索者を呑み込んで来ただろうか。さながら、ガチョウのフォアグラめいて肥えていた。

 有象無象の探索者のみならず、各国を代表する高ランク探索者達すらも取り入れたのだから、内包されたマナは史上類を見ない程の濃度になっている。

 故に、ダンジョンの主として君臨している彼女の力も比例するのは道理だった。ただ、その飛躍ぶりは人間の尺度で抑えられる物ではなかった。

 

「あ」

 

 上げた断末魔は呆気ない物だった。パワーアーマーがまるで紙細工の様に引き裂かれ、上体がボトリと落ちた。アレクセイが駆け寄り、抱え上げるがスゥっとマナになって消えた。

 

「君達は攻略。私はレベルアップと言う具合か」

「いや。異界クラスがこれ程とはね」

 

 エムリスの頬に冷や汗が伝う。秘密兵器のアーティファクトは使えず、仲間の2人は一瞬で葬られ、あっと言う間に追い込まれた。

 国から選ばれる程なのだから、彼らは幾つもの高ランクダンジョンを攻略して来た。例え、未知の相手でも今までの経験から勝利の糸口を見出して来たが、目の前の怪物は次元が違う。

 

「じゃあね」

 

 フロア内の天井、壁、床から黒槍が這い上がって来た。今までとは比べ物にならない程の密度で展開され、空間内を縦横無人に暴れ狂う。

 黒槍同士がぶつかり合って火花を散らし、破片を撒き散らし、あらぬ方向に飛んでいくが、もはや狙いを付ける必要も無いのだろう。

 

「おい、英雄(ヒーロー)!!」

 

 アレクセイが黒槍の爆撃を回避しながら、エムリスの展開している防御壁の中に入った。内側に潜り込んで見れば、あちこちに亀裂が走っているのが見て取れた。

 

「いや。実質、詰みだね。できれば、少しでも多くの情報を収集して次につなげようと思っているんだけれど」

「この期に及んで逃げ腰になってんじゃねぇぞ」

 

 アレクセイが取り出したのは倒された2人が装着していたパワーアーマーに取り付けられていた動力源ユニットだった。

 現代技術とアーティファクトをミキシングした代物を動かす為にあるので、高濃度のマナに満ちている。

 

「コレをどうするつもりだい!」

「こうすんだよ!!」

 

 エムリスの大剣に取り付けられていた水晶をもぎ取り、代りにユニットを差し込んだ。規格外の物を取り付けられてエラーを起こしているのか、カタカタと震え、刀身が蒼と紅に輝いている。

 

「アハハハ! 無茶するね! でも、残念! 後、1個分足りな……」

「ほらよ」

 

 一体、何処から抜き出したのか。何も言わずに受け取り、水晶があった場所に差し込んだ。刀身から溢れた紅光の奔流は周囲の黒槍を焼き払っていた。

 相手の動きも早かった。直ぐに空間内を跋扈する黒槍を手元に収束させて、投擲して来た。が、盾になる様に立ち塞がったアレクセイと彼の分身スキルによって防がれていた。

 

「うぉおおおお!!」

 

 力の奔流に耐え切れず、エムリスの手に握られた大剣のいたる所に亀裂が走り、欠けていくが、構わず振り抜いた。

 

「嘘だろう?」

 

 先の階層での一撃と違い、紅の奔流は部屋内でうねり狂い、フロア内を舐め尽くしていた。それは敵味方関係なく、全てを呑み込んでいた。

 

「(長期戦だと絶対に無理だから、本当に出た所勝負になるけれど)」

「……ッチ」

 

 奇しくも。それは彼らが途中の階層でやられた初手自爆と殆ど変わりない戦法だった。……紅光の暴風が収まり、エムリスが手にしていた大剣も砕け散った。直ぐに、彼は周囲に探索呪文を走らせた。

 

「(効いたか)」

 

 周囲に反応はない。自分達は勝利したのかと膝を着いた時、彼の足下にカランと黒槍の穂先が転がって来た。生存本能が全力で警鐘を鳴らしていた。

 

「危なかった」

 

 1人でに穂先が跳び上がり、エムリスの心臓は貫かれた。既にマナも使い果たして、立ち上がる気力もない。

 

「間違いない。君達が一番強かったよ」

 

 掛けられた言葉は紛うことなき称賛だった。異界相手に食らいつけた嬉しさ……よりも、後一歩。本当に僅かに足りなかった実力を前に、飄々としていた男は悔しさを滲ませながら、入口へと戻された。

 

――

 

 イギリス・ロシアチームを撃退した夜のことだ。スキュさんはグッタリして動かないし、他のモンスター達も銘々に過ごしている中。私はミツバちゃんと過ごしていた。

 

「いよいよ次は公平君達のチームやけど。もう、相手にならんのんちゃう?」

「逆だよ。こうなったら、公平君達しか私達に勝てる相手はいないのさ」

 

 彼のスキルは、名を体現するが如き『公平』化と言う物だ。このダンジョンに漲る力があればあるほど、彼らもまた強くなる訳だ。

 

「暫く、会っていないから忘れていたけれど、そう言えばそんなスキル持っとったなぁ。……あ。せやから、最後に回しとったん?」

 

 どういう取り決めがあったかは分からないが、日本組を最後に残したのはそう言うことかもしれない。現に、もしもコレで最終チームが他所の国であったら、パーフェクトゲームで終わっていただろう。

 次の防衛は30日目か。あるいはもっと早くか。前回は第2波から僅か1日で攻め込んで来たが、これだけの脅威を見せればさすがに準備に時間を掛けるだろう。一体、これ以上何を詰めて来るんだろうか。

 

「そう言えば、バフォーさんは?」

「創造主様の見送りと言うか。私の処遇について色々と話し合っているらしい。どうやら、今回の防衛模様が甚く気に入った様で」

 

 実際、彼(彼女?)が戯れなければ、私は撃破されていた可能性もあった。

 探索者としての生き方は好きだが社会からは隔離された生き方として、こう言うのも悪くないんじゃないかと思っている。

 

「それでええんか? 羽生さんや公平君達と別れても大丈夫なん?」

「どうだろうね。少し前までは、私のことを憶えてくれている人達が手を引きに来てくれて、ハッピーエンドみたいなことも考えていたけれど。こっちの生活も悪くないと思っているんだ」

 

 元々は、皆から忘れられる為に始めたことだ。……だったはずだが、どうしてこんなにも濃い人達と知り合うことになってしまったんだろうか。

 

「そうなんや。でも、ウチは鈴子さんに来てくれた方が嬉しいわ。どっちにおっても。1人やない。それだけは覚えておいて欲しいんよ」

 

 ミツバちゃんが私に体重を預けて来る。機械部分がゴツゴツしていて少し痛いけれど、彼女の優しさと労りの前では大したことではない。

 人間に戻りたいから手を抜く訳でもなく、ダンジョンに固執しているから何としてでも勝つでもなく。どちらにも居場所を見つけられるだろうから、私は私として次の防衛にも全力を尽くしたい。

 

「ありがとう。ミツバちゃん。このダンジョンで君と出会えて、本当に良かった」

「……なんや告白みたいやな。これは公平君には渡されへんなぁ」

 

 と。冗談を言い合いつつ、カラカラと笑っていた。

 

――

 

 公平宅で龍華達は息を飲んでいた。今回のLIVE模様はもはや高ランクダンジョンのレベルで収まる物ではなかったからだ。さながら、神話の一ページを見せられているかのようだった。

 

「一応聞いておくんですけれど、龍華さん達も見たことがない感じで?」

「無いわ。まさか、生きている間に『異界』を見ることになるなんて」

 

 高ランクダンジョンの上に位置する物があるとは聞いていたが、まさか本当に存在しているとは思っていなかった。コレには豹華も言葉を失っていた。

 

「コレ。入り口で追い返されたりしないですよね?」

「その為の公平君よ。ここに至るまで、高ランクダンジョンを含めて促成で経験は積ませた。だから、しっかりと働いて貰う」

 

 普段は指導者として柔らかい言葉遣いが印象的だが、今だけは高ランク探索者としての言葉だった。契約を交わし、金銭を受け取っている以上。公平も友人間隔で頷く気はなかった。

 

「分かりました。やります」

「よし。それじゃあ、突入は30日目。それまで他のチームに当たるわ。使える物。全部使うからね」

 

 この場に土場がいないことだけが気になるが、明日からはダンジョン攻略以外にも忙しくなりそうだ。彼女達が使命感を帯びる一方、彼にも揺るがぬ思いがあった。

 

「(絶対に! 迎えに行く!!)」

 

 十代の少年にしてはあまりに意思が固かった。だからこそ、コレだけ周りに人が集まったのかもしれない。

 今から、外出する訳にもいかないので3人は動画の分析に時間を当てることにした。残す所は日本チームのみである。

 

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