TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する 作:ゼフィガルド
「かくして。ダンジョンを管理するお役所からも正式に妨害をしてくれと言われた俺は、忌憚なく初心者共を追い出せる訳だが」
「バフォーさん。この国、大丈夫なん?」
「いつだって、若者を搾取するのは腐った機構なんだ」
メカムスメちゃんが極普通の心配をしてバフォーが嘆いているが、いつだって現実は理想通りとはいかないのだ。俺だって胸が苦しい。
「誰もがね。自由に活躍できる社会になれたら良いけれど、パイは決まっているんだ。悔しいけど、仕方が無いんだ」
「だとしても、お前に左右する権限があるとは思えんのだが……」
「この程度でね。諦める夢なんて、夢じゃねぇんだよ!」
本当になりたいと思っているなら、俺の妨害程度は突破してくれないと困る。
実際、俺は初心者用ダンジョンの域を出ない程度には調整をしているんだし、この間の少年みたいに対策の立てようはあるんだから、それを怠って文句を言うのは筋違いだ。
「じゃあ、お姉さん。2階も同じ様に汚物塗れにするん?」
「メカムスメちゃんがいなかったら、同じ様にするんだけれど」
「あ、遠慮してくれるんや」
俺は俺に優しくしてくれた奴に嫌な思いをさせたくないからな。かと言って、普通のダンジョン然としたままでは瞬く間に攻略されてしまうだろう。
ここで改めて、2階にいる奴らを整理してみよう。1体はメカムスメちゃん。ステータス的にあまり強くないし、特徴らしい特徴は手足以外が固い位か。
「いうて攻撃力も高くないよ」
「なんかこう。レーザーブレード出したりマシンガン撃ったりとかは」
「それをやると高ランクモンスターになるんで……」
「高ランク帯の端材でダンジョンを作ろうと苦心するバフォーに涙を禁じ得ない」
流行りのSDナンチャラとか言う奴だろうか。他のモンスターはハーピーとスキュラの余ったのだが。
「ヴァーカ!」
「ハーピィに旨味の全てを吸い取られたダシガラモンスターの存在があまりに不憫で、同情すら覚える」
「トモダチ!」
主従関係を叩きこんだおかげで懐く様にはなったが嬉しくはない。コイツ声は異様に甲高く、耳がキンキンするからだ。ステータス的にも『つつく』か『蹴る』か『殴る』しかない。後は鳴き声でフロアのモンスターを起こす位か。
「メカムスメちゃん。コイツはオウムみたいに言葉を覚えるのか?」
「一応は覚えるみたいやで。せやけど、覚えたことしか言われへんから探索者がどこにおるか。みたいなのは無理やで」
うーむ。これが管理されていないダンジョンとかなら探索者の鳴き真似をさせて罠的に使う。と言うことができたが、厳重な安全管理が憎い。とは言え、何かしらに使えそうな要素ではある。最後の1体はスキュさんだが。
「いあいあ!」
「クトゥルフ系を呼び出したりとかは……」
「それをやったら。このダンジョンが高ランクじゃなくて異界レベルになるから、伝説級の探索者が来ると思うが……」
そもそも。そんなダンジョンになったら、滞在している俺さえも無事でいられない。本当にコイツは何者なんだろうか? ただのTRPG好きのモンスター位でいて欲しいのだが。
「で、お前は何ができるんだ?」
「術攻撃位ですかね。水魔法打てますよ」
普通に喋った時のギャップは置いといて。能力的には術攻撃をして来る初級のモンスターと言うしかない。召喚魔法はトラブルの元なので置いといて。
「他にできることは?」
「歌が得意です。聞きます?」
使える物は何でも使えの精神で促した。見た目に反して美しい歌声がフロアに響く、なんてことは無く。歌は上手いのだが、耳にこびり付く様な不快な音色が奏でられていた。ステータス的にデバフが入っていると見ても良いだろう。
「現実的に言えば、スキュさんがデバフを蒔いてメカムスメちゃんとハーピィが脅威になる感じか。ウム、初心者用として捻ってもいない。良いメンバーだ」
バフォーが満足そうにしていたが、こんなの直ぐに突破される決まっているだろ。現代っ子はWikiや攻略動画で大量に情報収集をしてから来るんだ。オーソドックスに構えていたら一瞬で攻略される。
「スキュさん。他にできることはない?」
「そうですね。墨吐けます」
「よし。それを使おう」
「絶対、碌なことにならへんやろ」
この際、使える物なら何でも使う心意気で行こう。俺のスキル『BB劇場』も合わせれば、ダンジョンのランクそのままに嫌がらせはできる筈だ。
「よし。ハーピィとスキュさんにやらせることは決まった」
「ウチは?」
「駄目だ。メカムスメちゃんに変なことはさせられない。君がメカ野郎ならして貰うことはあったけれど」
「何させてたん?」
「探索者の前で股間の装甲パージして貰っていたかな」
「ホンマにメカムスメで良かったわ」
メカムスメちゃんがクソ野郎だったらやって貰っていたけれどな。現状は冒険慣れしていない少年少女だから気概を挫けるが、汚れ好きの兄ちゃんみたいな耐性持ちが来ないことを祈るばかりである。
「ちょっと待て。汚れ好きってなんだ」
「何って。汚れ好きだが?」
「あんまりきにせぇへん方がええで」
探索者の中ではヤバい性癖持ちがいるので、自分からモンスターのウンコに突っ込んでいく奴とかもいるが、そういう奴らに限って滅茶苦茶高ランクの探索者だったりするので、ダンジョン省も出禁にできないと言う。……会ったことは無いが。バフォーは頭を抱えていた。
「どうして普通に攻略しないんだ」
「大丈夫だよ。大抵の奴は普通だから」
一部異常者がいるだけで界隈が悪く見られるのは遺憾であるが、自分が異常者になり果てている今。何を言ってもムナシイだけだった。
さて、1階の攻略者もそろそろ出て来る頃だろう。あまり改造に長い時間を掛けられない。明日にでも運営できるようにと、俺は改修を進めることにした。
――
翌日のことである。糞ダンジョン、ゲロダンジョン、汚物ダンジョンなど。あらゆる罵倒を二つ名にしながら、今日もこのダンジョンは運営されていた。
既に悪評は広まっているが、無名には勝ると踏んでか。挑戦して来る低ランクの探索者が後を絶たない。いや、むしろ。悪評があるからこそ挑戦して来るバカさえいる位だった。皆して、一様に言うのだ。
「俺ならできるんで!」
そういう言葉を聞いてスタッフ達は笑顔と共に見送るのだ。
その後、彼らが攻略を失敗して心が折られたり、逆切れするのを楽しみにしている節すらあった。もしも、バフォーがいたらやはり嘆いているだろう。そして、今日も一人。可哀想な犠牲……挑戦者が現れた。
「君は……」
「『公平 乱太郎(きみひら らんたろう)』だ。最近の探索者はウンコやゲロ程度で竦む根性無し共ばっかりだ! 俺が本当の探索者を見せてやる!」
筋骨隆々としており、学校の方ではラグビー部に所属しているらしい。
ホラー映画やサメ映画においてはオヤツ的存在であるが、この吐瀉物ダンジョンでも同じ様に餌食になるんだろうか?
「えぇ。では、楽しみにしています」
「行くぞ!」
意気揚々と突っ込んで行ったが、スタッフ達は薄っすらと察していた。コイツも碌な目に遭わねーだろうなと。
――
さて、実際はどうかと言うと。豪語するだけにあって、彼は強かった。糞便程度は物ともしなかったし、1階部分はハック&スラッシュを決めながらも動画配信も同時に行うという器用な真似までしていた。
「見ろ! このダンジョンは汚いだけで何も難しくはない! このダンジョンを制覇するのは俺だ!!」
最初はコメントも彼をバカにしたり、茶化したりしていたが。
誰も突破できなかった1階部分を攻略した時点で流れは変わり、彼の快進撃を期待する物になっていた。いよいよ、未踏部分の2階へと到達した。
大言を吐いている公平であったが、1階とは打って変わって慎重な立ち回りに切り替わった。このフレキシブルさは、彼の有能さを表す物と言えた。
「2階部分だ。見ての通り、1階部分とは違い汚物や臭気で追い返そうとするつもりはない。ここからが本番と言うことだろう」
公平がもたらした情報は非常に大きかった。これから、このダンジョンに挑む探索者達は汚い部分は1階だけ。と言うことを知れば我慢ができる。
後続に向けて情報を残すという点で、公平は1つの大きなタスクを達成したと言えるだろう。コメントでは彼を誉める物が増え続けている。
「ここから先に何が待ち構えているか。このまま突っ切るぞ……!」
2階部分の探索を進めていくと。タッタッタと駆けて来る音が聞こえた。公平が得物を構えると、近付いて来たモンスターの全容が見えて来た。
鳥の頭部を模した胴体部分に人間の手足が生えた『ハーピィ・ノ・アマッターノ』だ。より人間的なシルエットを持っているのでキモさがすごい。公平がスマホを持っているのを見るや、ハーピィは叫んだ。
「〇ンコー!!! 〇ンコー!!! 〇ンコー!!!」
「なに!?」
チが入るのか。マが入るのかは置いといて。ライブ配信者を的確に狙って悪意ある鳴き声だった。下品なワードだけではなく、放送禁止用語として数えられるような、聞くに堪えない言葉が次々と飛び出していた。
『配信者メタダンジョン』
『待ちきれないよ! 次のメタ要素を早く見せてくれ!』
『P〇rn Hub でなら配信できそう』
コメント欄は好き勝手に言っているが、このままでは規約に引っ掛かって配信が停止させられる。偶々、そう聞こえるだけだが杓子定規のAI判定ではきっと判別できないことだろう。
「クソッたれ!! 死ね!」
このハーピィ・ノ・アマッターノ。1階の連中よりも手と足が長い為、それなりに動きが早い。付かず離れずの距離で放送禁止用語を叫びまくるので、配信者としては堪った物じゃない。
『じゃあ、切れよ』と言う冷静なコメントもあったが、追いかけている公平にそんな冷静な判断ができる訳がなかった。
「追い付いたぞ! もう許さないからな!」
「トモダチ!!」
追い付いて、得物を振り下ろした時に上げた断末魔がこれまた受けたのか、コメント欄には『草』や『トモダチ!』など大量に打ち込まれていた。
さて、公平はこの時点で二つの失敗をしていた。一つ、彼は配信よりも攻略に注力するべきだった。二つ、彼はここが未踏の場所と言うにも関わらず、1匹のモンスターをしとめる為に注意を怠った。これらから導かれるのはある種当然の結末であった。
「いあ! いあ!」
「あ」
プスっと近付いて来た、頭部だけがタコ型になった冒涜的なモンスター『スキュラ・ノ・アマッターノ』の触手が公平の耳から侵入して、頭の中を掻き混ぜるついでに余計な呪詛を大量に蒔いた。
これには彼も一撃でダウンせざるを得なかった。ポロリと落ちたスマホを丁寧に彼のバッグに仕舞うと、彼の肉体はスゥーっと消えてダンジョンの入口へと送り返されていた。
~~
「公平さん。公平さん!」
入り口に送り返された公平がしばらく目を覚まさなかったのでスタッフは少しだけ焦っていたが、パチっと目を開けたので一安心した。……のも束の間。
「ぷぷぷー」
「は?」
「ぷえぷえーぷーぷぷー」
幾ら死亡する様なダメージを受けても、完全に治りきらないパターンもある訳で。スタッフ達も『えらいこっちゃ』みたいな顔をしていたが、5分後位してのことである。
「うぅ。俺は、一体何を」
「良かった」
ちゃんと正気に戻ったので一安心していた。だが、1つ。困ったことがあるとすれば、公平が配信に使っていたスマホは起動したままだったので、今の痴態が配信されて広く知れ渡ってしまったことだろうか。
その日、公平は期待の玩具(ニューフェイス)としてSNSを始めとして局所的に知名度を上げていくことになる。