TSする呪いを掛けられたので、原因となるダンジョンを防衛する   作:ゼフィガルド

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10日目:悲劇は繰り返させないよ!

 翌日のことである。例のクソダンジョン1階部分、初の踏破者として公平は歓迎されるかと思いきや、現実は残酷であった。

 

「ぷぷぷー」

「ぷえぷえーぷーぷぷーwww」

 

 箸が転がるだけでも笑えるのが学生と言う人種である。

 公平の配信は前半部分でダンジョンの攻略、後半で愉快なモンスターと配信者による迫真の演技の2本立ては視聴者兼同級生の心を鷲掴みにしていた。もちろん、それはリスペクトからかけ離れた誹謗中傷めいた物だったが。

 

「何故だぁああああ!」

 

 公平の慟哭が教室に響いた。ラグビー部の若きエースとして、若干ウザがられる体育会系であったが、ここまで揶揄される謂れは無いハズだ。

 同級生達は配信終盤に流された、公平の奇々怪々な動き。具体的に言うと両腕をグルグルと前方に回しながら、お辞儀しつつ移動するという、本当に何を考えていたか分からん動きを真似していた。

 

「俺達! 皆で、お前の配信を見ていたぜ!」

「ぷえぷえーぷーぷぷー!!」

「トモダチ!!」

 

 しっかり動画を視聴していたことは分かるのだが、分かるが故に最悪の反応だった。ガラリと扉を開けて担任が入って来て、朝のイジメめいた光景にようやく終止符が打たれるかと思われたが。

 

「おーっす! おはよう! 公平! 昨日の配信は見ていたぞ! ブッフw」

「畜生ぉおおおおお!」

 

 生徒を嗤う教職員の屑。持ち前の熱血さからイキってしまっただけで、こんな仕打ちを受けるだなんて。あんまりじゃないか!

 しかし、これは不幸の始まりでしかなかった。ネットユーザーの大半がサディストであることは言わずもがなだが、そんな彼らが取れ立てピチピチの玩具に興味を示さない訳が無かった。

 

「なんだこれは!?」

 

 公平が異常に気付いたのは昼休み頃、弁当を食いつつ自らのSNSを確認していた時のことである。昨日の時点でポツポツ増えていたが、ここに来て爆増である。昨日、配信した動画なんてあらゆるまとめサイトに取り上げられていた。

 フォロワー数と申請が怒涛の如く寄せられ、やらんでもいいのに。本人に対して既にBB素材が作られているなんて、余計な引用までして来る奴まで出現する始末だった。もう止まらんよ。

 

「どうして俺が……」

 

 ここに来て、ようやく公平にも事態の大きさが理解できた。

 リアル凸して来る奴まではいなかったが、ちょっかいを掛けようとする奴、面白半分でDMやBB素材を送って来たりなど。もはやリンチだった。

 彼は悪いことなど何もしていなかった。むしろ、探索者的に言えば新フロアの情報を入手したりと有益なことをしたはずだった。

 

 ちょっと。導入部分でイキっただけで。

 ちょっと。普段の生活で体育会系特有のウザさが漏れ出ただけで。

 ちょっと。意図せず見せた一発ネタが視聴者の心を掴んでしまっただけで。

 

 あらゆる『ちょっと』が重なってしまい、大いなる不幸が彼に押し寄せてしまった。人の噂も七十五日と言う慣用句があるが、現代においては通用しない。公平は、ネットの地獄に放り込まれてしまったのだ。

 

――

 

「可哀想!!」

 

 昨日、2階までやって来た探索者の配信動画を見て、どんなコメントが寄せられているかを見ていたのだが、攻略だとかそういう些事な情報は切り捨てられて『ハーピィ・ノ・アマッターノ』の鳴き声や配信者の奇行にばかり関心が寄せられ、終いには玩具になっていた。

 

「お前のせいなんだよなぁ……」

「いや、ちょっと待ってくれ。今回ばかりは本当に関係が無いぞ」

 

 普通にダンジョンに挑んで、普通に失敗してこうなったのだから誰が悪いということは無いハズだ。

 敢えて言うなら、ネットにあるからってフリー素材だと思い込んでいる倫理観0のクソボケユーザー共のせいだ。俺がバフォーに責められる謂れは無い。

 

「あの。私、何か悪いことを?」

「いや、スキュさんは真面目にやっただけだから気にしないでくれ」

「ハピやんには淫語と放送禁止用語を叫ばせていたんになぁ」

「ヴァーカ!!」

 

 今日もハピやん(メカムスメちゃん命名)は元気だなぁ。だが、かつての俺を見ている様で忍びない。一応、ダンジョン省には掛け合ってみるが。

 

「羽生。例の動画の取り下げは……」

「そんなのが無理なこと位、お前が一番分かっているだろう。消せば増えるぞ」

「ゴキブリ共がよぉ~~!!」

 

 結論、無理です。何が、皆の琴線に触れたのかは知らないが、既に件の奇行はダンスや振り付けとして広がってあり、悪夢みたいな拡散のされ方をしていた。一体、何故?

 

「もしや、これもダンジョンの呪いか?」

「そんな訳ないだろう。お前らが勝手に広げているだけだ」

 

 公平君のことを思うと胸が痛んだ。俺が皆から忘れ去られる為に色々とやっていることで、この苦痛のバトンを渡してしまったのだから。

 

「公平君は犠牲になったのだ……」

「よくは無いだろう。お前、1人の大人として。年端も行かない少年に同じだけの苦痛を味合わせるのはどうなんだ」

「そんなこと言われても本当に俺が何かしたって訳じゃないからな」

 

 ダンジョン省の長に動画を削除できないかと言う相談もしたし、自分ができることはやったつもりなのだが。

 

「だったら、鈴子さんみたいに。TSさせたら良いんちゃう?」

「さすが、メカムスメちゃん。良いアイデアだ」

「おい、TSは呪いなんだぞ。メリットみたいに使わないでもらえるか?」

 

 だが、この騒動を終わらせるにはコレしかない。俺みたいにミームが定着する前に、ダンジョンを根源とした呪いに賭けてみる。と言うのは悪くないんじゃないだろうか?

 

「と言う訳で、バフォー。このダンジョンに追加で呪いを掛けるとかは?」

「自分から呪いを掛けてくれって希望する奴は始めて見たな。一応、期待に沿う形で現在のフォーマットで落とし込むならこんな物か」

 

 バフォーが渡して来た羊皮紙にはサラサラと文字が書き込まれて行く。すげぇ、ファンタジーっぽくてちょっと心がトキメいたが、書いている内容はと言うと。

 

「期限までにクリアできなかったら、ネット上のチャンネル削除と関連動画の完全抹消。……お前さ、これからダンジョンクリエイターとかやめて、サイバーセキュリティ的な仕事をするつもりない?」

「だから!! 呪いだと言っているだろうが!! デメリットなんだぞ! 嫌がられることなんだぞ!! 利用しようとするな!!!」

 

 コイツ、悪魔の癖に呪いに否定的なんだよなぁ。もっと、悪魔らしく人を呪うことには胸を張って欲しい物だ。

 

「だったら、この丁寧な仕事ぶりは?」

「それはだな。公平少年が勇敢にダンジョンへと挑み、2階部分まで辿り着いたことに対する敬意があるからだ。その足跡は誰にも揶揄されるべきであってはならない」

「悪魔の癖に人間の鑑みたいなこというんやなぁ」

「悪魔止めちまえ」

 

 メカムスメちゃんと一緒に悪魔の癖真っ当すぎる倫理観を非難していたが、バフォーからは『やかましいわ!』と一括された。それはそれとして。

 

「でも、呪いが追加されるってことは。階層が増えたりするのか? もしも、そうなったらダンジョンのランクが上がったりするんじゃ?」

「初心者用ランクに納めるに当たっては、徘徊するモンスターの小規模強化が入ると言った具合か。これは一定期間内……そうだな。3日にしておこう。まだ、火種が広がっていないから、これ位で良いはずだ」

 

 バフォーが羊皮紙に筆を走らせると、ハピやん、スキュさん、メカムスメちゃんの姿が変わった。コレは強化が入ったと言うことだろう。

 スキュさんは両腕部分まで触手になっていた。容姿だけ見たら、中級者向けのダンジョンにもいそうだが、コレでも初心者用に収まる範囲らしい。

 

「スキュさん。調子は?」

「ちょっと動かし辛いですね。多分慣れると思います」

 

 強化されると言っても本人の感覚まで追い付く訳じゃないか。では、ハピやんはどうかと言うと。

 

「モッフモッフ!!」

 

 胴体部分がモッフモッフになっていた。一応、防御力も上がっているんだろうけれど、見た目のインパクトが強くなった。

 

「ウチは軽量の装甲が追加されたみたいやな」

 

 メカムスメちゃんは手足部分に装甲パーツが追加されていた。と言ってもガチガチに覆う程の物じゃなくて、プロテクターレベルだが。

 

「後は3日間クリアされなければ良いが。念の為に、公平君には告知しておく必要がある。余計なことをすれば、呪いが成就するまでの期限が延びてしまう」

「DMは難しそうだし。直接会うしかないか……」

 

 だけど、俺は公平君のことなんて何も知らない。と思ったが、こんな時に便利な相手が1人。俺は貝型の通信アーティファクトを起動させた。

 

「まだ、何かあるのか?」

「ちょっと、公平君が可哀想なんで。チャンネル削除と動画削除の呪いを掛けた。完遂するまで余計なことをしないで欲しいって連絡を取りたいんだけれど。住所とかは教えて貰えないか?」

「お前、プライバシーってモンが……だが、そうだな。他でもないお前が言うんだ。呪いの効能を確認したいということもある。教えてやろう」

「助かる」

 

 プライバシー駄々洩れだが、これも前途有望な若者を守る為だ。

 色々と言っていたが、少年少女が俺と同じ苦しみを背負う必要はない。今日1日、ダンジョンの妨害やら何やらをこなして、深夜にでも向かおうとしよう。

 

「バフォーに説明して貰う訳にはいかないし、俺がやるしかないんだよな」

「そうだ。元はと言えば、お前が蒔いた種だからな。お膳立てはしてやったから、しっかりと説明しろよ。私も付いて行くが」

 

 本当に面倒見良いなコイツ。バフォメットの姿じゃなくて、天使の姿をしている方がよっぽど似合ってそうだ。明日の予定を決めつつ、昨日の動画配信を足掛かりにして、攻略しに来る探索者達を迎撃する為、俺は腰を上げた。

 

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