TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
時は少し前後する。羽生達はとある件に追われていた。例のクソダンジョンだ。
探索者と言う職業が広く世に知れ渡って来たとしても、未だに偏見は根強い。社会に適応できなかった落伍者が向かう先だと。
「そう言ったイメージを払拭する為に、有名配信者を含めて手を打って来たが、ここに来て例のダンジョンだ」
羽生は更にえら~い人から文句を言われていた。折角、我々が勇壮で心を踊る様なダンジョン探索と言うイメージを付けて来たのに、初心者にトラウマを植え付けるようなクソダンジョンを放置しているのかと。
「ですが、初心者用ダンジョンの数が足りていないのは事実です。攻略ができなくても、挑戦ができる権利だけでも実感させる場所が無いのは如何かと」
「だとしても汚過ぎる。本当に汚い」
ピッと。おえらいさんは動画を再生していた。一瞬で消された動画だが、何者かが録画した物をテロ的に投稿していたらしい。
モンスター同士の交尾やら糞便散らばる内装。降り注ぐ糞便。エレクトリカルなパレードをBGMにフロアの女性型と思しきボスは股を開く。有体に言えば、汚過ぎた。
「ですが、こういった過酷な環境を覚えるというのもまたダンジョン履修の一つで」
「過酷さのベクトルが特定方向過ぎるだろう! これ以上、このダンジョンの存在を認める訳にはいかない。探索者の風評被害に繋がるからな……」
言いたいことは分かるし、割と筋も通っているのだが羽生としては認める訳にはいかなかった。
「待って下さい。本当にそれで良いんですか?」
「どういうことだ?」
「このダンジョンの攻略に失敗した少年少女は沢山います。彼らに再挑戦の機会を与えなくて良いんですか?」
ダンジョンの再挑戦は順番さえ守れば許されている。いや、あんなダンジョンに再挑戦しようとする奴は少ないが、それでもいることはいる。
「それは見守ってやりたいところだが」
「でしょう? だからね。アレは初心者用ダンジョンとしては高難易度目と言うことで売りにしていきたいんです。そこで自信を付けた探索者はきっと大きく羽ばたいていくことですから!」
あまりの熱弁ぶりにおえらいさんだけじゃなくて、同職員達も引いていた。
彼女の熱意に圧されたのか『検討しておこう』と言う言質を引き出したのは良かったが。
「羽生所長。あのダンジョンに一体何の思い入れが?」
「あそこがあると、初心者用ダンジョンの手続きが楽になるのよね。リストとか情報作るのが面倒臭いのよ」
同職員達は何も言わなかった。彼らも面倒臭い仕事は嫌だし、初心者用ダンジョンに挑もうとする奴らの相手はあんまりしたくなかった。
「そうですよね。色々と言われても、やっぱりあのダンジョンはいつまでもあって欲しいですよね。面倒臭い初心者を追い返すダンジョンとして」
探索者は講習を受けて装備さえ揃えれば、学生の内からでも挑戦ができるのだが、数がいれば質もばらつく。
人格も実力も揃っている者もいれば、どちらも欠如した社会不適合者としか言えない人間もいる。そういう奴の相手はダンジョン省としてもやりたくない。そういった意味では、クソダンジョンは便利だった。
「(体裁は守れて、人のやる気を挫くことはできて、それでいてモンスターなどのランクからして高ランク帯の者達が入り難い。……だけど)」
羽生にはずっと引っ掛かっていることがあった。今まで、彼女はあんなダンジョンを見たことが無い。
ダンジョン省の長として多少変わり種の物は見て来た。いずれもランクの査定に直結できるようなモンスター、罠、ギミックがあったが、こんなクソ塗れの物は見たことが無い。何故なら、攻略の難易度に貢献し辛いからだ。
「(不快にはなるけど難しくなる訳じゃない。と言うか、こんな光景を繰り広げられる奴は1人しか知らない)」
羽生は立場上、様々な探索者達と繋がりを持っている。
その中で1人、中級レベルでありながら異常に有名になってしまい、すっかり雲隠れしてしまった人間がいる。
彼のことを憶えていたのは気の毒な経緯以外にも、スキルが呪われているレベルで不遇だったこともあったからだ。羽生は、スマホに件の探索者のプロフィールを表示させた。
「鈴木……」
例のダンジョンが出現してから、何度か彼に当たってみたが、連絡が取れない。もしやと言う疑念は強まるばかりだった。
「(今日は例のダンジョンの攻略者が軽くあしらわれていたし、休憩を入れるなら。今か?)」
羽生は決意した。鈴木の家に凸すると。その理由について、職員に尋ねられた時。彼女はこう答えた。
「ダンジョンをウンコ塗れにするなんて発想。人間以外に思いつく訳がないだろう。品行方正なダンジョン様がそんなことをするか?」
「なんて説得力なんだ……」
そもそも、ダンジョンは攻略されたがっているので難しくはするが、いわゆるやり応えの範疇にある物で、全力で拒否するクソ塗れは『らしからぬ』特徴でもあった。故に、人的関与があるとして羽生は該当者の住処に向かった。
――
部屋にゲロを吐かれたので必死に掃除をして水を飲ませた。仕方ないので、激臭衣服一式は部屋の隅に置いといた。して、ダンジョン省の長が何の用だろうか?
「確認しておくが、お前は鈴木で良いのか?」
「どうせ。俺が鈴子って言おうと信じねぇだろ」
羽生ならTSの事例も知っているだろうし、俺ならばやりかねない。と言う経緯も知っているから騙すのは無しに下。話もややこしくなるしな。
「そうか。では、この数日間。何故、私からの連絡に反応しなかった?」
「スマホ無くしていたんだ。さっき、見つかったんだよ」
「そうか。じゃあ、改めて用件を話すが。お前は数日前に出現した初心者用ダンジョンを知っているか?」
「あぁ、聞いているよ。良かったじゃないか。初心者用ダンジョンなんて幾つあっても足りないんだから」
さっきの文面を見る限り、俺に当たりを付けている臭い。だが、その理由までは思い浮かばないハズだ。
「そのダンジョンだが、どうにも人の手が加わっている様でな。考えて見ろ。どうして、ダンジョン内で著作物のBGMが流れる? それに、クソ塗れなんてタイプは今までのどのダンジョンにも当てはまらない」
配信停止を狙って流したBGMが良くなかったのか。言われてみれば、ダンジョン内で著作物が流れる。と言うのは、人の手が加わらないと発生する訳無いことで。
「じゃあ、新発見のダンジョンだな。事例の見識を求めるなら、俺よりもっと相応しい探索者がいるだろう?」
「世界中の何処を探してもダンジョン+ウンコに見識を持つのは貴様以外、おらんわ!! 『ウンコBB』テロをした貴様しかな!!」
ぐっ。俺が最も消したい過去をコイツは! ある意味、俺に寄せられた信頼ととってもいいかもしれないが。
「知っているお前なら分かるだろう! 俺の顔写真が切り抜かれ、加工され、ウンコBB素材としてBB劇場に使われた苦しみが!! 俺は生まれ変わったんだ! もう、関わらないでくれ! 帰れ!」
とりあえずヒステリーを起こせば帰ってくれるかと思ったが、コイツは中々に帰ろうとしない。俺はTSの為にダンジョンを守り抜かねばならないのだ。
「待った! 私は、お前の蛮行を止めたいのではない。むしろ、協力したいと思っている位なんだ」
「バカなことを言うな!」
ガラーっと押し入れから半裸のバフォーが飛び出して来た。これには羽生も開いた口が塞がらないようだった。俺としては顔を覆う外ないが、彼には言いたいことが沢山あったらしい。
「貴様が、このゲロカスと知り合いであるならいち早く凶行を止めるべきだとは思わんのか!? 仮にもダンジョン省? とやらに勤めている物が、自身の置かれている興業を振興せずしてどうする! 自覚が足りんぞ!!」
「な、なんだコイツは!?」
「バフォメットっぽいから、勝手にバフォーって呼んでいる。例の初心者用ダンジョンを作った奴で、俺に呪いをかけた奴だ」
もう、コイツの存在もバレた以上。隠し立てすることができないと判断して、一切をぶちまけた。
TSしたこと、ダンジョンを30日以内に攻略できなければ呪いが定着化して、皆から忘れられること。故に、俺が守り抜くために妨害していること。
「そこで、俺は連中の手によって育て上げられたスキルを使うことにした。これは、俺を玩具にした奴らの復讐であり、生まれ変わる為の試練なんだ」
「その復讐の為にすることが少年少女をウンコ塗れにすることか? 呪われるべくして、呪われたといった感じだな!」
バフォーが嬉々として糾弾しているが、コイツは悪魔を止めた方が良い気がする。一方、羽生は複雑そうな顔をしていた。
「デジタルタトゥーなんて言葉もあるが、一度埋め込まれた記憶はそう言ったファンタジーにでも頼らん限りどうにもならんからな。憐れだとは思うが」
「……ちなみに協力しようとする意図は?」
「初心者用ダンジョン。数足りない。足切りダンジョン。欲しい。OK?」
「なんて分かりやすい説明なんだ。手を組もう」
正に利害の一致と言う奴だ。本当に攻略されなければならない高難易度ダンジョンだったら困るだろうが、日夜消費されまくっている初心者用ダンジョンならば問題ないだろう。
お役所仕事的に宛がう仕事が無い方が問題だろうし、そういった点では俺達は良きパートナーになれるはずだ。
「嘆かわしい。これがダンジョンを攻略すべき人間達の姿か!」
「うるせーぞ! 悪魔なら『攻略できないで悔しいかァ~?』位は言えよ!」
「努力している奴をバカにする権利は誰にも無い!」
「本当にコイツ、悪魔か?」
羽生も疑っている様だった。互いの利害が一致したとはいえ、手を組んでいることは不味いとして。スマホではなくアーティファクトで通信を取るということで、ダンジョンさんの貝を模した通信機を受け取った。
「30日間。シッカリと守れよ」
「おぅ」
「なんたる欺瞞だ」
呆れるバフォーを傍目に、心身ともにリフレッシュした俺は押し入れの中に入り、再び例のダンジョンへと帰った。その日、1日は穏やかな物だった。